表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/31

森の白狼編~ギルド登録はテンプレです~

 ナラ村の事件を聞いた翌日、俺とシーラさんは家から3時間ほど歩くと商業の町≪アラクト≫についた。

 本来なら森を迂回しながら歩く為、半日以上かかる距離だ。

 シーラさんの家から森を迂回せず、直線的に進んできた俺達はこの短時間で≪アラクト≫へ辿り着いた。

 また道中ゴブリンが何匹か出てきたが、シーラさんが首を刈り取ってすぐに終わってしまった。

 ちなみに今回はゴブリンの返り血を浴びないように気を付けたようだ。

 なんでも昨日はサシャちゃんの安全確保を最優勢にした為、返り血を気にしていなかったそうだ。

 そんなことはおいといて≪アラクト≫の外壁を見た感想はでかいの一言につきる。

 左右をみても端が見えず、高さ10メートル程の壁が目の前にあるのだ。

 

 「君達、すまないが身分証明書を見せてもらえないかい?なければ通行料銅貨3枚払ってくれ」


 門のところまで行くと門番が話しかけてくる。

 ナラ村のマイセルさんと同じようだがナラ村と違って流石に大きな町な為か入場料が必要だった。

 本来、俺みたいな奴が町に入る際はかなり纏まった金額が必要となるが、身分証を持つ者が同行して、その人が連れを身元引受とするなら銅貨三枚で通れる。


 シーラさんは自分の冒険者ギルドのカードを見せ、財布代わりの袋から銅貨を取りだし渡す。


 「丁度だな。すまないな。これも仕事でね」


 門番の人は渡された銅貨の数を確認し、俺達をみて言う。


 「いえ、いつもお仕事お疲れ様です。それでは失礼します」


 シーラさんは軽い挨拶と会釈をして中に入っていき、俺も急いで追いかけた。

 街の中はよくあるファンタジー小説に出てくる、16世紀ぐらいのヨーロッパのような風景だった。

 

 「あそこの突き当たりにあるのが冒険者ギルドです」


 シーラさんが指差す方向には大きな噴水公園があり、その先に館と見間違うような大きな建物があった。


 「この冒険者ギルドを中心に北に宿屋や武具店などの商業区、東に平民の居住区、西に貴族の居住区、南に教会などがあります。私達が入ってきた北門からまっすぐ来れば冒険者ギルドにこれるので迷うことはないはずです」


 シーラさんは事細かに説明してくれるので非常に助かるが、周りの俺達……いやシーラさんを見る男達の視線が痛い。

 シーラさんは美少女だし、見蕩れるのも仕方ないと思うがデート中の奴は彼女を見ていた方がいいと思う。

 現にシーラさんに見蕩れてた男が彼女に怒られビンタされている。

 うわ~、あんなにくっきり紅葉がついて痛そうだ。

 まぁ、そんな人たちを横目に俺達は冒険者ギルドに入った。

 内装を見るに意外に綺麗で、1階に左側は受付スペースがあり、受付嬢が冒険者の相手をしている。

 右側は酒場のようなスペースになっており、何人かの冒険者が酒を飲んだり、食事をしたりしている。

 そして、中央には2階へ上がる大階段がある。

 2階はギルド関係者や何かあったときに使う会議室があるらしい。

 俺はシーラさんに付いていき、受付に行く。


 「ようこそ冒険者ギルドへ…………ってシーラちゃんじゃない!今日は久々に依頼でも受けに?……ってどうしたの後ろの男の子どうしたの!?彼氏!?」


 受付嬢がシーラさんの後ろにいた俺を見つけるとカウンターから乗りだして聞いてくる。

 受付嬢はシーラさんより少し背が高く、肩に掛かる茶髪の美人である。 

 一部自己主張の激しい部分があるがそれ目当てでやって来る冒険者も多そうだ。


 「メ、メリアさん!!レ、レンリさんはそういうのじゃないです!」


 顔を真っ赤にしてシーラさんは否定している。

 たしかにそうなのだがそこまで強く否定しなくてもいいと思うんだけど。


 「へぇ、レンリさんって言うんだぁ。そんなに赤くなってお姉さん妬いちゃうなぁ」


 「だから、そんなんじゃないんですぅ……」


 メリアと呼ばれた受付嬢はシーラさんをからかうのが楽しくて仕方がないようだ。

 一方でシーラさんは諦めたように項垂れていた。


 「さて、そんなことは置いといて今日はどうしたの?」


 「そんなことって……うぅ、今日はこちらのレンリさんの登録をお願いします」


 「分かったわ。えぇと、レンリ君だったわね。こちらの紙に名前、年齢、性別を記入して、血判を押すんだけど、その前にギルドから契約の説明をするわね」


 メリアさんは1枚の紙を取り出しカウンターを上に置く。

 

 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 ・第一条 やむを得ぬ理由がない限りギルド所属者同士で命のやり取りを禁ずる


 ・第二条 市民権を持たない所属者の場合、有事の際はギルドからの招集に必ず応じること。

 ただし、怪我や大病といった招集に応じることが困難な状況の場合はこの限りではない


 ・第三条 ギルド所属者の命が失われることがあっても、ギルドは一切の責任を取らない


 ・第四条 ギルド所属者は、ギルドが不利益になるようなことをしてはならない


 ・第五条 ギルド所属者が犯罪者や奴隷となった際、登録を抹消する


 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 大まかであるがこんな感じである。

 他にも色々あるらしいがこれだけを守っていれば問題はないらしい。

 というか荒くれ者の多い冒険者を規則でガチガチに縛っても守る者がいないのだろう。


 あと登録するメリットとしては、


 ・各ギルド施設がある町や村へ顔パスで通行できる。

 ・宿や店といった公共施設の割安や優先利用を受けられる。

 ・王城謁見などが、ギルドの身元保証の元で行うことができる。

 ・問題事が起こった際、可能な範囲でギルドからの援助を受けることができる

ってところだ。


 ちなみにギルドに登録する際、市民権を持つ者はそれを元に無条件で作れるが、持っていない者は以下のことが必要だそうだ。

 ・纏まった一定の賃金が必要

 ・保証人を立てないといけない

 ・市民権を持つ者と違い、独自の制約があったりする。


 「登録に説明は以上よ。他に質問は……「おいおい、いつからここは託児所になったんだ?」


 酒場側から大きな声がし、メリアさんの声を遮った。

 見た目を簡単に言うハゲの一言に尽きる。

 顔が赤いのでどうやら酔っているようだ。


「メアリさん、あの人は?見たところ高ランクの冒険者には見えませんけど」


「確か昨日よその町からアラクトに来たばかりのケナシ―って冒険者のはずよ。ランクはEだったはずよ」


 メリアさんからその名前を聞いて吹き出しそうになった。

 名は体を表すって言うけどまさにその通りだな。


 「おうおう、ビビってんのかぁ?ガキはとっとと帰ってママのミルクでも吸ってな!ギャハハハ!」


 ケナシーの笑い声がギルド内で響き渡る。

 なんというか異世界テンプレ過ぎて、ムカつくよりも呆れてくるな。


 「ちょっと!あなた、なんのつもりなんですか!?レンリさんに謝ってください!」


 シーラさんがケナシーの前に行き、俺をバカにしたことを怒る。


 「あぁ?なんだよこのアマ。俺はお前らみたいなガキにゃ冒険者は向かねぇいってんだよ!てめえも調子のってると痛い目みるぞ?」


 ケナシーはシーラさんの胸倉を掴み上げる。


 「まぁまぁ、2人共落ち着いてください。シーラさん、俺は気にしてないですから」


 「そうよ!あなた達やめなさい!」


 俺の言葉に続き、メリアさんが制止に掛かる。

 俺はシーラさんを掴んでいるケナシ―の手を無理やりほどき、ふたりの間に割って入った。


 「なんだよ。その余裕な態度、てめえみてぇなガキにゃ教育がいるみたいだなぁ!」


 なにがむかついたのかケナシーが右手を振り上げ殴りかかってくるが、ゴブリンに毛が生えた位のスピードしかない。

 これで本当にシーラさんと同じEランクなのか?

 もしかして実はシーラさんって結構強い?

 ケナシーの拳を体を半身にして避け、足を引っ掛けると顔面から地面へ倒れていった。

 あまりの滑稽さに周りからクスクスと笑い声が聞こえてくる。


 「くそーーー!よくもやりやがったな!」


 羞恥のあまり怒りだしたケナシーが腰に下げていた長剣を抜き、構える。

 おいおい、自分から仕掛けれ来た癖にこのぐらいでキレるなよ!


 「待ちなさい!」


 ケナシーの攻撃を防ごうと構えた瞬間に後ろから声が聞こえてきた。

 するとケナシーの腕が武器ごと凍り付いていく。


 ≪氷魔法を習得しました≫


 おっ?

 なんだかよくわからないが初めて魔法を習得したみたいだ。

 後ろを見ると、金髪ロング、青眼の痩身の美男子がいた。

 その姿は人族とほとんど同じだが一部だけ違うところがあった。

 耳が長いのだ。

 俺のような異世界の者ならきっとこう言うだろう。

 『エルフ』だと。


 「ギ、ギルトマスター!?」


 「ら、ランティスおじさん!?」


 メリアさんとシーラが同時に驚いたように声をあげる。

 この人がギルドマスターか…見た目は20代前半ってところだがきっともっと年を取っているのだろう。


 「ギ、ギルトマスターだと!?ふざけんな!なんでたかが新人からかいにギルトマスターがでばってくるんだよ!」


 ケナシーが叫ぶ。


 「当たり前でしょう。私の管轄であるこの街のギルドの建屋内で争いがあれば止めるのがギルドマスターです。確か貴方は昨日来たばかりのEランクのケナシーでしたね?あなたが今しよう重大な規則違反であり、酔っ払ったといえど許される行為ではありません。ギルドの基本規則はどこも同じなので今回のこと知らなかったではすみませんからね?」


 「くっ、ちくしょうめ!」


 ケナシーは凍った腕のまま逃げていった。


 「やれやれ、メリア君。後から衛兵に連絡をお願いします」


 「了解しました」


 2人は慣れたような感じで後処理をし始める。


 「さて、シーラ君。久しぶりですね。今回も討伐モンスターの買い取りですか?」


 「いえ、今日はこの人のギルド登録をしようと思って」


 シーラさんが俺を紹介する。


 「レンリ・キリュウです。よろしくお願いします」


 「ふむ、黒髪黒目に名前からするとエニシの民のようですね。シーラ君とは一体どういう仲なのです……むぐっ」


 「マスター!気持ちは分かりますがとりあえず別室で話しましょう!ここでは他の人のギルド業務に影響が出ます。ミーシャ、カルフィア。悪いけど受付の方をよろしくね。私はマスターの補助してくるから!」


 後ろからメリアさんがギルドマスターの口をふさぐ。

 ギルドマスターの肩にメリアさんの胸が当たり、ひしゃげているので正直羨ましい。


挿絵(By みてみん)


 「…レンリさん?」


 シーラさんがこちらをジト目で見てくる。

 動物的直感なのかシーラさんは勘が鋭いようだ。

 

 「二人とも案内するからついてきて!」


 メリアさんに案内され、俺達はギルド内にある会議室に着いた。

 机を挟み2つのソファーがあり、俺とシーラさん、対面にメリアさんとギルドマスターが座っている。


 「さて、改めて聞きますが君はシーラ君とはどういう仲なのですか?」


 「レンリさんは森で怪我していたところをうちで治療して、預かっていただけの仲です。そ、それ以上は何もないですからね」


 シーラさんを隣にいる俺をみて少し赤くなっている。

 脈ありなのかな?

 そうだと嬉しいんだが。


 「なるほど、私の渡した結界用の魔具がこの子に反応しなかったところをみると、信頼しても良さそうだね」


 するとギルドマスターの眼が青色から紫色に変わる。


 ≪固有級ユニークスキル、分析アナライズを習得しました≫


 「「!?」」


 俺とギルドマスターは同時に驚いた。

 新たなユニークスキルを入手したこともそうだが、習得したスキルが俺の能力を見る能力だったのに驚いた。


 「き、君は…」


 ギルドマスターの顔つきが険しくなる。


 「改めて聞きます。君は…何者ですか?」


 きっとギルドマスターは俺の『異世界言語自動翻訳』を見て気付いたのだろう。


 「ランティスおじさん?どうしたんですか?」


 「それはレンリ君に聞いてみるのが早いでしょ。レンリ君、君はこの世界の人間ではないですね?」


 「ッ…はい」


  俺はスキルを見られている以上そう答えるしかなかった。


 「「えっ!?」」


 メリアさんとシーラさんが驚きの表情を浮かべている。


 「シーラさん、すいません。俺は記憶喪失って言ってましたけど、実は記憶はあるんです。この世界での記憶ではないですが……」


 俺はこちらの世界に来た理由を3人に伝え、シーラさんと出会いここまで来たことを伝えた。

 さすがに女神が遊んでドジ踏んだというのは言えないので適当にごまかす。


 「と、ということはレンリ君って勇者様なの?」


 「いえ、それは違うでしょう。勇者はヴァルトネーレ王国の王族の巫女姫が王都で召喚するのでレンリ君は違います。まぁ、能力を見る限りいずれは勇者と肩を並べるほどの存在になるでしょうね」


 メリアさんの言葉をギルドマスターが否定する。


 「そ、そんな力が…」


 メリアさんは口に手を当てて、驚いている。


 「あの…レンリさん。なんでその事を私に教えてくれなかったんですか?」


 シーラさんがショックを受けたような表情を浮かべている。

 隠し事をしていたのが悪かったようだ。


 「きっと言ったとしても信じてもらえない可能性もありましたし、俺が知ってる情報だと異世界からの召喚ってバレると捕まって国の奴隷にされるって話もありましたから」


 「そんな事しませんよ!確かにそう思うのも仕方ないですが……」


 シーラさんが涙目で隣に座っている俺に詰め寄ってきた。

 距離が近い為、勢い余ってぶつかりそうになる。


 「そ、そんな事ありません!シーラさん、本当にすいませんでした」


 俺はシーラさんの肩を押し、距離を取った。

 美少女の泣き顔って破壊力抜群だし、何より目の前に座っている2人がこちらを見てるからだ。

 メリアさんはこっちをニヤニヤしながら見てるし、ギルドマスターなんかは親の敵でも見てるような目で俺を見てくる。


 「んんっ!ともかくレンリ君、君はこれからどうするんですか?」


 ギルドマスターが咳払いをしながら聞いてくる。


 「そうですね。俺の体はもうあっちに帰ることは出来ないし、しばらくはこの街で稼いで色々な所を旅してみたいですね」


 「じゃあその間私の家に泊まってください。宿代だけでも節約出来ますから!」


 先ほどの泣き顔からうって変わってシーラさんが尻尾を振りながら言う。


 「な、なにを言ってるんですか!?駄目ですよ!若い男女が一つ屋根の下で暮らすなんて私が許しません!」


 ギルドマスターが机を叩き、叫ぶ。


 「大体、なんでシーラ君はレンリ君にそこまでしてあげるんですか?彼の怪我は治ったのでしょう?」


 「い、いいじゃないですか!ランティスおじさんには関係ありません!」


 俺がどうするかまだ言ってないのに2人は言い合っている。居候になる事をギルドマスターが全力で反論し、シーラさんは顔を赤くしながら言い返す。


 「いいえ、関係あります!私はシルヴァ君とライラ君の代わりにあなたを立派に育てよう思ってるのです。ちゃんと順番を踏んで同棲するならまだしもいきなり同棲するなんておじさんは許しませんよ!」


 「あの、シルヴァ君とライラ君って誰ですか?」


 隣で盛り上がっているギルドマスターとシーラさんをほっといて、今出てきた2人の名前をメリアさんに聞くことにした。


 「シーラちゃんのご両親よ。2人がいなくなって1人になったところを2人の親友だったマスターが引き取ったのよ」


 「なるほど。だからおじさんって呼んでるんですね」


 「そうそう。マスターもできればシーラちゃんには、冒険者になって欲しくはなかったんだけど、本人の強い希望でギルド登録したのよ」


 それは両親の仇をとるためだよな…

 俺は隣で口喧嘩をしているシーラさんを見てみる。

 これだけ可愛い人ならきっと冒険者なんて血なま臭い仕事なんてしなくても幸せに生きれたはずだ。

 けど彼女はそんな未来をかなぐり捨ててまで両親の仇をとりたいのだろう。

 それだけ強い覚悟を持った彼女を俺は止めることはできない。


 「もー!なんで一緒に住んじゃ駄目なんですか!?」


 「そんなの当たり前じゃないですか!男はけだものなんですよ!貴方を倒せる相手なら押し倒されたらどうするつもりなんですか!?犯され、孕ま……痛ぁ!!!」


 ギルドマスターが言おうとしたことをメリアさんとシーラさんが叩いて無理やり止めた。


 「マスター、デリカシーなさ過ぎです。女の子に何言ってるんですか!」


 「レンリさんはそんな人じゃありません!そんな事言うおじさんなんて大っ嫌いです!」


 「なぁっ!?そ、そんなぁ」


 2人のキツい言葉を聞いてギルドマスターは項垂れている。

 部下と娘のように可愛がっている子に怒られるギルドマスターの姿はさっきの争いを止めた時の威厳は無くなっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ