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探索 その弐

◇ 一階 男子組


「うーん…」


リビングを抜け、今度はキッチンに出た。

春の終わりくらいでまだ一週間しか経っていないからか、食べ物が腐ったような臭いはなかった。


「気をつけろよ、『アレ』を踏んだら失神ものだからな」

「アレって、ゴキ―」

「それ以上言うなよ。分かってるから」


静かだが確かな拒絶を示す声で河上がいう。

…結構ニガテなものが多いようだな。


「先輩、ひょっとして爬虫類とかもダメ?」

「あまり甘く見るなよ。トカゲぐらいならへ、平気だ」


すっげー怪しい。


「しっかしここの窓もがっつり割られてますね」

「それどころか、この流しもデコボコになっている。普段使いでここまでへこむことも珍しいだろ」


流しをのぞくと、確かに河上が言ったとおりシンクがデコボコになっていた。

シンクそのものは、前の主がとても綺麗好きだったのか水垢一つ無く、へこんでいなければ自分の顔がうつりこみそうだった。


「じゃぁ誰かが意図的にやったってことですか?」

「断言はできないがな。空き巣にしろなんにしろ、流しをへこませて何か得があるか?悪ガキがはしゃぐくらいだろ」

「それもそうですねー…ん?」

「どうした?」

「いや、ちょっとヘンなにおいがして…行ってみます?」

「…部長達を待ったほうがいいんじゃないか?」


またそんなヘタレたことを言う…。

俺としては気になって仕方がないから、はやく見に行きたいところだ。


「女子を連れてく前に、危険かどうかだけ判断しましょうよ」

「少人数で行った方が危険という場合だってあるだろう」

「…ひょっとして先輩、怖いんですか?」

「なっ…そんなわけ無いだろ!」

「じゃぁ、いってもいいですよね?」

「当たり前だ!いつまでも僕を馬鹿にしてるんじゃないぞ!」


そういうと肩を怒らせながら、河上は歩き始める。

…一応言いくるめることができたってことでいいんだろうか。





臭いの発生源と思しき扉の前に立つ。


「いいか、いくぞ」


河上の合図と共に扉が開かれる。すると、今まで溜め込んでいたものを吐き出すかのように、むせ返るほどの悪臭が飛び出してきた。


「うぐっ…」

「くさ…」


そこは洗面所だったが、一歩踏み込んだだけでも頭が痛くなってきた。

不快感で胃がむかむかしてくる。何かが腐ってるとしか思えない。


「口で、呼吸、しましょう!」

「それがいい。よし…」


河上と一緒になって鼻をつまみ、口をパクパクさせて呼吸をはじめる。


「ここも、鏡が、割られた、みたいですね」

「本当だな。だが、さすがにここは、やばく、ないか?」


洗面台の鏡は、ガラス片一つ残すことなく砕かれ、基部と思しきプラ板が見えているだけだった。

水盤に敷かれていた新聞紙をめくってみると、案の定きらりと光る何かが顔を覗かせていた。

シンク同様かなり執拗に攻撃したような後が見られたが、とりあえず今はこのマヌケな状態を映されなくてよかったと思う。


「臭いは、この奥から、見たいですね」

「奥は、多分、風呂場だろう?…のぞくのか?」

「のぞくも何もげほっ!げほっ…うえぇぇぇ…」


思わず鼻から手が離れ、あたりの空気を思いっきり吸い込んでしまう。

その途端に鼻がひりひりしだして、しかも一瞬くらっと目眩がした。


「…大丈夫か?」

「もんだいないでずー」


涙が出てきたのか視界が若干ぼやける。

服でぬぐって、とりあえず風呂場への、曇りガラスのドアを開けようとする。


「開かない、ですね」


が、内側からロックがかけられているのか押しても引いてもびくともしない。

思いついたのがタックルでこじ開けることだったが、俺も河上もそんなすごい勢いで、こんなすごい臭いの発信元に飛び込みたくは無い。

鍵穴は無く、『-状のくぼみ』があるタイプだった。


「このタイプなら、マイナス、ドライバー、みたいのがあれば、開きそう、なんだが…」

「それなら、あそこです。ちょっと、ついてきて、ください」


そういって、俺はもう一度キッチンに向かう。そして、適当にあさって…


「ぱんぱかぱーん。スプーン、フォークーに諸々役に立ちそうなものー」

「それをあてがってやればいいな。よし、戻ろう」


再び洗面所。


「よし、ちょうどいいな…」


河上がスプーンの側面をちょうどあてがって、鍵を回す。

かちりと音がして、洗面所のドアが開錠される。


「まず、僕が入る。泉は、次に―」


ぐしゃぁっ…


河上が突入を試みようとした途端、何かがつぶれたようないやな音が聞こえた。

音の発生源は、ちょうど飛び込もうとした風呂場からだ。

ドアの曇りガラスのせいで内部はよく見えないけど、ぼやけたシルエットがうごめいているのが見えた。

そのシルエットは名状しがたいもので、およそ人間のものにも見えないし、ましてやほかの生物のようにも見えなかった。


「……」

「……」


床を這うような音を立てながら、そのシルエットは次第にかすんでいく。

やがて、奇妙な静けさがこの場を包み込んだ。


「…さ、いきましょう」

「ムリムリムリムリムリムリムリムリムリ!正気かおまえは!?」


俺の提案に、今まで石のように固まっていた河上が猛烈に反対する。臭いはもう気にならないらしい。


「いやだって、調べないことには、始まらないでしょう?たいした、収穫もないし、部長に殴られますよ?」

「だからってここを調べなくたっていいだろ?!」

「じゃぁ、俺だけでも、行きます。河上先輩、お達者で」

「ば、バカいうなよ!おまえ一人でいかせられるわけないだろ!?あーわかったわかった、しょーが無いから見ててやる!ここでな!」


どうしても入りたくないらしい。仕方がないので俺がドアを開け、風呂場に突入する。

浴室はそう大きくはなかった。いまどき珍しいのかはよく分からないけど、浴槽はホーロー製だった。

床は石タイルだったが、あたり一面なにかの液体で汚れている。


「臭いの原因は、コイツ、ですね…」


触ってみると粘性が強く、まるでスライムのようでいて、しかも強烈な悪臭を放っている。


「な、何かの体液的な何かじゃないよな?!」

「先輩、ビビりすぎ、ですよ」

「お前がビビらなすぎなんだよ!?分かってんの?!」


強烈な臭気が指に移りそうだったので、手早くシャワーで洗う。

河上の言ったことが気になったが、こんなに多く体液を撒き散らす生き物なんているわけが無い。


いるわけが無いんだ。


「…浴槽も、見てみますか?」

「いいからさっさっとしてくれ!はやく戻るぞ!」


粘液で滑らないように気をつけながら、俺は浴槽のところにたどり着く。

幅は、大の大人が体育座りしてやっと全身が入るといったぐらいだろうか。

どちらにしろ、小学生ですら窮屈に感じそうな浴槽だった。

おもむろにフタをあける。


「泉!後ろ!後ろ!」


そこにあったものは―


「鶏が―」


ふたを開け中身を認識した瞬間、急に視界が反転する。

だんだんと意識が遠のいていく中、目に入ったのはこの世のものとは思えないほどの叫び声を上げながら、ケツまくって逃げていく河上の姿だった。

やっとクトゥルフっぽいものを盛り込むことができたような気がします。

…あんまり描写に自信ないです。ギャグっぽくなっちゃいましたし。

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