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Doll.14  距離

 転送を使い超特急でソニアン王国へと戻ったネリは半ば息を切らしたままいつもの姿にその身を変えた。疲労の影響で不完全な変身になることがある為、破綻の確認は欠かせない。入念に不備のないことを確かめてから今度は人形の帰りを待つ少年のもとへと一気に空間を跳んだ。



 その場所へ軽くたどり着いたものの、いつなんと声がけしようか躊躇い、ネリは目に馴染んだ家の木目を暫し眺める。ノックはするべきか? いつあのことを話す? 人形を先に渡すか? そんなことをぐだぐだ考える間に戸が向こうから開いた。音もたてず立っていたのに、彼はこちらに気付いたらしい。

「魔法でいくらでも入りようがあったでしょうに、ネコさんったら」

 やれやれ、そういって笑ったサンディは至って普通だった。独りで待っていたのだからもっと不安がったり取り乱しているものと思っていたが、ネリの想定は外れた。元気そうで少々ほっとする。

「ホレ、受け取れー」

 浮遊させていた硝子箱をサンディの方へと流すと、「わ、あっぶなっ」とこぼしてそれを受け止める。なんだろうと箱に入っているものに目をやり、ソレと確認するとやんわり微笑む。

「メリル! 久しぶりだね。さみしかったよ」

 無理やり箱から出そうとしないかひやひやする。少年は硝子の上から人形に頬ずりし、幾つかことばを投げかけた。再会の交友が長くなりそうだと感じ、頃合いをみて切り出そうと椅子に掛けくつろいでいると、彼の方から問うてきた。

「……それで? どうやってセオおじさんのところからもどってきたの」

「ああ、もうイイのか。えっと、……」

 長い話になるが端折らずあの場所で起きたことを一から語る。至極真面目に話しているつもりなのだが、チャドに出会い一緒に潜入しようとしてセオにバレたくだりでは笑いを誘ったようで彼の肩がぶるぶる震えていた。しかしこう明るいのは序盤だけだ。セオについて、両親の死の真相について、契約云々について……深奥へ行くにつれどんどん口が重たくなってゆく。静かに耳を傾けるサンディの顔も比例して暗くくぐもってゆく。


「――そう、分かった」

 ひと通り事実をなぞり終えると、疲労がどっと老体を襲った。短期的な行き来はやはりもう限界なのかもしれない。こつんと食卓に頭を倒し、横目で少年の様子をうかがった。一見発狂云々なんともないようす。

「マァ、だからっておじさんをコロシテとか考えるモンじゃないゼ? いずれはオマエの人形ダ」

「うん。別に、それは、大丈夫……」

 しかしうすら笑いを貼りつかせたその額には汗が浮いていた。立ち上がった拍子にふらついたところを支えようとネリが空いた一方の手で掴む。とても冷たい。大丈夫か、そう尋ねようとした口は「ありがとう」とか細く呟いた少年のその剣呑湛えた瞳に気圧されて、つい閉じてしまった。

 すくんだ体はそのままに、人形を大事そうに抱え自室へこもろうとする彼を驚きのまま追いかける。

 その背が扉の向こうに消えてしまいそうになって、ようやっと金縛りが解けたように体が動いた。上手く均衡がとれず足がもつれ前につんのめる。

「――っ、まっテ!」

 ほんの少し開いた戸の隙間から声が返る。

「……なに」

 なにをスル気だ? そうききたかったけれどカラカラに乾いた口と頭は意味あることばをなにも紡いではくれない。ぱくぱく開閉する音だけが、しんとした室内に響いた。

 真紫の目が振り返り、フッと笑む。

「――すこしだけ、ひとりにさせてよ。色々きいて頭がいっぱいだから、整理したいんだ」

「わ、ワカッタ。ちょっとだけナ……」

 このままでは取り残されてしまう気がして引きとめることばをかけたかった。それなのにそれを知らずかこの口は見送ってしまう。

 少年がネリの返事に満足げに頷き、今度こそ扉は完全に閉じられた。鍵のかけられる音。大丈夫。なにかあっても魔法で開錠し救出すればいい。大丈夫、大丈夫……。


 無意味なことだと承知しているが、せめてもの気持ちで祈りに指を組んだ。気休めだ。魔術師なのに、こんなときにちゃんとした魔法がちっとも思いつかない。無力感に、扉を背にずりずりと崩れ落ちるようにして地べたに尻をつく。やるせない、行き場のない感情がいつまでも喉奥でつっかえては頭に巡っている。

 うずくまった格好のまま、青年は静かにむせび泣いた。

ネリを泣かせてしまった……ゴメンorz

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