蹂躙
黒騎士メタス。
中世期に第一線で活躍していた重装歩兵の兵装に酷似した、黒鋼の重鎧を装備した地下第三層の主。
戦場における一騎当千の時代はとうに終わりを告げた、時代外れな悪夢の存在。
アタシの額に冷や汗が流れる、状況は最悪だ。
メタスの眷属である黒鋼騎士団と戦う時の定石は、火力の高い遠距離武器で関節部分を狙い行動を妨害しつつ近距離戦の破壊力で腕や足を破壊して敵の攻撃手段を奪う事が推奨されている。
何故なら、連中は毒ガスや麻痺等を受け付けず、頭を跳ばしても平然と進軍を続け戦う異常な耐久力を持つ敵だからである。
彼等の鎧の中は中身が無いのだ。豚鬼が武装しているのでなければ、肉蟲が鎧内部に巣食ってりる訳でもなく、躯すら内部に納められていない。
化学と科学が発達し、人工的に不死者もどきを作り、四精霊や八大聖霊を討滅や隷属にまで追い込む程人類の進歩しても、連中が何故動き人類に攻撃してくるかは未だに判明していない。
そんなオカルティックな相手と戦うならば、寺生まれに青白い光弾を放ってもらうのが一番効果的であるだろうが、生憎この場にそんな能力者がいなければアタシも寺生まれではない。
手持ちの武装の内、サブマシンガンは効果は期待できないだろう。外を見る為の覗き穴に弾丸をぶち込んだところで意味が無い。
効果を見込めるのは、散弾銃のマスターキー(破壊力のみに特化した専用スラック弾)か竜狩りの為に製造されたクルセイダーしかない。
どちらもあの大盾の前では意味をもたないだろが、関節部分や武器を持つ腕にぶち込めばなんとかなるかもしれない。
メタスの足元には、あの人面蜘蛛以外にも多種多様な蜘蛛の異種の死骸が転がっていた。
蜘蛛の糸というのは、案外頑強で柔軟性があり、鉛筆並の太さまで束ねれば飛行機すらからめ捕ることができると言われている。人工的には、遺伝子組み換えをした羊からある程度の太さの蜘蛛の糸の生産を試し成功しているくらいだ。
鉛筆どころか、鉄パイプ並の太さを生成するアシダカのような異常種をはじめ、リスムの異種は地上の蜘蛛とは糸の粘着性や頑強度が違う。
だがしかし、この相手には無意味だった。
糸どころか、お得意の毒でさえ無機物の怨霊には通用しない。
まさにメタスは、蜘蛛種の天敵という訳であろう。
ニナの援護はあまり期待は出来そうにない、そもそもアタシは彼女が戦っているところを見たことないので戦力として計算し辛い。
ならば、回れ右して逃走してはどうか?
上手く不意をつけば、逃げれるだけの算段がつくれるのは、以前の遭遇で経験積みである。銃器てんこ盛りとはいえ軽装のアタシが、重装兵相手に速さで負ける訳にもいかない。
だがしかし、逃げる訳にもいかない。
ディーネ、アイツの存在が脳裏をちらついた。
ディーネは逃げてきたといった。恐らく地下第三層辺りからだろう。
何故メタスがディーネを追い掛け回すのかは分からないが、状況証拠から考えてディーネはメタスから逃れて来たという考えは間違いないとは思う。
アタシ達を襲い、最後はメタスにも襲いかかった大量のスライムの存在は謎だしまだまだ疑問は多いが、取り敢えずそれだけはアタシの中では確定済みだ。
メタスがディーネを追いかけたとして、ここでアタシが逃げれば間違いなくメタスは隠れ家に向かうだろう。
するとディーネはなりふり構わず逃走し、地下から地上に出て大衆の目に止まる。
恐ろしい殺人スライムと先輩やアタシとの関係性は白日のもとにさらされる。
ディーネ行方不明の時、彼女の写真を一応警察にも提供していたので、そこから芋ずる式だろう。
先輩とアタシは、また居場所を追われる。
二回目だ、あんな経験は二回もしたくないってのに。
「……は」
思わず頬が緩んだ。
あんな体験を二回も繰り返さない為には、目の前の存在を薙ぎ払えば良い。
簡単な話だ、実に単純な話だ、百万の聖教軍相手を押し返し故郷を取り戻すよりはよっぽどに。
「百万の軍隊蟻の駆逐より、一匹の巨象を殺せば良いだけの話しッスね」
アタシは馬鹿だから、兵站だの、軍略だの、士気向上の方法だの、兵隊の集め方だのは分からない。
思い切り動き回って、撃って撃たれての単純明快なので充分だ。
「ニナ、前衛は張れるッスか?」
「こ、心得がない訳じゃないけど無理無理無理。
近接戦最強の主相手に打ち合うなんて正気の沙汰じゃないからね…。
アレと対峙するなら、豚鬼並の筋力と森耳族並の技量がないと流石に不可能だよ」
「要は、アズくらいの体格と実力が必要ってことッスか。
いやいや泣けるッスねー。こちとら後衛となんの役に立つか分からない雌異種しかいないってのに」
自然と口角が上がる。
笑え、笑え、笑え、笑え、笑え。
残酷に対峙するには面白おかしく、死神に対しては小馬鹿にするように、襲い来る敵には嘲笑しながら。
笑いは恐怖を萎えさせ、楽観的な気分にさせる。
聖教国相手に戦うには、物量とか人員の差を考えたらまともな思考ではやってられない。
かつて収容所にいたアタシが浮かべていたのは現実逃避の笑顔であった。
絞首刑のスイッチを押さされ、死にかけの同類のトドメを刺さされ。獣の性臭漂う部屋の清掃をさせられ、生きるていながら死んでいる人間をゴミ捨て場に捨てられ、笑顔で人を殺せと言われ、心からの笑顔で親友を食べ。
明日は我が身、明日は我が身、明日は我が身、明日は我が身、明日は我が身、明日は我が身と指折りながら週を数え、『クソな亜生だ、笑いながらせいせいしたと死んでやろう』と心に決め。
そしてその上に、ランザ先輩が浮かべていた、全てを小馬鹿にした戦場の笑みが加わった。
何時からか呼ばれた、狂笑いという渾名は好きではないが嫌いでもない。
「雑魚掃除ご苦労様ッスよウスノロ、このセルシィ・アズ・ドラゴニクス様がエクソシストに変わり鉛弾で成敗するッス」
メタスが大盾を全面に出し突撃を開始する。
一歩一歩が凄まじい音を発しながら迫る様子は、さしずめ戦場で景気づけに突撃する巨鬼のようだ。三メートルある巨人や巨鬼と比べると明らかに小さいのにその圧力は負けるどころか勝っている。
「作戦二十二とか、四十三とか言って通じるッスか?」
チラリと後ろを見たら、ニナは影も形も消えていた。成程、死に急ぐよりゃマシって話か。
「……ああもう!別にアテにゃあしていないッスよ!」
逃げたい気持ちは分かる、それでもってアタシはアイツを信用していない。だが幾らなんでもこのタイミングで少しくらいは抵抗しないで逃げるとは予想外だ。
ランザ先輩にまぬかれたくらいだから、少しくらいは期待していたのだが完全に失敗した。
装甲を纏う前面には鉛玉など無意味だ。
尻尾を地面に突き立てバネにして大ジャンプし、大振りの横薙ぎを回避。
天井を覆うパイプを掴み、腰からサブマシンガンを引き抜き試しに頭部に乱射する。安定感くらいは奪えるかと考えたが、ふらつきもせずその大剣の切先を後ろに向けた構えをとった。
まるで円盤投げのようなスタイルだ。嫌な予感がして腕の力を引き絞りパイプの上に昇りそこからジャンプして離れる。
鉄骨の上に飛び移り走ろうとした瞬間、足元にズルリとした粘着質な感触を感じて鉄パイプ上で転倒した。
こんなところにあの馬鹿女の眷属の痕跡が残っていたとは思わなかった。いや、予想は出来たが、メタスという巨大な存在と対峙して細かいところが抜け落ちていた。
歯ぎしりをした瞬間風を切る強風、回転をする巨大な剣が先程いた場所を通り抜けアタシの頭上を抜けていく。
大剣はまるでブーメランのように、物凄い速さと正確さでメタスの手元に収まった。
確実にあのまま逃げていても、胴体を切断されていただろう。ミスに救われた形になったが喜べることではない。
「発泡スチロールで出来てるくらいには、軽そうに見えるッスね」
ナイフを取り出し蜘蛛の糸を靴底少しと共に斬り除く。よくよく見てみると、そこらじゅう蜘蛛の巣だらけだ。
地の利はあるとか言ってみたが、この状況はそれを少しも生かしようがない。
手瑠弾のピンを外して投擲し、サブマシンガンで撃ちぬいて爆発。
火薬の炸裂で出来た煙幕が晴れない内に飛び降りて着地する。踵の裏で気持ち悪い感触を感じたが今は気にしていられない。
高いところにいても、こちらの火力不足に加えあんな派手な投剣をされたらそのうち死んでしまう。足場が不安定でクルセイダーもロクに使えない。
やはりここは相打ち覚悟で懐に潜り込み散弾銃を発砲、機動力を奪い遠距離からクルセイダーの連射で破壊するしかないいだろう。
TNTボム等があるのなら罠でも仕掛けておきたいところだが、持って来ていないので仕方ない。
そもそも後期牙狼の牙は、物資の関係でいえば殆ど壊滅的に不足していた。欲しい時に欲しい物が無い状況などもう慣れている。
煙幕を抜けメタスが突進。噂通り並の前衛職よりは素早く動き間合いを詰めてきている。
あの黒剣、ハルベルトよりはリーチは短いが振られる速さは先輩の一撃以上と考えた方が良いだろう。
散弾銃を取り出し弾薬庫を開ける。通常弾を取り除きマスターキーを装填して片手に構える。
某デビルハンターのように、排出と装填を片手で済ませてみたいが、少しやり方が分からないのが残念だ。
十番ゲージの、チョークの無いシリンダーボア。近距離戦での破壊力を追及した作りのこいつなら、関節にさえ当ててしまえばどうとでもなると信じたい。
間合いに詰めたメタスによる、黒剣の袈裟斬りを横に移動して回避する。
両刃を利用して、横薙ぎに払おうとするが今度は後ろに飛んで退避。
避けきれず腹を浅く斬られるが、問題は無い。このまま避け続けられるかどうかが大切だ。
まともに打ち合えば吹き飛ばされるだろうが、回避する分には問題なさそうだ。
音に聞こえたメタスが、この程度かと首を捻るべきなのか。それとも、ライバルや強敵だと思われる連中と日々の試練っぽいことでアタシの身体能力がもはや主級なのか……後者は無いな。
しかしながら、なんだか偽物臭いとはいえ、伊達向こうも第三層の主をしている訳でもなかった。
そのまま猛追して来るメタスの突きを右に避けて回避。しかしその瞬間、その行動を読まれていたのか巨大な盾が鈍器のように突き出された。
胴体にモロに当り身体が吹き飛ばされる。激痛から判断するに肋骨がやられたのかもしれない。
油断した、盾で敵を殴るつけるシールドバッシュという技術を失念してしまっていたか。
ゲームでは、アタシは敵の剣撃を盾で受け流すパリィしか考えていないので、大盾の技術を頭から抜かしてしまっていたか。
日々ダークレイスや墓王の使徒ばかりやっていたお邪魔プレイヤーな日々が脳裏をよぎる。
「死ぬ前に…暗月警察でもしとけば良かったッスかね」
機動力を削ぐ作戦をたてたつもりが、此方の機動力が削がれては意味がない。
背後に手を伸ばすと壁、計画通りここまで来れたとはいえ今の身体で十二分に動けるか。
いや、考えている余裕はない。当初の計画通りやるしかないだろう。
ふらつきながら立ち上がり、尻尾を壁に突き刺す。
尻尾の力で体を浮かして壁に水平に手と足を突き、目の前を睨み付ける。
すぐそこまでメタスが迫っていた。バクチに躊躇する時間さえないらしい。
「失敗しても、たかだか死ぬだけッスよ」
尻尾と足の力を貯め、身体を捻りスクリュー回転しながら身体を水平に射出。
弾丸のように突撃するアタシを迎撃しようと大盾を前に出すが、そのような単純な動きで現代の高軌道高火力戦にはついてはいけない。
過去の戦争というものは、隊列を組み盾を並べ騎馬を編成し進撃する手法であるが、当然ながらそんなものは銃が開発され次第徐々に廃れていった。
「ただ待ち構えているとか時代遅れなんスよ!」
盾に激突する直前で地面に尻尾を叩きつける。
反発して水平移動から、メタスを飛び越えるように飛び上がり頭上を越える。
そのデカイ図体でもの急激な動きをとらえきれるか!
ストックを切り落としたソードオフの散弾銃は取り回しが良く、急激な運動後であっても瞬時に狙いがつけやすい。
メタスが振り向きつつある、意外と反応が早い。
剣を握る腕の右の腕関節と膝裏が隠れてしまったので、盾を握る腕の左間接に狙いを定める。
仰向けになりがら散弾銃を撃ちこむ。突入の際、強固なドアノブを破壊する為に開発された専用スラッグ弾である、射程はともかく威力はお墨付きだ。
「吹き飛ぶッスよ!」
構造状、動きを阻害しない為に堅固に作りにくい関節部分だ。弾丸は思惑通り腕に食い込み獣の刃のように引きちぎる。
盾が弾き飛びコンクリートの腕で転がった。
尻尾を地面に突き立て、そこを基点に後ろに回りながら立ち上がり後ろに跳躍。
空薬莢を排出し弾丸を詰め、改めて目の前を睨み付けるが、既に目の前にはメタスが迫って来ていた。
「腕吹き飛んだッスよ!少しは動揺しないッスか!?」
黒剣ではまた避けられると判断したのか、盾が落ちた分軽くなった身体で勢いをつけたタックルが繰り出される。
凄まじい衝撃が体中を襲った。骨が二三本どころではない、前進が吹き飛ばされ悲鳴をあげながらキリモリ回転しつつ吹き飛ばされた。
痛いところを数えようとしても、痛いところだらけなので良く分からない。
「うぎぎ…まずいッスか?」
頭がふらつくが起き上がり銃を構える。だが、視界に捉えたのは黒々とした甲冑の足裏だった。
胴体に靴底が食い込み、地面に押し付けられ踏みにじられた。
身体がメキメキと軋み激痛が走るが、更にメタスは追い打ちに黒剣を構える。
弾丸が詰まった散弾銃を厄介と見たか、刃が肩に突き立てられ切断される。
「うぎ…がああああああ!」
激痛に目が白黒し、胃液が胃袋からこみあげそうになるが踏みつぶされた現状呑気にゲロを吐くことも出来ない。
足裏にかかる圧力が徐々に強まり、折れた骨が内臓に食い込む感覚を感じる。
強化施術を受けていると死ににくくなる。
この程度ならまだ死なないが、このままならいっそ死んでしまった方がマシじゃないかとも考えてしまう。
ギリギリと、少しずつ命が削れていく感覚は酷く懐かしくもあった。
この境まで来て、後一歩境の先に進むか留まるかが死ぬか生きるかの違いなのかもしれない。
まったくさっさと首筋に剣でも突き立てれば良いものを、いたぶって楽しんでいるのか?このデカブツは。
「ク…クケケ…さっさと殺れば?…化け物め」
どうせ死んだところで泣く人間はいない。
ランザ先輩も多分泣かないだろう。当たり前だ、アタシは道具としてあの人について行っていたし、分かりにくいところの頭のネジが外れたあの人はそういう感情が摩耗している。
多分あの人が最後に泣いたのは、奥さんが死んだのが最後なのだと思う。アタシが勝てる訳がないのだ。
ああそうだ、どうせ死ぬなら映画やゲームくらいに手瑠弾のピンでも抜いてやろうか。
どうせ死ぬなら『ここは俺に任せて先に行け!』くらい盛大で分かりやすい死亡フラグくらいは立ててやりたかったが、こうしてサラリと死ぬのもおつかもしれない。
辞世の句とかも読みたいが、暇は無いので手瑠弾に手をかけピンを引きかける。
そして爆発音。地下に響く音。
セルシィは静かに、気を失った。
□ □ □
ハルベルトを壁に当てて音をたてないように路地裏を移動する。
隠密行動に長ける武装はしていないが昔とった杵柄というべきか、都市区間での鼠行動は牙狼の戦斧時代に工作をしかけた経験から慣れている。
第七層では、意外な事に六層のような浮浪者や麻薬中毒者はあまりいない。
恐いお兄さんだらけの場所に住み着くのは変人くらいしかいなく、この層には富豪一割、怖い人七割、麻薬や特殊で下劣な加工品の職人が二割といった割合で人が住み着いている。
浮浪者は麻薬中毒者がいたら、その手の職人に引き取られてまともじゃない工芸品になってしまうので、自然とここにはその手の存在はいない。
なので第七層は、全階層の中でもっとも暮らしている人間が少なく、開散としている。
「しかし、思い切った行動に出たものだなランザ殿」
後ろから続くクルナが小さく言葉を漏らす。
必要最低限の武装しかしていないクルナは、物音を立てずに移動するには優れていた。
「クソ面倒だが、アミラミのお世話にならず後腐れなしで済ますなら力づくしかない。
今から真犯人しょっぴくのもありだが、証拠がない上に俺でさえお前が白とは思えないくらいには怪しい。
それに個人的な理由で、悠長に犯人探しに時間もかけてられないのもある。
お前さんが犯人か否かも興味ないしな」
問題なのはセルシィとディーネだ。アクシデントを考えていない訳ではないが、想定外のことがいささか多すぎた。
携帯端末でセルシィに通信も繋がらないし、向こうもなにかおきている可能性が高すぎる。
時間がない。一秒ごとに絹で首を絞められている気分だ。
「……迷惑かけてすまない」
「そう思うなら、弾避けの盾くらいにはなってくれるとありがたいな」
「了承している。
それにしても、こんな時にいうのは場違いであるが…やはり敬語が無いのは気楽でありがたいな」
「そんな事に気を回している場合か?中小規模とはいえ、裏組織に喧嘩売りに行くんだ。下手踏むとサラリと死ぬぞ」
鋼糸のアミラミや大刀キクナガクラスの化け物なら組織殲滅も楽にこなすだろうが、こちらはタダの中年と単なる黒耳だ。少しばかり荒事慣れしているくらいにすぎない。
だいたい俺の異名らしきものがあるという恥ずかしい話も、昔策を多用したり徹底的に嫌がらせを続けたうちに付属したようなものだ。
物語の英雄のように、敵の軍団に対して突撃して屍の山を築いた訳でもない。
「即席だが、簡易的連携を再度確認しておこう」
自分以上の身体能力を持つクルナは、銃を持つ敵相手には強いだろう。
単独でクルナを捉える銃使いは、それに特化した能力を経験と亜人の勘で高めるセルシィくらいだろうか。身内びいきとは思いたくはないが、それくらいの実力はあると俺は考えている。
「今回は室内戦がメインになる。
お前が床や壁を縦横無人に飛び回り注意を引いている内に、俺が斬りこんで殲滅させる。
あまり扱う経験がないらしいが、煙幕缶や電流缶の扱い方は覚えているよな?危険と感じたら迷わず利用しろ」
「理解している。その…巻き込んでしまってすまない」
もしかしたら、これはアミラミがこちらに対して借りをつくるだけにしくんだことなのかもしれないがここは言うべきではないだろう。
あくまで可能性だし、ここはクルナに責任を感じさせてやるのが制御するのも楽である。
「情報通りなら、そろそろベイドリクの拠点だ。気を引き締めろよ」
言った瞬間銃声、近くではない。隠密行動から急ぎでビルに近づき建物の陰に張りつく。
建物の影から、ベイドリクのビルを伺う。
しかしベイドリクのビルは、伺う以前に異変が手に取るように理解できる状態だった。
銃声、怒号、なにかが砕ける音。
襲撃以前に何者かに襲撃されているのか、さながらビル全体が戦争状態のように賑やかだ。
「今日はパーティーだったか」
「いや、ランザ殿。パーティーという言葉には足りないくらいにはまずい状況みたいだが」
「様子見するか、斬り込むか…」
しばらく考え、結論。
「敵の敵は味方か、三つ巴の第三勢力として戦うか。
なんにせよ美味しい状況だな」
選択、突撃。サラリと終わらせて、早めに内に帰ろう。