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Doll.1  出会い

 少年は朝一番、どっしりとした構えの商店の前で途方にくれていた。入り口は固く閉ざされており張り紙がしてあった。謎に字間があって理解がしにくい。


  『身内に不幸があったた め、誠に勝手ながらとうぶ  んのあいだ休ま せていた   だきます ――店主』


せっかくこうして遠い場所からはるばるやってきたというのに店が休みというのはあんまりである。買い物といえばここというくらいの買い付けの店だったからこの少年の落ちこみようも半端ではない。

……なんで開いてないんだ。僕はどうしてこう、タイミングというものが合わないんだろうか。時間のムダじゃないか。

彼は予想外のハプニングがあまり好きではなかった。臨機応変に柔軟に対処できるというのはすごいことだと思うが、他の人と違って彼は面倒に思ったり疲れたりしてしまい、ついてゆくので精一杯なのだった。

だから今日の出来事も彼にとっては非常に大きなストレスになる。思わずのため息が口から漏れ出た。


ここ以外できちんとした食料品店は二店舗あるが、しかし、ここまでかなりの距離を徒歩できたというのにその上徒歩でそっちへ向かうのは無理があった。馬車があればいいものをその馬車も通らぬ時間帯なのだから国の中心部にある市場へは到底行けそうもない。もう一方の店は今日が定休日のはずだ。駄目で元々馬車が通りかかるまで待つか、諦めて帰るか。

そんなもの、答えは決まっていた。

少年は商店を背にもときた道を引き返す。

「……明日は何を食べたらいいんだ」


「――おい、そこのおまえ、とまれよ」


「ん?」

とまれ、とは誰を指していったことばだろうか。そう思った少年はあたりをきょろきょろとみた。彼以外、誰もいない。

否、少年の足許で真っ黒な毛並みの小柄な猫が一匹、体をすりよせようとしていた。猫はまるく黄色い瞳をじっと彼のほうに向けて、鳴いた。

「おまえ、ボクの声がきこえたのか」

「…………」

今、舌足らずな子どもの声がこの猫の喉から?発せられたのだけど、幻聴だろうか。そうだな、そうにちがいない。猫の相手なんてしている暇はないんだから帰らないと。少年は猫から目をそらし歩みを再開する。


「おい、キイテンダロー。ボクなら食いもんあるトコまで案内できるんだぜー」

「そう、案内してくれるんだ」

 背中に声を受け、足を止めた少年は振り返ると笑って猫に応えた。本気になんてしちゃいない。だって猫だ。食べ物ったってどうせ魚の骨とかそんなものだろう。ゴミ捨て場まで案内されるのがオチだ。

「でも、僕その場所は知ってるからまた今度ね、猫さん」

彼はひらひら手を振り再び反対方向へと歩き出す。するとすぐ横に猫がぴったりついてきた。


 まさか家までついてくる気じゃないよな。

「おまえさ、ボクのことただの猫だと思ってるだろ。そんなことないんだぞ――」

「はいはい」

「~~っ 生返事はダメだろ! ()()()をよくきけっての!」

それもそうだ。いくら猫とはいえ失礼すぎるかもしれない。ちょっとは話をきいてやろう。


「……えーと、猫さん。ちゃんと話ききますから、ね?」

「おい、そこは驚けよ」


 後ろを振り返った少年がちっとも驚いたそぶりをみせないので、“ネコ”はつまらなさそうにつっこんだ。


「ちゃあーんと、人間の食いもんだからな? ボク嘘はつかないぞ」

「でも遠いでしょ」

「んにゃ、それがすっごく近いんだなあ」

 なにやら偉そうに話す“ネコ”だが、その理由が少年にはよくわからなかった。それより家に残してきたメリルのことが心配になってきた。

 早く帰らないと。

「うで――どこでもいいから掴みなよ。つれってってやるからさ!」

「? なんだって?」

「うで。掴んでくんないと案内できないぞー」

 相手はそういうと手を差し出してきた。少年にしてみれば、あやしい話に思えてならないのだが……しぶしぶ“ネコ”の服の裾をつまんだ。

「なあ、それじゃどっかに落っことしちゃいかねないんだけど。いいの?」

「おっこと……って、え?!」

 “ネコ”の話には不安要素がたくさんあった。少年は目の前の、見た目からして子どもな、真っ黒いローブを羽織ったそいつを凝視した。猫じゃなくなったそいつはくせっ毛なこげ茶髪に黄色い眼という、どこからどうみても人間にしかみえない姿になっていた。話をきいてやるかと振り返っていきなりそんな姿をみた少年は驚くのを通り越してどうでもよくなっていたが、今度という今度はスルーできそうもなかった。

命が危ない。


「えっあの、馬車とか馬車とかばしゃとか」

「やだよー馬車、揺れがヒドイんだもん」

「どうやって行くんだよ、だったら!」


彼は未だかつてない焦りを感じた。まともに話し合おうとか考えたのが間違いだったのか……こんなヤツと話していても仕方ない、さっさと帰ろう。

「――だからうで掴めよ、ほらっ」

「っふぇ?! ――ひぃっ」


ふわわんと体が軽くなったと思うとびりびりとした感覚が彼の体を駆け巡り、固く眼を瞑った少年はそのまま気を失ってしまった……。


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