森の白狼編~世界情勢を聞いてみよう~
翌日、目を覚ました俺は体の調子を確認してみる。
足は痛むが全身の痛みはもう無いようだ。
「さて、これからもどうするか…」
この様子だと一週間もあれば全快するだろう。
すると扉をノックする音が聞こえる。
「シーラです。レンリさん起きてますか?」
「はい、どうぞ」
そう言うとスープとパンをお盆に乗せたシーラさんが入ってくる。
「レンリさん、昨日は急に出ていってしまいすいませんでした」
シーラさんは申し訳無さそうに謝ってきた。
「いえ、気にしてませんよ」
「そうですか。ありがとうございます」
許してもらえたのが嬉しかったのかシーラさんの尻尾が嬉しそうに動いている。
なんだか狼というよりは子犬みたいで可愛いらしい。
「あの、身体の調子はどうですか?」
「足以外は痛みは無くなってきましたけどしばらくの間は安静が必要みたいですね」
「そうなんですか。早く良くなるといいですね」
シーラさんは微笑んでいるが、なんだか寂しそうな目をしていた。
そんなシーラさんを見てどうしたのだろうと考えていると。
「また足が痛みますか?」
「え!?」
なにも言わない俺を心配しシーラさんが顔を覗くように近付けてくる。
「だ、大丈夫です。痛くないですから!」
アイドル顔負けな美少女のシーラさんに至近距離で見つめられるのは心臓に悪い。
「ならいいのですが…無理しちゃ駄目ですよ?」
そうするとシーラさんは離れてくれた。
「はい。わかってますよ。流石にこの足で無茶するほど馬鹿じゃないですよ」
俺はおどけたように笑ってみる。
「そ、そういう意味じゃ…」
冗談を本気にしたのかシーラさんは狼狽えている。
この人、結構からがいがいがあって面白いな。
落ち込んでいるのか耳や尻尾もしょんぼりしているように見えた。
「あはは、冗談ですよ。気にしないでください。お腹も減ったのでそのパン食べていいですか?」
「なっ……嘘付くなんて酷いです!罰としてパンとスープは没収です」
シーラさんは俺からパンとスープを乗せたお盆を遠ざける。
「えっ!?ご、ごめんなさい」
この空腹でそれは勘弁してほしい。
「ふふ、冗談ですよ。せっかく作ったんですからたくさん食べてくださいね」
するとシーラさんは遠ざけていたお盆を俺に渡してくれた。
パンは少し固かったが、スープは昨日と同じようだが肉が多めにいれてあったのは嬉しかった。
「やっぱり美味しいですね!シーラさんは料理上手なんですね!」
そう言うとシーラさんはまた顔を真っ赤になる。
この手の誉め言葉に慣れてないのだろうか?
「そ、そんなこと言ってもなにも出ませんよ!」
プイッと顔をそらすが耳と尻尾の動きで喜んでいるのがバレバレである。
そんな感じの会話もしながら俺は記憶喪失にかこつけてこの世界での情報を聞くことができた。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
まずこの世界はいくつかの大陸に分かれており、今俺がいる大陸は東に位置するアルドディーナ大陸というらしい。
人族、獸人、エルフ、ドワーフ、竜人等の多数の種族が共存しており、一年を通して比較的穏やかな気候である。
アドルディーナ大陸は中央に山脈を挟み大国が別れていて、北の大国ヴァルトネーレ王国と南の大国リューリュス王国に別れており、その両国の周辺に小国がいくつか点在している。
ちなみに今俺がいるのはリューリュス王国の東にある森らしい。
東の大陸の国々は特に仲が悪いわけでもなく、むしろ西の大陸からの侵略に備え互いに支援しあっているそうだ。
対して西の大陸、ルーマルグ大陸はアドルディーナ大陸に比べ一年を通して極寒の寒さにあり、土地も痩せている為、国民が常に餓えているそうだ。
その為ルーマルグ大陸を支配する帝国ラーヴァは、人族史上主義の軍事国家であり、周囲の国を侵略して大陸統一し、アドルディーナ大陸を侵略しようとしているらしい。
次にアドルディーナ大陸のさらに東にある島、エニシ国は元々、ヴァルトネーレ王国の一部だったがある人物たちに手により独立を果たした国だ。
そしてこの世界の最北端にある大陸、ガルブルス大陸は魔族の暮らす大陸であり通称『魔大陸』とも呼ばれている。
また魔王と呼ばれる存在もいるらしく、その都度ヴァルトネーレ王国で勇者召喚が行われるそうだ。
ちなみにエニシの独立を果たして立役者はその勇者である。
初代勇者が魔王討伐後、自分の子孫や召喚された同族の為に王国に掛け合ったそうだ。
エニシとは縁のことなのだろうか?
続いては金銭についてである。
この大陸でのお金の単位はダヴであり、紙幣は無く硬貨だけだ。
大まかに表すとこうなる。
鉄貨 1ダヴ
半銅貨 10ダヴ
銅貨 100ダヴ
半銀貨 1000ダヴ
銀貨 10000ダヴ
半金貨 100000ダヴ
金貨 1000000ダヴ
白金貨 10000000ダヴ
一般人がよく使うのは鉄貨~銀貨、貴族や王族になるとそれ以上の半金貨と金貨を使い、国同士での大きな商売の際に白金貨は使われているそうだ。
時間や日の概念などについてみると地球とはそれほど違いがないらしく、1ヶ月が30日で12回の1年が360日になる。
ちなみに月の名前は1月が光の月となり、火、水、氷、土、風、雷、木、鉄、影、闇、無の順に廻っている。
時間も地球と同じ24時間であり、よく街の方では午前9時、午後0時、午後3時、午後6時に鐘を鳴らすことで、時間を知るそうだ。
ちなみに今日は氷の月の2日目らしい。
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以上がシーラさんに聞いた内容だ。
勇者召喚か…なんだか本当に小説のような世界に来たことを実感するなぁ。
「レンリさんは動けるようになったら何処か行きたいところがあるんですか?」
「今のところは特にないですね。ただお金を稼ぐ為にも仕事を探さないといけませんね」
「……なら、冒険者ギルドなんてどうでしょう?あそこなら身分証も発行できますし、レンリさん次第ですがお金も稼げます」
おぉ!!
異世界定番の冒険者ギルドか!
「冒険者ギルドというと?」
「簡単にいうと仕事の斡旋場です。雑事から魔物討伐まで幅広く活動していて、時には国からの依頼も来る巨大組織です。かと言う私も実は冒険者ギルドしているんですよ」
そう言うとシーラさんはポケットから1枚の金属片を取り出した。
「これが冒険者ギルド所属の証であるギルドカードです。ランクは最低ランクGからF、E、D、C、B、A、S、SSと分けられていて、各ランクに応じた仕事が割り振られています。ちなみに私はEランクになります」
「Eランクだといったいどんな仕事があるんですか?」
「簡単な弱い魔物の討伐ですね。私は主にこの森の中にいる魔物を狩ってお金にしています。初めのG、Fランクの間は採取が多く、報酬金額も少ないのですがEランクになれば討伐依頼を請けられるためお金を稼ぐのが大分楽になりますよ」
まぁ駆け出しの冒険者に討伐依頼は危険だからだろうな…
正直採取依頼は面倒だがそれ以外仕事がない以上するしかないな
「なるほど、この辺りだとどんな魔物がいますか?」
この辺りにどんな魔物がいるか確認するのは大事なことだ。
周囲が安全だと油断すればこちらが狩られる。
所詮この世は弱肉強食と言うやつだ。
「うーん、この辺りの魔物なら一角ラビットやゴブリン、ノーズボアが出ますね。全部Eランク対象モンスターで魔核を取出し提出ことで依頼完了となります」
なるほど、ランクや魔核の設定はよくある異世界ものと同じだな。
「あと、実はギルド登録には銀貨1枚がいるのですがレンリさん持っていますか?」
「…すいません。持ってないです」
学校帰りに着のみ着のままで転生させされたから持っているの着ていた制服と女神からメモ紙くらいだ。
「なるほど、なら私が立て替えておきますね」
「えっ、あの、助かりますけどなんでそこまでしてくれるんですか?」
いくら優しいと言っても流石におかしい。
シーラさんに俺にお金を出してのメリットなんて全くないはずだ。
「むー、レンリさんは私が怪我して記憶なくした人が治ったらすぐに出ていけって言うようなひどい女と思ってるんですか?」
シーラさんは頬を膨らませてジト目で見てくる。
「それにあくまで立て替えるだけです。ちゃんと働いて返してくださいね」
「は、はい…わかりました」
シーラさんの迫力に負け、つい頷いてしまった。
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それからパンとスープのおかわりを何回かもらいしばらく雑談したあとシーラさんは食器を洗いに部屋を出ていく。
やることがなく暇なのでスキル確認をしてみた。
メモによると心の中で能力確認≪スキルチェック≫と唱えると見えるそうだ。
試してみるとゲームのメニューボードのようなものに脳内に表示される。
所持スキル
模倣眼
身体能力向上
治癒力向上
異世界言語自動翻訳
能力確認
これが今表示されているスキルだ。
下の4つのスキルは分かっているので模倣眼に意識を集中すると詳細が表示された。
模倣眼
レアリティ……伝説級
目で見た現象、技術、スキルを模倣し、獲得する。
※レアリティ伝説級及びそれ以上のレアリティ、一部のスキル模倣は無効。
簡素だが 以上が模倣眼のスキル内容だ。
女神に聞いたまんまの内容だな。
だがこのレアリティってなんだろうか?
伝説級とかいてあるぐらいなのだから希少なのだろう。
というかせっかく特典貰ったのにレア度が低いとなるとテンションが下がるしな。
それにしてもレアリティによる複製の制限か……
レアリティにどれだけの種類があるのか知らないが強力なスキルを獲得するのに制限があるのは辛いな。
ちなみに他のスキルは、身体能力向上、治癒力向上、能力確認が固有級で異世界言語も自動翻訳が伝説級だった。
とりあえずレアリティの事はシーラさんに聞いてみようかな?
けど、話題を振るにもなんて切り出そうか……いきなり聞いても記憶を無くした人が質問する内容でもないし。
あ、そうだ。
冒険者ギルドならスキル持ちの冒険者もいるはずだから探して聞いてみるか。
「よし、決まりだな」
新しい目標ができたが今の所、特にすることもなかったので今日1日を体が鈍らないようにストレッチする事に費やした。