プロローグ~スキルは決まりました~
鏡に映し出されたのは赤ん坊の俺だった。
「お~、かわいいですね~」
女神は俺の方を向き言う。
「そうか?このぐらいの年齢ならみんな同じだろう?」
鏡を見たまま俺は言う。
実際そう思う。
極端な特徴がない限り赤ん坊の見分けなんて俺にはつかない。
すると次に小学生の頃の映像が流れた。
映っていたのは火葬場で黒い服を着た沢山の大人達と両親の写真を持っていた俺だった。
俺の両親は小学6年生の時に俺と同じ交通事故で亡くなった。
後で聞いた話では轢き逃げだったらしく、犯人は今でも捕まっていない。
その後、親戚から引き取りをたらい回しになった俺を引き取ってくれたのは古武術道場を経営していた母方の祖父母だった。
祖父は厳しくも俺に武術を教えて、祖母は優しく俺を育ててくれた。
俺はそんな2人の事を大切に思っているし、感謝してもしきれないほど人達だ。
「なぁ、そういえば今うちのじいちゃん達はどうしてるんだ?」
俺は隣で映像を見ている女神に尋ねてみる。
「えーとですね~。今事故現場に向かっているようですね~。もしよければ霧生さんをあちらに送る時に地球側の霧生さんの形跡消しておきましょうか~?」
「頼む」
みんなが俺を忘れるのは寂しいが、じいちゃん達が悲しむのは嫌だしな。
「了解です~」
女神は右手で敬礼し、返事をする。
するとまた映像が切り替わり、中学生の俺がじいちゃんに武術を教えてもらっているがところが映った。
「お~霧生さん、武術を習ってたんですね~」
「じいちゃんに習ってな。心身共に毎日ボロボロだったよ」
ー古武術・五行無想流ー
江戸時代から続く無手による対人武道を目的とした流派であり、五行思想をベースに考えられた武術だ。
じいちゃんは流派の師範で俺はいつもボロボロになるまで鍛えられた。
それ以外にもじいちゃんには修行だーといわれて、夏休みを費やして森の深い山でサバイバルを1ヶ月間するのが毎年の恒例になっているので、サバイバル知識はあるし体力もあるつもりだ。
じいちゃんが言うには俺は観察眼と模倣の才能があるらしい。
次に高校に入ってからの映像が映った。
座学の成績はあまりに良くなかったがサバイバル経験のおかげか体育はいつもトップだったのは覚えている。
中学生の時は武術に必死だったのと両親の死を早く忘れたかったから興味がなかったが、高校生になる前にはラノベ等のオタク知識を知ることが多くなった。
そしてまた鏡の映像が切り替わり、今の俺の事故現場が映った。
「さて~。これで全部見終わりましたので、霧生さんにふさわしい特典を差し上げたいと思います~」
女神は俺の方を向き、鏡は光となって消えていった。
「霧生さんの人生を見て、創造したスキルは~目で見た魔法やスキルを模倣し自分の物とする魔眼、模倣眼に決定です~」
女神は両手を挙げ喜んでいる。
「イ、イミテーションアイ?」
「はい~魔法やスキルの習得は普通だと先天的な適性とたくさんの努力によって習得されているものですが~……」
女神は大きく息を吸い込み。
「なんと!!この魔眼はその習得条件を一切無視して模倣獲得することができるのです~!!」
耳が痛くなりそうなぐらい大きな声で叫ぶ女神。
「それは便利な能力だけど、デメリットとかないのか?」
すると女神は顎に手を当てる。
「そうですね~。まずは目で見えないものや一部の種族固有スキルは習得する事ができません~」
「種族固有スキル?」
「まずはスライムの再生・分裂能力とかアンデット系の不死などはできません~」
できてもしたくない。
そんなスプラッタなの見たくないし、見せたくもない。
「ちなみに種族固有スキルと言うのは、獣人とかの超嗅覚、聴覚や魚人達のエラなどの水中呼吸などのこと言います~。スライムのようにあまりに人間の枠組みを超えたスキルは模倣できません~」
「なるほどな。見えないものって事は風とかの魔法もダメなのか?」
風魔法があるかわからないがもしあるなら習得したいし一応聞いておくのに越したことはない。
「それについては大丈夫です~。風などの魔法は起きた現象を見れば習得可能です~。けど透明化のスキルは視認自体できませんので習得することはできません~」
う~ん。
便利なスキルだがまずは見なければ模倣が出来ないのは大変だな。
「さて、そろそろあちらへの転送準備ができたようなので~、霧生さんをあちらの世界に送りますね~」
女神がそう言うと俺の足元に魔方陣が現れる。
「その他の必要な事はメモに書いてあるので~あちらについたら見ておいてくださいね~」
女神からメモを受け取り俺はポケットの中に入れた。
「あと次に会うときはちゃんとセフィラって名前で呼んでくださいね~?」
「会う機会なんて無いだろ?」
「いやいや、霧生さんの寝てる枕元に無言で立ってますから~」
「怖いわ!!そんな事したら本気で怒るからな!!」
心臓に悪いので本当にやめてほしい。
「まぁ冗談はさておき、それでは頑張って下さいね~」
女神の言葉が言い終わると同時に足元の魔方陣は輝き、俺は意識を失った。