運命の出会い
***前回までのお話***
クレアおばさんに家賃を払いに森に入ったマリア。
そこで不思議な猫に出会う。猫の正体は?
マリアは無事にクレアおばさんの家にたどり着けるのだろうか?
マリアはその黒猫にそっと近づき触ろうとした。
黒猫は一瞬身構える様子を見せたが、やがて頭を擦りつけて甘えてきた。
「よしよし。いい子だね~」
最初はその見慣れない容姿に戸惑ったマリアも次第に猫に警戒心を解いた。
ふと、さっき気になったハートの尻尾を触ってみようと思い、手を持って行く。
シャーーーーーーー!!!
「あ!痛い!!」
猫は威嚇の声と供にマリアの手首に噛みついてきた。
どうやらかなり深く咬まれてしまったようだ。
ドクドクとした疼きと突き刺さるような痛みを伴ってきた。
「ちょっと~痛いじゃないの!!」
突然咬まれたことに動揺するマリア。
なかなか咬んで離そうとしてくれない猫に対して少々苛立ちを覚えていた。
しかしなんだろう?この感覚は。
なんというか痛いはずなのに痛くない。
むしろそれは今までに感じたことのない感覚であった。
「あ・・・あ・・・あ・・・」
咬まれた後に血を吸われているらしいのだが、これがなんとも気持ちいいのである。
体の力は完全に抜けてふわふわと宙に浮かぶような感覚。
体は火照り、頬が紅潮し始め、躰の中心から湧き上がる疼きを感じ、甘い吐息が漏れる。
これが性的興奮であることは経験者ならわかることであろうが、マリアはまだ異性とも交際したことのない純血であったために知るよしもなかった。
マリアはこれが性的興奮の感覚だと知るのはもっともっと後のお話。
ところでこの猫、突然咬んでいた口を離した。
すると今までの快感はまったく消え去り、突然咬まれた傷口が痛みだした。
そしてすぐにその傷口の横をまた咬んで血を吸い始めたと同時に再びあの甘い感覚が襲ってきたのである。
この子に咬まれて血を吸われると気持ちいいのね・・・
そう思いながら急に眠気に襲われてきた。
想像以上に吸血されたのであろう、軽い貧血と目眩でマリアは眠りに落ちた。
そしてマリアが眠っている間、猫はマリアの傍を離れることなくずっと見守っていた。
どのくらい時間が経ったのだろう?マリアは目を覚まし辺りを見回した。
自分が森の中にいて眠ってしまったということには気づいたが、まだ状況が飲み込めないでいた。
ふと横を見るとなんとなく見覚えのある猫がマリアにぴったり寄り添って甘えてきている。
寝起きでまだぼーっとした頭で一生懸命に記憶をたどった。
確かクレアおばさんに家賃を払いに森の道を歩いて行ってそこで不思議な猫を見かけて・・・
「あ!猫!咬まれて血を吸われてそれから・・・」
あの時感じた快感を思い出し、なんだか恥ずかしいような気持ちになるマリアだったが、ふとあることに気づいた。
確かこの猫の尻尾の先にあるハートは白だったはず。
今見てみると真紅でぷっくりとした血色のいい色に変化していた。
そして丸々した大きな体格だったその容姿は、グラビアの猫モデルにでもなれそうな美しくしなやかなスタイルに変わっていたのである。
この不思議な猫をマリアは欲しくなり、連れて帰りたくなったが、すでに家にはミルクティがいるのであきらめなくてはならないと自分に言い聞かせた。
そして立ち上がってクレアおばさんの家に向かうおうとした。
・・・が、なぜか前に進まない。なぜ??
不思議に思い、後ろを振り向くと先ほどの猫が鞄のショルダー紐に尻尾を器用に巻き付け引っ張っていた。
猫にそんな力があるのかと思うが、猫は想像以上に力持ちである。
いったん鞄を地面に下ろして猫を抱きかかえようとしたが、するりと逃げられ鞄を持って反対方向に走り出した。
「あ!!待って!!」
鞄には大切なお金が入っている。ここで取られるわけにはいかない。
しかも相手は猫だ。猫にお金が必要なわけないじゃないの!
そんなことを考えながらどんどん行ったことのない知らない道を突き進んだ。
「もう~~待ってよ~~!!」
**この先進入禁止**行方不明者続出地域**
**熊が出ます**
いきなりこんな看板が目の前に現れた。
それなのに猫はおかまいなしにどんどん中に入っていく。
バッグの中に大切なお金が入っているから取られてはならないと必死に猫を追うマリア。
木々に蔦が生え、草はボウボウに生い茂り、茂みのどこからか確かに熊も出そうな雰囲気だ。
さらに猫を追いかけていくと、急に拓けた場所に小さな家があった。
窓にカーテンはかかっているし、煙突からは煙も出ている。
明らかに人が住んでいる形跡がある。誰の家だろうか?
すると突然猫がその家の開いていた窓目がけて飛び込んだ。
よし!もうこれで捕まえられる!!
「あの~~すみません~~どなたかいらっしゃいますか?」
マリアはこの家に人がいることを願い声をかけた。
ガチャ
「やあ!待っていたよ。さあ、入って!」
出てきたのは、マリアが見たことのないほど眩い光を放つごとく美しい青年だった。
20歳くらいだろうか?髪はブロンドに輝き、瞳は薄いゴールドの輝きをしていて吸い込まれそうになる。
言葉を放つその唇は艶を帯び、目が釘付けになった。
そう。紛れもなくマリアの一目惚れである。それくらいに青年は美しかった。
青年が沈黙を遮るように話し出した。
「僕の名前は、ガブリエル。この猫と供にここに住んでいるよ。そしてこの子はミカエル。尻尾が赤くなっているところを見ると君、吸血されたね?どう?やみつきになるでしょう?」
唐突にそんなことを聞かれてマリアは思わず赤面して俯きながら静かに頷いた。