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森の白狼編~狼さんの過去と今~

 ~シーラ目線~


 私はシーラ・ウルフィス。

 アドルディーナ大陸、南の大国リューリュス王国の辺境にある村のナラ村と商業都市アラクト都の間に隣接する森に住んでいる白狼族の獣人。

 お父さんは怒ると怖いけど強くて優しい人で、お母さんは子供の私から見ても綺麗で優しく、お父さんに負けないくらい強かった。

 たまにお父さん達に剣術を習ったりして鍛えて貰った記憶もある。

 小さな時からお父さん、お母さんと3人で仲良く暮らしていて、たまにアラクトに行ってお父さん達の元冒険者仲間だった現冒険ギルドのギルドマスターであるエルフのランティスおじさんや鍛冶師のドワーフのドルメードさんに会いに行って遊んでもらうのが大好きだった。

 おじさんは長生きしているので色々な所を旅してるから会うたびに旅の思い出を話してもらったり、手作りの甘いお菓子をいつも用意してくれた。

 まぁ、それは今でも変わらないけれども。

 ドルメードさんはお父さん達が冒険ギルドに行っている間に預けられることが多かったので仕事の合間によく遊んでもらったり、頭を撫でて貰ったことを覚えてる。

 お父さん達は同じ白狼族がいる集落から出てきて生活しているので私は祖父母がどんな人かは知らない。

 けどおじいちゃんがいたらきっとこんな風なんだろうなと思う。

 こんな幸せな時間はいつまでも続くだろうとこの時の私は信じて疑わなかった。



 けど終わりはいつも突然やって来る。

 5年前の私の11歳の誕生日。

 私はお父さん達とアラクトに行き、おじさんやドルメードさんに誕生日のお祝いをして貰った。

 おじさんが作ったたくさんの料理とドルメードさんが作ってくれた狼の頭部の形をした首飾りをくれた。

 楽しい時間を過ごし、森の中にある家に帰る為に歩いているとわき道から黒いローブを着た人が目の前に現れる。

 顔はフードを深く被っているせいで見えないが、手に持っている短剣でこちらを害する様子がみてとれた。

 お父さんは私とお母さんを下がらせて、自分も同じように抜剣する。

 お父さんは獣人ならではの筋力を使った一撃必殺の攻撃が得意だった。

 お父さんが大きく振りかぶり一撃を与えようとすると、地面が隆起しローブの男を守るように覆うように攻撃を受け止めた。

 その後も続けて何度か切りかかるもその度に土魔法で防がれる。

 

 「ライラ!こいつ思ったより手強いぞ!このままじゃシーラが巻添えを喰ってしまう。先に家に戻ってくれ!」


 お母さんはお父さんの指示に一瞬迷ったが、すぐに私を連れて家に向かって走った。

 後ろからはお父さんの声と剣がぶつかる音しかしなかった。

 しばらくして家についてから私とお母さんはお父さんを待ち続けたが、お父さんはいつまで経っても戻ってこない。


 「シーラ……私がお父さんの様子を見てくるから貴方はここにいて。もしお母さん達が戻ってこなかったらランティスおじさんの所に行きなさい」


 お母さんが私を強く抱き締める。

 小さな私にはお母さんがとても大きく感じ、とても暖かく感じた。


 「貴方を愛してるわ。シーラ。私達の大切な大切な娘……」


 お母さんは離れて短剣を2本を持って森の中に入っていった。

 今でも私は何故あの時お父さん達を止めなかったのか後悔している。

 それからいくらか時間が経ったのを確認し、お父さんが戦っていた所まで行くと信じがたい光景が広がっていた。

 辺り一面が大量の血で染まっていて、強烈な血の匂いが鼻を突く。

 さらに周りを見渡すとなにかが2つ落ちている。

 近くに行き確認してみると人の腕だった。

 その腕には見覚えのある腕輪がついていたので恐る恐る拾い上げると白狼族が着けている結婚腕輪だった。

 白狼族は結婚する際に腕輪をお互いに贈り合う風習がある。

 だからこの2本の腕がお父さんお母さんの物であるかとを私は気付いてしまった。

 すると喉にすっぱいものが込み上げ、気付けば私はお腹のものをすべて吐き出してしまう。

 体調が落ち着いてから私は急いで腕を持ち帰り、お母さんが使っていたナイフを持って持って森の入り口を目指す。

 今からならきっと仇をとれると思った。

 けど、待っていたのお父さん達や黒いローブの男でもなく、森に隣接している村であるナラ村の住人からの大量の投石だった。

 私は慌てて逃げるように家まで戻って、今まで持っていたお父さん達の腕もこのままじゃ可哀想だ。

 そう思った私は家のすぐ側の土に埋めてお墓を作る事にした。

 それから私は布団のなかに潜り、すぐに寝ようとした。

 これはきっと悪い夢。

 寝てまた目が覚めたら、お母さんが朝御飯を作ってて、お父さんが外で剣の訓練をしているはず。

 そんな事を思いつつ私は眠りについた。

 目が覚めてもお父さん達はいなく、家のすぐ側には私が作ったお墓がある。

 私は悟った。

 これは夢でもなんでもなく、お父さん達が死んだのもすべて現実だと。

 そう思うと頬に涙が流れ、止まらなくなっていた。

 泣き疲れては寝て、起きてはお父さん達の事を思い出してはまた泣いて、寝ての繰り返しで食事もする事もなく3日ほど過ごし、3日も泣き続ければ涙も枯れるのかもう涙はでなかった。

 お腹は減っているのだが、だからといっても食欲は湧かないままだった。

 いっそこのまま餓死した方が天国でお父さん達に会えるかもしれないと意識が朦朧としながら思ってじっとしているとドアが大きな音をたてて開く。


 「シーラ君!?」


 来たのはランティスおじさんだった。

 なんだか甘い香りを漂わせながら、こっちに来る。

 どうやらお菓子を作って持ってきたらしく、匂いで空腹が盛大に刺激される。

 するともう意識を保つのが限界だったのか私の意識は暗闇に落ちていった。

 目が覚めると私はベッドの上で寝ていた。

 近くにある窓から見える景色から察するに多分アラクトの街だ。

 きっとおじさんが私を家からここまで運んだんだと思う。

 特に何かするわけでもなくボーッとしていると、おじさんがいくつかの料理をお盆に乗せて入ってきた。

 美味しそうなスープの匂いがまた私を空腹を刺激する。

 私は遠慮したのだが、おじさんに無理やり食べせられ渋々食べ始めるととても優しい味がする。

 お母さんの味そっくりだった。

 そう思うとまたお父さん達を思い出し、涙が出てくる。


 「ライラ君の味に似てるでしょ?彼女に料理教えたのは私ですからね。シーラ君、ゆっくりでいいですから何があったのか教えてください」


 あの時の事を覚えてる範囲でおじさんに報告するとおじさんは私を抱き締め頭を撫でてくれた。


 「今までよく頑張りましたね。辛かったでしょう。その事はギルドで調べますから今はゆっくり休んでなさい」


 そういうと私を離して部屋を出ていく。

 それからはおじさんの家で1年間過ごして家事などを覚えて、ドルメードさんやギルド受付嬢のメリアさん達が手助けしてくれたお陰で冒険者になることが出来た。

 おじさんは反対していたけど私はお父さん達を殺した奴を見つけて仇を打つにも強くなるためにも冒険者になりたかった。

 冒険者になった私は元々生活していた家に戻り、冒険者の仕事をこなしながら家に帰ってからひたすら魔物を狩り続けた。

 辛いことだってたくさんあった。

 始めの頃は油断した所を魔物に襲われ危ない目に遭ったり、変な男達に騙されて変なことをされそうになったり、お金がなくてひもじい思いをした事もあった。

 けど何より辛かったのは1人で夜を過ごすことだった。

 あの夜から1年経ってもお父さん達を思い出しては泣き、ひとりぼっちになった寂しさを感じていた。

 アラクトに戻れば、おじさんやドルメードさん達がいるけどいつまでも甘えていられない。

 1度甘えてしまったら私の中にある復讐の炎が薄れてしまう気がしたからだ。

 だから私はアラクトに行ってもみんなと話す事をできる限りなくすようにした。

 それから更に4年が経ち、身体も大きく成長したのだが、ドルメードさんがサイズを調節出来るようにしてくれたり、まめに整備してくれるお陰で装備には苦労したことはなかった。

 家の近くで凄まじい勢いで木々の折れるような音が聞こえたので確認しに行くと人族の男の子が1人倒れていた。

 黒髪に一瞬しか見えなかったが黒い瞳をしていた所を見ると前におじさんから聞いていたエニシの国の人なのだろうか。

 男の子の落ちてきたらしい木の場所を見るとちょうど1人分の大きさの穴がぽっかりと空いている。

 このまま放っておくと魔物に食われかねないので、仕方なく家に連れていくことにした。

 家の空き部屋のベッドに寝かせて傷を止血しながら男の子の服装を改めてみるとこの辺りでは見ない格好をしている。

 所々破けているが明らかに良い生地でできているし、仕立ての状態もかなり良いものだった。

 身体も相当鍛えてるようですごい筋肉だ。

 こんなものどうやって手に入れたのか気になるので起きてから聞こうと思っていたが彼はしばらく目を覚まさなかった。

 彼を拾った次の日、傷口を覆っていた布を取ると信じられない事が起きた。

 傷が無くなっていたのだ。

 いくら浅いといえど人族がこんなに早い速度で傷が治ることはないはずはない。

 この人は一体何者なんだろうか。

 一見する限り、人族に見えるがもしかしたら魔族の仲間かお父さん達の仇の仲間かもしれない。

 おじさんから貰った結界の魔道具にしてある設定でこの結界内で私に敵意、悪意をもっているを感知できるのだが発動させるには起きてもらう必要があった。

 仕方がないので彼が起きたときに栄養がある食べ物を採ってくることにした。

 そんなこんなで彼を拾って3日後、ついに彼は目を覚ました。

 結界の反応を見る限り、どうやらこちらに敵意などは無さそうだ。

 太陽の位置を見てみるとちょうど昼時なので作りたてのスープを彼に渡すことにする。

 部屋に入ると彼は上半身を起こしこちらを見ているようでなにやら目線が耳や尻尾に向いているところを見ると獣人が珍しいようだ。

 自己紹介をしてやっと彼の名前を知ることが出来た。

 レンリさんと言うらしいが大変なことに名前以外の記憶をなくしてしまったそうだ。

 かなり高い位置から落ちてきたみたいなのでもしかしたらそれが原因かもしれない。

 少し思うところはあったがせっかく作ったスープが冷めると勿体ないので持ってきたスープをレンリさんに渡すと一瞬戸惑っていだが一口食べるとそのままがっつき始めた。

 3日もなにも食べずに寝ていたのでよほどお腹が減っていたのだろう。

 すると今度はがっつき過ぎてむせてしまっているので私は少し気が抜けるのを感じながら水を渡した。

 なんと言うか子供みたいで可愛らしいと思う。

 そろそろ結界を張り直してこないと、夜になったら魔物達が中に入ってきてしまうので私はおじさんが魔力を込めた小さな魔石を手に家の前にある結界の核に向かい、魔力を補完してまた部屋に戻った。

 ただいまと言いながら部屋に入るとレンリさんはおかえりなさいって返してくれた。

 この家に戻ってからは久しく聞いてなかった言葉だったので私にとってはとても新鮮だった。

 その後レンリさんに結界の事を話すと子供みたいに目をキラキラさせながら凄いと誉めてくれた。

 実際はおじさんのお陰で成り立っている結界なので私は特になにもしてはいないのだけど年の近い男の子に誉めて貰うことが今までなかったので少し気恥ずかしかった。

 レンリさんの身体の調子を聞いてみると足がまだ治っていないらしく、しばらく療養が必要らしい。

 こちらには害はなさそうだし、泊めても問題はないだろうと思い、滞在する間うちにいることを提案するとレンリさんはどうしてそこまでするのかを聞いてきた。

 確かに初対面の人にここまでするなんて普通はないから警戒するのも分かる。

 なんというかこの人の事はなんだか放っておけない。

 記憶がないから常識が通じるか分からないし、見た感じ人も良さそうなので誰かに騙されないか心配になる。

 いつか旅に出るかもしれないしそれまでの間なら別に問題はない。

 それに『おかえりなさい』って言われて家で誰か待っていてくれる嬉しさを思い出してしまった。


 「それにもう1人で待つのは嫌だったから」


 小さな声だったけど気付けば声に出して言っていた。

 急に恥ずかしくなって、私は適当に誤魔化して部屋から出ていった。

 廊下に出て、自室に戻るとレンリさんが人が良さそうなのもあるのかつい口が滑ってしまった事を後悔していた。

 急に部屋を出てしまったことを謝ろうと戻ってみると、部屋の静かなので覗いてみるとレンリさんはまた寝ていた。

 仕方がないので明日からはもっと気を引き締めて、口が滑らないようにしようと決意した。

 翌日、昨日のこと謝るとレンリさんは特に気にするようなこともなく許してくれた。

 身体の調子を聞くと、足以外はもう大丈夫らしいが安静が必要らしい。

 足が治ればレンリさんはここを出ていってしまう事を考えると少し寂しく感じる。

 ふとレンリさんの方を見てみると下の方を見て黙っていた。

 近付きどうしたか聞いてみるとレンリさんは顔を赤くして慌てだした。

 一瞬、風邪なのかと思って心配したがどうやら何でもないようだった。

 その後、朝御飯を渡すと昨日と同じように美味しそうに食べてくれるので、作った私としては嬉しい限りだ。

 すると今度は料理の腕を褒めてくれた。

 普段は自分用にしか作らないので、食べたことがあるのはおじさんかドルメードさんぐらいだったので褒めてくれても子や孫に対して言うお世辞のようにしか聞こえなかったが、いざ年の近い男の子に褒められると照れてしまう。

 私はつい照れ隠しにそっぽを向いてしまった。

 その後は動けず暇なのもあってかレンリさんが色々な事を聞いてくる。

 様々な人族や亜人達の事とかこの大陸の南北の大国のことや西の大陸の状況、勇者や魔王とかの話をしたり、貨幣の事や月日の事を教えるとまた小さな子供みたいに目を輝かせながら聞いてくれる。

 まるで勇者の冒険譚を聞く子供のようで可愛らしくて私と年の近い男の子のようには見えなかった。

 その後に旅するのにお金がないことを言ってたので冒険者ギルドを薦めてみる事にした。

 理由は冒険者ギルドなら色々と顔が利くし、私も手助けしやすいからだ。

 ある程度腕っぷしも必要なのだが、この前見た鍛え方なら多分問題はないだろう。

 その事をレンリさんに説明するとこの辺りに住む魔物を確認してきたので教えてあげるとなにやら納得したように頷いた。

 次に登録料の事も言ってみるとばつが悪そうな顔でこっちを見て謝ってきた。

 まぁ、レンリさんがお金を待っていないことはこの家に連れてきた時に服のなかを漁って確認しているので知っている。

 決してお金を盗もうとしたわけではなく、ボロボロになった服を縫い繕うために服の中身を確認しただけなのだからなので他意はない。

 というより元々登録料に関しては私は出すつもりだったので気にしてはいないのだがどうやらレンリさんは気になっているようだ。

 このまま私がお金を出すとレンリさんが気にしそうなのでとりあえず立て替えるという形で提案すると納得してもらえた。

 少し無理矢理だったので脅迫してしまうようになってしまったので少し後悔してしまう事になった。

 その後、しばらく談笑し食器を洗いに部屋を出る。

 改めてレンリさんと話してみると悪い人には見えないしこれならおじさんに紹介しても問題は無さそうだと思い、レンリさんは記憶を無くして大変なんだから私が支えてあげないといけないと私は思った。

 それから3日後、レンリさんの足は完全に完治したらしく、軽い運動をしても問題はないそうだ。

 せっかくなので軽く手合わせを頼むとレンリさんは少しあっけをとられた顔をしている。

 冒険者ギルドで働く以上はある程度腕っぷしが必要だし、いくら鍛えているからといって必ずしも強いというわけでもないなのでレンリさんが一体どれだけの強さを持っているか知りたい。

 レンリさんは少し悩んでから手合わせすることを決めてくれた。

 家に刃引きした鉄剣はないので昔お父さんとお母さんが手合わせする時に使っていた木剣を渡す。

 レンリさんにはお父さんが使っていた長剣サイズを私はお母さんが使っていた小剣サイズを使うようにした。

 お母さんの戦闘スタイルはお父さんのような力による一撃必殺ではなく、瞬発力を活かした連続攻撃を得意としていて私もそれに習うような戦闘スタイルになっていった。

 1つ違うところをあげるとすると、それはお母さんは双剣使いだったのに対し、私は小剣を少し長くした1本で戦うスタイルでだった。

 互いに剣を構えたのを確認し、開始と共に私は走りだし、左肩に斬りかかる。

 けどレンリさんは片足を引いて、私の攻撃を簡単に回避する。

 その後も何度も斬りかかるも全て防御するわけでもなく避けられた。

 回避する事ができるなら攻撃の隙を突き、反撃することも難しくないはずなのにレンリさんには反撃するような様子はない。

 その態度に私は少し苛立った。

 これでも何年も掛けて鍛えてきたのに、簡単に避けられ続け、反撃をしてこないレンリさんの余裕さにイライラする。

 私は一度距離を取り、奥の手である『疾風ゲイル』を使って、レンリさんの懐に潜り込み右脇腹に向けて一閃を放つもギリギリの所で木剣で受け止められる。

 けどそのお陰で防御を取らせる事が出来た上、後少しで武器を弾け飛ばせそうだったが、続けて連続で斬り掛かるも全て木剣で防がれてしまう。

 このままでは『疾風ゲイル』の効果時間が切れてしまうと思った私はもう一度距離を取り、突撃するとレンリさんは事もあろうに木剣を放り投げてきた。

 突然の事で私の頭の中は真っ白になり動きを止めてしまう。

 そしてそれによって出来た隙を突き、レンリさんは私の腕を腕を取り、捻りあげて木剣を奪い、地面に押し倒して首に当てる。

 完敗だ。

 悔しいけどレンリさんはとても強い。

 ユニークスキルを使い全力を出しても敵わなかった以上私に出来る手立てはない。

 私が落ち込んでいるとレンリさんは励ましてくれる。

 すると不意に悲鳴が聞こえる。

 声からするとまだ子供のようで、周囲の臭いを嗅ぐと声がした方向からゴブリンの臭いがする。

 私は家から剣を取りだし、レンリさんと共に声のする所に行くと小さな女の子を囲むようにゴブリンが7匹いた。

 レンリさんに女の子の救助を頼み、私は『疾風ゲイル』を使いゴブリン達の首を刈り取る。

 普段なら返り血を浴びないように戦うのだが、救助の事を考えると悠長なことも言っていられないので首の断面から吹き出す血を浴びながらも別のゴブリンを切り裂く。

 6匹のゴブリンを討伐した後、レンリさんの元に向かうとレンリさんもゴブリンを1匹仕留めたようだ。

 声を掛けるとレンリさんはこちら振り向くと同時に驚いた顔をしていた。

 どうやら全身に浴びた血の量に驚いているようだ。

 レンリさんの後ろを見ると先程助けた子がいたのでナラ村の子か確認しようとしたら怖がられた。

 全身に浴びた血が原因じゃないかと指摘され、私は近くにある川に行き、水浴びをする。

 これだけ沢山の血を浴びたので、服に付着した血は取れなかった。

 新しく新調する必要だった。

 水浴びを終えて家に戻ると、レンリさんが先程助けた子供を抱っこしている。

 どうやら泣き疲れて寝てしまったようだった。

 レンリさんはこの子と私になにがあったか聞いてくるが私と何かあるのはこの子の出身かもしれないナラ村だ。

 あの日の投石された記憶は今でも覚えている。

 するとレンリさんは何かを察したのかそれ以上は聞いてこなかった。

 その後私達は家の中に入り、レンリさんは女の子を寝かせ、私はご飯を作ることにした。

 泣き疲れたなら起きた時にお腹が空くはずだと過去の私の経験を元に行動する。

 そして完成したスープを持っていくと女の子が起きていたので近付くと、また怯えられた。

 そりゃナラ村への苦手意識から表情は強張るし、さっきの全身血だらけの姿はこの子からしたら恐怖かもしれないが実際そんな風にされると傷つく。

 落ち込んでいるとレンリさんは私の事をフォローしながら女の子にスープを渡す。

 どうやら女の子の名前はサシャちゃんと言うらしい。

 すると、可愛らしいお腹の音がなり、我慢できなくなったのかおそるおそる食べ始める。

 どうやら味が気に入ったのか、具一つ、スープ一滴する残さず食べてしまった。

 美味しそうに食べてくれるので、作った私としては嬉しいし、小さな子供の一生懸命な姿は癒される。

 その後、レンリさんがサシャちゃんになにがあったか聞くと病気の父親の為に解熱等に使われる薬草のソシの葉を探しに行っている時にゴブリン達に遭遇し、襲われたそうだ。

 街の冒険者ギルドなり、大人達に協力してもらえばいい話と思ったがこの子は自分の手で父親を治したい一心からした行動であるので私としては気持ちはわからなくもない。

 私も昔同じようなことをしてお母さんに叱られた事がある。

 話していてお父さんが心配になったのかサシャちゃんが泣きそうな顔になっている。

 泣かせるわけにもいかないし、この子が真剣にお父さんを救いたい為に動いたのは理解できたので仕方なく家に置いてあるソシの葉を10枚ほどあげることにした。

 すると最初は理解できていなかったがレンリさんが説明してくれたお陰で理解したサシャちゃんは両手をあげて喜んでいる。

 けどまた1人で入ってきたり、ナラ村の人にこの事がバレると何があるかわからないので、もう1人で森に来ない事、ここの事は誰にも言わないこと、これを渡したのが私と言わない事の3つを守らせることにした。

 サシャちゃんも守ってくれると約束してくれるらしく、嬉しくて私はサシャちゃんの頭を撫でた。

 サシャちゃんは嬉しそうに目を細めて喜んでくれた。

 それから少しして私はサシャちゃんを村に連れていく為に3人で森の中を歩く。

 そして村の前近くの森の出口で私はレンリさんにサシャちゃんを村に連れていき、薬草もレンリさんが採ってきたように言ってほしいとお願いした。

 私が村人に見つかれば一緒にいたレンリさんに迷惑が掛かりかねないし、薬草も毒草扱いで捨てられ、サシャちゃんのお父さんの病気が治らなく可能性もあるので私はレンリさん達が行ったのを確認した後先に家に帰った。

 レンリさんは村で私がどういう存在か知るだろう。

 あの村にとって私はなんの罪のない人を殺した人殺しだ。

 勿論そんなことはしていないし、お父さん達も盗賊達ならまだしもそんなことは絶対にしない。

 けどもしかしたらもうレンリさんはここに戻ってこないかもしれない。

 それが嘘であれ真実であれ、自分の近くにそんな危険な人がいるとわかったなら離れていくのは当たり前だ。

 けど私としてはせっかく仲良くなった人と離れるのは寂しく思うし、また1人になるのは嫌だ。

 そんなことを考えながら外を見ると日が傾き、もうすぐ夜になる所だった。

 私は気分転換に外へ出るとそこにはレンリさんが立っていた。

 その表情は暗い。

 きっと村から話を聞いたのだろう。

 私がその話を信じているかと聞くと、レンリさんは私を信じると言ってくれたが、なんでこの人が信じてくれたか私には理解できなかった。

 普通は1人が言った言葉よりもたくさんの人が言った言葉を信じてしまうのが当たり前。

 けどレンリさんは私の事を信じてくれた。

 私はそれだけで嬉しかった。

 それから私はレンリさんを家の中に招き入れ、あの日起きたことを全て話す。

 レンリさんは少し考えてるようで、下を向いている。

 この人はなんでここまでしてくれるなのだろう。

 いくら命の恩人だとしても、ここまでしてくれる人は普通いない。

 その事を伝えるとレンリさんは私が可愛いからと言ってくれた。

 へ?

 可愛い?

 私が?

 改めて言われた言葉を意識すると顔が燃えるように暑く感じた。

 なんでこの人はこんなことさらって言ってのけるのだろう。

 おじさんやドルメードさんたちに言われたことはあったけど、あれは子や孫を見る目と同じだし、たまに冒険者ギルド内で男の人に言われたこともあるが、全身舐め回すようなねっとりした視線で見てくるので下心がバレバレだ。

 レンリさんからは別にそんな視線は感じたことは無かったし、年の近い男の子の知り合いなんていなかったからこんな事言われたときの対応が私には出来なかった。

 するとレンリさんは話を切り替えるように明日の予定を聞いてくる。

 まだ頬に暑さを感じながらも私は出来る限り平静を装う。

 明日はアラクトに行き、ギルド登録を行う事を伝えるとレンリさんはお互いに明日へ向けて早く休むように提案してきた。

 確かに今日は色々あったのだからゆっくり休んでおいた方がいい。

 私は結界を張りに行き、レンリさんが部屋に行って寝ているのを確認して私も寝ることにした。

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