森の白狼編~真相と狼さんの窮地~
次回からレンリ目線に戻します。
身体に走る激痛に耐えながらも急いだ甲斐があってナラ村の近くの森の入口まで着いた。
何やらおかしな匂いがする。
どうやらシアの実の皮を火の中に入れたようだ。
シアの実の皮は油分を含んでいるのでとても燃えやすく、独特な匂いを発するのが特徴だ。
獣人の鼻が効きづらくなるので、私は皮は焼かずに捨てている。
そうしていると後頭部に激痛が走り、私は気絶してしまった。
目を覚ますと私は手足を縛られ、ナラ村の中央に寝かされていた。
周りにはナラ村の村人らしき大人達が私を囲うように立っている。
どうやら後ろからこの中の誰かに後頭部を殴られたようだ。
「ようやく取っ捕まえたぞ。この疫病狼が!!」
「そうだそうだ!」
「よくも俺達の仲間を殺しやがって!」
そういい村人達は口々に色々罵倒しながら私を蹴ったり、踏んだりしてくる。
たまに傷口に当たり、あまりの痛さに声にならない声が出てくる。
私には村人達が何をいっているか理解できなかった。
私やお父さん達はなにもしていない。
ましてや殺すなんてもってのほかだ。
そんなことをしても私達になんのメリットもないのだから。
蹴られながらそう言うも誰も信じてくれず、よりいっそう暴力の激しさが増した。
ある程度私を傷つけたのを確認した後、村人達の後ろの方から大きな鉈をもった強面の大男がやって来た。
その強面の持つ大きな鉈はよく研がれており鈍い銀色に輝いて、その膂力から繰り出される一撃を喰らえば多分死ぬだろう。
「最期に言いたいことはないか?」
他の村人と違い、大男の目には怒りや憎しみの表情はなく、むしろ罪悪感を感じているような表情をしていた。
「……もし私と同い年くらいの黒髪の男の子が来たら、約束破ってごめんなさいって伝えてください」
「……そうか。わかった」
大男が鉈を振り上げ、私の首に目掛けて降り下ろそうとした瞬間、私の目の前に小さな影が立ちはだかった。
「お父さん!お姉ちゃんをいじめないで!」
後ろ姿と声から推測するに以前助けた女の子、サシャちゃんだった。
サシャちゃんに当たるすんでのところで大男が鉈を止める。
「サシャ!危ないだろう!早く家に戻れ!」
「やだ!このお姉ちゃんはレンリお兄ちゃんと一緒にサシャのこと助けてくれたもん!だから今度はサシャが守るの!」
サシャちゃんは小さな身体を震わせながらも父親に立ち向かい、言い放った。
そのまま二人は1歩もひかずに、お互いを見合う。
「……はぁ、わかった。みんな!一度こいつに話を聞いてみる。俺としても確認したいことがあるんだ。それでも構わないな?」
サシャちゃんのお父さんは声を張り上げて、周囲の人に呼び掛ける。
周りがざわめき反論もあがるが、彼の迫力に押されてみんな押し黙ってしまう。
それを見たあとサシャちゃんのお父さんは、私を縛り付けていた縄をほどき、村人を殺したこと、なぜ今頃村に来たのかを聞いてくる。
私はあのときの状況を包み隠さず教え、脅迫状が来てこの村に来たことを伝えた。
すると彼は納得したように頷く。
「みんな聞いてくれ!5年前のこの村の同胞を殺したのはこの子を陥れようとした別人の仕業かもしれん!」
周りによく聞こえるように大声で彼が叫ぶ。
「はぁ?なにをいってんだトッティさん。マイセルさんも白い獣人に襲われたって言ってだろ?その娘はその特徴通りじゃねぇか」
村の若い男が私を指差し、反論する。
「いや、考えてみろ。この子は見る限りまだ10代半ば位だ。5年前ならもっと幼い。いくら獣人といえど10歳前後の子に大人の男数人が負けると思うか?」
「だ、だかよ……ならそいつの親ならどうだ!?大人の2人がいれば出来るだろう!」
「それもありえん。同胞達が殺された時には既にこの子の両親は殺されている。死んでいるのはその家族であるこの子が確認して、交遊のあるアラクトの冒険者ギルドのギルドマスターにも確認をとっているそうだ。ならどうすれば死んだはずのものが村人を殺すことが出来るか……可能性としてはアンデットなるかまたは誰かが前もって親の方を殺しその後、村の者を殺して罪を擦り付けたってことだ。前者はそんな短時間でアンデットなるなんてあり得ないから、必然的に後者だな」
サシャちゃんのお父さんは出てくる反論を全て潰していく。
けどアンデットになるまでのおおよその期間なんて冒険者じゃなければ知らないはずなのに。
「お父さんね。昔、冒険者だったんだって。足に怪我してから村の中で働いてるの」
サシャちゃんが私にそっと耳打ちをしてくる。
なるほど、なら知っているはずだ。
「なら誰がやったんだよ!」
今度はさっきの若い男とは別に門番のような聞いてくる。
「そうだな。なぁ、マイセルさん。あんたどうやって死んだ人が村人を殺したって分かるんだ?それにあの日の次の日、冒険者ギルドに依頼しに行くのを止めたのは村長だったが怪我を負わされたあんたはそれに対してなんの抗議の声をあげなかった。それが当たり前かのような振る舞いでな。それ以来俺はあんた達に違和感を感じるようになった。この子の話を聞いてやっと納得がいった。動機はわかんねぇがあんたらはわざとこうなるように仕組んだんだな?ちがうか?村長、マイセルさん」
「ぐっ、トッティ……貴様」
後方の方にいた初老の老人が苦々しい表情でこちらを睨み付けてくる。
「その反応からすると当たりのようだな。さぁ答えてもらうぞ。なんで同じ村の同胞を殺してまでこの子を貶めようとした!?」
「……ククク」
どこかから笑い声が聞こえる。
どうやらあの門番のような人からて来てくるようだ。
「何がおかしい!?」
叫ぶも門番の男は笑い続ける。
「やれやれ、折角5年も掛けてきた計画も壊されてしまいましたかぁ。やはり貴方は早いうちに消しておくべきでしたねぇ」
次の瞬間、男の姿が変わった。
先程のような人族の中年の姿ではなく、頭に一対の角を生やした紫色の髪をした青年が貴族が着るような服を着て立っていた。
「ま、魔族なのか?」
「えぇ、魔族のバラメルトと言いますぅ。覚えてもらわなくても構いませんよぉ。どうせ貴方達はここで死ぬのですからぁ」
それを聞き、周囲にいた村人は蜘蛛の子を散らすかのように逃げ惑う。
「逃がしませんよぉ?“土は隆起し、覆い囲う”土檻」
地面が隆起し檻のように村全体を覆い、逃げ場を塞いでしまった。
あんな短い詠唱でこれ程大規模な魔法を使うことが出来るのは魔法に秀でたエルフか魔族ぐらいだろう。
恐ろしい程の魔力だ。
逃げ場を失った村人達は恐慌状態になり、その場でへたりこんでしまったり、泣き出す人が出てきた。
「うおおおぉ!」
そんな中、サシャちゃんのお父さんが大鉈を振り上げ、斬り掛かる。
サシャちゃんが言ってた通り足を怪我しているせいか動きは少しぎこちないないが、それでもかなりの剣速で魔族を斬りつけた。
けど私の時と同じように魔族の身体は消えてまた別のところから出てくる。
「貴方の相手は後からしてあげますから、今は眠っててくださいねぇ。“風は集いて、風宿す玉となる”風玉」
風が魔族の手のひらに集まり、私に使った火の魔法と同じにものになっていく。
そして、放たれた風の玉は物凄い勢いで飛んでいき、サシャちゃんのお父さんは鉈で受け止めるもぶつかった瞬間、凝縮された風が解放されその風圧に耐えきれず鉈は弾かれてしまい、近くの民家の中にまで吹き飛ばされた。
「お父さん!」
サシャちゃんは慌てて父親を追いかけるように民家のなかに走っていった。
「さて、邪魔者もいなくなったところでそろそろ本題を済ませますかねぇ」
魔族はこちらをニヤニヤしながらこっちに向かい歩いてくる。
「クッ、貴方の目的はなんなんですか?私と村人を対立させて何の得があるんですか?何故魔大陸に封印されている魔族がここにいるんですか!?」
「ククク、威勢がいいですねぇ。まぁどうせ死ぬのですから冥土の土産として教えてあげましょうかねぇ。まず魔族のことに関しては一定の力以下であり適正があるものなら時間を掛ければ出ることが出来るんですよぉ」
「なっ!?」
それを聞いて、私は戦慄した。
もしそれが本当ならもう既にこの魔族のようなスパイが大陸中にあると言うことになる。
そうすれば東西の大陸で争っている場合じゃなく、早急に対策をとらなくてはいけないのだ。
「次に貴方の両親と村人を殺し、貴方とこの村を対立させた理由は貴女ですよぉ」
「!?」
「あれは5年前のアラクトの町、私は同族の仲間と正体を隠して一緒に歩いていると両親と手を繋ぎ幸せそうにしている獣人の女の子がいましたぁ。この世で一番幸せだと言わんばかりの笑顔に私は一目で心奪われてしまいましたぁ。私はその時考えたのですぅ。どうすればその幸せそうな笑顔を私の大好きな憎しみや恨み、絶望に満ちた表情に変えられるかと、その結果は貴方の知る通りで、貴方の両親を殺し、私の化けていたこのマイセルという男を殺してその姿で周りにいた者達を殺し尽くしましたぁ。そして互いに繋がりを持たせないようにこの村の村長を脅し、貴方を村人達と対立させたうえで長い時間を掛けて負の感情を募らせるようにさせましたぁ。そして最後には村人の手で殺されるという互いに怨みながら絶望の末に貴方が死ぬのが私の目的はだったのですぅ。あぁ、昨日貴方に会ったときに私に突き刺さるような殺意や怒り、私好みに育っていて素敵でしたよぉ」
魔族の男は喜びに悶えるかのように自分の体を抱き締める。
けどそんなことどうでもいい。
この男は私を絶望に落として、その表情を見る為だけにお父さん達を殺したのだ。
そんなくだらない事のために私やこの村の人達の幸せは奪われ、玩具のように扱われたのだ。
腸が煮えくりかえるような怒りが私を支配する。
私は先ほど弾かれ近くに飛んできた大鉈を拾い、怪我の痛みなど無視して魔族に向かって降り下ろした。
しかし、また幻で消えていき近くに出てくる。
「しかし、貴方に冒険者ギルドのギルドマスターなどの繋がりがあるのは予想外でしたぁ。そうなると私も早々と手が出せなくなりますし、そのせいで私に対する復讐心も和らいでしまいますからねぇ。それに私が化けていたこの男が門番ということもあって私も自由に動くことができず貴方がどうなったかの情報を得ることが一切出来ませんでしたぁ。今としては貴方を諦め、村人を皆殺しにすればとっくに自由だったんですけどねぇ?」
魔族が色々と言ってくるが私は無視して迫ってくる魔族を斬り続ける。
しかし、切ったのは全て幻で私の体力だけがいたずらに消費されていくだけだった。
「しかし、運は私を見放しませんでしたぁ。3週間前と昨日来たエニシの民らしき黒髪の少年によって貴方の生存を知り、私のことを怨んでいることがわかったので昨日ようやく探しだして、接触に成功しましたぁ。さて、そろそろ休んでくださいねぇ?“土は石となりて、我が敵を打ちのめす”土石礫」
魔族の手から大小様々な大量のいしつぶてが出てきて私に向かい飛んでくる。
いくつかは避けることが出来たが体力消耗した今の状態では避け続けることが出来ず肩やお腹に直撃してしまい、後ろの方に吹き飛ばされてしまった。
「ぐっ……」
「そして、私は貴方を誘い出して村人に殺させようとしたのですが、あの男のせいでオシャカになってしまいましたがねぇ」
「それなら……お父さん達の死体はどこに……持っていったんですか?死霊使い《ネクロマンサー》でもない限り死体を必要なことなんてないはずですが……」
そう言いながら立ち上がろうとするにも足に力が入らない。
今までの無理が祟ったのか身体が言うことを聞いてくれなかった。
「あぁ、その死体ならどうやら上の方々が何やら欲しがっていたようなので同族に持って帰らせましたぁ。同族が働き者のお陰で私は長い暇を貰い、好き勝手にさせてもらえるので貴方という玩具で遊ぶことが出来ますから感謝しなくてはいないですねぇ」
魔族はこちらの神経を逆撫でするようにニヤニヤしながら質問に返答する。
「それで聞きたいことは以上ですかぁ?それでは貴方を殺し、残りの村人を殺して口封じして私は魔大陸に帰らせて貰いましょうかねぇ“土は集いて、貫く槍と成せ”土槍」
魔族の手に先程の魔法より大きな土の塊が集まりる。
しかし、今度は球体ではなく身体を貫きやすいように先端を尖らせていて槍のような形に変形していた。
あんなものが直撃すれば間違いなく死んでしまう。
逃げ出そうにも私はもう身体が動かない。
もう死を覚悟するしかないようだ。
私は今までのことを思い出す。
お父さんやお母さん、おじさんとドルメードさんやメリアさん達のお陰で私はここまで生きることが出来た。
それなのにこんな幕切れになるなら大事にしてくれたことにもっと早く恩返しするべきだったと反省する。
それにあの人にもたくさん迷惑を掛けたし、私に出来ることがあればしてあげたかった。
短い間だったけど私にとってあの人は大切な人になっていた。
強いのに優しくて、あの人の側にいるだけで幸せな気持ちになれた。
この気持ちは私には分からないけど、あの人の事を考えると胸が熱くなるのが感じた。
「出来ればもう一度でいいから会いたいな……」
魔族にも聞こえないくらいの小さな声で呟く。
私は目を閉じて、あの人の事を思い浮かべる。
出来ればもう一度会って、色々な話をしたかった。
好きなものやあの人の世界のことももっと知りたかった。
けどもう時間のようだ。
「それではさようならぁ」
放たれた土槍が風を切り、私を貫こうと飛んでくる音が聞こえる。
しかし、途中でカァーンと金属とぶつかったような音が鳴る。
目を開ければ、土槍は私の真横の土を抉り、突き刺さっており、目の前には会いたかったあの人がいた。
「レンリさん!」
「遅くなってすいません。シーラさん、貴方を助けに来ました!」




