闘技の街の赤竜編~闘技の街グリシナ~
アラクトの町を出て2週間、道の途中に色々な所で寝起きし、なんとか目的の武闘大会の行われる街であるグリシナに到着した。
道中も色々あったので少し気疲れしてしまった。
何日かの野宿はまだ良かったのだが、酷かったのは個室がない宿であった大部屋での雑魚寝だった。
暗いことをいいことに寝ているシーラに手を出そうとする下衆な輩が何回も出てきたのだ。
まぁ、そんな奴には関節技をかけて首に剥ぎ取り用のナイフを添えて手を出さないように脅しかけなんとか追い返すことができたが。
全く、見てくるだけならいいがこんな事してなんになるんだか。
対してシーラは人の気持ちも知らずに気持ち良さそうにすやすやと寝ている。
その寝顔を見ているとなんだか怒る気にもならず、朝まで変な男が寄らないように見張っていることにした。
なのでそんな次の日はもれなく寝不足だった。
他にもシーラが着替えてる時や体を水で濡らした布で拭いてる時に気付かず入ってしまうなどとラッキースケベもあったのだが、1日中シーラが口を聞いてくれなくなるので後始末が大変だった。
ちなみにこの世界において湯船に浸かるような風呂は貴族の所有物だったり、高名な冒険者が泊まるような高いホテルの備えつけぐらいらしい。
なので普段は水を貯めた桶で布を濡らしてから身体を拭くのがこの世界では一般常識だそうだ。
日本人としては湯船に浸かりたいのでいつか定住先を探して自作してやろうかと思っている。
そんなことはさておき、俺は着いたグリシナの門や外壁を見てみる。
外壁はアラクト同様で高く、強固そうな壁をしている。
目の前に沢山の人達が街の中に入るために並んでいた。
宿などで聞いた話によると三日後に始まる武闘大会を目的にグリシナに集まっているらしい。
ともかく、自分達の番までまわってくるまで暇なのでシーラと一緒にギルドマスターから貰った旅のしおりでこの街の事を書いていないかを見てみる。
探してみると予想通りにこの街の事が2ページ程書かれており片方は地図とその補足でもう片方は闘技大会のことや領主の事やその他の特産品等が書かれていた。
そういえばこの街の領主に手紙を渡すように言われてるの忘れてたな。
ちなみにこの街の中心にコロッセオのような建物がありその周辺に武具を取り扱う店や宿泊施設を展開している事がわかった。
外壁に近いところが民家などの居住区であるらしく、教会や冒険者ギルドはこの辺りに設置されているようだ。
そうこうしている内に俺達の番がきたのでギルドカードを見せて街の中に入る。
門を通り抜けると目の前には大きな建造物が目にはいった。
これもしおりの方に書いてあったのだが実は何代か前の勇者が俺達の世界のコロッセオを模倣して作りあげたものらしく、正確にはコロッセオもどきと言うのが正しい。
そんなコロッセオもどきに見とれていると、内側にいた門番から声を掛けられた。
「君達、エニシ人のレンリ・キリュウと白狼獣人のシーラ・ウルフィスで間違いないかな?領主様から君達が来たら連れてくるように言われてるんだ。一緒に来てもらえるかい」
「はい。領主様からですか?」
「あぁ、アラクトの冒険者ギルドのギルドマスターが連絡して来たらしくてな」
そう言われた俺達は案内されて領主の住む屋敷についた。
屋敷は大きく、アラクトの冒険者ギルドの建物と同じくらい大きかった。
屋敷に着くと門番がメイドのような人と交代して屋敷の中に招き入れられ、執務室のような所に案内された。
「旦那様、レンリ・キリュウ様、シーラ・ウルフィス様をお連れしました」
「入りなさい」
ドアをノックし中に入る中年のおじさんと言ってもかわりない男の人が立っていた。
まるで山男のような髭をしていて、優しい表情をしている。
「君達が先生が言っていた子達だね。ようこそグリシナへ。僕は領主をしているオーディス・フォン・グリシナだ。爵位としては侯爵を授かっている。よろしく」
「「こ、侯爵様!?」」
あまりのフレンドリーな感じにいたので呆気を喰らったが結構高い爵位の人物と知り、俺とシーラは驚いた。
「あぁ、普段のように振る舞ってもらっても構わないよ。先生のお墨付きの子達に傲慢な態度をするつもりもない私としてもそんな貴族の品位を下げるようなことはしたくないね」
「あ、あの……先生と言うのは?」
「ランティス先生の事だよ。知らなかったのかい?ふむ、君がシーラ君だね。ライラさんに似て将来は美人さんになりそうだ」
「えっ!?お母さんの事知ってるんですか!?」
「知ってるもなにも20年ほど前に先生がシルヴァ君とライラさんを連れてきたからね。懐かしいなぁ。手紙で先生から事情を聞いてるよ。辛かったね」
領主がシーラの頭を撫でる。
その姿はまるで姪を可愛がる叔父のような風にも見えた。
「さて、さっき言った通りに僕は先生から事情を聞いてる。魔族討伐の件についてもね。……だからこそ君達に頼みたいことがあるんだ」
領主の先程までの優しそうな目つきが厳しいものに変わった。




