かりそめの終わり
お久しぶりです。 色々と落ち着いたのでかなーり久しぶりの更新になります。 待っていてくださった方ごめんなさい。 そして、ありがとうございます。
9話
「うーん、特におかしいことはなかったな」
オレの服を仕立て直しながらカインが言う。 二人して昨日の事を思い返してみたが、オレが女になるに納得するような出来事はなかった。 いや、そもそも《朝起きていたら女になっていた》ということ自体納得が行かないものはないのだが。
「まぁお前は昨日ずっとおかしかったけどな 」
思い出したらまた指がぞわぞわしてきた。
「……あれは忘れろ、忘れてくれ」
どうやら今日のカインは冷静らしい。 気まずそうにオレから目を逸らす。 正直被害者としては忘れようとして忘れられることではないのだがそんなことを言っていても話が進まないのでとりあえず話を進める。
「結局、なんの手がかりも無いか」
「あぁ、これ以上は何も思いつかない。 あの後はこの宿に来て飯食って寝ただけだしな」
話を進めるも、たどり着くのはどうしようもない事実。二人して黙り込んでしまい、なんの進展もないままに時間だけが過ぎていく。 その膠着した時間を動かしたのは、間の抜けた音だった。
『くぅーーーーーっ」
空腹を示す、腹の音。 今日は朝から何も食べていなかった事を思い出す。 何故か妙に恥ずかしい。
「ク……クハッ、アハハハハハ!!」
カインが笑い出す。 なんだこれ、腹立つ。
「おいコラ何がおかしいんだよ。 アァン?」
凄んでみるも恐らくこの高くなってしまった声では威圧感もあったものではないだろう。
「アハハっ、いや、ごめん。 なんか面白くてさ。 話し合いも進まなかったことだし丁度いいから飯に行こうか、時間的にもいい感じだろうし」
そう言いながら笑うカインにイラつきながらも提案自体は特に否定することもない。 座っていたベットから腰を上げ、一度カインの腹を殴ってからドアの鍵を開ける。
「ほら、ローブ忘れてるぞ」
腹を押さえながらローブを手渡してくる。 オレがそれを着る間に準備を終えたらしいカインが後ろに並んだ。
「さ、行こうか」
どうにもイライラが止まらないので背後に立つカインの腹めがけて思いっきり肘を入れる。先程は腹を軽く押さえるだけだったカインは膝をついて丸まった。
「お前……肘は流石に……」
床に伏すカインを一瞥し、部屋を出る。 廊下にはより一層空腹を強く感じさせる匂いが漂っていた。
なぜか虫の居所の悪かったリオンをなだめつつ、食事中に昨日回った場所を明日もう一度回るという話を纏めて部屋に戻る。
「じゃあ、明日は取り敢えず朝早く出るってことで」
ベッドに入りながらリオンが言う。 どうやら機嫌は戻ったらしい。
「ああ、起きたらすぐ出よう」
「ん」
「じゃあおやすみ」
「おやすみ」
リオンがベッドに潜り込んだことを確認して灯りを消す。 月光だけが照らす部屋に、すぐに寝息が聞こえ始めた。ベッドに腰掛けるとリオンの背中が見えた。すっかり小さくなり、金色に覆われた親友の背中が。
姿形は変われど行動は間違いなくリオンのものだ。
しばらく背中を眺め、そのまま目を瞑る。 明日の予定を思い返しながら、意識が薄れていくのに身を任せた。
夜明けと共に、何が起こるかも知らずに。
久しぶりの更新だったので文体が変わったりしているかもしれません。 楽しんでいただけたなら幸いです。