イケメンの正体
***前回までのお話***
不思議な猫ミカエルを追いかけてたどり着いた家で美青年ガブリエルに出会ったマリア。
想像を超える美しさのガブリエルに初恋してしまった。その後彼との関係はどうなる?!
あまりにも美しすぎるガブリエルに見とれてしまったマリアだったが、森の向こうにあるクレアおばさんに午後までに家賃を払いに行かなければならないこと、ミカエルに血を吸われたこと、そして鞄を取られてここまで来たことを必死になって彼に話した。
マリアが話す間、ガブリエルは年代物の椅子に座り脚を組んで微笑を浮かべながら聞いていた。
一生懸命に平静を装おうとしているマリアの表情がとても可愛らしく思えたからだ。
「大丈夫。クレアは僕の古くからの友人だから話をつけてあげるよ。それよりもどうだろう?僕の提案に承諾してくれればこれから家賃を払わなくてもいいようにしてあげるんだけど?」
マリアは初対面のガブリエルのいきなりの発言に少々戸惑ったが家賃を払わなくてもよくなるというのは実に魅力的な提案である。警戒心を抱きながらもどんな提案なのか少し気になって聞いてみる。
「あの~そ・・それは・・・どんな提案・・・ですか?」
その言葉を聞いたガブリエルは声を大にして笑った。
「あはははははははははは」
「軽い冗談のつもりだったけど、君がここまで純粋だと守ってあげたくなるね。ダメだよ?初対面の男をそんなに簡単に信じちゃ」
馬鹿にされたマリアは顔を赤らめて口を尖らせプイっと横を向き鞄を持って帰ろうとした。
「待って!ごめんごめん!でも今言ったことは本当だよ。1つ提案があるんだ。少し目を閉じてくれるかい?」
まだ警戒心が解けないマリアは、ぎゅっと目を閉じるのが怖くて一瞬瞬きするように目を閉じた。
するとその瞬間にふわりとした風と土の匂いを感じて目を開けた。
「え?!」
さっきまで目の前にいた美青年の代わりに立派な角を持った漆黒の山羊が立っていたのである。
マリアが驚いていると、黒い山羊が喋り始めた。
「驚いたでしょう?実は僕は山羊なんだ。寿命が減ってしまうから本当は朝日の光が当たる時にしか変身してはいけないんだけど今回は特別。」
マリアはポカーンと口を開けてそのまま口が塞がらなくなってしまった。
いったいこの世の中でこんなにも不思議で常識を覆す出来事があるだろうか?
羽があるヴァンパイアな猫だけでもあり得ないのに人に変身する山羊とかもっとあり得ない!!
マリアの心の葛藤など気にする様子もなく山羊は話を続けた。
「あ~この格好が1番落ちつく~二足歩行ってけっこう疲れるんだよね~。」
「あ!そうそう。提案というのは・・・毎朝朝日の当たる草花の朝露を取ってきてほしいんだ。朝露は僕の唯一の食事でね。それ以外のものは体が受け付けないんだ。僕は朝露をもらって、君は家賃を払わなくてもいい。お互い生きる上でこの上ないメリットのある提案だと思わない?」
確かに家賃を払わなくてもいいというのはありがたいけれど、毎朝この不気味な森に独りで入るのは少々気が滅入る。やっぱりここは丁重にお断りしようと思った矢先!
ヒューーーーーーーザワザワザワザワ
急激に風が吹き木々がゆさゆさと揺られ森がざわめき始めた。
するとさっきまで山羊だったガブリエルは元の美しい青年の姿に戻っていた。
「木々達が驚いているね。ここに人間が入ってきたのは初めてだから。君は第一号のお客様だよ。それからさっきの話どうする?きっと森の中に独りで入るのは怖いとか思ってるんでしょう?それはなんとかなりそうだよ。僕はこの森のすべての木や草花達と交信することができるんだ。君のことを守るように頼んでおくよ。それからこの猫をボディガードとして君に預けるよ。だいじょうぶ。むやみに咬んだりはしないから。引き受けてくれるよね?」
この猫が欲しいと思っていたマリアは家にいるミルクティが気になりながらも先ほどの甘い感覚が忘れられず連れて帰りたい衝動に駆られ無意識に首を縦に振り承諾してしまった。