君、生きることなかれ
「ここらへんかな。」
俺はあの怪しい依頼人、二方芭蕉の言っていた場所に来ていた。ここにターゲットが居るようだ。
「工場・・・かな?」
こんな世の中になっても工場は未だにある。しかし、数は少なくなっているので結果的に工場を見ることは少なくなった。
「あの~、御免ください。」
「は~い。」
工場の奥から声が聞こえる。
「あの、ここに笹川純子さんという方が働いていると伺ったのですが・・・。」
今回の標的、笹川純子。年は二方と同じで、特にこれといった事もしていない平凡な女性だ。
「ああ、純子さんですか。・・・あの申し訳ないんだけど、純子さん最近来てないのよ。」
「来てないというと?」
「休暇届も出してないのにもう一週間も来てなくて・・・。」
「はあ・・・。」
「あ!でもヘンな手紙なら貰ったわよ。」
「!それはどんな内容で?!」
「確か・・・『私は今追われているんです。助けてください。』て。でも、イタズラだと思うわ。」
「イタズラだという理由は?」
「地図が書いてあったの。でも、そこに行っても何もなかったのよ。」
「なるほど。ありがとうございました!」
「あ、申し訳ないけど純子さん見つけたら連絡するように言っておいてくれる?」
「分かりました。それでは!」
俺は工事から少し離れて、緋乃と連絡をとった。
「緋乃、手掛かりを見つけた。」
『追われている、か。・・・もしかして何か危ない事件に巻き込まれたんじゃないのか?』
「二方がそれに絡んでるんじゃないか、と?」
『ああ。そうすればあの二方の"敵意"も説明がつく。』
「なるほど・・・けど何に?二方の素性調べたんだろ?」
『ああ。何もなかった。けれども、消してる、という可能性もある。』
「そんな影響力あるかな?」
『そんなことができるのは一つだけだ。』
「政府の機関・・・。」
『ああ。兎に角、二方の素性は任せろ。今は笹川の方に集中してくれ。』
「分かった。」
俺は例の手紙の場所に行った。
「確かに何もねえな。」
そこはただの路地裏の行き止まりだった。
「こんなとこに何が・・・!!」
何もないと思っていた路地裏だったが、それは間違いだと気付いた。
それは、大きめのゴミ箱の裏からはみ出ていた。
「血の跡・・・?」
確かに治安の悪い世の中だ。だが、この量は流石に異常だった。
よく見れば、ゴミ箱の裏の壁一面にびっしりと血が付いていた。
「これはナイフなんかじゃない。銃、それも自動小銃で撃たれた痕だ。」
銃弾で空いた痕が至る所にある。
「おいおい、なんだよコレ・・・ん?」
ポケットの携帯が振動している。
「どうかした?暁。」
『緋乃先輩から伝言です!直ぐにその場から逃げてください!』
「??何故?」
『巧妙に消されていましたが、なんとか奴の素性が判りました。二方には従軍経験があったようです。そして除隊後から急に妙に念入りに記録が消されてます。』
「まさか・・・。」
『はい!奴は噂に名高い"開花者殺し"です!』
開花者殺し、まだ鎖国が始まっていない頃に国内の才能開花者を消していた才能開花者を部隊員の主とする国家の隠密部隊の通り名だ。
「けど、あれって半分都市伝説だろ?ホントかよ・・・。」
『それだけじゃないんです!笹川が消えた日から、丁度二方も学校を休んでいたんです。』
「笹川が才能開花者で、その笹川を殺すため・・・?」
『はい。そしてなにより奴、二方芭蕉は才能開花者です!』
「!!」
『除隊直前の記録を掘り出しました。才能の暴走で隊員を三人、何らかの方法で"行方不明"にしたようです。今、緋乃先輩がソッチに向かってます。奴の才能名は"花曇り"。能力は・・・』
その時、背後に気配を感じた。
「!!」
『・・・?先輩聞いてますか?先輩?!』
路地裏には、ただ虚しく携帯の破片が散らばる音だけが響いた・・・。
「高橋!大丈夫か!」
緋乃が急いで駆けつけると、そこには壁に叩き付けられた高橋、そして。
「やあ、遅かったじゃないかい。お嬢さん。」
「二方・・・芭蕉!!」
不気味に笑いながら、二方が立っていた。
「君のとこの戦闘担当も大したことないね。ただの小僧だ。才能の発動が遅い。」
「貴様っ・・・!」
「で、君が来たところでどうするのかい?君の才能は私には効かないが?」
「?!・・どうして私の能力を・・・?」
「殺害対象の事前情報を調べるのは当たり前だろ?」
「ターゲット?私達が?」
「なんだ、まだそこも解ってないのか。」
二方はまるで出来の悪い教え子を諭すように言った。
「笹川純子を殺したのは私だ。そしてもう一つ。笹川純子はサブターゲット、ただのデコイだ。メインは君たちだよ。」
「デコイだと!?」
「全く・・・彼女の才能はくだらなかったよ。"殺人曲芸師"。自分より年下の人間を自分が作った時間の圧縮された空間に強制移動させる。あの空間内では才能は使えないようだが・・・生憎彼女より年上だったもんでね。あの時の彼女の呆然とした顔、今でも覚えているよ。」
「・・・。」
「さて、そろそろ君とも決着をつけねばな。冥土の土産だ。私の才能を教えてやろう。」
「!!」
「私の才能名は"花曇り"。筆で触れたあらゆる空間、物質の封印だ。封印した物はこうやって・・・。」
二方が懐から仮名文字の書かれた短冊を出す。
「・・・短冊として封印される。中の時間は止まっている。」
「・・・つまりは筆に当たらなければどうということはない、てことね。」
「愚かな、まったくもって愚かだ。封印ができるなら・・・。」
そう言って短冊を破く。
「"解放"も出来るのだよ!!」
「!!」
その瞬間ぐにゃり、と空間が歪み、一瞬で短機関銃を構えた歩兵が十何人か現れる。
「むしろ真骨頂はこっちだ。部下を一瞬で出し、一瞬で退却させる!撃て!」
歩兵が一斉に引き金を引く。
ズガガガガガガガガッッと、銃声が鳴る。
「他愛も無い・・・所詮は子供か・・・。」
「その子供一人殺せないってどゆこと?」
「!!バカな!」
そこには無傷の緋乃崇乃がいた。
「何が・・・起こっている、貴様の才能の仕業か!そんなはずは・・・」
「お察しの通り、これは私の才能じゃないよ。」
短機関銃から放たれた弾丸、それが
「"何故貴様の手前で静止している?!"」
緋乃の手前で空中に留まっていた。
「あと一人、忘れてない?」
「まさか、あの暁とかいう少年・・・」
「正解!」
「緋乃センパアアアアイ!!!」
例の少年、暁深夜が路地のビルの屋上から飛び降りてきた。
「大丈夫ですか?お怪我は?変な事されませんでした?」
「大丈夫だよ。それよりも・・・。」
「高橋先輩、ですね。」
「・・・もっと早く来ていれば・・・。」
「いや、見たところまだ死んでませんよ大丈夫ですよ目に涙を浮かべないでください!」
「あ、すまん。」
「この歩兵はお任せを!先輩は高橋先輩を!」
「分かった!」
「先輩に刃向かう奴は全て殺す!」
「このガキがっ・・・!」
二方が短冊を銃に変え、射撃命令を出す。
「撃てえええええ!!」
大量の弾が発射されるが、一発も当たりはしない。
「何故だ!!」
「紹介が遅かったね。僕の才能は"繰り返される悪夢《Neverending Nightmare》"。能力は・・・」
ポケットから、グロックという銃を出し、立て続けに三発撃つ。
「ぐあっ!」
「ぬおっ!」
「があっ!」
部隊員の急所に当たる、すると・・・
「ぐあああっ!」
「な・何なんだっ!」
「うわあああああ!!」
「ど、どうしたんだ!お前たち!」
突然、他の部隊員も次々と倒れていった。
「・・・対象にとっての"不幸な出来事"の共有と固定です。」
「共有と、固定?」
「次に悪夢を見るのは貴方ですよ。二方芭蕉。」
「大丈夫か?しっかりしろ!高橋!」
「ん?どうかした?」
「うわあああああ!!!」
「?何でそんな驚いてんの?」
「だ、だって気を失ってて・・・。」
「ああ、それ死んだふり。」
「死んだふり??!!」
「隙をみて殺そうと思ったんだけど、暁が来て出るに出れなくて・・・。」
「・・・」
「ま、兎に角急いで暁の援護しなきゃな。アイツも持ちこたえるのもしんどいだろ。」
「頭に・・・を与えろ。」
「ん?なんか言った?」
「"我が闘争!"頭に激痛を与えろ!」
「えなんで、ぐあああああああっ!」
「この馬鹿が!さっさと行くぞ!」
「な、何で・・・。」