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近所の隠れ家

 ここのところやたらとついていない事ばかりだ。

 だいたい一月前くらいからついていないような気がしてならないのだ…とセルシィ=アズ=ドラゴニクスは考える。

 始まり一月前くらいの、オンラインゲームで始まった期間限定イベントボスを撃破した瞬間アクセス増加でサーバーがダウンしてしまったのだ。

 お蔭で進めた分はパー。再度同じ場所に行くためには時間も道具も資材も戦力まで足りなかった。頭を抱えるはめになる。

 その他にも犬屋敷からの脱走人に絡まれたり、メタスに絡まれたり、ジョン…もといディーネに居候されたりと散々だった。

 ディーネに食べ物を身体じゅうに押し込めている作業をしていたが、成果は今一つであった。

 食べさせていて一番怖かったのは彼女は口から以外でも、背中からでも腕からでも胸からでも食物を吸収しているのが凄く怖い。

 そして一番苦労したのが、ほぼだいたいの食事が普通~凄くマズイの基準らしくだんだん食糧に対してそっぽ向き始めたのである。それこそピーマンを嫌がる子供のごとく。

 アタシは嫌いな物でも無理にでも食べる方であり、食糧の大切さを理解しているので途中から説教まじりで押し込んでいたが、それで良く生きていたと我ながら感心したくなる。

 一通り作業をすましてため息の一つでも吐きたくなったところで、ランザ先輩がトラブルに巻き込まれたとの報告があったのだ。それも不穏な通信の切れ方である。 

 「ディーネ、この下真っ直ぐ行くのでついてきてくださいッス」

 事務所の地下室にある取っ手のついた鉄板を鍵を開けて開き、中の梯子に指を指す。

 ランザ先輩の言う落合先はここの地下から入る地下道に造った隠れ家件武器庫である。

 リスムは増殖を続け広がり続けている階層都市であるが、杜撰な開発状況や問題があり中途半端に作られては廃棄され放置されている施設や通路が山ほど存在するのだ。

 そのうちの一部にはどこからともなく湧いて来た異種が住みついたりしている場合があり、定期的に警察隊とギルドが集まり掃討戦をしていたり、街に迷い込む異種が賞金首に上がったりしていたりする。

 「またリョコー?」

 「ああうん…まあそんなところッスよ。楽しいかどうかは保障しないッスけど」

 アホ面笑顔なディーネの表情にもだいぶ慣れてきた。まあ良し悪し別で大量に食糧を与えた直後ではあるしすぐには食われないだろうとは思うので多少は気楽になったというものもある。

 ランザ先輩についての心配はしていない。あの人は殺して死ぬような人物な訳がない。

 的確な情報を仕入れない限り、ここで心配になり不要に動くのは連携に不和がおきやすくかえって迷惑かけてしまうだろう。

 この移動は、先輩の援護というよりディーネを隠す事に重荷を置いている。事務所は危ないと判断された結果だ。

 なら自分は事が済むまで下手に動かず彼女を隠して見張るしかない。小回りや素早さならランザ先輩以上の自信もあるのでいざディーネが暴走という時には逃げる足にも自信がある。

 「暗いねー」

 「暗視順応とかその身体で出来るッスか?まあそのうち慣れるッスよ」

 天井は申し訳程度の鉄板張であり、左右の壁はところどころ岩が剥き出しになっており開発途中で放棄されたとう実情が良く理解できる。足元は少しジメジメしており歩きにくい。

 ディーネには予備の戦闘靴を履かせ、自分も同じものを吐いている為防水性は完璧であるのだが気分が悪いことには変わりない。

 「ところでなにもってきたの~?」

 間延びした声が聞こえる。

 何時もの武装としてサブマシンガンに散弾銃、クルセイダーと腰には予備のハンドガンに各種補助武装。武装としては何時もの武装であるがそれ以外にも今回は幾つもの瓶を袋に入れて持って来ている。

 「これ?手土産ッス」

 「てみやげ?」

 「こんなもんが大好きで仕方ない馬鹿がいるんスよ」

 第六層と第七層の間にあんなものが住み着いているとなると、ギルドも警察も黙ってはいないだろう。今から行く場所にいる存在は第二種接触禁忌種として図鑑に登録されているような危険生物なのだ。

 何度も出会って変態人形士よりはまだマシだと感じているが、当時はそれでも鳥肌が立つ程恐ろしいと感じた物だ。

 暗闇の奥でカサカサというなにかが蠢く音が聞こえる。ディーネが興味深そうに横道を覗き込んでいるが腕を掴んでまっすぐ歩かせる。

 恐怖はないが、あれは見ると生理的嫌悪がほどばしるので出来れば見ないにこした事はないのだ。

 暗闇を進みながらふと考えたが、このような建設途中で廃棄さらた施設や通路はリスム全体でいったい幾つ存在しているのやら。自分が知っているのはここを含め第六階層で二十二ヶ所と第七階層で三十八ヶ所である。

 勿論それ以外にも大量に裏道はあるだろうし、第六階層以上の階層にも大量に存在しているだろうことは想像に難くない。

 第七階層の裏道には、直接地下迷宮に続いている道があるとまことしやかに噂されているが、強ちその噂も間違えではないだろう。そうでなくては定期的にリスム市内に異種が湧く理由が分からない。

 勿論実験生物が不手際で逃げ出した等の理由はあるが、それだけが大多数の理由ではない筈だ。

 曲がり角を三回曲がると古びた看板が見えてくる。

 錆びた赤茶色の看板はB-七七四と書かれており目的地のすぐ近くだという事を表していた。

 という事は彼女が出て来るものそろそろだ。

 「……ん」

 ディーネが頭を上げる。なにかに気付いたのか、不思議そうに眉を顰めて暗闇に目を向けていた。

 『我らが眷属の常闇に入り込んだ愚か者が。分を弁えぬ侵略者は地獄の苦しみを受け惨めに引き裂かれるのがここの掟だ。

 震え、泣き叫び、後悔せよ。その負の感情こそが我ら闇の眷属の力となり糧となるのだ』

 狭い通路に声が反響しどこから聞こえてくるか分からない。出てくるなら普通にすぐ出てくれば良いものをわざわざ演出がけて勿体ぶる面倒でむかつく女郎だ。

 「あーああーあああー。ふざけたお遊びはそこまでにするッスよ。三秒以内に出てこないといろいろと大変なことになるッスよ。はい一」

 一の時点でサブマシンガンの安全装置を解除して適当に暗闇に乱射しまくる。通路の先や天上に鉛玉が着弾する音が反響し静寂に包まれていた通路はけたたましい銃声に包まれた。

 『やややややややややややめてーーーー!皆に当たっちゃうからーーーーー!というか二と三はどうしたのーーーーーー!?』

 天上から悲鳴をあげながら降りてくる巨大な影が、情けない声をあげながら逆さまに降りてくる。

 細身の女性の身体をしており、短い金色の髪の毛の前髪は左のみ伸ばしているのかやや瞳に覆いかぶさっている。

 赤色の瞳は八つあり左右対象にデコから頬まで無駄に大量についており、各眼球がギョロギョロと混乱するように蠢いていた。

 なめかましい胴体より下は闇色の蜘蛛の下半身、足は八本で尻からは糸が伸びており天井と繋がっている。

 「この前見た漫画によると、サムライの国の男は一だけ覚えておけば良いらしいッスよ」

 「なんたる横暴!お姉さん許しませんよセルシィちゃん……てあら」

 左右にブンブン揺れながら握りこぶしを作った両手を上下鬱陶しい動作で講義をしていたが、後ろのディーネを見て動きを止める。

 「か…可愛い!なにこの娘!私の眷属にしてくれるの!?」

 「押し付けたいなら押し付けても良いッスけど、仏心でやめておけと言っておくッス。この通路が使えなくなるなら自分等も嫌ッスし」

 ふんすふんすと鼻息荒くしている蜘蛛女を眺めながら、ウザイ性格とノリにため息をつく。人形女とは違う意味でこの蜘蛛女が嫌いなのだ。

 「紹介して!紹介」

 「あーはいはい。この馬鹿女は地下迷宮第二層から来たアラクネのニナ。

三秒直視すると頭が悪くなるからなるべく目を見ないようにお話するッスよ。

 この娘はディーネ。面倒くさい事情で臨時で家に置いている居候ッス」

 「ニナだよ!こう見えて元人間だからよろしくね!」

 「なまえいうの?みんなディーネって呼んでる」

 「うんうんよろしくねー!みんなーお客さんだよー!」

 「うわちょま呼ぶな馬鹿!」

 急に叫ぶニナを慌てて止めようとしたが直後ゾワゾワと周囲の気配が濃くなった。

 暗闇から姿を現したのは、人間の頭サイズの巨大な蜘蛛でありその背中には苦悶と恐怖を浮かべた女性の表情が蜘蛛の黄色と蜘蛛の背中の配色に混ざり合うような模様をしていた。

 セルシィは知らないが、中世後期の悪鬼派の画家ネレイス・ダガーの『人面鬼・鬼蜘蛛』と呼ばれる作品とよく酷似した狂気の造形をしている。

 『ヒトだヒトヒトヒトヒトキタヒト』

 『たたたたたすけたすけたすけたすけけけけけけけた』

 『ころしてててててててててててててこんんなすがたいやあややあああやあややややややや』

 『やだやだややだだややあああだだだだやだああイキタクナイイキタクナイぎゃあががががががががが』

 『うみたくないうまれたくないいきたくないいいいいいいいいひとひととととともどりたいいいいいいいたいいたいいいひいいいいいいいいいいい』

 呻き、鳴き声、泣き声、怨嗟の声。先程までまったく聞こえていなかった負の感情が一気にグサグサと心を抉ってくる。

 「散れ!散るッス!SAN値チェックの時間ッスよ!」

 狂気の異種に向けてサブマシンガンを乱射する。何匹かを赤黒い肉片に変えた瞬間黒い蜘蛛の身体が割り込み頑丈な毛を盾にして銃弾を受け止めた。

 「だからやめてってばー!私の可愛い眷属いじめないでよー!」

 「だったらさっさと追い払うッス!全体的に最悪最低すぎるッスよ!」

 「みんな開散開散ー!クスン…今日こそ分かり合えると思ったのになぁ」

 「ファーーーーック!分かりたくもないッス」

 可愛らしい顔をしていてながら(複眼?好みじゃないッスか?)最低な趣味を持つこの元人間は、もう立派な異種の分類となっていた。

 地下第二層は、主であるアシダカを初め他の階層より蜘蛛をメインにした異種が多く生息する蜘蛛嫌いには地獄の階層である。

 彼女は元地下迷宮探索士であり、地下第二層で力尽き謎の存在に麻痺毒を喰らい体内に捕われたらしい。

 その時の記憶は消化され食べられると感じた事と、頭と身体が熱くなったり冷たくなったりフワフワしたり、同時に訪れた謎の幸福感しか覚えていないということだ。

 気づいていたらこの姿にされ、糸でグルグル巻きの状態で迷宮の一角に放り出されていたらしい。

 その後彼女は、地下迷宮に転がる死体から首を集め眷属という名の『お友達』を作っていたらしいが、お友達にされた方は良い迷惑のようだ。

 一度死んだのに自我が残っていると思われる叫び声は、地下迷宮を地獄と紹介できる一例になるだろう。

 本人曰く戦闘力は高くなく、縄張り争いに敗れ地下迷宮から逃れて来たとの話だ。

 「ランザさんは元気ですかー?最近会えずで寂しいですよー」

 気に入らないのは。この娘は人を襲わない事を条件に隠れ家件緊急の武器庫の番を任されている、非公開ながらランザ=ランテ迷宮探索事務所の先輩

にあたり人間時代何度かギルドの公式依頼を即席ペアで組んだ仕事仲間だということだ。

 つまるところ、リスムにおいては自分よりランザ先輩と付き合いが長いということである。

 あの人はいろんなところで無頓着すぎる人だけど、この化け物を許容し懐のうちに迎え入れている精神がイマイチというか全然理解できない。

 「わざわざ会いに来るだけでこんな薄気味悪い所に先輩が来る訳ないじゃないッスか。それより、しばらくの間隠れる事になったので侵入者の警戒よろしくお願いするッス」

 隠し通路に降りた敵が正しい道を通って後を追って来ないとは限らない。

 正しい道を通らなければ人、面蜘蛛以外にもついでに連れてきた『お友達』とやらが張り巡らされた巣に飛び込む事になる。

 縄張り争いに逃れるような種ではあるが、数の力はそのまま戦闘力に繋がる。正式な装備をし連携の高い探索士数名がチームを組みやって来ない限りまず安全であろう。

 裏社会の人間の武装は、当然というか対人間用の装備で固めている場合が多い。異種と取引して盾に使う人間がリスムにどれだけいるかは分からないが、この防衛策は早々破れるものではない。

 「という訳でこれ、ボーナスッス」

 片手にぶらさげた袋の中は緑色の炭酸水。メロン果汁の味が美味しいメロンソーダの瓶を大量に持ち込んだ。

 「イエスイエス!なんだかこんな身体になってからこの不健康そうな飲み物が本当に美味しくて美味しくて」

 「不健康そうなんて言ってるとメーカーから苦情が来るッスよ」

 嬉しそうにはしゃぐニナを見て、ディーネが興味深そうに瓶の一本を手に取った。

 ブンブンと振り回したり逆さにしたりするか、頑丈な蓋に護られた飲み口は水分一滴も零さず彼女を不満げな表情にしていく。

 「飲みたいッスか?ニナ、一本貰うッス」

 「あんなりあげたくないけどーお近づきの印にどうぞー」

 ナイフを取り出し、テコの原理を利用して蓋を開いてセルシィに差し出した。

 シュワッとする液体を興味深げに眺め、瓶の尖端を口に含み飲み始める。

どこからでも飲めるのだろうが、口から飲むように教育するのもまた苦労したものだ。

 吸収された緑色の液体は、喉元から胸元まで緑に染まっていき白い肌がグリーン・マンのように緑色に変色していった。

 「おおう…それ戻るッスか」

 「………?」

 瓶から口を離し小首を傾げる。そして半分まで飲んだ液体の入った瓶をミナに突きだした。

 「おいしくない」

 「ガーン!」

 まあ予想は出来た事である。この娘の舌(?)は大抵の物を受け付けない物凄い美食家であるのだ。

 大好物は調理をしていない人間の踊り食い、おおう背筋がぶるぶる来る。

 「まあともかく、部屋にいるんでなにかあったら報告よろしくッス」

 ショックを受ける彼女を傍らに先に進み、赤茶色の扉の錆びた鍵を開けた。扉のプレートには剥がれた塗装で資材置き場と書かれている。

 敢えてロックを厳重にしないのは、万が一誰かここに来た時に大したものはないと思わせることだ。忘れられた開発施設の資材置き場に何重にも厳重ロックをかけるのは不自然であろう。

 部屋の中は木の板が敷き詰められており隅には畳が十畳程敷かれている。

 壁には各種銃器から、長柄の武器がかけられており下の背の低く横に長い棚には機関部や予備パーツに緊急医療品が詰め込められている。

 棚の中には種類別された手瑠弾、手炎弾、手光弾が並べられており。その傍らにある電気が通っていない冷蔵庫の中には上段に弾薬が詰められており野菜室と冷凍庫には保存食と缶詰が並べられている。

 この隠れ家はリスム市内にこの施設が三つ存在し、グレハリアの街にも一つ用心として備えられている。

 ここは万が一事務所が占拠されたり使用不能な状況にある時に使う場所で、武器と食糧は二番目に充実している。

 こんな大量の武器をどこから揃えたかと言えば、主には迷宮探索士の亡きがらから剥ぎ取ったものだ。

 いざとなったら売り払い、事務所運営資金の足しにすることも考えている。

 『ここにあるのは全部盗品に決まっているだろう?アンタが死んだらその装備を高値で売りさばいてやるよ』

 うん、黒い輪に呪われた世界観の店で、ソウルと引き換えに商売が出来そうだ。出来ないししないが。

 「ディーネ、危ない物もあるからうかつに触らないようにするッスよ」

 好奇心旺盛な彼女に一応釘を刺しておいてから畳に座り胡坐をかく。畳を含め部屋全体は管理を任されたニナが掃除しているので綺麗なものだ。

 リスムの三つの隠し部屋は、ニナが管理を担当してくれているのでどこも似たような整理状況であり綺麗に掃除されている。

 『はいどうぞ~』

 どこから仕入れているのかお茶とお菓子が運ばれてきた。出所が謎すぎるが食べられるうちになんでも腹に詰めたいので、ひよこの形をしたお菓子を抵抗なく口に放り込む。

 「そういえば、一番最初のあの何処かで聞いた事があるような脅し文句紛いの物はなんだったッスか。正直アンタの声質じゃ重音が足りなくて似合わないッスよ」

 ディーネにお茶菓子を進め、おいしくないと言われショックを受ける相手に率直に疑問をぶつけてみた。 

 『んん~…いかにもラスボス前!みたいな雰囲気を出せば間違えて来た人も逃げ帰るかなと考えてねぇ。雰囲気出るらしいし古典派にのっとる宣言のお蔭でユーモアでしょ。

 でも、そんなに似合ってなかった?』

 「化け物がユーモアッスか。笑えないッスよ」

 『ありがとう。ご助言ありがたく受け取るよ』

 皮肉ではなく本気で感謝しているように丁寧に返事をしたのがまた気に入らない。ストレートに貶してたり悪口言っているのだから、少しは反論すれば良いものを調子が狂う。

 何時も向こうにはって口論するのは、陰険捏造ジャーナリストの為か少しばかり肩透かしというか物足りない。あれは一で言えば十の皮肉を返す男なので天敵だがこの女よりはまだ会話ができる。

 「前々から言いたかったッスけどね、アンタはさっさと地下迷宮に戻るべきなんスよ。ランザ先輩は使えるからおいているみたいな事言ってるッスが、なんの負担にならないと思ってるッスか?」

 ニナはディーネと違いある程度は理性があり器用で、人目につかない技術を磨いている為表立って問題にならないがそれでも異種なのだ。

 万が一関係性がばれたら破滅も良いところだ。可能性は低いにせよこの女もディーネ並の爆弾なのは変わりない。

 そもそも眷属の蜘蛛だって、本当に迷宮にいた頃生成した存在だけなのか?むやみやたらに人を殺さない約束をしているが、夜な夜な人間浚って首をもいでいたと言われても驚きはしない。

 『信用されてないのね~。ちょっとお姉さん悲しいな』

 「元人間だろうと誰が異種を信用するッスか。そもそもアタシ等と考え方が違う相手を理解できる筈がないッス」

 『そうかもしれないねー。けど』

 一瞬ニナが鋭い視線になる。

 緩い表情ばかりが嘘に思える程、凍えるような視線に思わず背筋がゾワゾワと来る。

 『それって、信仰の違いで戦争する聖教国や亜人を排除する報道や軍隊と変わらない意見じゃなあい?セルシィちゃんの嫌いなね』

 「……あ」

 『私の事を理解してもらえないのは、ちょっと寂しいけど別に良いよ。でもね、理解する努力を怠るのはセルシィちゃんの大嫌いな人達の常套手段だよ?

 セルシィちゃんには、そうなってほしくないんだけどなぁ』

 「……分かってるッスよ」

 『そう、良かった』

 全部許した顔で二ッコリと笑われると、物凄い敗北感を覚える。

 考えや種族の違いだけで攻撃したりするのは、今まで何度も苦渋を舐めさせられてきた。そんな連中と同じ言葉をアタシは口にしたのだ。

 グウの音も出ないとはこのことだ。被害者だったから、輪にかけて言い返す言葉がない。悔しい限りだ。

 「……アンタはなんで」

 言葉を遮るように、天井からつるさていた木の枝が落ちて来た。枝の尻には糸が巻き付いており、長い糸は途中が切れている。

 「なんなんスか?これ」

 『呼子を作ってみたのよ。誰かが足を引っかけるとこうして糸が切れてこの部屋に侵入者を教えてくれるの』

 「……つまり」

 『誰か来たようね。それも、事務所とは正反対の方向の方から』

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