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大物狩り

 糸の方陣が四方から迫る中、クルナは姿勢を低くし獣のように這いながら僅かな隙間をかいくぐっていた。

 芝生に降り立ち隙を伺うものも、幾重にも張り巡らされた蜘蛛糸のせいで防戦一戦を強いられていた。

 飛び道具類を持たず、又は上手く扱えない自分にとっては近づいての一撃を与えるしかない。

 だがしかし、攻撃に展開してくる糸の束の他にも、まるで結界かトリモチのように何重にも束になった糸が壁になっている。

 騒ぎを聞きつけて誰か来るかを考えたが、不確定要素すぎるので頭の中から即排除した。

 以前、ネイが放った擬人が暴れた際も、表通りの人間にさして気にされない程である為、外部から救援や通報人が来ることはない。

 そこまで相手が考えているのか分からないし、クルナ自体その事を知らない為あまり意味のない情報であるのだが。

 大量の爆弾でも炸裂させれば通報の一つもあるのだろうが、周囲を無人のビルに囲まれ、そもそも厄介ごとに極力関わらないのが利口なものが平常運転なのでもしかしたら誰もかれも争いの音を聞いていてもスルーしているのだろうが。

 訓練所の壁に向かい走り、弾丸が何発も撃ちこまれた跡のあるペンキで的が書かれた壁を蹴りあがり空に上昇する。

 屋根に昇り疾走、前方から迫る糸の束を身を捻りながら回避する。

 フォーロ大森林で似たような敵と戦った経験はあったが、あの時は乱立する木々を障害物としたり隠れる場所が多かった為まだやりようがあった。

 しかしここは、狭いうえに見通しの良すぎる空間では、地の利というか、大規模の物量で戦場を掌握している敵にアドバンテージがありすぎる。

 「………」

 何故ランザ殿の事務所に異種がいるのかは分からないが、敵はこちらに狙いを定めている。

 ランザ殿が異種となにかしらの縁があるということなのか、それとも地下から這い出た異種が自らの巣を家主のいない間に造り始めたということなのか。

 お客様という言葉から、誰かが来るのを予想していたという訳なのか。

 言葉を発するということは、あの人型の部分から考えてある程度知能があると見ていいのだろう。

 聞きたいことが幾つか出来てしまったうえ、こんな街中で異種が出て来ては問題だという考えがクルナの中から一時徹退という意見を覗いていた。

 自分の偽物が現れていた件といい、勘ではあるが決してこの状況はなにかしらの繋がりというか、関係があるはずである。

 なんにせよ、勘という選択肢に頼る行為は個人的に大好きだ。

 「なんにせよ、糸をなんとかしないとだな」

 ポーチに手をいれ中を探る。有用なものが幾つかあった筈だ。

 「取り敢えず、火事だけは気を付けないと…」

 目的の物を見つけ握りこみ、親指の爪を球体上の物体に突き刺して投擲。

 糸の壁に向けて投げつけたつもりが、狙い外れ展開されていた太い糸の束に赤い球体が激突。

 湿った音をたてたと同時に、焦げ臭い臭いが漂い発火。

 赤々とした炎が、糸を勢いよく燃やし展開されていた結界同士燃え移っていく。

 察した蜘蛛型の女異種は糸を切断し燃え盛る部分を切り離すも、燃え落ちた糸のあった場所は他と比べ突破しやすいかくらいには隙間が生まれた。

 珍しい物がとれるのは、なにもリスムの地下道のみではない。

 リスムでは衝撃を加えると爆発する鉱石が見つかり、改良され機械矢や炸裂弾の素材となっているように、フォーレの森にも存在する新種をクルナは重宝していた。

 森林火災がおきても、燃え尽きない樹木が存在する。

 赤々とした幹を纏い、紅葉のように明るいオレンジ色をした葉を生い茂らせるコモの木という不思議な植物が存在するのだ。

 この木がつける果実は、小さくて手のひらサイズであるのだが、口に含んだ瞬間甘美な甘みを一瞬だき口内に解き放った後発火を始め食べた動物や人間を焼き尽くしてしまう。

 体内に入った果実の種が、炭化した生物の死骸を栄養とし芽吹き、徐々に仲間を増やしていく危険な生態の植物だ。

 それを加工し、旅先で火が必要な時に使える燃料として一部の冒険者には重宝されている。

 いささか火力が高すぎる為、その火力を利用し獣や敵に投げつけることさえ可能だ。

 普段は野宿時に薪に放り込むくらいだが、こういう敵には効果的である。

 自らの、ノーコンさに目を瞑ればの話だが。

 「へぇ…なかなかどうして、便利な物を持っているものねぇ」

 「未開の地の知恵から出来た道具だ。

 なに、最先端の物には利便性という面で考えれば、流石に劣るというものだ」

 取扱い注意の代物な為、あまり多くは携帯していない。

 今投げたのを覗けば、残りは3つ。

 どうしても火種が見つからない時や、緊急自に火が必要となる時に使う物の為多く持ち運ぶものではないし、衝撃吸収パックの中にいれているとはいえ、敵の攻撃が当たったりしたら下手をすれば荷物全部と自らが丸々燃えてしまう可能性すらある。

 そしてなにより、この身体は火が苦手なのだ。

 苦手な火に煽られて苦しむ愛玩生物の姿は見たくはないというものだ。

 「今すぐこの糸の結界を全て解除しろ。さもなければ、もてる火力を尽くして貴様を燃やし尽くしてやるが…いかがだろうか?」

 「逃げ出すのも魅力的な提案ではあるけどねぇ。

 一応、ここに居座る意味はあるし、ハイそうですかと帰る訳にもいかないのよ」

 「居座る理由か……貴様は、ここの家主となにか関係があるのか?」

 「さあどうなのかなぁ。メロンソーダ半年分くれるなら答えても良いけどなぁ

 ブツを勿論先払いでね」

 話にならないことを確認。

 ポーチに手を突き入れ、残り全てのコモの身を握る。

 下手な投擲術で一個ずつなげつけるより、数に頼りまとめて投げた方が一個くらいはあの糸の壁に当たるのではないかという期待からの選択である。

 更に投げ込むのであれば、なるべく近くまで近づいておきたい気分もある。

 幾ら下手くそとはいえ、おもいきり近づいてしまえばそこそこの命中率くらいは期待しておいてもいいのではないかと思える。

 「選択は悪くは無いよ~」

 蜘蛛が喋る。

 狙いは見えている、とでも言わんばかりの言葉だった。

 「これを突破出来るのならばね」

 指揮者のように手をあげた瞬間、糸の壁の向こう側から大量に人面の背をした蜘蛛が這い出てきた。

 平家蟹と呼ばれる人面に似た甲殻を持つ蟹はいるが、ワラワラと湧いて出てきた蜘蛛は文字通り人の頭から八足が出た異形の存在であった。

 「これは…悪趣味な生き物がいたものだ」

 「あら酷い、可愛いと思わない?

 ……あと、貴女に趣味悪いと言われるのだけはけっこー心外なんだけどなぁ」

 「……ふむ、なにに対して悪趣味と言われているのか知らないがね」

 自分自身悪趣味とは思わない(まあ、なるべく思いたくはない。世間の常識とか評とかはどうであれ)が、この身体の中の物に対して悪趣味と言うことを言ったのであれば油断ならない。

 この蜘蛛は、どこかで自分の情報を掴んでいるのだ。

 情報の精度がどこまでかは知らないが、そういうことになるのなら油断が出来る相手ではない。

 まあ元から、異種や異形相手に戦う場合は油断等したら一瞬で来世への旅立ちとなってしまうのだが。

 だがまあそれにしたって、目の前の蜘蛛の異常な表情や、殺してくれだの狂ったように笑っている様を見れば、この蜘蛛に負けてしまえば平穏な来世には旅立たせてはくれないだろうが。

 似たような種族を知る身としては、この程度の状態変化で動揺はしないが、この顔蜘蛛達は対戦相手の心理を抉るにはかなり効果的であるのだろう。

 カサカサと蠢きながら苦痛を言うあたり、フォーロの森の人面果実と比べてしまえば、此方の方が最悪ではあるのだが。

 「まったく、話に聞いた水溶生物に黒騎士に人形遣い。リスムは化け物だらけか」

 飛びかかる蜘蛛を手刀で殴殺。

 背後に下がり足技で後続を叩き潰しつつ更に下がる。

 下がり続けるとこの狭い演習場、すぐに背後の事務所の壁に背中をつくことになるが、大きく跳躍し壁に足裏をつけ飛び上がった。

 「頭がおかしい分、指揮系統もイマイチのようだな」

 「自由意思を尊重しているものでねぇ」

 

 

 

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