森の白狼編~魔族戦決着~
俺はシーラさんと別れ、アラクトに向かって走っている。
早くギルドマスターにナラ村の事とシーラさんの事を伝える必要性があるからだ。
無理矢理休ませたが正直なにかがあればシーラさんが大人しく待っているようには思えないのである。
それに稼いだお金でシーラさんの傷を治すためのポーションを買わなければいけない。
シーラさんに聞いたところ、ゲームで出てくるようなものと同じで飲むと自然治癒力を高め、浅い傷なら瞬時に完治してしまうような品物らしい。
今回のギルドマスターからの直接依頼は普通より報酬に色がつけてもらえるのでそれを使い買おうと思う。
まぁ、あの親ばかみたいなギルドマスターなら自分が持っている分ををそのまま渡してきそうだが。
途中何度かゴブリンを含む何種類かの魔物と戦ったが、戦闘慣れしたお陰か今ではもう瞬殺出来るようになっていた。
そうこうしている内に森を抜けて、アラクトの門前に到着した。
ギルドカードを門番に見せて、中に入り一目散に冒険者ギルドに向かって急いだ。
ギルド屋内に入ると、今日は出払っている人が多いのか受付側にも酒場側にもあまり人はいなかった。
受付に行くとメリアさんがいたので、ギルドマスターに取り次いでもらえるようにお願いする。
どうやらギルドマスターも前もって話していたらしくすんなりと通されて、前に来た会議室まで連れていかれた。
会議室にはすでにギルドマスターが来ており、俺は慌てて座り調査内容を説明する。
ナラ村の事自体はある程度予測してたらしく、それにはあまり動じていなかったが、シーラさんが怪我で動けなくなったことを言うと血相を変えて席を立ち上り事情を聞いてくる。
とりあえず治療して家で安静にさせてるのを伝えると落ち着きを取り戻し、座る。
「さて、村長が怪しいのは確定的ですが裏でシーラさんを襲った男が関係している気がするんですがそれがまだ掴めなくて……そちらでなにか情報は掴んでいませんか?」
「それに関しては私も知り合いのつてを使い調べて、あくまで確定ではないですが1人だけですが怪しい人物をいることが分かりました。……入ってきてください」
ギルドマスターがドアの外に向かい声を掛けると、商人らしき格好をした小男が立っていた。
「ナラ村によく出入りしていたベレスター商会に所属しているマラタサ・マカタさんです。部下から話を聞いて少し引っ掛かってことがあったので来てもらいました」
「あの……私が出来ることなどたかが知れていると思いますが、それでもよければ……」
マラタサさんは緊張しているようで話し方もたどたどしかった。
「そんなことありませんよ。どうか知っていることを話していただけると私たちも助かります。もし私たちの知りたいことを話していただければ冒険者ギルド内での仕入れの一部をベレスター商会に委託したいと思っているんですがどうでしょう?」
「ほ、本当ですか!?話します!私で良ければなんでも!」
意外と腹黒いギルドマスターの甘言で乗せられたまま、マラタサさんは俺とギルドマスターからの質問に答える。
その結果、怪しい人物が1人挙がってきた。
門番のマイセルさんだ。
話を聞くと、彼は事件直後から少し以前とは違うことがあったらしい。
例えば声が少し高くなっていたり、以前まで横柄な態度で村人達から腫れ物扱いされていたがまるで別人に変わったように村人に対しての波風立たせないように大人しくしているらしい。
また、本人が知っているはずの情報を知らないなどあったらしい。
声に関しては本人が怪我のせいだからと言っており、態度は今までの反省、情報を知らないことには年だからと言っているそうだ。
一見怪しくないようにも思えたが、俺にとって怪しいのには変わりない。
「姿は恐らく闇魔法による幻覚か固有級スキルでごまかしているかもしれませんね」
それを聞き、俺はもう一度で村に向かうことを告げて部屋を出ようとするとギルドマスターがこちらに麻袋を投げてきた。
受け止めて中身を見ると中に入り金属で作られた小さな筒が5本ほど入っていた。
「それ必要でしょう?シーラ君に飲ませてあげなさい」
マラタサさんがいるので直接麻袋の中身がポーションであるとは言えなかったが、その心づかいに俺はギルドマスターに向けて深く頭を下げた。
その後、アラクトを出てシーラさんが待っている家に向かって走り始める。
行き道にかなり倒したお陰で帰り道はなんの問題なく帰ることが出来た。
家に到着し、中に入るとやけに静かだ。
そして、シーラさんが寝ていた部屋に入ると中には誰もおらず、机の上に書き置きがあった。
書いてある内容を見るとどうやら俺がいない間に例の男に誘い出されてしまったようだ。
「くそっ」
俺は紙を投げ捨て、ナラ村に向かって走る。
全力疾走できたで息切れしてしまったが、なんとかナラ村に着くことが出来た。
目の前で信じられないこと起きていた。
村を覆い包むかなように土の檻が取り囲んでいたのだ。
≪土魔法を習得しました≫
どうやら魔法由来のものらしい。
檻の高さは目測で3メートル程あり、普通の人間が突破できる高さではない。
また、檻の強度もそれなりにあるようで拳では壊せそうになかった。
檻の隙間から村の中が見える。
そこにはボロボロになったシーラさんと頭に一対の角を生やした紫色の髪をした男が立っている。
どうやら奴がシーラさんを襲った男であり、外見的特徴から奴が以前シーラさんから聞いた魔族だと言うことがわかった。
急いで助けにいたいが、目の前の檻が邪魔して中には入れない。
どうにかは入れないかと周囲を見回すと、檻の上部分ががら空きなのを見つけた。
魔法を使えない普通の人には無理だが魔法を覚えた今なら大丈夫そうだ。
「“水は集いて凍結し、我が踏破する道となせ”氷足跡」
檻の柵の間のいたるところに水が集まり、凍りつき簡易的な足場ができた。
あまり魔力を込めてないため強度はいささか不安だが2、3度ぐらいなら足場代わりにしても大丈夫そうだ。
ちなみに何故無詠唱でしなかったかというと、詠唱した方がイメージがしやすいのだ。
戦闘中なら自分の行使する魔法がバレてしまうため別の話だが今のような非戦闘用の魔法なら詠唱して、精度を上げる方が効率的だ。
ここ何日かで実験してみたのだがイメージの構築が明確なほど魔法の威力、精度は上昇するようでそこに魔力を加えるとより繊細で強固なものになっていくのだ。
逆に不明確であると威力、精度は下がっていくので脆く、大味な魔法しか放つことができない。
なので俺のように近接戦闘で魔法を行使する時はイメージの構築がしにくく、魔法を決め手に欠けてしまうのだ。
今回は足場作りのためだけなので詠唱した方が踏んだ瞬間に壊れてしまうことがないのでこちらにしてみた。
あと、詠唱の内容に関してもイメージの構築を強固にするためのもので特に決まったものではないので人によって詠唱がまちまちだったりするとギルドマスターが言っていた。
だからこの足場も目的のものに合わせて詠唱しただけなので簡易なものになってしまったのだ。
今回で言えば『水』を『集わせ』、『凍結』させ、俺が『歩く』為の『道』を『作る』事でこの魔法を構築したのだ。
そして俺は氷の足場を駆け上がり、上から柵を越えて飛び降りる。
着地の際は無詠唱の風魔法を使いクッション代わりにして、落下の衝撃を緩和させて着地した。
シーラさんの方を見ると魔族の手のひらに土が集まり、大きな土の槍を作り上げていた。
恐らく、シーラさんの頭か心臓を貫く為に作られたもののはずだ。
疾風を使い、放たれた土槍とシーラさんの間に割って入り、土槍の刃の部分の側面を叩き、方向を無理矢理変えさせた。
その甲斐あって、土槍はシーラさんの横の土を抉るように突き刺さり、その動きを止めた。
「レンリさん!」
シーラさんが安堵した様子でこちらを見てくる。
「遅くなってすいません。シーラさん、貴方を助けに来ました!」
シーラさんの元に駆け寄り、倒れないように支えながらギルドマスターからもらったポーションを飲ませる。
改めてシーラさんの姿を見ると、綺麗な白髪は土に汚れ、体の方も傷が開いていて服が所々血に染まっている。
それより気になるのは身体中についた踏まれたかのような足跡が至るところについていたのだった。
飲ませたポーションが効いたのかシーラさんの傷は塞がり始めてきた。
「レンリさん……ごめんなさい。私約束守れませんでした」
シーラさんの眼に大粒の涙が溜まる。
「今はそんなこと気にしなくていいです。何があったか教えてもらってもいいですか?」
そう言うと、シーラさんは俺がいなくなった後の事を話始めた。
やはり予想通りで、マイセルさんが犯人であり、全ての元凶だった事、村長もまた脅されていたとは言え、共犯者であり、魔族に言われたままシーラさんを殺そうとしていたそうだ。
そして、この事件を起こしてシーラさんの両親を殺した理由が魔族の自分勝手な動機から行われたと言うことを教えてもらった。
シーラさん程ではないが俺の腸も煮えくり返りそうなぐらいの怒り沸き上がる。
そんな下らない理由で幸せを奪い、その上で絶望させて殺そうとするなんてふざけている。
残された人がどれだけ悲しむか、1人になる辛さがわからないこいつを俺は許すことができない。
残りのポーションをシーラさんに渡し、飲むように伝え、立ち上り後ろを振り向くと、魔族がニヤニヤとした表情でこちらを見ている。
「あれだけの隙があったのに攻撃してこないなんてずいぶんと余裕なんだな」
「いえ、どうせなら希望を持たせた後に落とせばもっと良い絶望の表情が見えるかと思いましてねぇ。例えば助けにきた貴方があの少女の前で惨たらしく殺されるところを見せるならどうでしょう?」
「ちっ、下衆が……」
あまりの下衆具合についつい言葉が荒くなる。
「それにしてもこの前偽装した姿であった時は礼儀正しかったのに今回は口調が荒いですねぇ?」
「礼儀正しい人や目上の人には敬語は使うけど下衆な奴に品良く接する必要はないさ」
「おやおや、そうですかぁ。それは失礼しましたぁ。それでは戦いを始めましょうかぁ“土は石となりて、我が敵を打ちのめす”土石礫」
魔族の手から散弾のように大小様々な石が放たれ、こちらに向かい飛んでくる。
「“水は集い凍結し、我を守る障壁となせ”氷壁」
前方に氷壁を出現させ、飛んでくる石を防御し、役目を終えた氷壁は砕けていった。
「おやおやぁ?意外とやるようですねぇ。これならどうですかねぇ」
そういうと魔族が自分そっくりな物を数体作り出し、俺の周囲を取り囲む。
≪固有級スキル、幻影を習得しました≫
!?。
なるほど、これがこの分身の正体か。
幻影……つまり蜃気楼のようなものを強制的に発生させるスキルのようだ。
これならば自分の姿を誤認識させて村の中に入ることも出来る。
「さぁ、貴方はこれだけの私をどう対処するか見ものですねぇ」
魔族は優越感に浸るような笑みを浮かべこちらを見る。
「それだけか?」
「?……それだけとは?」
俺の返答に魔族が首を傾げている。
ご丁寧なことに作り出された幻影全ても傾げていた。
「いや、分からないならいい。それじゃあこっちからいくぞ!」
大きく踏み込み、目の前の魔族に向けて走り、俺から見て魔族の左隣の空間めがけて右ストレートを放つ。
するとそこにはなにもないはずなのに拳に何かが当たった感触がし、目の前に魔族が再び現れた。
「ぐっ!な、なぜ私の位置がぁ!?」
殴られた左頬を押さえ、周りにいた分身達は消えていく。
「相性が悪かったようだな。お前の固有級スキル、幻影は周囲に蜃気楼のようなものを見せ、誤認識させるスキルだがそれを看破するスキルがあれば無効化するのも容易いんだよ」
「な、なるほどぉ。すると貴方はその看破する事が出来るスキルを持っているようですねぇ。ならこれならどうでしょうぅ?」
魔族が右方向にてを向けているのでその先を見てみるとサシャちゃんとトッティさんが家の中から出てきた所だった。
家の窓が割れている所やトッティさんの傷を見る限り、どうやら既に交戦した後らしく、全身ボロボロになっていた。
「ククク、貴方は自分の身を守ることはできてもあれだけ離れた所にいる人を守りきることができますかねぇ?“土は集いて、穿つ砲弾となせ”土大砲」
魔族が土の塊を弾丸のように放つ。
油断した。
周りの村人は隠れいると思っていたが、このタイミングで出てくるのは予想外だった。
土の砲弾が2人に迫るなかなにかが間に入り込み、土の塊を弾いた。
「なっ!?」
なんと土の塊を弾いたのはポーションを飲んで傷を直したシーラさんだった。
そして、その手には大ぶりな鉈が握られていた。
「遅れてすいません!私も戦います!」
シーラさんは走りだし、魔族に斬りかかる。
シーラさん……治ってくれたのは嬉しいがあまり無茶しないでほしい。
それにしてもあの早い塊を弾くなんて、相当な技量だな。
おそらく疾風で知覚速度を上げて、鉈の側面で叩いたんだろう。
そういえばシーラさんよく俺との手合わせでいなし方を教えてほしいっていつも言ってたし、相当練習したんだろうな。
「くっ、舐めないでくださいよぉ!!“風は集い、あらゆるものを吹き飛ばす”衝撃風!」
魔族は魔力が込められた風を周囲に撒き散らし、俺とシーラさんを吹き飛ばした。
かなりの魔力を込められていたのかものすごい衝撃だった。
「シーラさん!大丈夫ですか!?」
シーラさんの元に駆け寄り、怪我がないか確認する。
見た感じ特に大きな怪我もないようだ。
「だ、大丈夫です。レンリさんはどうですか?」
「俺も平気です。どのくらい動けそうですか?」
「傷は治っても疲労やそれまでの痛みがいきなりまでなくなるわけではないので、正直普段の6割程度です」
どうやらポーションは傷の修復は早いが他の沈痛作用は時間が掛かるみたいだ。
「お、おのれぇ。たかが人族と獣人程度に上位者足る魔族がこけにされるなどあってはならないのですぅ!“火は集いて大火となす、そして我が敵を呑む蛇の軍勢は顕現す、さらばその火に焼かれ物言わぬ屍と成せ”火蛇の軍勢」
≪火魔法を習得しました≫
俺達を取り囲むように火で出来た夥しい数の蛇が空中に現れて、こっちに向かい迫ってくる。
「シーラさんこっちへ!」
俺はシーラさんの手を取り、こちらに引き寄せて、無詠唱で氷の防御膜を形成する。
今回は魔力を結構込めたので厚めの氷を張れたが、相手も相当な魔力が込められているようで、全て防ぐには心もとない。
さすがに火と氷では相性が悪い。
思った通り、氷の膜ではすぐ溶かされて水になってしまう……ん?
これほどの火なら水を使えば、もしかするとやれないこともないかもしれない。
「シーラさん。俺の言う通りに動いてもらっていいですか?」
「え、何か手でもあるんですか?」
簡潔にシーラさんに作戦を伝えると、驚いていたがすぐに行動に移ってくれた。
~バラメルト視点~
「ククク、まさか下等な他種族にここまでされるとは思いませんでしたが、まぁいいでしょうぅ。このまま私の可愛い蛇達に焼かれ死んでしまいなさいぃ!」
大量の魔力を込めた私の必殺の一手であるこの技は、火蛇を造りだし相手を消炭にする私の奥の手ですが、まさかこんなところで使うはめになるとは全くの予想外ですよぉ。
ですがこのエニシの男は思った以上に油断ならないので念には念を入れてをいれておきましょうぅ。
私の火蛇が襲う中、火に溶かされて水になった元氷の水が浮き上がり、火蛇達に接触し、煙のような湯気が大量に立ち上って2人を包み込むように取り巻いていますぅ。
なるほどぉ、煙で姿を隠し近づこうという魂胆ですねぇ?
しかし、煙の量が足りないようで私には2人のシルエットが丸見えなので全く問題ではありませんねぇ。
しばらくし全ての火蛇を打ち出すことで、氷の膜を溶かし、中の2人を炙りだし焼き殺す事ができましたぁ。
目の前には焼かれ、炭化した2つの死体。
復讐しようとして返り討ちにあい、なにもできずに死んでいくなんて、こうなると笑いが止まらなくなりそうですねぇ。
「ククク、もう少し遊んであげるべきでしたかねぇ?少々拍子抜けですねぇ」
「それはこっちの台詞だな」
な!?
振り返れば焼き殺したはずの男が私の目の前には現れ、私の脇腹に強烈な一撃を放ちましたぁ。
~連理視点~
流石の俺もあそこまで魔力を込めた火蛇を受けきるのは無理なので、方針を防御から回避へと切り替えることにした。
運の良いことに相手の固有級スキル幻影を入手できたおかげで、作戦は予想通りに進み、思った通りに魔族に手痛い一撃を与えることが出来た。
作戦とはまず火蛇と水を大量にぶつけて水蒸気の煙幕を作り上げて、幻影で俺達のシルエットを作り、逆に俺達は姿が見えないようにスキルを発動させながら氷の膜から抜け出して、あいつに近づき一撃を与えることだった。
初めて使うスキルだから不安だったが、どうやら問題なく使えそうだ。
この幻影のスキルは、文字通りに蜃気楼のような幻影を作り出し、相手を視覚的に惑わせるスキルだ。
あくまで視覚にだけしか作用しないので、声や触られたりすればすぐばれてしまうのが欠点なので使い所が限られてしまうである。
しかし、今回は水蒸気の煙幕内へのシルエットの表示と焼死体の幻影を作ったり、自分達の姿を隠すのに使うだけなのでそのデメリットは除外された。
魔族は痛みのあまり悶絶としている。
その隙をつき、俺は続けて攻撃を繰り出す為に一呼吸おき、動き始める。
「五行無想流、火の型“激火”」
五行無想流には火の剛拳、水の柔拳、木の投げ、土の迎撃、金の防御の型が存在し、その中でも火の型は最も激しく、あまりに攻撃的な為に普段は使わないようにしている程の型だ。
“激火”は文字通りに激しく燃え盛る火のように大量の打撃を相手に打ち込む技であるので、ある程度の技量のいる技でもある。
そして正拳突き、裏拳、掌底打ち、肘鉄、手刀、膝蹴り、回し蹴り、踵落としなど打撃技を一撃を1つずつ正確に魔族の身体に打ち込む。
流石の超近距離だった為か、魔族は防御も間に合わず一方的に蹂躙されるままだ。
「く、くそ……“土は集いて、我を守る障壁となせ”土壁!」
一瞬の隙をつき魔族は俺との間に1枚の土の壁を作り上げる。
「ククク、、距離さえとれば後はこちらのものですよぉ。あれだけの魔力を使えば人族も魔力が尽きますからねぇ!それに姿は見えませんが獣人の娘も」
ボロボロになりながらも魔族は自分の勝利を確信するかのようににやにやしている。
「いいや、お前の敗けだ」
「な、なにぃ!?……っ!?」
魔族が背後になにかを感じて振り返ると、そこには至近距離までに来ているシーラさんが鉈を構えていた。
「くっ、“風は集いて、我を……ぐはっ!」
シーラさんに向けて迎撃の魔法を使おうとしているのが見えたので、シーラさんに気を取られている内に壁の横を通り抜けて、魔族の横腹に向け
氷の砲弾と作り上げ放つ。
速度重視の為、無詠唱のほとんど魔力も込められなかったので威力に不安を感じたが、相手の詠唱を妨害するにはそれで十分だった。
「いけ!シーラさん!」
「はぁぁぁぁ!!」
俺の声に答えるかのようにシーラさんは、声を張り上げながら魔族の首に向かって横一文字に斬撃を放つ。
俺の攻撃で体制の崩れた魔族は、そのままなにも出来ずに首をはねられ、その頭部は少し離れたところまで転がった。
静寂が場を支配する。
魔族の死体を確認し、死亡を確認すると隠れていた村人が続々と現れて歓喜の声をあげる。
「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」」
シーラさんの方を見ると疲労の限界が来たのかその場にへたり込んでしまっている。
近づいて顔を見ると涙が頬をつたって流れている。
「シーラさん?どうかしたんですか?」
「あ、えと、嬉しくてつい泣いちゃったんです。やっと、やっとお父さん達の仇をとれたから……」
今まで彼女に憑いていた憑き物がとれたようにシーラさんは晴れやかな顔で涙を流していた。
その顔を見て俺も喜ばしい気持ちになった。
これでここでの俺の役目は終わりだ。
けどそれは俺がここから出ていくという事だった。




