主従関係
***前回までのお話***
ミカエルの恐ろしい呪いについて聞かされたマリアは、さらにガブリエルとクレアの秘密も知ってしまった。
森の植物たちに導かれながらミカエルを家に連れて帰ったその後はどうなる?!
「ただいま~~~ミルクティいい子にしてた?今日から新しいお友達ができたから仲良くしてね」
ミルクティはマリアが帰ってきたことに気がつくとうれしそうに駆け寄ってきた。
村に住む友達が時々猫を連れてくるので他の猫と遊ぶことには慣れていたが、抱きかかえられたミカエルに自分にはない羽を見つけ、全身の毛が逆立って2倍に膨らんだ。
じわじわとミルクティに近づくミカエル。ミルクティもミカエルが近寄る歩幅と同じペースで後退した。
ミカエルを家に連れ帰ったはいいが、マリアはミルクティとの相性がとても気になった。
普通の猫ではないし、ミカエルは雄でミルクティは雌だからもしかして赤ちゃんできたらどうなるのかしら?
フーーーーーー!シャーーーーーー!!!フギャ!!
ミカエルは威嚇するミルクティの背後にバサっと羽を広げて飛び落ちて首の後ろに咬みついたと同時に吸血し始めた。
一瞬もがく姿勢を見せたミルクティだったが、マリアの時と同じようにうっとりしていた。
膨らんでいた毛は元に戻り、恍惚の表情をしている。
ミカエルは体の大きさを計算して死なない程度に吸血しているようだった。
マリアの血をすでに飲んでいたし、ミルクティは体が小さいのですぐに吸血するのをやめた。
するとミルクティはミカエルの体に頭をこすりつけるとお腹を出して寝転んだ。
ミルクティとミカエルの主従関係は完全にここで決まった。
ミカエルは自分が咬んだミルクティの首を丁寧に舐めあげると、自らの羽でミルクティを包み込むようにしながらふたり仲良く眠り始めた。
「よかった。もうこの子達はだいじょうぶね。」
安心したせいもあるだろうが朝から何も食べてないうえに吸血されたマリアは急激にお腹がすいてきた。
昨日作っておいたアップルパイがまだ残っていることを思い出して食べることにした。
マリアが作るアップルパイは村の人達にもとても人気で、村にあるパン屋さんから制作依頼が来るほどだ。
週に3回ほど店に出向きアップルパイを作成し、それ以外の日は村の人達から衣類のリメイクを請け負う仕事をして稼いでいる。
余った布でミルクティに服を作ったりすることもあるのだが、普通、猫は柔らかい素材を好むはずなのにミルクティはなぜか麻でできた服が好きなのだ。
まだミルクティが目も開かないくらい小さかった頃、森の中に麻袋に入れられて捨てられていたせいもあるのかもしれない。
きっと麻に包み込まれる感覚が落ちつくのだろう。
アップルパイを食べてお腹いっぱいになったマリアは、ミカエルたちが眠っているのを確認してから少し休むことにした。
一人がけの小さなソファに座り、瞑想を始めるとコクコクと首が傾きだんだんと眠りに入っていった。
マリアは夢を見始めた。ガブリエルによく似た黒髪の男がミカエルを捕まえようと執拗に追いかけてくるのを必死に逃げまわった。
「ローレマー コカーニ ヒセークーツキーヤ!」
男が突然何か呪文のようなものを唱えるとマリア達の周りが火に囲まれ途方にくれた。
もう捕まる!!と思ったときに目が覚めたが、夢のわりにはリアルな感覚だった。
火に囲まれた時の肌にジワジワとくる熱さや呪文を唱える声がまだ耳に残っている。
マリアは、朝から信じられない体験をしたからこんな夢を見たんだと思うことにした。
でもそれにしても夢に出てきたあの男の人はガブリエルにうり二つだったなぁ。
好きになったガブリエルの顔が夢に出てきてちょっとうれしいマリアだった。