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探索 その壱


そして日曜日がやってきた。

新聞部の四人はいったん舞乃の家に集合し、薫の案内で秋山家へと向かう。


「あ、つきました。ここです」


新聞部の主な移動手段は自転車。柳田部長曰く『記者は足を使ってナンボ』とのこと。

使い方が違う気がしなくもないが、八雲にとっては特に文句の出る話でもないので黙っている。


「さて、これがその奥さん失踪があった家ですかー」

「それよりいいんですか?我々みたいな部外者が関わっても…」


気を遣うように、河上が薫に尋ねる。

薫はなんでもないよ断ってから、こう続けた。


「結局警察にもいってないし、こういうのは誰かに見せちゃった方が案外すっきりするもんだろうし」


問題の家は、いまどき珍しい庭付の木造住宅だった。

どこの悪ガキの仕業か分からないが、主がいなくなったのをいいことに窓は割れ放題、あまどいも妙にゆがんでいる。

少し中をのぞくと、庭にはかなりの量の雑草が生えているが、殆どは背の低いものだったので、最近になって生えたものだと推測できる。

それだけに、雑草の成長の早さに舌を巻くばかりだ。


「なんていうか、すごく昭和テイストだよね」

「サ○エさんちみたい。屋根はトタンだし、二階があるけど」

「さてと…よし!行きますか!」


柳田の合図によって、五人は家の中へと入る。

薫が玄関口を開ける。玄関マットには靴底型の汚れがはっきりと残っていて、それは家の中を向いていた。


「これって、空き巣の跡かな?」

「さぁ…ちなみに家を空けるとき、貴重品の類は?」

「持ち出せるものだけ持ち出しました。へそくりとかもあるんでしょうけど、さすがに分からなくて…」

「預金とかは?」

「米さんに頼んで全部引き出してもらいました」


先頭に近い河上がそんな風にアレコレ聞いているものだから、五人は玄関で立ち往生していた。


「河上くん。確かに大事なことだけど、今は探索にきてるのよ?」

「だからって、看過していい話でもないでしょぅ?」

「かーわーかみーくーん。私達は、探索に来てるの。いい?」

「…分かりましたよ」


柳田の圧力に、さすがの河上も膝をつく。

八雲はその様子に、空恐ろしいものを感じた。


「二組にわかれましょう。薫さん、部屋はどちらに?」

「二階にあります」

「じゃぁ男子は一階、女子は二階ね。探索開始!」

「「「わーっ」」」


おのおのが持ち場へと蜘蛛の子を散らすように向かっていった。


『ぶちょー!こっちこっち』

『あぁ、ごめんなさい』

『泉、君が先頭な』

『えー。少しは先輩らしいトコ見せてくださいよ』


「…緊張感ないなぁ」


学生が持つ特有の雰囲気の中で、薫はそう呟くのだった。



◇ 一階 男子組


「で、どこから調べてみます?」

「そういったって、僕たちはどこに何があるかもよく分かってないんだぞ」

「なら、適当に歩き回るほかありませんね」


俺は河上を置いて先に歩き出す。

奴は待てよと慌てながらこちらについてきた。


「しかし、一週間も不在だったのに、あんまり埃っぽくないですね」

「それだけ家主が掃除していたということか、あるいは一週間以内に誰かが通ったってことじゃないのか?」

「誰かって?」

「たとえば、さっきの足跡の主とか」


河上と話をしながら、とりあえず明るい方に向かってみると縁側に出た。

風雨防止のためか、外との境には窓があったが、外から見た通りガラスというガラスが割られていた。


「見事に全部割れてますねー」

「いや、よく見るとすりガラスだけ割られていないぞ…。よっと」


おもむろに引き戸を開け、河上は外に出た。

ちなみに今は土足だ。薫から許可は得ている。


「あ、逃げないでくださいよ。部長にチクりますよ」

「逃げないよ…っと、あったな」


そういって河上は庭にかがみ、目的のものを拾い上げる。


「これ、ガラスの破片じゃないですか」

「縁側があんまりにも綺麗だから気になってな。普通、空き巣とかなら窓は割りっぱなしじゃないか?」

「じゃぁ、内側から破られてたってことですか?」

「そーなるのかな?とにかく、結構な量の窓が割られているわけだし、単純に空き巣だけで終わらせられないかもな」


内側から割られてるのであれば、ガキが石投げたとかも違う。

何かの意味があるんだろうか…


「ま、アレコレ考えてみても埒が明きませんねー。移動しましょう」

「そうだな」


俺達はまた適当に歩き始める。

すると今度はリビングにでた。


「ここは…あんまり調べるものもなさそうですよ」

「いろいろ持ち出したといっていたしな」


なかなか殺風景な部屋になっている。

河上は本棚の方に向かう。俺はざっと周りを見渡す。

やっぱり窓ガラスが割られているほか、なぜかビデオデッキの扉もはずされていた。


「蝶番だけ残ってるって言うのも、何だか変な話ですね」

「本は…まぁ普通の料理のエッセー本とかそんなだな」

「進みますか?」


あぁ。

俺達はさらに奥に進んでいくことにした。



◇二階 女子組



「よいしょっと。相変わらず急だよね」

「家屋が古いから、しょうがないのかも」

「マンション住まいじゃありませんでしたっけ?」

「ここ、母の実家なんです」

「なるほどねー」


八雲たちと別れて、私達は二階に来ていた。

薫の家の構造を簡単に話すと、一階にはリビング・キッチン・風呂などが置かれていて、二階はホテルみたいに長い廊下からそれぞれの部屋に入っていく感じになっている。

階段上ってすぐの場所にははめごろしの窓があるんだけど、全部割られているみたいだった。


「落ちたら危ないですよ」

「分かってますって。さて、じゃぁどこを調べましょう?」

「そういや薫、部屋の荷物って全部もってっちゃったの?」

「うん。米さんも半さんも、文句言いながらだったけど手伝ってくれてね」

「そうなの?じゃぁいきなりクライマックス!奥さんの部屋にいきましょう!?」


部長はやけにノリノリだ。普段はやさしいんだけど、なんていうか火がついたらとまらないタイプの人。

場所も分からないまま、おもむろに近くの部屋に飛び込んだ。


「あ、私の部屋…」

「部長、こっちですよ」

「あ、ごめんごめん」


部長を呼び戻して、廊下を奥へ奥へと進む。

途中で曲がり角があるけど、後は特に分岐も何もない。

その最奥の部屋が薫のお母さんの部屋だった。


「あら、意外と小奇麗にまとまってるわね」

「意外とって…。『たつとり跡を~』的なヤツじゃないんですか?」

「いえ、母は元から綺麗好きでしたのでいつもこんな感じです」


ざっと見回してみると、部屋の中には『エアロバイク』『本棚』『鍵つき引き出しのあるデスク』『新聞紙に包まれた何か』『たんす』他、ソファやベッドなど調度品一式がある。そのどれもが家の外観には似合わないほど高そうなオーラを放っていた。

薫の返答に、なるほどーとうなずきながら部長は、おもむろに本棚の中をあさり始めた。


「えーと、『古文書訳解』、『六法全書』、『一ヶ月で10キロやせるには』…」

「部長、いきなりなにやってんですか」

「いやね、こういうのは日記みたいのがあるといろいろ分かりやすいでしょ?だからこの辺かなーって」

「…普通、日記は鍵のかかった引き出しの中とかにありそうですけどね」

「それもそっかー…よし。ぱんぱかぱーん!」


そういって部長は『バールのようなもの』を取り出して(…どこにしまってたんだろう)、周囲を全く見ていなかったらしく、あたりを見回した。

すると目的のものを見つけ、そこに小走りで向かった。


「えーと、あーしてこーして…」


部長はバールのようなものを引き出しと机の間にあてがい、てこの原理の応用でこじ開けようとした。

…ちなみにバールを常時携帯するのはいろいろと危ない人だから、ばれたら警察に連れて行かれます。ご注意ください。


「よっ…あれ?」

「鍵、開いてたみたいですね」

「なんだよー面白くないなぁ」


口を尖らせながら、部長は机の中をあさりだす。

その背中は手際のよさといい、泥棒か何かにしか見えない。


「えーと…あったあった!それっぽいヤツ!」


部長はそういって、日記とか手帳というよりは、本に近い書物を取り出した。

よほど粗雑に扱われていたのか、その本は修繕跡と思しき縫い目や、黒いしみのようなものがたくさんついていた。

表紙にいたっては、それらが人の顔のように見えてかなり不気味だった。


「確かにアレっぽいですけど、日記じゃないと思いますよ」

「まぁまぁそういわないの。えーと…あれ?」


本を開いたとたん、部長の目が丸くなる。

とりあえず駆け寄ってみると部長が困ったようにこちらを向く。


「…読めない」


そういって私に本を渡してきた。

本は…何の革だろう?見た目の割りに張りがあってきめ細かい。

それに、すこし湿っているような気もしたけど、とりあえず出されたページをのぞいてみる。


『◇ν○×○△ЭДЭ3□◇▽…』


とまぁ、象形文字のようなアラビア系文字のような、とにかく日本語ではない言語でかかれ―

…あれ?


「『立て、名無きものどもよ。汝が時きたりなば、汝によりて選ばれし我らは…』」


ほんの一瞬目の前が真っ白になったと思ったら、目の前の文字が読める…というより、分かるようになっていた。


「え?!舞乃読めるのこれ!?」


部長よりも真っ先に、薫が大声で問い詰めてきた。

その顔はひどく緊張していて、眉間にしわがよっている。


「うーん。読めるというよりも、分かるってかんじ?なんとなく、こうじゃないかなーって」

「…そう、なんだ…」


そういって、薫はすぐに顔を背ける。その背中は震えていて、何かにおびえているようにも見えた。


「すごいわねぇ。…でも、その字面を追う限りだと日記とは違うみたいね。ほかのところ探して見ましょうか」


とりあえず本を机の上において、部長はもう一つあった鍵つきの引き出しにバールのようなものを引っ掛ける。


「うーん…」


今度はちゃんと鍵がかかっていたらしく、こじ開けるのに少し時間がかかった。

ぐしゃっという缶がつぶれるような音を立てながら、引き出しが開いた。


「えーと、今度は二冊あるわね。薄いものだから、多分どっちも日記じゃないかしら」

「一つはまぁ薫のお母さんの日記だとして、もう一つは…」

「多分、お父さんの日記です」

「あぁ例の。じゃぁ、後でよんでみましょう。とりあえずもう一つは…」

「あんなにこだわってたのに、えらくさっぱりですね」

「とりあえず、皆で集まってから読もうかなって。それよりも…」


部長はそういってある一点を向く。つられてそちらを見ると、『新聞紙にくるまれた何か』があった。

縦に長く、そしてあんまり厚くはない。何があるかはなんとなく想定がついた。

部長が、新聞紙を留めていた紐をほどき、一枚一枚はがしていく。

思いのほか厳重にしまわれていたらしく、鏡面が見えたころには、床は新聞紙だらけになっていた。


「…鏡、よね?」

「大丈夫。鏡です」


私としては、この部屋にあるものは大体豪華な感じなのに、この鏡だけ妙に安っぽいのが気になった。

まるで、大きな鏡なら何でもいいという感じだ。どうして―


「あ」

「どうしたの?」

「いや、この鏡妙に安っぽいなーって思ってたんですけど、どうしてそう感じるのかなって思って」

「何か分かったの?」

「はい。この鏡、鏡面には傷一つ無いんですけど、フレームとか足とか傷がいっぱい入っているんです」


私がそういったとき、薫の顔が一瞬ゆがんだような気がした。

それが意味することはよく分からなかったけど、さっきから妙に落ち着きが無い。


「…この傷の付け方、ただ事じゃないわよね」


足は若干ゆがんでるし、塗装もはげている。おまけに切り傷のような跡が。

ほかにも、鏡のフレーム部分は不自然にへこんでいる。


「なんていうか、このフレームのへこみ方、どうかんがえても鏡面を殴った時に、一緒につくような感じよね…」

「そういうの詳しくは無いんでなんともいえないんですけど、なんか不気味な感じがします」

「…元通り封印しておこうか」


部長の提案に、反対するものは誰もいなかった。

探索パートっぽく書いてみようと思ったんですけど、どうでしょうか。

如何せん『ニワカ』の域を抜けない程度の知識しかないため、文面等々は『クトゥルフ神話TRPGやろうず』のWikiのほうから引用したりしています。

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