闘技の街の赤竜編~依頼の受諾と情報収集~
「……依頼ですか?」
「あぁ、実は最近この街である問題が起きていてね。旅人がよく拐われるんだ。それも女子供を中心にね。特にこの時期は武闘大会があるから街の出入りが激しくて拐われても気付かれることも少ないから、それをいいことにそんなことが行われているんだ。我々も何とかするためにも領軍を使って調べてるんだが、なかなか足を掴めなくてね。そこで先生が認める君達ならなんとかしてくれるかもしれないと思って依頼しようと思うんだ。もちろん報酬も弾むし、この街にいる間の生活の手助けもする。それでどうかな?」
かなりの好条件だが、なぜここまでしてくれるのか俺には不思議だった。
「なぜそこまでしてくれるのですか?いくらあの人が認めてくれたとはいえ、私たちはまだ無銘の冒険者です。そこまでする理由はないはずです」
「ふむ、なるほど。確かに知り合いの紹介とはいえ、いきなりの厚待遇には警戒するのも仕方がないか。理由と言っても起用する理由はさっき言った通り現状の打破する為、待遇に関しては先生からの指示って言うのもあるんだよ」
「へっ?おじさんが?」
「あぁ。前もって送られてきた手紙に君のことがたくさん書いてあったからね。もし君を蔑ろにしたとすればあの人に氷付けにされてしまうよ」
領主、グリシナ侯爵が自分の体を抱くようにして腕を交差させ二の腕を擦る。
どうやら昔になんかあったようだ。
「あの……おじさんってどんな人だったんですか?私が聞くといつもうやむやで誤魔化されて教えてくれないんです」
「あ、俺も知りたいです」
ナラ村の人もギルドマスターの事を知ってたし、結構な有名人なんだろう。
良い機会だし聞いておこう。
「ま、まさか教えてなかったとは思ってなかったよ。まぁ、過去の実績を教えると色々遠慮されると思ったのかな?」
どうやらギルドマスターが教えてなかったのが予想外だったのか半ば呆れているように言葉を漏らした。
「えーと、先生がどんな人だったかだったね。ふむ、あえて言うなら民衆から英雄のように言われている人だね。実力もあって民からの知名度も高いし、王族との直接的なつてもあるから権威、権力はそこいらの貴族など相手にならないし、身分の違いがあろうとも分け隔てなく人に接するところから助けられた人達に聖人のように扱われていたよ」
「確かにおじさん昔からよくスラムとか行って孤児達の援助や引き取ってギルドの雑用させてちゃんとした働き口を紹介してるってメリアさんに聞いたことがあったような……」
「確かに先生はよく引き取って来ては僕や他の生徒達に斡旋しているね。ちゃんと教育も行ってから送れってくれるからこちらとしても助かっているよ。まぁ、人柄としてはこんな感じだけど先生がなぜ王族とのつてがあるのかわかるかい?」
色々と考えてみるが結局わからず、俺とシーラは首を横に振る。
「それは先生が数少ないSSランクの冒険者だったからさ。『氷絶の覇者』という異名を持っていてね。数万といる魔物を一手に引き受けて瞬く間に凍らせ、殲滅したことからその名が付けられたんだ。当時は国や貴族が先生を自分の私兵や直臣にしようと躍起になっていたんだけど、それを嫌ったあの人は冒険者を引退してギルド職員になったんだ。それから瞬く間に昇進して今はアラクトの街でギルドマスターになっているという訳だ」
「そうだったんだ……全然知らなかった。普段のおじさんから全然想像できなかった」
それは俺も同意見だ。
確かに実力者だと思ったいたが、そこまで強いとは普段のあの姿からは全然想像できなかった。
「あはは……本当に徹底して隠してたようだね。まぁ、先生について私が知っているのはこれぐらいかな。さて、話が逸れてしまったが君達は依頼を引き受けてくれるかな?」
「……仮に受けるとして期間内にもし見つけられなかった時はどうするんですか?」
もしデメリットがあるなら断るのも手だ。
危ない橋を渡る必要はない。
「いや、特になにもないよ。見つければ良し、見付からなければ仕方なしと考えてるつもりさ。君達に理不尽な罰を与える事なんてするつもりなんてないし、そんなことをすればまた先生に……」
またさっきのように二の腕を擦る。
ギルドマスター……あんた、一体なにしたんだよ。
「わかりました。それなら引き受けます。シーラはそれでもかまわないか?」
「うん。レンリが良いならそれでも良いよ」
「よし!話は纏まったようだし、そろそろ昼食の時間だ。よかったら食べていきなさい」
そういうとグリシナ侯爵は立ち上がる。
外の太陽の位置を見るに確かに昼時のようだ。
するときゅう~と可愛らしい音が隣から聞こえる。
隣を見るとシーラが顔を真っ赤にして俯いている。
「はははっ!。スタミナが付くものを用意させよう。準備が終わるまでそこで待っててくれるかな?私は少し、シャノラス商会との商談があるので失礼するよ」
「「はい/はぃ」」
そういってグリシナ侯爵は部屋を出ていった
「うぅ~。何で私あんなタイミングでお腹鳴っちゃったんだろう。恥ずかしいよぉ」
出ていったのを確認するとシーラが隣で悶えている。
まぁ、気持ちはわからなくもないが。
「まぁ、今日は早くに起きてあまり食べてないしな。仕方ないさ」
「うぅ……」
「まぁ、せっかく昼食を出して貰えるんだ。遠慮なく食べようじゃないか」
そう言うと、気持ちが落ち着いたのか悶えるのを止めた。
わりと現金なひとだ。
それからしばらくして商談を終えた侯爵が戻ってきて、俺とシーラを連れて食堂に向かう。
その後、大量の濃い目の味付けの肉料理を食べてお腹を満たした俺達は侯爵から事件の資料と聞き取りが楽にできるように侯爵家公認の証をもらって屋敷を出た。
中を確認するといなくなった人のリストがはいっていた。
「レンリ、私ね。もし拉致された人がいるなら助けてあげたいの。なんとかなりそう?」
「うーん、パッと資料をみる限りはまだどうとも言えないな。多分これだけじゃ情報が足りない。情報収集といえば酒場だけど……」
俺は資料に向けていた視線をシーラに向ける。
「?」
この子、絶対に酔っぱらいに絡まれるだろうな。
多分あしらい方も上手くなさそうだし、俺一人で言った方が良さそうだな。
「シーラ、手分けして行動をしよう。俺は酒場の方に行くからシーラはこの資料と証を持って、この町の冒険者ギルドに行ってなにか情報がないか調べてくれないか?」
「うん。けどレンリは一人で大丈夫?危なくない?」
「大丈夫だ。もし危なくなったら逃げるし、最悪、侯爵様の後ろ楯をがあるって言うさ。だから心配しなくても良いさ」
そう言うとなるとか納得したらしく、3回の鐘の音(午後3時の鐘)を聞いたら侯爵家前に集合する約束をし、解散した。
それから街の住民に聞き、スラムの方にある酒場に行き、中に入ると何人かの客がこちらをみてくる。
一応見てくる客達を分析を使って確認すると、どうやらただの冒険者や街の住民で危険は無さそうだった。
とりあえず聞きたいことを聞くために、俺はカウンターに行き、カウンターの反対側にいる髭面のマスターの前の席に座る。
片目に傷が走っていて、凶悪そうな顔つきは酒場のマスターというより完全にヤバイ人に見えた。
正直恐ろしいがそうも言っていられないので声をかけることにする。
「ミルク一杯お願いします」
「ここは酒場だぞ。酒を飲まねぇガキは帰んな」
マスターがグラスを布で吹きながらそっけなく答える。
「そんなこと言わずに少し聞きたいことがあるんです」
そういって俺は懐から銀貨を一枚だしてカウンターに置く。
「……なにが聞きたいんだ?」
銀貨を受け取ったマスターはミルクを木製のコップに注ぎ、俺の前に置く。
「自分はこの街に来たばかりなので、もしこの街で裏組織があるなら教えていただきたい。厄介事には関わりたくないですからね。あとこれは噂話なんですが毎年この時期になると女子供が拐われるらしいですがなにか聞いたりしてますか?」
とりあえず一番聞きたいことを聞いておく。
もし裏組織がいるなら俺やシーラには手が余る問題だ。
だから前もってそれだけは確認しておきたいし、今回の件のこと知っているならそれに越したことはない。
「この街に裏組織はいるが堅気の人様に迷惑かける連中じゃねぇよ。このスラムの治安維持をやっていてこの街の領主様もスラムの治安維持をする代わりに暗黙の了解で存続を放置している。あとその件に関しては噂自体は聞いたことはあるが実体は掴めてないらしい。まず誘拐された奴がどこに行ったかわからないからな。街の外に連れ出すなら門を通る必要があるからその時に見つかるはずなんだがな。まぁ、俺が知ってんのはこれぐらいだな」
なるほど。
これは一度資料を確認して、侯爵に確認する必要があるな。
「ありがとうございます。ミルクはおいくらですか?」
「いらねぇよ。そんだけの情報にこんだけ払いやがって。ミルクの一杯位サービスしてやるよ。あとな帰り道は気を付けな。そんだけ羽振りの良いところを見せたんだ。どこかのアホがバカやって来る可能性もあるからな」
「ご忠告ありがとうございます。けど、これでも腕には自信があるので大丈夫ですよ。それでは、失礼します」
俺はそう言って酒場を後にした。
~酒場のマスター視点~
まったくおかしなガキだ。
うちは酒場だぞ?
なのにミルクなんぞ頼みやがって。
それに裏組織の情報が知りたいと言っても銀貨は払いすぎだ。
まったく器が大きいのかバカなのかわからねぇな。
まぁ、だが嫌いじゃねぇ。
そういえば、さっきのガキを追いかけて客が二人出てきやがった。
多分さっきの銀貨を見て、脅しかけて奪おうって口だな。
「おい、サナマとニキサ!今の客らを追いかけろ。さっきの小僧がやられそうなら手助けしてやれ。うちのシマで勝手なことをさせるな」
「「はい!」」
隣で作業していた部下とフロア掃除をしていた部下の二人を呼び、指示する。
サナマとニキサは返事をし、小僧達を追いかけていった。
まぁ、あいつらに任せれば問題はないだろう。
この街の裏を統べる者として、勝手なことをさねぇよ。
~連理視点~
酒場を出てスラムの出口に向かい歩いていると、後ろから足音がする。
酒場から出てからずっと聞こえていたところをみるときっとマスターが言っていたバカなことしてくる人がさっそく来たらしい。
「バレてますよ。出てきてください」
俺がそう声を掛けると建物の影から男が二人出てきた。
顔が赤く、足取りもおぼつかない所をみると結構酔っ払っているようだ。
「おうおう、坊っちゃんお金持ちみたいだし俺達にも恵んでくれよぉ!」
「そうだそうだ!」
なんというかケナシーの時といい、アホっぽい酔っぱらいに絡まれるのが多いなぁ。
「すいませんがお断りします」
そう言って去ろうとすると男の片方が殴りかかってくる。
でも遅いので受け流し、カウンターで腹に一撃をいれ気絶させる。
相方が倒されたことに気付いたもう片方も襲いかかってきたので同じ要領で倒した。
倒したのはいいが処理どうしよう。
襲われたわけだし衛兵でも呼ぶべきだろうか悩んでいると、建物の影から新たに二人が出てきた。
記憶が正しければ酒場でマスターの隣にいた人とフロア掃除をしていた人だ。
「貴方たちは?」
「お前がさっき聞いていた裏組織の者だ。ボスの命に従い、勝手をやるバカを処理しに来た」
フロア掃除をしていた男が返答し、マスターの隣にいた人は無言で絡んできた二人を回収する。
「聞きたいことがあるんですがいいですか?」
「無駄だ。俺達はさっきお前が聞いた以上の情報は知らん。少なくとも俺達は今回の件に関わってない」
それを言うと二人はスラムの奥に消えていった。
やっぱりあのマスター裏組織の人間だったか。
確かに見た目からそれぽかったしな。
まさかボスとは思わなかったけどな。
まぁ、ともかく情報は得ることができたし、一度シーラと合流するか。
そしてスラムを出て、また侯爵家の前に行くとシーラがすでにいた。
どうやら男に声をかけられているらしい。
「いいじゃん。待っても来ないやつなんて置いてって俺と遊ぼうよ?」
「結構です。もう少しで来るので放っておいてください」
「そんなこと言わずにさ。ね?」
「しつこいです。何度も言いますが、私はここで仲間を待ってるんです。それだけの用なら帰ってください」
しつこい男のナンパもシーラは言葉の刃でズバズバと切り伏せていく。
見た目は悪くないが、いかんせんチャラい。
あのままだと争いになりかねないし、そろそろ助け船を出すか。
「シーラ。遅くなってごめん。その人は?」
「レンリ!冒険者ギルドからずっとこの人がついてきて……」
「その人が待ってた人?そんなカッコ良くないしそんな人放って置いて俺と遊ぼうよ!」
めげない人だなぁ。
「いい加減にしてください!それにレンリさんを馬鹿にしないで下さい!」
ついにシーラがキレた。
今にも飛び掛かりかねないので、シーラを後ろに下げ、男の前に出る。
「あの、俺の仲間になんの用ですか?嫌がっているのでやめてもらえませんか?」
「な、なんだよ。俺は声を掛けただけだぞ」
「そうですね。けど彼女は嫌がってるんですよ?それにここであまり騒ぐと大変なことになるんじゃないんですか?」
「へ?」
俺が侯爵家を指差すと途端に男の血の気が引いたようで顔色が青くてなっていく。
「シーラ、あとから話が終わったら侯爵様の所に行くか?」
「そうだね!話すこともあるしね」
それを言うと今度は顔が青から白くなっていき今にも泣きそうになっていた。
「そ、そんなつもりじゃなかったんだ。うわぁぁぁぁあ!」
色々いっぱいいっぱいになった男は走って逃げてしまった。
「ふぅ、なんとか行ったか。大丈夫か?」
「うん。助けてくれてありがとう!レンリの方は収穫あった?」
「まぁ、幾つかな。シーラはどうだった?」
「私も少しだけだけど……侯爵家の力を借りて受付嬢に聞いてみたら、資料の人以上の数の人が拐われているらしいの。だからそのリスト書き写すのに手間取っちゃった」
「なるほど、大変なのにわざわざ書き写してくれてありがとうな。周りの目もあるしとりあえずこの話の続きは宿を取ってから話そう」
そう言ってシーラと共に宿屋のある中心部に、向かって歩き出した。




