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翼を抱いた猫  作者: 嵐猫
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誘拐

***前回までのお話***


予想外の初めてのお泊まりでドキドキのマリア。

大きな浴槽で優雅なバスタイムを堪能した後に眠りについたマリアは、その後、甘い甘いファーストキスを経験したのだった。

チュンチュンチュン


薄い霧が立ちこめた森の中で鳥たちが朝の挨拶を交わしている。

窓から差し込む朝日がマリアの顔を優しく撫でるように当たり、ほのかな暖かみで目が覚めた。

目の前にはギャビーの顔があり、驚いて起き上がった。

ギャビーは目を閉じたままクスっと笑ってマリアに言った。


「おはよう。マリアちゃん。よく眠れた?」

「あ。おはようございます。」


マリアは昨夜のキスを思い出し、急に恥ずかしくなった。

ギャビーが目を閉じていることを確認すると急いで着替えて玄関の扉に向かう。


「私、朝露採りに行ってきます。」


ギャビーに声をかけると森の中に向かって行った。

ずっとギャビーとのキスが頭に焼き付き脳裏から離れない。

ぼーっとしながら朝露を集めていく。

もしかしてギャビーも私のことが好きなの?きっとそうだよね?

そんなことを考えながら嬉しさのあまり、顔が綻んでいた。


慌てて出てきたのでミカエルを連れてくるのを忘れたことに気づいたが、近くだから大丈夫だろうと思っていた。

ところがその時、森の一本道の後ろから黒塗りの車が近づいてきた。

狭い道なのでマリアは道の端に寄ろうとしたが、ちょうど車がマリアの横についた時、窓がすーーっと開いて中の人が声をかけてきた。


「あなたがマリア様ですね?とあるお方があなたにお会いしたいそうでお迎えにあがりました。」

「あの・・・どちら様ですか?」


警戒するマリアの鋭い目つきを見て、中の人が車を止めるよう指示すると扉を開けて出てきた。


「これは大変失礼いたしました。私、ジェルマン伯爵に仕えておりますジルベールと申します。ジェルマン伯爵がマリア様にどうしてもお会いしたいそうでこうしてお迎えにあがった次第でございます。」


マリアは以前聞いたジェルマン伯爵のことを思い出し、聞いてみた。


「ジェルマン伯爵はすでに亡くなられているのではないですか?」

「いいえ。ジェルマン伯爵は生きておられます。今は3代目でございますが、ジェルマン伯爵をご存じでいらっしゃるのですか?」

「あ。以前少しジェルマン伯爵の話を聞いただけでお会いしたことはありません。ところでご用件は?」

「さあ。私もマリア様をお連れすること以外は伺っておりませんもので・・」


以前話に聞いたジェルマン伯爵についてさらに知りたいと思ったマリアだったが、妙に怪しい。

それにギャビーに何も言わないで行くのは躊躇われるので断ろうと思った。


「あの~私、まだ用事があるのでお断りします。ごめんなさい。」


それを聞いたジルベールの顔つきがみるみる険しくなり、声も低くなって急変した。


「断ることは選択肢に入っていない!今すぐ車に乗れ!!」


突然車の扉が開き、中から黒ずくめの服を着た男達が出てきてマリアを羽交い締めにすると無理矢理車に押し込んだ。

男達はガスマスクをつけると車の中に甘い匂いがたちこめ始めた。

マリアはどんどん視界が狭くなり、とうとう気絶してしまった。


その頃、、ログハウスでは帰りが遅いマリアをギャビーが心配していた。

遅い。あまりにも遅すぎる。なぜミカエルを連れて行かなかったんだ。

突然突風が吹いて窓から一枚の葉っぱが舞い込んできた。

葉っぱに光の文字が浮かび上がり、マリアが誘拐されたことを知らせてくれた。


*タイヘン マリア ユウカイサレタ ジェルマンハクシャクノトコロ*


「ジェルマン伯爵だって?!ジェルマン家はもう2代目も他界されたはず。それがいったいどうして・・・」


ギャビーは外に出ると木々達に話しかけた。


「犯人の居場所を突き止めて知らせて。」


木々達はざわざわとリレーをするように葉を鳴らし、森の草花や鳥たちに一斉に伝達した。

森の西端にあるブナの木が森を出て行く黒い車を目撃していた。

急いで葉っぱを鳴らして木々達にリレーを促すとあっという間にギャビーの家の側にある白樺の木に伝わった。

白樺の木はギャビーの足元に葉っぱをひらりと落とし、メッセージを送った。


*クロイクルマ モリノニシ ヤシキニムカッタ*


森の西の屋敷といえば、ジェルマン伯爵の家がある。

やはりそこに行くべきだと思ったギャビーは家に帰り急いで支度をはじめた。

今回はミカエルは置いていこう。ジェルマン伯爵の家に連れて行くには酷すぎる。

そう考えたギャビーは支度を済ますと独りで伯爵の家へと向かった。


一方、マリアは屋敷に連れて行かれ、ソファに寝かされていた。

眠り薬のガスが強く効いていたのかまだ眠りから覚める気配はない。

側にジルベールが人形のように立つ向かいのソファには深々と帽子を被った長髪の男が膝の上に猫を乗せて座り、マリアをじっと見つめていた。

その猫はミカエルのように黒い猫で、同じように背中にコウモリのような羽があったが、尻尾の先はハート型ではなく、三角錐で先端が鋭く尖っている。

ダイヤモンドのようにキラキラと輝き、重さもあり硬そうだ。

時折尻尾を動かすとタンタンと音がしている。


すると突然猫が立ち上がり、マリアの胸に飛び乗るとゼリーみたいな肉球でぷにゅぷにゅと顔を刺激し始めた。

決して爪を立てることなく、優しく優しく。


「ミ・・・カエル?くすぐったいよ」


マリアは少し意識が戻った状態で、ミカエルに刺激されて起こされているのだと思った。

しかしこの空間はローズの香りが漂い、今まで自分が来たことのない場所だと認識すると慌てて体を起こし、周囲を確認した。


「お目覚めかい?お嬢さん。」


声のする方を向くと、そこには夢で見たあのルシファーが目の前にいた。

髪の色は違うが、見た目はほとんど変わらないくらいギャビーによく似ている。

それから違うところといえば、左目の下に星形のほくろがある点だろうか。

あまりにもそっくりなので思わず見入っていた。

そのマリアの考えに返事するかのようにルシファーが答えた。


「ぼくらは双子なんだよ。兄さんと違って僕は自由奔放に生きてきたから親にも勘当されてしまってね。しばらく国を離れていたが、最近この村にまた戻ってきたんだよ。ところでミカエルは元気にしてるか?近いうちに返してもらうからその時まで預かっておいてくれ。」


「あなたはなんなんですか?こんなところに連れてきて。それに私はジェルマン伯爵に会わないといけないんでしょう?あなたに会って話する時間もないんです。」


ルシファーはマリアの言葉を聞いて答えた。


「もう会ってるじゃないか。ジェルマン伯爵とは僕のことだよ。2代目に子供がいなくて僕が養子としてこの家を継いだのさ。養子になればこの広大な屋敷が手に入るのでね。契約成立した直後に2代目には死んでもらったけどね。」


笑いながら言うルシファーを見て悪魔の家に来てしまったことを後悔し、不安と恐怖に苛まれるマリアだった。


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