左利きの逆襲?絵下手と魔法の絵の具・共通① さよならキャンパスライフ
この世界、我々左利きには生き辛い。
クラスメイトの女子は言う。
“吉川さんって左利きなんだ!すごいねー”
(はあ?
馬鹿にしてんのこいつ)
クラスメイトの赤点常習者は言う。
“左利きってあたまいいんだろ?”
(そんなもの人によるわ。
自分が馬鹿なのを利き手のせいにするな)
本当に、彼らは甘んじて恵まれていることを、自覚していない。
箸、ボールペン、自販機、改札、鋏にノート、習字、飯屋のカウンターにスープバーのおたま、急須にティーカップ、絵の具パレット、ゲーム機のボタンにマウス。
全てが右利き用に出来ていることへの有り難みを。
ああ神様、お願いだから。
どうか私を左利きだけのいる世界に連れていってほしい――――――。
心の中で、叶わない願いを祈った。
「あ、ごめん」
学食にて、狙っていた左恥の席が、クラスメイトの男子と被った。
「…えっと、確か吉川さん?」
「うん、そっちは菊屋くんだっけ?」
「ああ、うん…俺、影薄いから」
「私も…」
周りからめずらしがられる利き手効果は、長時間持続しない。
また忘れた頃に同じことを言われるのだ。
「私、できれば左側がいいんだけど…」
隣に座った相手に腕がぶつかるから。
「俺も、左側がいいんだ…左利きだから」
「…じゃあ隣に座ればいっか」
同じクラスに同士がいたなんて知らなかった。
「お前らお似合いじゃねー?」
クラスメイトの毬栗頭が私たちを見て、小学生かのような、幼稚な言動で冷やかす。
菊屋くんはただ、彼にうすら笑いを浮かべた。
食事も終わり、その後の午後の授業も終わった。
まっすぐ家に帰ることにした。
「今日はお父さんの仕事が速く終わったから家族で外食に行きましょ~」
母はファミレスくらいで、喜んでいる。
せっかくだから夫婦でディナーに行ってくればいいのに。
それにファミレス、外食はしたくないのだ。
「ドリンク用意するから、スープお願いね」
「あ、私がドリンクやるよ!」
話しも聞かずに行ってしまった。
私はスープを取り分けるのが嫌いだ。
なぜなら【宿敵・スープのオタマ】があるからだ。
こうなったら仕方ない。
渋々取り分けにいくことにする。
「うわっ」
スープ用お玉を持って、すくったものをカップに注ぐとき、手が安定しなくて、ぶちまけた。
量は少ないけど、最悪。
「大丈夫ですか?お客様」
スーツの男性が、こちらに駆け寄って来た。
「だ大丈夫です」
「宜しければ私がお注ぎしますよ」
見ず知らずの人に申し訳ないけど、また溢すのもあれだしお願いしよう。
「え?じゃあオニオンスープ三つで…」
「ちょっとオーナー…!なにしてるんですか」
(え…この人オーナーだったの!?)
――あれから食事も普通に終わって帰宅した。
◆◆◆◆
昨日はやらかしてしまったと反省しながら屋上で絵を描く。
空の絵を軽くスケッチしようとして、私は筆を置き、ただぼんやりと空を見上げながら空を観察していた。
絵に書かれた空は真っ青で綺麗なスカイブルー、なのに、現実の空には雲が多いな。
そんなくだらないことを思って、再び絵筆を走らせながら。
もう一度空を見上げると視界に違和感があったので私は目を閉じたり擦ったりしてみた。
まだ目がチカチカする――――――
再度目を閉じ、開くと見知らぬ景色がある。
どうした訳か、学校の屋上にいた筈の私は画材と共に、草原で倒れていた。
キャンバスが見当たらない……
「ねー君、絵へったくそだね!」
「人が気にしていることを……」
少年が私の絵をみてニヤニヤ笑っている。
「じゃーん」
「なにそれ」
少年が箱を取り出した。
「魔法の絵の具でーす。これを使えばどんなに味のある個性的な画伯でも耽美に上手くなる絵の具さ」
「ちょうだい」
「タダであげるわけにはいかないな」
ああ、このパターンはこの少年が悪魔の類いなんだろう。
「…どうせお前の魂寄越せとか言うんでしょ」
「ひどっまるでボクを悪魔みたいに……」
悪魔以外にそんな都合のいいアイテムくれる奴がいるとでもいうの?
「ていうかここどこ!?」