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闘技の街の赤竜編~狼さんとの腹ごしらえと売り言葉に買い言葉~

 孤児院から出た俺とシーラはまっすぐ侯爵家に向かう。

 昨日の短い時間とはいえ確かめなくてはいけない事がいくつか出たからだ。

 一つ目は裏組織と侯爵家の繋がり、二つ目は非公式の賭けが行われていることだ。

 報告もいう点ではもらった資料よりも行方不明の人物が増え続けているなどのこの町の平和を乱す行為がまだ行われ続けているということも報告しなければならない。


 「ねぇ、レンリ。こんな早くの時間から侯爵家に行って大丈夫なの?不敬にならないかな?」


 「あ……忘れてた」


 しまった。

 ディアからの質問から逃げるのに必死でそこの事を考えていなかった。

 今の時間は地球でいう朝7時ぐらいのはずだから流石にいきなり訪問するのも失礼だろう。

 そうやって考えるとシーラが俺の袖をつかみくいくいっと引っ張る。


 「ん?どうした?」


 「ねぇ、あっちから美味しそうな匂いがしない?」


 シーラが指を差して、俺はその方向を見る。

 その先には市のようなものが始まっており、その中の出店から美味しそうな匂いが漂っていた。


 「そうだな。侯爵家に行く前に先に腹ごしらえでもしておくか。俺のせいで孤児院のご飯食べ損ねたわけだしな」


 「別に気にしなくてもいいよ。それに付いていったのは私だし。そんなことより早く食べに行こ!」


 シーラは俺の手を掴み、いちの中に入っていく。

 朝も早いはずだが、どこの店の店主も元気よく、とても活気に溢れている。

 大会の事もあるので商人にとっては稼ぎ時なのだろう。


 「レンリ!見てみて!あそこのお肉美味しそうだよ!」


 シーラは目を輝かせながら目の前の屋台に串焼きを指差す。

 屋台をみると看板にはレッドボアの串焼きと書いてある。

 アラクトにいるときたまに見かけたノーズボアの亜種であり、ノーズボアよりも旨いらしい。

 まぁ、ノーズボアを俺を食べたことないので比較できないんだが。


 「おっ!お嬢ちゃん、うちの屋台に目を付けるとは流石だね!」


 屋台の店主である四十代程の短髪の人族のおじさんがニコニコとしながらシーラの声に反応して話しかけてくる。

 見る感じ人が良さそうで男くさい笑みを浮かべるその人に俺は少し好印象をいだいた。

 

 「一本、四〇〇ダヴだ!どうだい?買ってくか?」


 「それじゃあ、二本下さい」


 「あいよ!八〇〇ダヴ……銅貨四枚だ!」


 俺は銅貨八枚を渡すとおじさんは串焼きを渡してくれる。

 だが本数は二本ではなく、なんと三本もくれたのだ。


 「あの、一本多いですよ?」


 「あぁ、美人の嬢ちゃんと兄ちゃんにサービスさ!正直、嬢ちゃんが美味しそうに食べて回ってくれたなら店のいい宣伝になるしな!」


 なるほど。

 確かにいい手だと思う。

 俺だって美少女が美味しそうに食べているものは多少なり気になる。

 

 「そうですか。ありがとうございます」


 「あ、ありがとうございます!」


 俺がお礼を言うと同じようにシーラもお礼を言う。

 

 「がははは!良いってことよ!それにしても兄ちゃん達あんまり見ねぇ顔だな。闘技大会に参加しにいくのかい?」


 おじさんは豪快に笑い、俺達の顔を見ながら言う。


 「今は検討中ですね。予定があけば参加しようかと思ってますよ……そういえば朝からこんな活気がいいのはやっぱり大会があるからですか?」


 「おう、兄ちゃん達みたいな旅人が来ることがあるからな。普段より稼がせてもらってるぜ!というかさっさと串焼きをたべな。冷めちまうし、嬢ちゃんが見てるぞ」


 元気におじさんがサムズアップをする。

 いわれるままにシーラの方を見るとシーラの目は串焼きに釘付けで尻尾をブンブンと振っていた。

 その姿はまるで餌の前で待てをさせられてる犬みたいで、とても可愛かった。


 「ごめんシーラ。はい」


 俺はいじわるせずシーラに串焼きを渡すと早速一口ぱくりと食べる。


 「はぅ!おいふぃ!」


 シーラは耳をピコピコ、尻尾をブンブンと振って美味しさを表現している。

 手も頬に当て、美味しそうに食べて飲み込む。 

 つられて俺も一口ぱくり。

 おお!

 凄く柔らかくて、噛むたびに旨味を含んだ肉汁が口のなかにこぼれ、喉をするんと通っていく。

 一言でいうなら凄く旨い!


 「昔食べたノーズボアの串焼きよりも凄く柔らかくて、噛めば噛むほど旨味に溢れた肉汁が溢れてきてね!」


 飲み込んだ後に怒濤の感想を伝えようと話してくる。

 その光景におじさんが少し引いていた。

 おじさんとしても予想以上の反応だったんだな。

 なんというかシーラって食べ物に関しては反応が凄いな……。

 そんなシーラを横目に俺はおじさんに聞きたいことを聞いてみる。


 「そういえばここの領主様ってどんな人なんですか?貴族様って色んな人がいるから気になって……」


 侯爵家の評判を聞くことにする。

 俺達は侯爵様の人柄をすでに知っているが市民達からの声は気になる。


 「侯爵様かい?いい人さ!俺達の平民相手にも偉ぶりもせず、今みたいに大会の見物にきた別の貴族様との騒動も収めてくれたりしてくれるぜ!」


 おじさんは自分を自慢するように言う。

 

 「俺達もあんな人が治めてくれるからこの町で商売できるんだ。感謝しきれねぇぜ!」


 おじさんの言葉に周囲の屋台の人もうんうんと頷く。

 なるほど民衆から評価もなかなか高いようだ。


 「じゃあ兄ちゃん達もこの町を楽しんでくんな!」


 そういうおじさんの言葉を背に俺とシーラは別の所に行くことにした。


 「あの串焼き美味しかったね!また食べてみたいね!」


 「そうだな。大会中ならまだ屋台もしてるかもしれないからまた買いに来ような」


 「うん!」


 シーラは先程食べた串焼きの味を思いだしながら、聞いてくる。

 確かに美味しかったしまた機会があればまた買いに来よう。

 それから俺達はしばらく様々な屋台をシーラと見ながら歩く。

 美味しそうな匂いをさせる料理や瑞々しい果物、アクセサリーなどたくさんの屋台にシーラは目を輝かせる。

 まるで地球の縁日を思い出す。

 屋台の焼きそばやリンゴ飴好きだったんだよなぁ。

 今じゃもう食べられないからいつか似たようなものを見つけて作ってみるのもいいかもしれないな。


 「きゃっ!」


 そんなことを考えると少し先を歩くシーラが誰かにぶつかり小さな悲鳴をあげる。


 「シーラ?どうし……「あー!昨日の子じゃん!一人なの?」


 シーラがぶつかったのは昨日のナンパ男だ。

 軽装備だが、どうやら冒険者のようだ。

 確か冒険者ギルドからついてきたと言ってたし、多分依頼の完了報告にでも行っていて、その際にシーラを見つけたのだろう。


 「うちの仲間がすいません」


 詰め寄ろうとするナンパ男とシーラの間に割って入る。


 「ちっ、昨日の男かよ。ねぇ、君。そんな男より俺と組もうぜ。俺より弱そうだしな」


 そういいながら俺の方を見下すように視線を向ける。

 俺としてはそのぐらいの安い挑発は別に気にする必要がないので軽く受け流すのだが、後ろを見てみるとシーラが眉間にシワを寄せながらナンパ男を睨む。


 「撤回してください!レンリは貴方なんかより絶対に強いですから!」


 俺を押し退けてシーラがナンパ男に突っ掛かる。

 この光景はアラクトでみたことあるな。


 「そうかなー?俺はDランクだせ?君達どうせEランクぐらいなんだろ?」


 「私達もDランクです!舐めないで下さい!」


 「嘘だろ?そんなにいうなら証拠見せてみろよ」


 ナンパ男がそういうのでシーラは自分のギルドカードを見せ、こちらを見てくるので俺も自分のギルドカードを出す。


 「……マジかよ。なぁ、あんたらこの時期にこの町にいるってことは大会に出るんだよな?それなら勝負だ!この大会で成績がよかった方がその子と組むっていうのはどうだ?」


 「「はぁ!?」」


 ナンパ男のいきなりの言葉に俺達は口を開けて驚いた。

 何を言ってんだこいつは。


 「自信があるんだろ?ならそうすれば早い話だ。なんだ俺より上に行ける自信がないのか?」


 別に無理に付き合う必要はないので断ろうとした瞬間、シーラが前に出る。

 ヤバい。

 このままじゃ……「いいですよ!レンリは貴方なんかよりずっと強いですから!その勝負お受けします!」


 くそ!

 間に合わなかったか。


 「よし!今の言葉忘れんなよ!」


 そういってナンパ男は意気揚々と去っていった。

 取り残された俺達はお互いの顔を見合わせる。


 「レンリ……ごめんなさい。私、勝手なことしちゃって」


 落ち着いて冷静さを取り戻したシーラは事の重大さに気付き耳と尻尾をペタンとさせてうつむき俺に謝る。

 別に怒る気はなかったが、その姿が飼い主に怒られたワンコみたいで可愛らしくて少しほっこりした。


 「別にいいよ。シーラは俺のために怒ってくれたんだろ?結果はこうなってしまったけど、それなら勝つまでだ」


 うつむくシーラの頭に手を乗せ、軽く撫でる。


 「うん!」


 一瞬驚き、顔が赤くなったが俺の言葉が伝わったかシーラは輝かんばかりのいい笑顔を浮かべた。


 「そうなると余計に領主様に大会の出場の許可を貰わないといけないな。……日もだいぶ昇ったことだしそろそろ侯爵家に行こうか」


 空を見上げると日もだいぶ高くなりもう少しで鐘が鳴る時間になるほどの時間になっていた。


 「うん!私も説得頑張るね!」


 そうして俺達は侯爵家に向かい移動を始めた。


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