森の白狼編~狼さんとナラ村の人の話~
その言葉に俺は驚きを隠せなかった。
「それは……どういう事ですか?」
「五年前に村の周辺で村人の死体が発見されたの。その死体の近くで血塗られた番いの獣人がいたらしいの……見つけた門番のマイセルさんが、番い獣人は白髪だったって」
白髪……シーラさんも白髪の獣人だけどもしかして彼女の両親なのか?
カリタさんの説明を要約すると。
マイセルさんの後を、刃物を持った獣人が追いかけてきたらしいが、村人は一致団結し投石等をして追い払ったそうだ。
その後、冒険者ギルドに討伐依頼をはずが何故か村長が箝口令を出した為、依頼を諦めざる得なかったらしい。
仕方がないので、これ以上被害を出さない為に森の立ち入りを禁止した。必要となる薬草採取も冒険者ギルドに依頼して別のところで採ってきてもらえるようにしたそうだ。
聞きたいことも聞けたのでカリタさんに一言言って帰ろうとすると足を引っ張られる。
泣きそうな顔をしたサシャちゃんだった。
「お兄ちゃん、もう帰るの?」
「うん、俺も帰らないといけないからね。大丈夫だよ。また遊びに来るからね」
サシャちゃんの頭を撫でる。
シーラさんに撫でられた時と同じで目を細め気持ちよさそうにしている。
「本当に?」
「うん、約束だよ」
俺は右手の小指を差し出す。
「?」
サシャちゃんは何かわかっていないようで首を傾げていた。
「指切りって言ってね。俺の故郷ではお互いの小指を結んで約束を交わすんだ。お互いが約束を絶対守りますってね」
サシャちゃんには記憶喪失の設定を伝えてないので普通に故郷の風習を言う。
そう言うとサシャちゃんは俺の指に小さな指を絡ませる。
「ゆーびきーりげんまーん、嘘ついたらハリセンボンのーます。ゆーびきった!」
サシャちゃんは言えないので俺が代わりにいう。
「これでよし!じゃあまた遊びに来るね」
「うん!お兄ちゃんバイバイ!」
門のところまで送ってもらい、手を振るサシャちゃんに手を振り返し、村を出てもう一度森の中に入りシーラさんの家に戻ることにした。
しばらく歩き、戻ってきた時にはもう日が傾き始めている。
「帰ってきたんですね」
声のする方を見るとシーラさんがいた。
よく見るとその表情は暗い。
「村の人から聞きました。五年前の村人殺害に白髪の獣人が関与していると聞きました」
「……」
シーラさんは俯いている。
「レンリさんはその話を……信じますか?」
「……わかりません。ここに来たばかりの俺にはそれを嘘だとは判断できません……けど俺は命を助けてくれたシーラさんを信じようと思います」
シーラさんは顔をあげ、驚いた顔をした。
これは俺の本心だし、もし彼女がそんな人なら俺は既にこの世にはいないはずだ。
「それにもしシーラさんがそんな危ない人なら俺なんてとっくに死んでますよ」
軽くおどけたように笑ってみる。
「ふふっ、確かにそうですね」
やっと笑顔になってくれた。
彼女のような美少女には笑顔が良く似合う。
「俺でよければ力になります。シーラさんの話も聞かせてください」
「…………わかりました。でもここじゃ冷えますから家の中にいきましょう」
シーラさんに勧められ家の中に入り、テーブルに座ると彼女は話始めてくれた。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
五年前、この森の中でひっそりと暮らしていたシーラさんと彼女の両親は森の近くにある街≪アラクト≫に出掛け、その帰り道に何者かに襲われたそうだ。
Cランク冒険者だった両親はシーラさんを逃がし、襲ってきた相手と戦った。
先に家に帰り、しばらくたっても帰ってこない両親に不安となったシーラさんはもう一度襲われた所に戻ってみると、そこには致死量であろう大量の血で出来た水たまりや血しぶきで汚れた木々など凄惨な光景が拡がっていた。
その中には両親の物と思える左腕が一本ずつ落ちており、襲ってきた相手に復讐しようとした彼女は一度家に戻り、ナイフを持って森から外へ向かう唯一の出口がある所に行くとナラ村の人からたくさんの投石を受けた為仕方なく両親の腕を持ち帰り埋葬したそうだ。
それからはシーラさんの父親の親友だったアラクトの冒険者ギルドのギルドマスターと所で1年の間生活し、両親の仇をとるため冒険者になり5年でEランクまで登り詰めた。
今でも時々ギルドや情報屋に情報を貰っているがいまだに犯人の足どり掴めてないそうだ。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
シーラさんの話は嘘をついているように思えなかった。
けど、怪しい人物が出てきた。
ナラ村の村長だ。
村長は何故か村人が殺されたのに冒険者ギルドに討伐依頼を出さなかったのだろうか。
他にも違和感を感じる。
もしシーラさんの話を信じるなら、カリタさんから聞いた白髪の獣人達をシーラさんの両親だとすると、彼女の両親はいったい誰と戦っていたのか。
もしマイセルさんが嘘をついているならその前提も覆ってしまうが、わざわざ嘘をつく必要もない。
なにかきな臭く、感じる。
他にも色々と気になることがある。
仮に村人がシーラさん達を襲ったとしても、Cランクだった彼女の両親が苦戦し、殺害できるような人がいたのか。
両親の腕以外の遺体がどこにいったのか。
などと考え出すとキリがない。
今度村に行ったときに確認してみるか。
「レンリさん?」
考え込んでいた俺を心配したのかシーラさんが話しかけてくる。
「すいません。少し考え込んでました。どうしました?」
「いえ、あの……レンリさんって優しいですよね」
「え?」
「いくら命を助けたっていってもここまで親身に考えてくれる人なんて普通いませんよ?」
どうやらシーラさんはなぜここまでするのかが気になるのだろう。
命を救われたから、シーラさんが美少女だからってのもあるが、俺は彼女にシンパシーのようなものを感じている。
経緯、理由はともあれ俺も彼女と同じ位の歳で両親を亡くしているからだ。
かといってそれを言える訳でもないので。
「えぇと、シーラさんが可愛いからかな?」
適当に誤魔化してみる。
まぁちょっと本音も入っているが。
「え、えぇ!!??ななな、なんですかそれ!理由になってませんよ!!」
シーラさんが顔を真っ赤にして慌てている。
彼女は料理の時といい、褒められることに慣れていないようだ。
ついからかいたくなってしまうな。
そうしている内に外を見るともう日が落ちており、森の中は闇に包まれていた。
「えぇと、もうすぐ夜になってしまいますけど明日はどうしますか?」
「へ?あ、明日ですか?明日はそうですね……。朝からアラクトに行き、冒険者ギルドで登録しましょう。身分証明にもなりますから早めに作っておくのに損はないですから」
まだ顔の赤みが取れてないがシーラさんは平静を装いながら答える。
「わかりました。それなら今日は早めに寝て、明日に備えましょう。今日は色々ありすぎてちょっと疲れちゃいましたし……」
「そうですね。じゃあ私は結界を張ってくるので、先に休んでてください」
そう言うとシーラさんは部屋から出ていき、家の中に1人になる。
ついに明日は夢にまでみた冒険者ギルド……楽しみだけど正直不安でいっぱいだ。
他にもシーラさんとナラ村など問題は山積みだ。
俺はこれからの事に不安を持ちながらも眠りについた。