探索 その参
※この話の途中、すごく痛々しい出来事が起こっています。
私の描写力の不足のせいで分からなければいいのですが、わかってしまった場合は、人によってかなり不快な思いをするかと思います。
あらかじめ、ご了承ください。
というわけで、どうぞ
◇ 二階 女子組
「うーん。案外調べるところも無かったわねー」
薫のお母さんの部屋を調べた後、私達はほかの部屋も回ってみた。
「とりあえずこの二冊、どうしますか?」
「そーねー…とりあえず家主に預けておきましょう。それなら私達泥棒にならないし」
そういって、部長は二冊とも薫に渡す。
薫は一瞬だけひるんだように顔を引きつらせた。
「あ、ありがとうございます…」
それも一瞬のことで、部長は気づいていないようだった。
だけど、その返しはどうなんだろう。
「さぁて、そろそろ河上君たちと合流しようかなー」
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁっ!!!!!』
部長がそう提案した直後、野太い悲鳴が聞こえてきた。
いや、悲鳴とかそんな生易しいものじゃない。
尋常ではないことが起きたことを告げるものだった。
「い、今の悲鳴…」
「河上先輩だ!部長!」
「えぇ、すぐ行くわよ!」
私達は急な階段を駆け下りて、すぐに一階に降り立った。
◇一階 女子組
「うわ、くさ…」
「なにこのにおい…」
一階は、身の毛もよだつようなおぞましい臭いが立ち込めていた。
「ああぁぁぁぁっ!!ああぁぁぁっ!!」
叫び声を上げながら、河上先輩がこちらにやってくる。
近くで聞くと強烈な声量で、耳が痛くなってきた。
「部長!森さんに秋山さん!」
「河上君!泉君は…」
「いったん出でるぞ!やばいんだってここはぁ!!」
声を震わせながら、がなりたてるようにそう叫ぶ。
その様子は、何かにおびえているようにも見えた。
「いや、だから泉く―」
「いいから!はやく!」
「あ、ちょっと!」
河上先輩は、私と部長の手をつかんで、一気に駆け出す。
つめでも立てているのか、つかまれた腕がとてつもなく痛い上に、こちらのことなどまるで考えていないような速度で玄関に向かう。
「あ、ちょ…」
「ちょっと!河上君!とまって!」
部長が何度呼びかけても、河上先輩はそれを制して走り続ける。
「あっ!」
「部長!」
足がもつれて、部長が転んでしまった。それでも、河上先輩はお構いなしで進んでいく。
薫が何度も部長の足を持とうとしたけれど、勢いに負けて一緒に転んでしまっていた。
「部長ーっ!先輩!とまってください!」
全く聞く耳を持ってくれない。こちらが足を止めても、お構いなしに引きずって進んでいく。
「痛いイタイイタイイタイイタイいたいいたいいたいいたい!!!!!!」
道路の上にたどり着いてもそれは変わらなかった。
服を引きずる音が次第に低くなり、代わりに部長の叫び声が高くなっていく。
走る勢いに対してブレーキをかけることができないまま、部長はアスファルトのでこぼこに摩り下ろされていた。
「河上先輩!とまってください!!」
「いいからさっさと―」
「河上!とまれーっ!」
「ごふあぁっ!」
河上先輩の前に足を出し、もつれさせる。
河上先輩は部長と私の手を離して、少し先の地面に転がった。
「な、何をする!」
「それはこっちの台詞です!部長を見てください!」
そう言われ、河上先輩が初めて部長の方を向く。
服は埃まみれでしかもところどころ穴が開いている。
膝や腿に大きな擦り傷ができているようで、ずきずきと痛々しい。
それ以外にも、後ろに血が尾を引いているのが見えるだろう。
ひどい有様としか言いようが無い。
「…なんだ、これ」
「先輩がやったんです!」
「そ、それよりも森さん!あの家はやばい!聞いて―」
「いいかげんにしろ!」
人はここまで他人に無関心になれるのかと思うと、腹が立ってくる。
それをぶちまけるような語勢で言うと、さすがに河上先輩も何もいえなくなったのか、呆然とした様子で黙り込んでしまった。
「部長、大丈夫ですか?!意識あります!?」
「うっ…うぅ…。飛んでた方が、ましよ…」
「舞乃!」
呻きながらも、何とか返事を返してくる。
その後で薫が駆けつけてくる。その服はどこか埃っぽかった。
「とにかく救急車!薫お願い!私は八雲に電話かけてみる!」
「うん!」
今の部長を放っておくのは、どう考えてもまずい。でも八雲のことも気になるので、通報は薫に任せて、私は八雲のほうに電話をかける。
河上先輩は…いろいろと問い詰めてやりたいところだけど、それどころじゃない様子。今はそっとしておこう。
TRRRRR、TRRRRR…
長い長いコールの間、私は周りを見回してみた。すると周りの家から、人が顔をのぞかせていた。
あの家の臭いがこの辺にまで漂ってきたことも関係していると思う。
がちゃ
「あ、八雲!?部長が―」
『…オ前ハなんダ?』
「―っ!あんた、なんなの?!」
電話の声は、八雲のものではなかった。
それどころか人の声であるかすら怪しいような音声だ。
『お前ハ…が……ヲ妨げル者カ?』
「ちょっと、なに言って―」
すごく聞き取りにくい。合成音声だとしても、ここまでヒドイものは聞いたことがない。
背後ではくちゃくちゃという、何かが這い回るような音も聞こえてきた。
『なラば…コロ…やル!』
「っー!いやぁぁぁっ!」
言葉は殆ど聞き取れないのに、尋常でない殺気と悪意が向けられていることだけは分かった。
私はそれに返す言葉を失い、さっきの河上のようにおののき、叫ぶことしかできなかった。
…というわけで七話目でした。
いやーなんというか、それっぽくなってきたよーな、超展開なような…。
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