森の白狼編~狼さんとの旅立ち~
次回は別人視点で行きます
シーラさんの問題である復讐は無事に完遂できた。
けどそれは俺がこの町に残る必要がなくなったことでもある。
俺はあの後、気を失ってしまったがトッティさんがギルドに行って報告し、ギルドマスターが後処理をしてくれたそうだ。
魔族との戦いから1週間、俺はシーラさんと共にギルドマスターの元で事情聴取という名の事後処理の手伝いを行っている。
まぁ、手伝いと言っても機密の関係もあるのでそれには関係ないところの整理等が全般である。
魔族から出た結界からのすり抜けがあるとわかった以上、国に報告し対策する必要性があるからだ。
ただ今回の事をそのまま報告すれば、私兵を欲しがっている貴族が俺やシーラさんを無理矢理手込めにしようとする可能性があるので、それを防ぐ為にギルドマスターがアラクトの領主様と共謀してナラ村には俺達のしたことに箝口令を行い、報告書には謎の旅人がぶらりとやってきて魔族を倒したという風に改竄している。
どうやら領主様は昔ギルドマスターに家庭教師を頼んでいたらしく年を重ね領主になった今でもギルドマスターに頭が上がらないそうだ。
一方、ナラ村ではあれからどうなったかというとまず自分の命惜しさに魔族に関する情報を黙認し、多数の命を無為に犠牲にさせ、またこれからより多くの命を奪いかねない状況を作り出した罪によりナラ村の村長は反逆罪と村長としての資格を剥奪され、王都に連れていかれから情報を引き出した後で処刑になるらしい。
正直、これは魔族に目を付けられた時点で運がなかったのだろう。
やってきたことは許せないがそれに関しては同情している。
また村長の家族はその事は知らなかったが、裏で横領や盗賊達の接点があることが分かり、今調査を行っているがおそらく犯罪奴隷として鉱山で働かされるのは間違いないだろう。
そして、その村長の後釜としてトッティさんが村長職に就いた。
あの人なら村人からの信頼も厚そうだしなんとかやっていけそうだと思う。
そんなトッティさんとは明日の昼頃にシーラさん、ギルドマスターと共ナラ村に行く予定になっている。
事情聴取というのは建前で実質は今までの事の謝罪とこれからのナラ村とシーラさんはとの事を決める為である。
ついでに言えば俺とシーラさんのギルドランクが上がった。
魔族を倒せる奴が下位ランクなのもおかしいといって2人共Dランクになった。
勿論、対外的には理由は言えないため、別の依頼をこなしたように報告している。
「シーラ君、悪いのですがメリア君にこの書類を届けてもらえますか?多分受付にいると思うので急がずゆっくりいってきてくださいね」
シーラさんはギルドマスターから書類を受けとると部屋を出ていく。
「さて、レンリ君。君はあとどれくらいここにいれるのですか?この事後処理が終われば出ていくつもりなのでしょ?」
いきなりギルドマスターが核心を突いてくる。
「えぇ、この件がかたが付けばこの街を出るつもりです。この街はいい人が多いから名残惜しいですけどね」
こんな見ず知らずの俺をこんなに助けてくれるなんて本当にいい人だ。
感謝しきれないくらいだ。
「よければ残ってもらってもいいんですよ。私としても優秀な人材は手元にもおいておきたいですし、それに貴方がいなくなるとあの子が悲しみますから」
まぁ、まさか魔族討伐までやっちゃったしな。
でもまぁ、間接的とはいえ人殺しに加担してしまった。
なのに不思議なことによく聞く罪悪感で押し潰されそうな事はなかった。
それは俺がこの世界に順応してきているのか、それともまだ人殺し実感を得てないからなのかはわからない。
現代日本人の俺には人殺しに関して忌諱感がある。
だからこそ俺はシーラさんに殺しをさせたくなかった。
だがその結果がこれだ。
この世界で生きていく以上俺はこれに慣れていくしかないのか……。
シーラさんのことは俺も仲良くなれたのでたんで別れるのは正直淋しい。
出来れば旅について来てほしいと思うけど彼女にはこの街の人達がいて、復讐も終えてもう平穏過ごすことができる。
そんなシーラさんを無理に連れ出すことなんてできない。
「そういってもらえるのは嬉しいですが、せっかく異世界に転生したんです。出来れば世界を旅して色々なものを見てみたいんです。シーラさんには悪いですが前から決めていたので」
「……ふぅ。決意は固いようですね」
ギルドマスターがしばらく俺は見たあと軽くため息をつく。
「そこまで言うなら止めませんよ。ですがもしあの子が貴方に付いていきたいと言ったら連れていってあげてください」
「なっ!?」
突然の言葉に驚きを隠せなかった。
あの親バカといっても過言ではないギルドマスターが俺とシーラさんの旅を許すなんて思ってなかったからだ。
「あの子は両親を亡くしてから私達にも心を閉ざすようになりました。きっと私達に甘えてしまえば自分の復讐心が薄れてしまうのを危惧したのでしょう。だから昔からの知り合いだからこそ私達は遠ざけられたのです。それに私達には立場と言うしがらみがある為表立って手伝うことが出来なかったし、彼女の安全を考えると手伝うわけにはいかなかった。しかし、貴方は違う。こちらの世界に飛ばされた貴方はそんなしがらみがなくシーラ君の閉ざされた心を開いてくれた。最近のあの子は昔のように明るくなってくれて私は嬉しいのです。改めてお礼を言わせてください。レンリ君。本当にありがとうございます」
昔を思い出すように語り、頭を下げてお礼を言われた。
「あ、頭をあげてください。俺は自分がしたいと思ったことをしただけなんですから」
「いえ、それでも今回貴方のおかげでシーラ君の命が奪われることはありませんでしたし、魔族が魔大陸から出てきているという情報も得ることができました。これでお礼を言わなければギルドマスターを名乗ることができませんよ」
頭をあげ、柔らかな笑みを浮かべギルドマスターがこちらを見る。
「まぁ、確かに可愛い娘のようなシーラ君を男と2人旅させるなんて親代わりとしては凄く、凄く心配ですが、貴方なら任せても大丈夫でしょう。だからといってもし変なことをしてみなさい。全身氷漬けにして湖に沈めますよ?」
信用してくれるようにいっているが今度は目が笑ってない。
目からハイライトが消えている。
マジで怖いんだけど!
「わ、わかってます。俺なんかがシーラさんに好かれているわけないでしょう!だから落ち着いて!」
「えぇ、落ち着いてますよ。はぁ、気づいてないんでしょうかね……」
後半なんて言っているが分からなかったが、何故か呆れるようにため息をつかれた。
「ともかく、貴方が迷惑でなければあの子を連れていってあげてください。今までこの街に縛り付けてしまった分、外の世界を見てきてもらいたいのです」
「……わかりました。もしシーラさんがそういったら連れていきます」
「ありがとうございます。その時はよろしくお願いします」
するとタイミングよくシーラさんが扉を開けて入ってきた。
「おじさん。メリアさんに書類を渡してきました。他に仕事ありますか?」
「あぁ、いえ、ありがとうございます。今日は以上で終わりです。明日は馬車でナラ村に向かいますから北門で待っていてください」
急なシーラさんの登場に驚きつつ、すぐに冷静さを取り戻したギルドマスターはすぐさま対応する。
なんと切り替えが早いことだ。
シーラさんもそう言われ一瞬キョトンとした顔になったがすぐに元に戻り、俺に帰るよう促して来たのでそのまま帰ることにした。
帰り道、アラクトを出て森の中に入るとまた何体かのゴブリンや他の魔物が出てくるので一蹴する。
「あ、あの、レンリさん!」
魔物を倒した後、魔物から魔石を取り出していると後ろからシーラさんに声をかけられた。
「どうしましたか?」
「えと、明日で今回の件の事後処理が終わりますが、レンリさんは出て行くのですか?」
「……えぇ、前から決めていましたから」
「そう……ですか」
シーラさんが目に見えて落ち込んでいる。
そんな風にされるとこちらも気まずくなる。
そんな気まずい雰囲気の中にシーラさんが俺の目を見て近寄って来る。
「レンリさん、よければ私を連れていってくれませんか?」
一瞬なんのことかわからなかったが、ギルドマスターの言う通りにシーラさんが俺の旅に付いてきたいと言ってきた。
「私なんてまだまだ弱くて役に立たないと思いますけど、何でもしますから私を連れていってください!」
シーラさんが深く頭を下げてお願いしてくる。
「俺には後ろ楯も知り合いもいませんからきっと厳しい旅になると思います。シーラさんはそれに耐えられますか?」
続けるようにそのまま言葉を繋ぐ。
「それにギルドマスターやドルメードさん達はどうするんですか?きっとあの人達はシーラさんに残ってほしいと思いますよ」
「うっ、確かにそうかもしれません。けど付いていきたいんです!」
一瞬、言葉に詰まるもなお引き下がらない。
正直、意地悪な言い方をしている自覚はある。
彼女がついていきたいのもわかっているが、これからの事を考えると簡単な気持ちで付いて来られてのは困るし、何より俺のことでシーラさんに迷惑が掛かってしまうことになってしまうのだ。
その覚悟があるか俺は知りたい。
「シーラさんは何故付いていきたいんですか?別に俺でなくても強い人は何人もいますし、シーラさんの実力なら1人でもやっていけると思いますよ」
「レンリさんは私が強いと言ってくれますが私は弱いです。だからもっと強くなりたいんです。それに旅に出ることは私の昔からの夢でもありました。復讐を言い訳に出ることは出来ませんでしたが、昔にお父さん達やおじさんから聞いた旅の話を聞いてずっと旅に出たいと思ってたんです。それに昔、男の人達に騙されて色々されそうになってレンリさんはそんなことしないと信じれるからお願いしたいんですけど、やっぱり迷惑でしょうか?」
近くに来ることで見上げるような姿勢になったシーラさんが俺の胸に手を置いて目を潤ませてこちらを見てくる。
うぅ、美少女の上目使いは反則だろ。
「め、迷惑じゃないですよ。ただなんでそこまで信じてくれるんですか?俺だって男です。もしなにかあれば無理矢理手込めにしようとする可能性もあるんですよ?」
「そっちなら多分大丈夫です。だってレンリさんは今日まで私に手を出さなかったじゃないですか」
それは単純にヘタレなだけなんだけどな。
まぁ、信用してもらえてるようだし良しとしよう。
「な、なるほど。じゃあ旅に出ることに後悔はないんですね?」
「はい!」
元気よく返事をするシーラさんを見て、もうこれは諦めるしかないようだ。
「ふぅ、わかりました。元々ギルドマスターに言われてシーラさんが付いていきたいと言ったら連れていってくれと言われてますしね。試すような事をしてすいませんでした」
さすが意地悪が過ぎたので頭を下げて謝ることにした。
「え!?あ、あのおじさんがそんなこと言ってたんですか!?あと気にしてませんから頭をあげてください!」
そんなやり取りをしつつ歩いていると家に着いた。
「レンリさん、こっちに来てもらっていいですか?」
シーラさんに手を引かれて家の裏に回ると2つの墓が作られており花が添えられていた。
多分、シーラさんの両親のものだろう。
「お父さん達のお墓です。腕しか入ってはいませんがそれでも作らなきゃって思って作ったんです。今日はレンリさんと旅に出ることの報告をしようと思って」
そうするとシーラさんはしゃがみ祈るような格好で目を閉じた。
俺も慌てて見よう見まねで祈るような格好で祈る。
これからの旅はきっと大変ことも多いはずだ。
目の前の少女を絶対に守っていこうと墓前に誓った。
翌日、朝早くからアラクトの北門に着くとそこそこ高そうな馬車が止まっており、御者とギルドマスターが話していた。
なんか見覚えがあると思ったら御者の人は前のあったベレスター商会の人のようだ。
どうやらいち早く来ており俺たちを待っていたようだった。
そのあと俺とシーラさんはギルドマスターと合流したあと馬車に乗り込んで出発する。
普段は森の中を突っ切ってショートカットしていたが、はじめての馬車はゆっくりでのどかなものだった。
ただ振動でお尻が痛い。
慣れも必要だと思うが、ほっとけば腰痛になりそうだな。
そう考えているとシーラさんが昨日の事を報告し始めた。
「なるほど。シーラ君がそう決めたのなら私は止めませんよ。私が止めたところでいつか出ていかれる可能性がありましたし、今回はそれが早まっただけです。それにどうせ出ていかれるなら信頼出来る人物に同行してもらうのが一番ですからね」
ギルドマスターは前もって考えていたであろう事をすらすら言っていく。
本当なら凄く反対したいんだろうがここまで表情に出さないのは凄いな。
「もう一度言っておきますけど、もしシーラ君に変なことをしてら氷漬けですからね?」
また目が笑ってない。
マジで怖いわ。
「おじさん!?」
そんな風な会話をしている内にナラ村に着いたようだ。
朝早くにアラクトから出たおかげか昼前に着くことが出来た。
あれからの村の姿は魔族が作り上げた土壁が残っている状態だ。
どうやらせっかく防壁代りが出来たので出入口の部分を除き、そのまま再利用することになったらしい。
そんな村の入り口を見てみるとなにやら人だかりができている。
よく見るとトッティさん達が出迎えに来てくれたようだった。
「あっ、お兄ちゃんとお姉ちゃん!」
サシャちゃんはこちらに気づくと走って、俺に飛びついてきた。
その様子を見て周りの空気も和んでいた。
「よっ、坊主に嬢ちゃん!よく来たな……それにアラクトのギルドマスター殿、今日はわざわざお越しいただき感謝する」
俺とシーラさんにフレンドリーに話し掛けたあと、武骨ながらもトッティさんはギルドマスターに頭を下げ、挨拶をする。
「そんな固くならずに普段通りに話してください。私はあくまでこの2人のおまけのようなものですし、あまりかしこまれても肩が凝っちゃいますからね」
柔らかに笑みを見せて、ギルドマスターはトッティさんの緊張を解いた。
「そ、そうか?俺はあまり敬語が得意じゃなくてな。村長職をやろうとするとこれから覚えるのが大変なんだよなぁ」
軽くため息をつきながら、トッティさんは肩をすかした。
「で、今回の件なんだが……今まで騙されていたとはいえ、後ろにいるこの村の連中が嬢ちゃんに迷惑をかけちまった。うちの娘も助けてもらったのにそれに対してあんな仕打ちしちまって本当にすまなかった」
「「「「「すいませんでした!!」」」」」
トッティさんが頭を下げるのと同時に、後ろにいた他の村人も頭を下げてきた。
「え、えと、騙されてたから仕方ないですよ。気にしないでください!」
急なことで驚きながらシーラさんが返事をすると、後ろから見たことのある男が前に出てきた。
確か魔族が留守中に門番をやっていたナアハさんだ。
「あ、あれほどの事をされたのに、なんて優しい人なんだ!それによく見るとすごい美人だし、お、俺と付き合ってください!!」
ナアハさんがシーラさんの目の前に立ち、彼女の手を握り締めながら周りの空気を読まず告白した。
「「「「「はぁっ!?」」」」」
突然のナアハさんの告白に俺を含めたギルドマスターや村人達は驚きのあまり変な声を出してしまった。
いくらなんでも急すぎるでしょ。
この状況を目の前で見ていたギルドマスターの方を見ると背筋な冷たいものが走った。
微笑みは崩してはいないが、溢れ出る魔力が怒りで垂れ流しになっており、よく見るとギルドマスターの足元の地面が凍りつき始めていた。
「どうどう、落ち着いてください!魔力が垂れ流しになってますよ!」
「落ち着いてますよ。ただあまり節操がないなと思いまして」
いや、それなら魔力がこんなに駄々漏れになって垂れ流しになるはずないでしょ!
これが漫画ならきっとギルドマスターの顔に怒りマークがついているだろう。
そんなギルドマスターを慌てて宥める。
シーラさんの方は不意の告白に状況が理解できていなく、顔を赤くして、あうあう言っていた。
「なにしてんだ!このバカ野郎が!!」
トッティさんの拳がナアハさんの頭に落ちた。
「痛っっ!!なにするんだよ!?」
「少しは空気を読め!この大バカ野郎が!!口説くなら別の場所で別のやつにやれ!ほらギルドマスターの方を見てみろ!」
「へ?ひ、ひぃぃ」
ナアハさんがギルドマスターを見て情けない悲鳴をあげ、腰を抜かし地べたに座る。
理由はギルドマスターの中心に展開していた地面の凍結がさっきよりも広くなっており、本人を中心に凍えるような魔力の塊が渦巻いてるからだ。
「そこの君、面識のない女性にいきなり手を握り交際を迫るというのはいささか節操がないなと思いますよ」
あくまで笑顔を崩さないが、オーラでも出してるのかってくらいの威圧感で周りが怯えている。
「落ち着いてくださいって!周り怯えてますから!」
「そ、そうですよ!お、落ち着いてくださいってばぁ!」
シーラさんもこっちに来て説得を手伝ってくれた。
多分、俺が言うよりも効果的なはずだ。
そして俺とシーラさんの必死な説得により、ギルドマスターの怒りを収めることができた。
周りは怯えたままだがな。
「あ、あの」
シーラさんがナアハさんに向かって話し掛ける。
「告白してくれてありがとうございました。けど私近い内にレンリさんと一緒に旅に出るつもりなんです。だから申し訳ありませんがお付き合いすることができません。それにおじさんが言うみたいに初対面でいきなり付き合ってほしいと言われてちょっと……」
シーラさんが俺の方をチラチラ見ながら言う。
その様子を見ていたショックを受けて放心状態になっているナアハさんは他の村人に連れていかれて行った。
その姿はまるで売られていく子牛のように見えて仕方なかった。
「はぁ、うちのバカすまなかった。嬢ちゃんににはまた迷惑かけちまったな……すまん」
「い、いえ。大丈夫です。だから頭を上げてください」
頭を下げるトッティさんをシーラさんが慌てて頭を上げさせる。
「なぁ、坊主。ギルドマスターと嬢ちゃんはどんな関係なんだ?これは一介の冒険者と責任者の関係じゃないだろう?」
「えぇと、ギルドマスターにとってシーラさんは娘のようなもので変な虫が付かないようにって警戒してるんじゃないかと思います」
「な、なるほどな。今度からあいつに気を付けさせるわ。それにしても嬢ちゃん達出ていくのか……贖罪としてなにかをしてやりたかったんだがなー」
「といって私としては特にして欲しいことは無いんですが……レンリさんはなにか良い案とかありますか?」
少し考えた後、俺の方を見て聞いてくる。
「うーん、それならばシーラさんの家の管理をしてもらえばいいんじゃないですか?旅に出た後管理する人がいなければ家は一気に古びちゃいますからね」
「なるほど。それなら週一で私とシーラ君の家の掃除を手伝ってもらいましょう。道中の魔物なら私が排除しますし、普段あれだけ働いてるんですから週一の休みを貰っても問題はないですしね!」
俺の案にギルドマスターがノリノリで乗ってくれた。
普段書類の山とあんだけ戦ってるんだ。
ギルドマスターには良い気分転換になりそうだ。
「そ、そんなもんでいいのか?それで良いなら交代で掃除に出そう。それで良いか?」
そう言われシーラさんが頷くと足元から声が聞こえた。
「お姉ちゃん達もう会えないの?」
俺の足元にいたサシャちゃんが泣きそうな声で聞いてくる。
「ううん。少しの間旅に出るだけだからまた会えるよ」
「うん……」
頭を撫でながら諭すように言うとなんとかわかってくれた。
「そうだ。帰ってくるときはお土産買って来るから楽しみにしてて」
「お土産!?わーい!」
お土産と聞き、無邪気に喜ぶサシャちゃんの姿は愛らしく、俺も含めてみんな和んだ。
凄く癒されるなぁ。
その後、村長宅に行ってこれからの事をいくつか決めた後ナラ村をあとにした。
内容としては、定期的に村の状況を領主に報告を行うこととたまに監査に来るがそれを容認すること等だ。
その後、ナラ村から再び馬車に乗り、アラクトに到着する頃にはすっかり日も沈んでいた。
門の前で商人さんと別れた後家に帰ろうとしたところ、ギルドマスターに声を掛けられた。
「レンリ君、シーラ君、いつ旅立つのかは決まってるんですか?」
「そうですね……ナラ村の件も片付きましたし、あとは旅に必要な荷物の準備だけなので早ければ2日後の朝にはグリシナ方面に出るつもりです」
「なるほど、じゃあその日に南門で待っててください。みんな見送りをしたい人もいるでしょうからね。それじゃ帰り道気を付けてくださいね」
そう言うとギルドマスターは門をくぐりアラクトの中に入っていった。
俺達どういう事かわからず、とりあえず家に戻ることにした。
それからは1日掛けて旅支度をする。
保存食の買い出しや武器のメンテナンスをするための道具、その他の旅の中に必要な荷物を鞄に詰める。
そして旅立つ当日、南門前に行くとギルドマスター、ドルメードさん、メリアさん、トッティさんとサシャちゃんがいた。
「ようやくきたか!」
「お姉ちゃん!お兄ちゃん!」
「ガハハ、あの小さかった嬢ちゃんが男と旅立つ日がきたのか。年を取ったもんだ。なぁ、ランティス」
「全くです。シーラ君、もし変なことされたら帰ってきなさい。私がレンリ君をしま……痛っ!」
「マスター!不吉なこと言わないでください!せっかくの旅立ちなんですからちゃんと見送ってあげてくださいよ」
一人一人が忙しなく話始めるので俺達は付いていけず固まってしまった。
「まぁ、なんだ。今回儂達は見送りついでに餞別を渡しに来たんだ。儂からはこれだ」
そういうとドルメードさんがシーラさんに1振りの剣と俺に鎧蟻らしき素材を使った脛当を渡してくれた。
「嬢ちゃんの剣は大分傷んでたからな。餞別に新しい剣をプレゼントだ。軽くて丈夫なグランライト鉱石を使ったからだいぶ使い易いはずだぞ!坊主のは前に欲しがってた脛の防具だな。知り合いに頼んで格安で売ってもらった。動きを阻害しない作りだからこれなら坊主の要求通りな筈だ!」
これは嬉しいプレゼントだ。
武器、防具がただで手に入るなんて、ドルメードさんには感謝感激あめあられだな!
「あとはヴァルトネーレ王国に行くなら王都の儂の弟の店に行け。腕は俺よりすげぇからな。この手紙を見せれば作ってくれるだろう」
そう言うと手紙をこちらに渡してきた。
「「あ、ありがとうございます!」」
ドルメードさんにお礼を言うと今度はメリアさんがシーラさんになにか袋を渡して説明している。
説明を聞いた後、急にシーラさんが顔を赤くして慌て出す。
いったい何を渡したんだろう?
「次は俺だな。村の連中から謝罪の気持ちを込めてだ。路銀の足しにでもしてくれ」
「サシャはこれ!」
トッティさんのお金に関しては断ろうと思ったが、ギルドマスターやドルメードさんに言われ素直に受けとるようにした。
サシャちゃんが俺とシーラさんを模した布と綿で作られた人形を渡してくる。
手作り感溢れる可愛らしいものだった。
「お母さんと一緒に作ったの!サシャも手伝ったの!」
「確かに坊主がうちに来てから来て坊主の人形を作って、昨日から嬢ちゃんの分も作ってたな。綿詰めるのも手伝ってたし、思った以上に良くできてるな」
「えへへへ」
サシャちゃんはトッティさんに頭を撫でられ喜んでいる。
確かに縫い目自体はサシャちゃんがやったように思えない縫い方だし、カリタさんにもお礼を言わないといけないな。
「ありがとう。大事にするね。トッティさん、カリタさんにもありがとうございますと伝えておいてもらえますか?」
「私もです!」
「おう!それぐらい任しておけ!」
トッティさんも快く返事してくれたお陰で、後顧の憂いなく出発出来そうだ。
出ていく前に最後の挨拶をしようとすると、ドルメードさんに止められた。
「すまんすまん。ひとつ忘れ物があった。ランティスが立場、上一介の冒険者に渡すことができないから儂が渡したていでこれ渡すぞ」
ドルメードさんから渡されたのはウエストポーチのようなものだった。
「これはランティスが昔、ヴァルトネーレ王国にあるダンジョン都市のダンジョンで見つけた魔法の鞄で空間拡張の魔法が掛かっていてな。試しに今貰った荷物入れてみな」
言われるまま受け取った荷物を鞄に近付けると吸い込まれるように収納された。
「「おぉ!」」
これは凄い!
これなら旅の荷物の量や魔物の部位を持ち帰る時の心配はなくなるだろう。
「取り出すときは取り出したいものを頭に浮かべて掴めば取り出せるようになっている。これが中に入ってる奴のリストを書いたメモだ。時間があるときに確認しておいてくれ。ランティス、お前からもなにかないのか?」
そう言われて、今まで黙っていたギルドマスターが口を開いた。
「そうですね。私から言えるのはきっと旅をしている間大変なこともありますし、つらいことだってあるでしょう。ですが、それ以上に新しい出会いや素晴らしいこともあります。だから旅を楽しみなさい」
そういいギルドマスターはシーラさんの頭を撫でる。
「レンリ君、シーラ君を頼みましたよ」
こちらを見て頭を下げてくる。
「はい。全力で守ります」
預けられた以上守るのは当然だ。
そういった後、シーラさんの方を見ると顔を赤くしている。
そんな変なこと言ったつもりはないのだが。
「わかりました。なにかあったら帰ってきなさい。歓迎しますよ。あぁ、あとこれを渡しておきましょう。グリシナの領主への手紙です。着いたら渡してください。先方にはもう連絡してあるので」
頭を上げたギルドマスターは嬉しそう頬笑み、俺は手紙を受け取った。
そして、俺達は皆に見送られながらアラクトを出た。
アラクトから出てしばらく歩いているとシーラさんが俺に話しかけてくる。
「あの、レンリさん。まだまだ頼りないですけどこれからよろしくお願いします!」
シーラさんは立ち止まり頭を下げる。
「こちらこそ、いろいろと迷惑をかけてしまうかもしれませんがよろしくお願いします。あ、そうだ。シーラさん、ひとつ提案があるんですけど良いですか?」
「提案……ですか?」
首をかしげながら返事をするシーラさんに俺は続けて言葉を繋げる。
「えぇ、これから俺達は一緒に旅する仲間です。それなのにお互いに敬語なんて堅苦しいじゃないですか。シーラさんがよければ俺も敬語なしにシーラと呼びますし、シーラさんも俺の事を敬語なしにレンリって呼んで貰っても良いんですが駄目でしょうか?」
「い、いえ。駄目じゃないですけど……むしろこっちこそ良いんですか?」
「えぇ……いや、いいよ。改めてこれからよろしくな。シーラ!」
握手する為に手を出す。
「えと、こちらこそよろしくね……レンリ」
気恥ずかしそうにシーラが言いながら俺の手を握り返してくれた。
「あぁ、よろしく」
ようやく俺達の旅が始まった。
次の目的地は闘技場のある街グリシナ。
これから起こることや色々な出会いがあることに俺達は心を踊らせながら再び歩き始めた。




