森の白狼編~狼さんとの手合わせ~
シーラさんから情報を聞いた日から3日後、治癒力向上のスキルにより動かなかった足も完全に回復したので俺はシーラさんの家の前で軽く柔軟体操をする。
というかあの怪我がたった8日で完全に治癒するなんていくらなんでも異常すぎるでしょ。
あっちで生きてた時だって足だけで全治2ヶ月くらいは掛かるのにこれじゃシーラさんから人間じゃない扱いされても仕方ないか……。
「レンリさん、調子はどうですか?」
声のする方を振り返ると家の中からシーラさんが出てきた。
昨日まで着ていた街娘のような服とは違い、上半身は薄手のシャツに皮の胸当てにして、下半身は膝の少し上ぐらいまである短パン、編み上げのロングブーツと冒険者らしい服装をしていた。
かという俺も今は学校の制服ではなくシーラさんのお父さんの服を着ている。
理由は落下した時に破けた制服があまりにボロボロになってたので修繕してもらっている間、服を貸してもらえることになった。
詳しくは教えてくれなかったが冒険者だったシーラさんの両親は5年前に亡くなったそうだ。
それから1年の間、街にある知り合いの家で預けられることになり、4年前にこの家に戻って冒険者稼業をしているそうだ。
ちなみにシーラさんは16歳と教えて貰った。
「えぇ、大丈夫ですよ。歩いたり、軽く運動するのにも問題はないです」
「そうですか……良かったですね。それなら良ければ少し手合わせしましょうか?」
え?
なにいってんのこの人?
「冒険者ギルドで働くなら多少なり戦闘経験も必要ですし、対人戦の練習になりますよ」
あぁ、確かに転生・転移もの小説なら、がらの悪い先輩冒険者に絡まれるのがテンプレだからなぁ。
シーラさんは確かにEランクで討伐依頼もするはずだからそれなりの実力もあるはずだし、戦ってみてEランクの強さを知るのもありだな。
「はい、構いませんよ」
するとシーラさんは扉の近くに立て掛けてあった木剣を俺に渡してきた。
渡されたのは良いけど武器はあんまり得意じゃないんだけどね。
うちの流派は無手で戦うんだから武器を使ったことがないんだよ。
とりあえず出来るだけ避けることに専念しよう。
俺が木剣を剣道のように構えると、シーラさんは右手で木剣を構える。
仕事柄慣れているせいか構えてる姿に隙はなかった。
「それではいきます!」
シーラさんはこちらに向かって走り、剣を振り上げて俺の左肩に切りかかるが左足を引き半身になると簡単に避けられた。
正直に言えばシーラさんの動きは速いがじいちゃんとの組手で目を慣らされている俺にとっては少し遅く感じた。
もっといえばこの人の剣筋は真っ直ぐ過ぎだったから動きを予測して簡単に避けることができた。
それからもシーラさんは攻撃を続けるが余裕をもって避ける。
すると、脳内にテロップが流れる。
≪下級スキル、我流剣術スキル(初級)を習得しました。≫
いきなりのスキル獲得に驚きながらも俺はシーラさんの攻撃を避け続ける。
するとシーラさんが攻撃を止めて、距離をとった。
「レンリさん、私の攻撃を余裕で避けられるのになんで反撃しないのですか?もし馬鹿にしてるならその余裕を無くしてあげます」
「え、違っ……」
どうやら回避に徹して戦っていたがシーラさんの琴線に触れたらしく、シーラさんの表情が怒りに染まる。
「本気で……いきます!」
その声と同時にシーラさんがさっきのようにこちらに向かい走り出す。
けど速さはさっきに比べば格段に速く、気が付けばすでに懐まで潜り込み、横薙ぎに俺の右脇腹目掛けて一閃を放つ。
俺は慌てて木剣で防ぐが、中途半端な体勢で受け止めたせいか木剣が弾かれそうになり、その隙を突くようにシーラさんは袈裟斬り、右切り上げ、逆胴と攻め立てる。
今はなんとか受け止めれているがこのままだとさすがにヤバい。
するとまたさっきのように脳内にテロップが流れる。
≪固有級スキル、疾風を習得しました≫
シーラさんの急激な速さの原因がユニークスキルだったのか!
名前や今の状況を見る限り、きっと行動速度を向上させるもののはずだ。
木剣へ掛かる衝撃もそこまで強くはないし、まだ見切れる今ならやり方もある。
「これで終わりです!」
シーラさんはまた距離をとり、さっきのように加速しながら切り掛かってくる。
また懐に潜り込もうとした瞬間、俺は木剣をシーラさんの眼前に放り投げた。
「えっ!?」
さすがのシーラさんも急なこと驚き、一瞬動きが止まる。
その隙をつき俺はシーラさんとの距離を詰めて右腕を捻りあげて木剣を奪い、組み伏せる。
「俺の勝ちですね」
俺は奪った木剣を首に当てながら、勝利を宣言した。
「うぅ、まさかユニークスキルを使って負けるなんて……」
シーラさんは悔しそうに呟き、耳をペタンと倒れる。
今回の勝因はじいちゃんの地獄の特訓で鍛えられた反射神経のお陰だな。
これがなくちゃ加速した攻撃を受け止めるなんて芸当出来なかった。
シーラさんが気になることを言っていたので俺はシーラさんを解放し、木剣を返す。
「あの……ユニークスキルってなんですか?」
「魔法とは別の個人だけが持つ特殊な能力です」
シーラさんは体を起こして、服についた草や土を払う。
話を要約すると、スキルとは全部で5段階あるそうで下級・上級・固有級・伝説級・神話級と区分けされているそうだ。
一般的に下級、上級は多くの人が所持しており、戦闘職だけでなく料理や建築、細工、鍛冶などの一般技能職のスキルも多い。
条件が揃えば誰にでも習得でき、仕事を受ける際もスキル持ちの人は優遇されるそうだ。
固有級は100人に1人にしかいないらしく、能力自体も特殊な物が多い。
例えばさっきのシーラさんが使った『疾風』は思った通り自身の行動速度を加速させるスキルであることがさっき『能力確認』で分かった。
このスキル一見便利に見えるが、実は色々と面倒な条件がある。
1つ目は加速出来る時間は1日3分程しかなく、時間を越えると使用ができなくなる上、無理に発動すると全身に激痛が走るそうだ。
2つ目は加速できる速度は使用者の速度に対して1.5倍であり、それ以上の加速はできない。
3つ目は自身の体の行動速度は上がるが、間接的な弓矢、魔法などの遠距離からの攻撃にはスキルの加速は適用されないようだ。
この3つのが『疾風』の発動させる時に掛かる条件だった。
次に伝説級は勇者や賢者等の英雄達が使うスキルであり、その力は絶大なもの所有者はで文字通り生ける伝説と言われている。
俺の模倣眼も伝説級であり、その適正無視の能力収集はチートと言っても仕方のない物だ。
最後に神話級は文字通りに神代のスキルであり、その力を使えば地形すら簡単に変えることができるらしいが現在所有者はいないそうだ。
「それにしてもレンリさんって強かったんですね。私、これでもそれなりに強いつもりだったんですけど……」
シーラさんはため息を吐き、目に見えて落ち込んでいる。
余程ショックだったのだろう。
「えーと、あれは不意討ちが効いたからです。正攻法で戦ったらきっと俺が負けてましたよ」
「いいえ、私のユニークスキル『疾風』は動きを速くしてくれるのですが時間制限があるのであのまま受け止められ続けられたらどのみち私の負けでした」
確かにさっき確認した『疾風』のデメリットである時間制限等は本人も知っているようだ。
「それに手段がどうであろうと私の負けには変わりありません。魔物や盗賊達との戦いになったら手段なんて関係ありませんよ。こっちが負ければ食べられ、犯され、売られ、殺されてしまいますから」
シーラさんはなにかを思い出してるのか表情が暗くなる。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
不意に子供のような叫び声が森の中で響いた。
活動報告でスキルの紹介をしていきたいと思います。