森の白狼編~装備は結構高いのです~
シーラさんに連れられ、俺は冒険者ギルドがある中央区から武具店のある北区に移動している。
正直、武器は余り使ったことがないのでいらない。
強いて欲しいものと言えば、籠手…出来ればガントレットの様なものが欲しい。
あれなら近接戦でも軽い攻撃位なら弾くことが出来るし、格闘するのにも邪魔にならないはずだ。
「ここです。ここの職人さんはあまり目立ちませんが、腕は確かです。ここならレンリさんに合う武器を作って貰えるはずです」
そうして連れられた北区の端にある武具店は武具店と言うより鍛冶工房って表現が合うと思う。
おそらく両方兼ね備えた建物なのだろう。
作って貰えるなら嬉しいがまず先立つものがない。
さすがにそれまでしてもらうわけにはいかないしな。
「シーラさん、作ってもらうにしても俺はお金が無いんですよ?」
「あー、そうでしたね。じゃあうちにあるお父さんが使ってた剣を使ってください。後は防具ですけど、レンリさんはお父さんより少し身体が小さいからサイズを測って作った方がいいですね。今回は下見にしてまたお金が貯まったら買いに来ましょう!」
シーラさんのまくし立てられ、俺はうんと頷くしかなかった。
この人、意外に人の話を聞かないところがあるみたいなので気を付ける必要がありそうだ。
シーラさんに付いてら武具店の中に入ってみると沢山の剣や槍、盾や鎧等が所狭しと言わんがばかりに並んでいる。
店の奥からはガギーン、ガギーンと金属同士がぶつかる音が聞こえている。
「ドルメードさーん、シーラですぅ!こっち来てもらえますかぁ?」
シーラさんが大きな声で呼ぶと、音が止まり、奥から誰かが出てきた。
「おう、嬢ちゃんか。今日はどうしたんだ?」
奥から出てきたのはシーラさんより背が少し小さい毛むくじゃらのおじさんだった。
鍛冶職人、毛むくじゃらで背の低いおじさん。
おそらくドワーフなのだろう。
エルフに続き、ファンタジーの存在に会えるなんついてるな。
せっかくなので手に入れた『分析』を使ってみようと念じてみる。
ドルメード・ガラサドス 48歳
種族:ドワーフ 状態:健康 職業:鍛冶職人 平民
スキル:鍛冶 見切り(素材)
出来た。
なんというか見たまんまの情報だな。
レベルやステータスの数値が表示がされていない所を見るともしかしたらこの世界ではステータスの概念が存在しないかもしれない。
「こんにちは、実はこの人の防具を見立てて欲しくて」
「ほぅ、嬢ちゃんからの紹介…しかも男と言うことはこれか?」
ドルメードと呼ばれたドワーフはニヤニヤしながら右腕の小指を立てる。
「ち、違います!何でみんな揃って同じこと言うんですか」
本日3回目の否定をシーラさんは顔を赤くしながら言う。
ていうかその表現この世界でもあるのか…。
「はっはっはっ、違うのか。そりゃすまなかったな。で、そこの坊主の防具を見立てるのか?どれどれ…」
ドルメードさんは俺の腕や肩回り、腰等をメジャーの様なもの物で計測し、何かを確かめるように身体に触る。
「ふむ…お前さん、武器を使ったことがないじゃねぇのか?」
「…何故そう思ったんですか?」
「武器を使ってる奴ってのはな、使ってる武器にもよるが使ってる武器を扱う筋肉が鍛えられるんだよ。例えば剣なら踏み込む下半身、武器を振り回す上半身なんだが、お前さんの上半身の筋肉を確認した感じからするとろくに武器を使ったことのない様だったからな。だからと言って鍛えてない訳でもなくむしろ鍛え抜かれた身体を見る限り余程の鍛練でも積んできたんだな」
「そうですよ!レンリさんは私を倒すほどの実力者なんですから!」
シーラさんが腰に手を当て、胸を張って褒めてくれる。
褒めてくれるのは嬉しいが、年下の女の子に褒められるのは少し恥ずかしい。
「ほぅ、嬢ちゃんを倒す程か。この嬢ちゃん、か弱そうな見た目と違ってそこらの冒険者よりも強いからな。中々やるじゃないか」
ガハハと笑いながらドルメードさんは俺の背を力強く叩く。
地味に痛い。
「さて、確か防具の見立てだったな。どんなのが欲しいんだ?」
「徒手空拳で戦うので出来れば籠手や脛当があれば嬉しいです」
「ふむ、なるほどな。それでその筋肉か。よし、ちょっと店の奥から出してくるから待っててくれ」
ドルメードさんは店の奥に入っていき、数分で戻ってきた。
「2つ程持ってきたから確認してくれるか?」
ドルメードさんは2組の籠手を持ってきて、机の上に置く。
1つ目は鉄で出来た籠手である。
腕に装着して、軽く突きや肘を使った打撃の動きをして違和感がないか確かめる。
正直な所、鉄の重さで動きが鈍る為論外だ。
2つ目は黒い何かの甲殻を加工したような物だった。
さっきの鉄の籠手の様に腕に装着し、違和感がないか確かめてみる。
黒く重たそうに見えた外見とは違って非常に軽く、関節の稼動も邪魔しないの使いやすかった。
「鎧蟻の甲殻から作った籠手が気に入ったみたいだな。そいつはここから少し離れた森林地帯に住む蟻の甲殻なんだが鉄にも負けない強度のわりに非常に軽いのが特徴でな。昔、わしが冒険者だった時に手に入れたのだが今はあまり需要がなくて倉庫で埃被っていたもんだ」
見てみると確かに倉庫に入れてあったようで少し埃を被っていた。
「需要がないってことは今はどんなのが主流なんですか?」
「革で作った防具が多いな。ここいらの魔物どもは強くねぇから、駆け出しの冒険者が多いは銅貨5枚位の安い防具を買うことが多い…それどころか武器を買うので精一杯で防具を揃えないやつもざらだな。この籠手は軽くて、使いやすいんだが少し値が張ってな。銀貨1枚って所だな」
うぇ、日本円で10000円か。
確かに革の防具に比べると高いな。
なるほど、素材が良い魔物だと高くなるのか。
まぁ、惜しいがどのみちお金がないから諦めだな。
「ドルメードさん、これの取り置きとか出来ますか?」
「あぁ、別に構わないが…もしかしてお金がないのか?」
「はい。ギルド登録とかもシーラさんに出してもらっているので残念ですが手を出せませんね」
我ながら情けない話だ。
「レンリさん、私への借金なら待ちますから先に防具を揃えるためにお金を稼ぎましょう!」
シーラさんはそう言ってくれるが俺としては早くシーラさんへの借金を返すのを優先したい。
なんと言うかヒモみたい感じで嫌だし…
「そういって貰えるとありがたいですが先に借金返してから買うようにします。じゃないとミリアさんやギルドマスターに怒られそうですし」
「うぅ、確かにあの2人ならしかねませんね。それじゃあドルメードさん、取り置きの件お願いしますね」
「おう、どうせこの店に客が来ることなんて嬢ちゃん以外いないしな。坊主もお金が貯まったらまた来な」
ドルメードさんに断りを入れ、俺達は店を出た。
「あの店お父さん達の代からお世話になってて、私もよく剣を作って貰ってるんです」
「かなりの職人のようですね。あの籠手、凄く使いやすかったです。シーラさんのその胸当てもドルメードさんに?」
「はい。森に出てくるウルフ種の皮を鞣して作ってもらったんです。成長にで身体が大きくなっても使えるように調節用の穴を開けてくれたので今でも使ってます」
シーラさんが嬉しそうに話してくれる。
両親を亡くしてもこうやって笑っていられるのはきっとギルドマスターやミリアさん、ドルメードさん達が側にいたお陰だろう。
とりあえず今日の用事は終わったので、必要な食材や雑貨を買って帰る事になった。
また入ってきた門に向い、ギルドカードを見せて町を出て、森の中に入ると後ろから声を掛けられた。
「おい餓鬼共、待ちやがれ!」
後ろを振り向くと先程見たばかりの禿げ上がった頭のケナシーが剣を抜いた状態で立っていた。
「なんの用ですか?剣をなんて抜いて。ギルド規則で冒険者同士の死闘は禁止では?」
「うるせぇ!俺はお前達のせいで恥をかいたんだ。ぶっ殺さなきゃ気が収まんねぇんだ!それに仲間に頼めばお前らの死体の処理なんて簡単なんだよ!」
気になる単語を言いながら、ケナシーが剣を振り上げ、突撃してくる。
とりあえず、シーラさんを後ろを退く様に言う。
初めて会った時からあんな感じなのだ。
今、シーラさんに戦闘を任せたらボコボコされるか、最悪な場合は勢い余って殺してしまうかもしれない。
ケナシーもなにやら気になることを言ってるし。
不満そうな顔をしたが、シーラさんは納得して退いてくれた。
「ドリャァァァァァ!」
ケナシーが雄叫びをあげながら、俺の脳天に目掛けて斬りかかってきたので、パンチを回避したときのように身体を半身にして避けると顔が丁度良い位地にあったので、右ストレートでケナシーを殴る。
するとケナシーが大きく身体をのけ反ったので武器を持った右腕を捻り上げながら後ろに回りバランスを崩させ、地面に押し倒す。
「シーラさん!町に戻って衛兵を呼んできてください!」
「はい!」
俺の指示を聞いて、一瞬悩んではいたがシーラさんはすぐに町に向かって走り始めた。
疾風を使っているのかとんでもないスピードだ。
「放せっ!くそ餓鬼がっ!」
押し倒されたケナシーが俺の下で暴れながら文句を言っている。
なにやら怪しいので『分析』でケナシーを視てみる。
ケナシー・ツルーナス 25歳
種族:人間 状態:健康 職業:冒険者(E) 盗賊 平民
スキル:なし
名前に続き、名字もハゲネタなのか…。
そして職業がまさかの盗賊か。
「そういえば貴方、さっき変なこと言ってましたね。人を殺した後に処理する仲間がいるって。貴方盗賊ですよね?すいませんがその事は衛兵に報告させてもらいます」
ケナシーは顔を真っ青にし、震え出した。
「な、なんの事だ?」
「いや、今更とぼけても無駄ですよ。顔を真っ青にしてそんなに震えてるんですから、動揺してるのまるわかりです。後からギルドマスターにも確認してもらいましょう」
「ちくしょう…」
そう言われて、ついに諦めたのかケナシーは抵抗するのを辞めた。
そうしていると後ろからシーラさんと衛兵らしき男が2人やって来たのでケナシーを縛り上げ、引き渡した。
ケナシーももう抵抗する気がないようで素直に引き渡すことが出来た。
「この男、盗賊の一味の可能性があります。冒険者ギルドから捕縛依頼が出ているのでギルドマスターにユニークスキルで分析してもらって下さい」
「あぁ、わかった。協力感謝する。事情はこのお嬢さんから聞いているから今日の所は帰ってもらっても構わないが、また明日門番に声を掛けてくれ」
そういって衛兵達はケナシーを連れていき、去っていった。
「どうして盗賊ってわかったんですか?」
衛兵が町に向かうのを確認してからシーラさんがとことこ歩きながら不思議そうな顔で聞いてきた。
「ギルドマスターから複製した『分析』で見たら盗賊の表示が出てたんですや。名前に年齢、種族、状態、職業、スキルが見ることが出来るんです」
「おぉ、そうなんですね!ということは私の事も分かるんですか?」
と言われたので、シーラさんに対して『分析』使ってみると。
シーラ・ウルフィス 16歳
種族:獣人(白狼) 状態:健康 職業:冒険者(E) 平民 スキル:我流剣術(初級) 疾風
問題なく見ることが出来た。
ウルフィスって狼のウルフとかけているのだろうか。
「はい、ちゃんと見ることが出来ました」
「凄いですね。ランティスおじさんがスキルを見ることが出来るのは知ってましたけどそこまで見えるなんて初めて知りました」
「まぁ、普段はあまり見る必要がないものですからね」
「そうですね。明日また今回の件をまたおじさんに言わないといけないし、今日は早く帰って寝ましょうか」
「そうですね。俺も流石に疲れましたし」
そういって俺達は森の中に入っていき、家に帰ることにした。




