未知との遭遇
トゥルルルルルルル~~トゥルルルルルルル~~
どこか遠くからかすかに聞こえてくる無機質な音。
それが電話であることに気づいたのは、猫のミルクティが鼻を舐めてきたからだ。
真っ白でふわふわの毛、片方がブルーでもう片方がグリーンの瞳を持った私のかわいい猫。
トゥルルルルルルル~~トゥルルルルルルル~~
「ん~~~誰よ?人がせっかく寝てるのに~~!もしもし~どなた?」
「どなたはないでしょ?マリアちゃん!今月の家賃まだもらってないんだけど?」
「あ~~~!!クレアおばさんごめんなさい!!今から持っていこうと思っていたところなんです~」
「今日は私、午後から出かける用事があるから早めにお願いね」
「はい!今から向かいます!!それでは後で~」
電話を切ってからふと時計に目をやるとすでに10時をまわったところだった。
よっぽど疲れていたのかしら?普段は6時に目が覚めるのに・・・・
急に背後に視線を感じて振り返るとミルクティが悲しそうな瞳でこちらを見つめていた。
「あ!ミルクティ~ごめんね。おなかすいたよね?」
空っぽになった陶器のお皿に昨日買ってきたばかりのキャットフードを補充すると、掃除機のような勢いで吸入するように食べ始めた。
そんなミルクティをしばらく見つめていて我にかえった。
「いけない!早くクレアおばさんに家賃払わないと~~」
急いで身支度を調え、お気に入りのバッグにお金を入れて家を出た。
さすがに10時も過ぎると太陽の影響は絶大だ。
少し歩いただけでも額に汗がにじみ出るのがわかる。
なるだけ木陰を歩くように影を追いながらクレアおばさんの家に向かう。
クレアおばさんの家は、森を抜けた先にある。
その森は、夜な夜な人や動物を襲い、血を吸っては殺す伝説の獣が住むという噂があった為、誰も近づくことはなかったが、クレアおばさんの家に行くのは森を通る道しかない為にいつもこの道を利用している。
昼間でも薄暗く木の陰から何かが出てきそうな雰囲気が立ちこめていてそんな伝説も生まれそうだ。
いつものように怖い気持ちを誤魔化すために歌を歌いながら歩いて行く。
この森で歌うと木々に反射してエコーとなり、自分の声が美声になって聞こえるのでまんざらでもなかった。
森に入って真ん中にさしかかる頃、いつもと違う空気に気づいた。
いつもならこの場所は大きな岩があり、そこに太陽の光が当たることで一種のスポットライト効果があるはずだ。
普段はここで立ち止まって歌手気分で歌うのだが、今日は光が当たっていない。
そして側にあるクヌギの木でも今日は鳥達が歌っていない。静かすぎる。何かがおかしい。
一抹の不安を感じながら足早にその場を立ち去ろうとしたその時!!
ドサッ!!
クヌギの木から黒い影の何かが落ちてきた・・・ような気がした。
恐がりのマリアは普段なら絶対に近づいて確認してみようなどと思わないのだが、今日は違った。
何かに導かれるように影の存在を確かめたくなったのだ。
震える足で恐る恐る近づき、緊張と不安で高鳴る鼓動を感じながら影を見つめた。
「これは・・・コウモリ?」
黒々とした背中にコウモリのような大きな羽がついていた。
でもコウモリにしては大きすぎる。いや丸すぎる。
一言で言うと・・・デブ!という言葉がぴったりな容姿である。
そのコウモリに似た黒い動物が助けを求めるようにこちらを見た。
よく見るとそれはコウモリではなく猫。しかも羽が生えている猫。
くたびれていて毛はボサボサなので余計に太って見えるのかもしれない。
その時、マリアはもっと不思議なことに気がついた。
「あ!尻尾の先がハートになってる!ちょっとかわいいかも♪」
女というものはハートの形にひどく惹かれるものだ。
マリアも例外なくやはりその愛らしい形に惹かれてしまった。
羽のある黒い体についたしなやかな尻尾の先に白いハートがついている不思議な容姿。
マリアは怖いという気持ちもなくなり、この猫を触ってみたい衝動に駆られた。