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森の白狼編~陰謀と血と涙~

 家の中に入り、晩御飯を食べたあと俺はナラ村に行く事を告げた。

 シーラさんは苦々しい顔をしていたがなんとか許可をもらえた。

 まぁ、別に許可をとる必要性もないのだが。

 とりあえず明日は俺はナラ村に行き、シーラさんは森の中で街に行く時に提出する薬草や魔物の討伐部位を集めに行くそうだ。

 その後、晩御飯を食べ談笑をしていると夜もふけてきたので、お互いに寝ることにした。

 



 翌日、昼前ぐらいに俺は以前サシャちゃんを送った時の道を通ってナラ村に来た。

 村の前に立っていたのは前に会ったマイセルさんではなく彼より若い茶髪の青年だった。


 「ん?いらっしゃい、ようこそナラ村へ。あんたこの前カリタさんとこに行ってた奴だな。なんの用だ?」


 やる気無さそうにあくびをしながら青年は俺を見てくる。


 「アラクトのギルドマスターからこの村の様子を見てくるように言われて来ました。良ければ村長に取り次ぎお願いできますか?」


 俺はちょっと前にシーラさんに内緒でギルドマスターにお願いして書いてもらった依頼書を見せた。

 実はギルドマスターに以前カリタさんから聞いた話をしてみると驚いていた。

 実際依頼されそうなのもそうだし、もしかしたらシーラさんが討伐される可能性もあったのだ。

 シーラさんを大事にしているギルドマスターにとっては生きた心地がしないだろう。


 「えっ?……し、失礼しました!すぐに村長に聞いてきます!」


 青年は走って村長の家へ向かった。

 凄い効力だな。

 さすがに大きな街のギルド最高責任者だ。

 しばらくすると村長の家へ向かった青年が息を切らしながら戻ってきた。


 「そ、村長に聞いた所、連れてくるように言われたので付いてきてください」


 そう言われたので案内してくれる青年に付いていく。

 名前を聞いた所、ナアハと言うらしい。


 「ナアハさん、そんなに畏まらなくてもいいですよ」


 「いや、しかし……アラクトのギルドマスターって結構有名人って聞いてるし、その人の直接依頼ってことは結構偉い人じゃ……」


 「いえ、そんなことないですよ。まだEランクの駆け出しですので気にしないでください。俺はギルドマスターと個人的な関わりがあるだけなので」


 「そ、そうか?ならいいんだけどよ」


 ナアハさんは緊張が解けたの軽くため息をついていた。


 「そういえば、今日はマイセルさんはどうしたんですか?お休みなんですか?」


 「ん?あのおっさんなら朝いきなり来て門番代わってくれって言ってきたんだ。銀貨1枚貰えたからいいけどよ」


 そんなことを話しているうちに村長の家らしき他の家より大きな家に着いた。

 中に入ると初老らしき男性が座っていた。

 俺も案内され目の前の席に座る。

 ナアハさんはそのまま外で待機することになった。

 「貴方がギルドからの使者ですか?」


 「はい、レンリ・キリュウと申します。噂でこの村で事件があったことを聞いたのでギルドマスターに伺い申し上げ依頼という形で来させてもらいました」


 「ほぅ、噂ですか?いったいどこからですか?」


 一見優しそうに微笑んでいるが目が笑ってない。

 どうやら一筋縄ではいかなそうだ。


 「ここに来たことがあるっていう行商人が言ってましてね。その噂は本当なのでしょうか?ギルドに報告しなければいけないので正直に言ってもらえると助かるのですが」


 「正直もなにも我が村に隠し事はありませんよ?まず隠す必要がない。村の危機になることならギルドに報告しますよ」


 「なるほど。確かにそうですね……ですが、隠す必要がある場合もありますよね?例えば、後ろめたい事があるか何者かに脅されているとか」


 村長が脅されているという単語に反応したのを俺は見逃さなかった。

 反応したといっても少し目つきがさっきよりも厳しくなったような感じだし、すぐに元の目に戻った。


 「確かにそのような事があるなら隠す必要があるでしょう。ですがそれを示す証拠がない以上それはただの憶測に過ぎませんよ?」


 確かにその通りだ。

 カリタさん、シーラさん達から聞いたといっても別に物的証拠がないのでこれ以上追及は出来ない。


 「わかりました。ギルドマスターにはこの村では何も無かったと報告しますがそれでよろしいですか?」


 「えぇ、わざわざご足労いただきありがとうございました。ナアハに村の外まで案内させましょうか?」


 「いえ、実は少し前この村の女の子を助けて連れてきた時にその子の父親が病気だったらしいのでソシの葉渡したんですがその後の経過を見てこようかと思います」


 「女の子というともしやトッティの所のサシャの事ですか?」


 「えぇ、病気の父親の為に危ない森の中でゴブリンに襲われていた所を助けてこの村に連れてきました。その時1度この村に入ったことがあるので案内は必要ありませんよ。それでは失礼します」


 ナアハさんは別の人に呼ばれたらしく、外に出たときは既にいなかった。

 いないものは仕方ないので放っておいてサシャちゃんに会いに行くことにした。



 ~村長視点~


 私はギルドからの使者を家の外まで見送ったあと息を深く吐いた。

 この歳であのような問答はあまり精神的に良くない。

 私だってこんなこと隠したくはないのだ。

 多分あの少年は私の反応をみてなにか気付いたかもしれないが、まぁそれを今考えるのはよそう。


 「くくく、なにやら面白そうになってきましたねぇ」


 後ろを見ると紫色の髪で片目が隠れた男が立っていた。

 頭には一対の角がありその姿はまさに悪魔と言っても過言ではない。


 「あ、貴方ですか。いきなり背後に現れないで下さい。老い先短い命がさらに短くなってしまいます」


 「くくく、すいませんねぇ。それよりは村長お願いしたいことがあるんですがよろしいですか?」


 悪びれた様子もなく、この悪魔……魔族の男はニタニタしながら私にそっと耳打ちをした。


 「なっ!?そんなことをするつもりなんですか!?」


 「えぇ、当たり前じゃないですか。もうタネは仕込んできましたからねぇ。その為だけに私はあなた方を生かしてあげてるんですからこちらとしては感謝していただきたいものですよぉ。それではまた明日お会いしましょう」


 魔族の男は幻のようにフッと消えた。

 全く神出鬼没な男だ。

 それにしてもあんなことをする為だけに私達は生かされていたのか……出来ることなら止めたいが、そんなことをすればこの村の住人すべてが殺されてしまう。

 あの子には悪いがこの村の為にも犠牲になってもらおう。



 ~連理視点~


 カリタさん達の家に行くとサシャちゃんが俺に飛び付いてきた。

 危うく後ろに倒れそうになったが踏ん張ってなんとか耐えた。

 その後でカリタさんと旦那さんであるトッティさんが出てきた。

 トッティはスキンヘッドで強面、体も大きく筋肉隆々でどこのヤ○ザなのかと思うぐらいとてもサシャと血が繋がっているように見えなかった。

 ところが一見怖そうなトッティさんだったが話してみると凄い気さくな人だった。

 持ってきたソシの葉の事とサシャちゃんを助けたことを感謝された。

 その後しばらくサシャちゃんと遊んで、だいぶ日が落ちてきたので帰ることにした。

 トッティさん達から一緒に晩御飯を食べないかと誘われたが家でシーラさんが待っているので遠慮しておいた。

 帰り道を歩いて今日事を振り返る。

 村長のあの反応……きっとなにか隠しているに違いない。

 明日ギルドマスターに報告しないといけないな。

 それからしばらく歩き続け、家の近くに来ると嫌なものを見つけてしまった。

 血の痕だ。

 しかもまだ黒くなってない真新しいものが奥に点々と続いている。

 まさかじいちゃんに連れられたサバイバルの経験がまさかこんな所で役に立つとは。

 昔じいちゃんと山でサバイバルした時に罠を仕掛けて怪我をした動物を追い回した記憶がある。 他にもじいちゃんが狩ってきた兎や場所によっては鹿や猪とかの血抜きとか解体する時に死ぬほど嗅いでしまったから血なまぐさい匂いも不本意ながら慣れてしまった。

 獣か魔物かはたまた人か。

 血の痕を追っていくと予想だにして無かったものを見つけた。

 それは血まみれでボロボロになったシーラさんだった。

 急いでシーラの元に駆け寄り、怪我の状態を見てみる。

 身体の至る所に切り傷があり、お腹に火傷の痕があった。

 水魔法で血を洗い落とし患部を見てみる。

 幸い切り傷は浅かったので、大事には至ってないが流れている血の量を考えると悠長な事はしてはいられない。

 急いで治療魔法ヒールを使い治療するが大量の魔力が持っていかれてしまった。

 その結果、なんとか血の流れた量が緩やかになり、火傷もある程度治癒させることができた。

 とりあえずこのままだと血の匂いに惹き付けられた獣や魔物が来るのでシーラさんを所謂いわゆるお姫様抱っこで抱き上げて家に戻った。

 家に帰ってからはベッドの上に寝かせ、出来る限りの清潔な布を使って患部を直接圧迫することでなんとか止血出来た。

 次に火傷を再度治療してみる。

 時間は掛かってしまったがなんとか傷痕残さず治すことが出来た。


 「んっ……」


 シーラさんがゆっくり目を開けた。


 「レンリ……さん?ここは……」


 「シーラさんの家ですよ。あ、急に動いちゃダメですよ。お腹の火傷は完治させましたが身体中の切り傷は魔力が足りなくて止血しかできなかったんです。下手に動くと傷が開いてしまいますから安静にしててください」


 ベッドから出ようとするシーラさんを肩口を押さえて無理やり寝かせた。

 

 「いったい何があったんですか?あの辺りの敵でシーラさんがあそこまで追い込まれる魔物なんていましたか?」


 「…………たんです」


 「えっ?」


 聞き取れなかったのでもう一度聞いてみる。


 「見つけたんです。やっとお父さんとお母さんを殺した奴を見つけたんです」


 今のシーラさんの顔は普段の優しそうな顔とは違い、今まで心の奥底で燻っていた憎しみが顔に出ていた。


 「それは間違いないんですか?」


 「えぇ、お父さん達の事やあの時の私の事を知ってたんです。お父さん達の片腕が切断されているのを知ってるのなんて私やおじさん、犯人以外いません。早く奴を探さないと……」


 シーラさんはまたベッドから出ようとする。


 「駄目ですよ!その怪我でどう戦うつもりなんですか!?今言っても無駄死にするだけです!」


 「ほっといてください!!レンリさんには関係ない私の問題です。部外者が口を出さないでください!」


 そう言うとシーラさんは俺を押しのけて部屋を出ていった。

 俺はすぐに追いかけるとシーラさんは家の外で踞っていた。

 

 「シーラさん!?大丈夫ですか?」


 何ヵ所か止血している所から血が滲んでいる。

 傷口が開いてしまったようだ。


 「ずっと……ずっと待ってたんです。お父さん達が殺されたあの日からずっとあいつを殺す為に、その為だけに私は生きてきたんです。だから邪魔しないでください!」


 シーラさんはこちらを振り向き襟を掴み掛かってきた。

 目には溢れそうな程の涙を溜め、こちらを睨み付けてくる。


 「……シーラさん。勝算はあるんですか?そんなにボロボロで勝てると思ってるんですか?」


 「そんなの無くても、最悪刺し違えても奴をーーッ!?」


 バチンッ!

 俺はシーラさんの頬を叩いた。

 シーラさんはいきなりのことで驚き手を離し、漠然とした表情をしている。


 「シーラさん、今自分が何を言っているが分かってるんですか?それは貴方を大切にしてくれた人達の事を貶める行為なのを理解してるんですか?」


 「えっ……?」


 「シーラさんがそいつを憎んでいるのはわかります。その為に今まで一生懸命強くなろうとしたことも……。けどそれはシーラさん1人の力で出来た訳じゃないんです。ギルドマスターやメリアさん、ドルメードさん達が貴方が幸せに生きていけるよう大切に支えてきて来たからです。そんな人達が貴方が命を落とすようなことに喜ぶと思っているんですか?」


 「ッ……」


 シーラさんが痛いところを突かれたように苦々しい顔をしているが俺は構わず話を続ける。


 「それに俺だってシーラさんを大切に思ってるですから刺し違えてもだなんて言わないでください!」


 「え、えぇ!?た、大切にお、思って?」


 なぜだかわからないがシーラさんが顔を真っ赤にし、動揺している。


 「そうですよ。シーラさんは俺の命の恩人です。もし仮にあの場で怪我が治ってたとしても、治る前に魔物達に襲われてたら生きてません。仮に街の人に拾われてもなにも知らない俺は奴隷にされるか野垂れ死んでたかもしれません。シーラさんがいて生きる術を教えてくれたからこそ今の俺がいるんです。だから死んでもなんて言わないてください」


 「あ、そういう意味ですか……」


 さっきの真っ赤な顔から一転して今度は落ち込んだ様子になってしまった。

 何を落ち込んだかはわからないがとりあえず落ち着いたようだ。


 「復讐をするなとは言いません。もっと他人を頼ってください。俺に出来ることなら手伝います。だから無理しないでください」


 「……相変わらずレンリさんは優しいですね。そんな優しくされたら……せっかく今まで我慢してきたのに、我慢……出来なくなるじゃ……ないですかぁ」


 シーラさんは自分の額を俺の胸に当て、顔を見せないようして泣き始めた。

 今までずっと我慢してきたんだろう。

 いくら周りに人がいたとしてももう両親はいない。

 甘えたくても甘えられない。

 冒険者として生きる以上もう自分の弱味は他人に見せられない。

 それはきっと辛くて、泣きたくなる時もあったと思うし、俺にはわからない苦労もしているはずだ。

 泣き続ける彼女に俺は治癒魔法を掛ける。

 残りの魔力を使い、なんとか血を止める事が出来た。

 しばらくしてシーラさんは泣き止んだがそのまま寝てしまった。

 魔力の使い過ぎで正直な所、しんどいがシーラさんをこのままにしておけないので、さっきのように抱き上げてもう一度ベッドに寝かせた。

 俺も自分の部屋のベットで寝よう思ったがどうやらもう限界だったらしくいつそのまま気絶してもおかしくない状態だった。

 なので仕方なくシーラさんが寝ているベッドの隣に置いてある椅子に座り眠りについた。

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