閑話 狼さんのブラッシング
アラクトを出た日の夜、俺とシーラは小さな村を見つけ、その中にある宿屋に一泊することになった。
宿屋で休めるなら休んだ方がいい。
お互いに見張りをするとしても、土の上とベッドじゃ疲れの取れ方が全然違うしな。
昔、じいちゃんと山でサバイバルしてた時なんて地面どころか木の上で寝るなんて日常的茶飯事だった。
じゃないと熊と野生の動物に襲われかねないからそうしてたけど、どうにも体が痛くて仕方ないしあまり休んだ気がしない。
ていうかなんであの山で修行することになったんだろう?
普通はまだ人が来るところならまだわかるけど、自殺の名所と呼ばれるとこで修行するのは体力よりも精神的疲労の方が凄いんだけど。
そんな事を思い出しつつ、今晩は泊まることに決めたのだか、あいにく村にある唯一の宿屋に結構な数の旅人が止まっているらしく、結局1部屋しか取ることが出来ず、一緒の部屋で寝ることになってしまった。
宿屋のおばさんに混んでいる理由を聞くと、どうやら旅人の大半は来月の頭にあるグリシナの武闘大会が目当てらしく今からグリシナに向かう途中らしい。
ちなみに取れた部屋は少し広めのツインの部屋だ。
部屋のなかに入ると俺達は無言になってしまう。
今までシーラの家の中で寝たことはあってもお、女の子と同じ部屋で泊まるなんてめ初めてだし、緊張感が半端ない。
シーラの方をみてみると彼女の顔も赤くなっていた。
どうやら同じことを考えてるようだ。
とりあえずお互い自分のベッドに腰掛けるように座り、向かい合うような状態になる。
「そ、そうだ。ギルドマスターから貰った魔法の鞄の中身を確認しないか?ドルメードさん達がなにが入ってるリストをメモもくれたしさ」
「そ、そうだね。いったいなにが入ってるの?」
「えーと、携帯食糧が一ヶ月分、寒さ防止のローブが俺とシーラ用で1着ずつ、普通の服が大体3着ずつ、武器の手入れする油や砥石、剥ぎ取り用のナイフが呼び含めて3本にポーション5本と解毒薬が3本、後は旅に必要な生活消耗品やトッティさんから渡されたお金が銀貨15枚、サシャちゃんからの人形にブラシが2本、ドルメードさんとギルドマスターからの手紙とギルドマスターが書いたような旅のしおり的なものが一冊ぐらいだな。思ったより沢山入れてくれたんだな」
て言うかポーションとか確かに単価で銀貨5枚はするはずだし、解毒薬もそんなに安いものじゃない。
これはサービスし過ぎだ。
たぶんこれを入れた大半はギルドマスターなんだろうな。
まぁ、ただだし貰えるものは貰っておくが。
「うーん、携帯食糧とか私たちが用意した分と合わせるととんでもない数になるね。他にもローブや消耗品も被っちゃうしどうしよう?そういえばそのおじさんの書いたしおりって中身はどうなの?」
「まぁ、多い分には良いんじゃないか?この魔法の鞄の中に入れておけばかさ張っても、大丈夫だと思うし、ローブとか予備としてとっていけば良いと思うしな。しおりか?ちょっと待って、えーと、よいしょっと」
ドルメードさんに言われた通りに、しおりを取り出すイメージをしながら手を鞄の中に入れると見事にしおりが出てきた。
これってしおりというかもはやちょっとした辞典ぐらいの厚みじゃないか?
取り出したしおりを見てそう考えいると、シーラが表紙をめくり確認すると中を見て固まってしまった。
「ど、どうした?」
「いや、これをみて」
そう言われ中身をみてみると、中には目次と共に俺やシーラやメリアさん、果てはドルメードさんやギルドマスターが可愛らしくデフォルメされたキャラクターが描いてあった。
「お、おぅ。けど凄いな。細かいところまでちゃんと書いてあるし、肝心の中身も解説つきで書いてあるから読みやすいな。街の特徴や魔物種類、注意点とかもご丁寧に絵で解説してるから旅の知識に困ることは無さそうだな。ていうかギルドマスターって多才なんだな」
描いてある絵を見ながらぼやく。
これって下手したら絵だけで食っていけるんじゃないかと思うレベルだぞ。
「私、生まれてから長い間、おじさんのこと知ってたけどこんなこともできるなんて初めて知ったよ」
肩を落としながらシーラがため息を吐く。
まぁ、知り合いのまさかの一面とか見るとは思ってなかったからショックは倍だろうな。
「ん?そういえばブラシってなんだ?髪用のブラシのことなのか?」
メモに書いてあったなかで実は気になってたものをシーラに聞いてみる。
「うん。あとは尻尾用のブラシなんだけど家で見つからないと思ったらおじさんの家においてあったんだね。耳と尻尾は毛質が違うから別のブラシを使うようにしてるの」
鞄の中からブラシを取り出しシーラに渡すと嬉しそうにしていて、尻尾の方を見てみるパタパタ動いていた。
確かにシーラの髪はサラサラだけど、尻尾は動物のようなふわふわした毛並みをしてる。
「懐かしいなぁ。昔、お母さんやおじさんに髪を梳かしてもらったり、尻尾をブラッシングして貰ったこともあったから凄く懐かしい。旅が終わったらおじさんにしてもらおうかな?」
「なんなら今からブラッシングしようか?」
俺の言葉にシーラが固まってしまった。
俺って犬派だし、シーラの尻尾の毛並みって良さそうで触ってみたいぐらいだ。
あー、けど犬って確かに尻尾の触られるのいやがるんだっけ?
シーラは犬じゃなくて狼だけど。
「嫌なら断ってもらっても良いけど……」
「う、ううん。いいけど……痛くしない?」
「しないしない。もし痛かったら言ってくれればすぐ止めるから」
それを聞くとシーラが俺にブラシを渡して、俺側のベッドに来て隣に座り、背中を俺に見せるように尻尾を差し出してきた。
「恥ずかしいから少しだけだから……ね?」
恥ずかしがるシーラの姿についドキッとした。
なんかいけないことしてる気分になるんだけど。
気を取り直して、尻尾に触れてみる。
思った以上にボリュームがあってもふもふしていて手触りも良かった。
少し握ってみると毛のなかに芯のようなものがある。
「ひゃう!?に、握っちゃダメ!」
身体をびくっとさせシーラが少し震えながらこちらを振り向き言ってくる。
その姿になんというか嗜虐心に駆られそうになる。
そういえば犬の尻尾って結構神経とかが沢山通っていてるから反応が過敏になるんだったっけ?
「ご、ごめん。次は気を付けるよ」
そういって今度は真面目にブラッシングをする。
優しく髪を梳かすようにブラッシングをすると、シーラも気持ちが良かったのか、気持ち良さそうな声を上げている。
それに気付いたのか恥ずかしがって声を押さえるが、その声が何故か艶やかな感じに聞こえるのは気のせいだろうか。
童貞にその声は耳に毒なので勘弁していただきたい。
その後、俺達は悶々とした気持ちのままブラッシングを終わらせ、お互いに無言で荷物を整頓をし、寝ることにした。
次の日の朝、お互いに少し気まずい空気になったが、地図を使っての街の場所とか他の色々な事を話している間に気にならなくなってきたのか気づいた頃にはお互いに話せるようになっていた。
ちなみにどうやら俺のブラッシングが気に入ったらしく、グリシナに着くまでの間、2人1部屋になった時はブラッシングすることをシーラ本人から頼まれた。
その度に俺は悶々とするはめになったのは言うまでもない。




