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44 初めての海産物料理と楽しみ方、そして永和の出会いは突然に

 シビラは、窓から身を乗り出してセイリスの街を眺める。


 俺とエミーも、シビラに倣って窓から街を見下ろす。




「……すごいな」




 海を眺めた時も気持ちよかったが、高いところから街を見下ろすのも格別だ。


 ハモンドの街とはまた違った、発展した綺麗な街。


 港と小高い山に沿って立ち並ぶ、白一色の家が、この宿から一望できる。 


 屋根の色も青く揃っていて、とても爽やかな感じだ。




「街の威信をかけて、この街の色を統一しているの。すっごく綺麗でしょ」




「ふわぁ、綺麗……この街いいなあ」




 エミーもすっかり窓の外に見とれていて、その感嘆の声に俺も無言で頷く。




「そして、アタシたちの目的地があそこ!」




 そう言ってシビラが指差した場所は……。




「……どこだ?」




「ホラ、あの丸いのの横の、四角いやつ!」




「それっぽい建物が多くて分からないぞ」




「……そうなのよね……統一感の美しさは最高なんだけど、見分けが付きにくいのよね……」




 統一感のある街の思わぬ弱点にシビラは肩を落とし、すぐに立ち直ると一歩引いて手を叩いた。




「でも、近くで見るとお洒落な看板とか出てるから大丈夫よ。ちょうどいい時間だし、すぐにでも行きましょ」




 シビラは背負っていたリュックをベッドにぶん投げて、腰の武器は軽く確認して帯剣したまま部屋を出た。




「装備、永和は剣持っておいた方がいいわよ。エミーちゃんは……素手で大丈夫よねっていうか、持って行けないわよね」




「さすがに食事中まで持っていく装備ではないですねー……」




 今、エミーには俺の剣を使ってもらっている。あの幅広のミスリルコーティングされた竜の牙だ。


 エミーなら、あの剣の力を十全に発揮してくれると思ったのだ。


 俺は最初に買った剣が手に馴染んだため、そちらを選んだ。




 もう一つ、エミーはあのドワーフが作ったファイアドラゴンの大盾を使ってもらうことになった。


 これはもう単純に大きさも強度もエミーの職業ジョブのためにあるようなものだし、エミーが使ってくれなかったら勿体ないことにほこりを被りかねない。




「冒険者同士の問題は御法度、どっちが先に仕掛けたか分かるようになってるんだから、基本的にそんなに仰々しい武具はいらないわ」




「そういうのを正確に把握する、この冒険者タグは凄いよな……」




「ほんっとそうよね〜……まあそれは置いておいて。それでもスリとかあるから、最低限武器は持っておくこと。武器を盗まれないようにも注意、抜けないよう固定して鞘で殴るのがいいわよ」




 なるほどな。ハモンドでは俺達に対して絡んでくるヤツはいなかったが……恐らくジャネットが気を回してくれていたのだろう。あいつがそういう知識を備えていないとは思えない。




 ……本当に、ジャネットにももう少しお礼を言いたいんだよな。


 恐らく今のヴィンスでは、ジャネットなしでパーティーを運営させるのは不可能なんじゃないだろうか。


 そういう意味でもエミーがこちらに来たためジャネットが心配ではあるが、これに関しては最終的に俺の元に来てくれたエミーの自由意志を尊重したいと思う。




 あとは、まあ……俺自身がエミーと組んでおきたい、という我が儘だな。








 シビラの後を付いていきながら、セイリスの街を再びじっくりと見て回る。


 ハモンドの街でも時々見た魚が並んでいたり、黒い昆虫みたいなものが並んでいたり……あれも食べるのか?




「エビ、おいしいわよねー」




「知らないな……」




「ハモンド育ちでしょ? そんなに海産物食べたことない?」




「ハモンドでヴィンス達と勇者パーティーを組んでいたのは半年だ。位置的に内陸部だろうし、精々川魚の料理ぐらいしか食べたことはないな」




 俺の言葉にエミーも頷く。まあ当然同じ反応になるよな。


 そんな俺達を見て何やら思いついたのか、実にいい笑顔で口角を上げてうんうん頷きながら再び前を向いて歩き出すシビラ。


 ……楽しみである反面、こいつの性格を考えると今の『悪戯女神』としか形容できない表情は少し恐ろしくもあるな……。








 ハモンドでも、レストランというものには行ったことがある。


 なので近いものでも出てくるのかと思いきや……!




「す、すごい……全然違いますね」




 エミーが驚くのも納得だ。


 ハモンドのような白い陶器の皿に肉などを乗せる、コーススタイルを思い浮かべていた。


 レストランの中では、店員が料理を山積みにした銀の皿を持って出てきては、それを中央や奥のテーブルに並べていた。




「ここはね、一度支払うと自分で料理を自由に取って食べるタイプのお店なのよ!」




「宿屋と同じ、セルフサービス式か?」




「そーそー、セルフよ」




 セルフは宿でも見たことはあったが、あれはパンとスープと水ぐらいしかない、店員不在でも食事が出来る程度のものでしかなかった。




 しかし、この店は規模があまりにも違う。


 料理はもうハモンドのレストランで全てのメニューを頼んだかのような種類が並んでいるし、どれも宿とはあまりにも比べものにならないほど。




「ヘーイそこのお兄さん! 三名!」




「あいよ!」




 シビラは手早く決済を一人で済ませると、店員から何やらネックレスのようなものを受け取ってきた。




「これね、お店のセルフサービス権を証明する札。首にかけて、食べ終わったら出るのよ」




「なるほど、了解だ」




 その札をエミーが手に取ると、背伸びをして俺の首にかけた。




「お、ありがとう」




「どういたしまして。……」




 エミーはお礼返しをした後、これ見よがしにじーっと見てきた。……分かってるって。


 手元の札をエミーの首にかけると、何がそんなに嬉しいのか「んふふ……」と笑っている。……まあ、幸せそうなのはいいことだよ。




 そんなエミーを見ていると、俺の頭上から突如衝撃が走る——!




「ぐっ! な、何だ!?」




 そこには、若干呆れ顔のシビラの姿。




「何って、飯食いに来て二人の世界に入ってるんじゃないわよ……これよ」




 シビラは俺の頭を叩いた何かを、そのまま俺の胸元まで下ろして突き出してきた。


 使い込まれた銀色の大きな皿が、目の前にある。




「これに料理を載せるの。わかった?」




「あ、ああ……すまん、ありがとう」




 俺はようやく状況を理解して、シビラから皿を取る。近くでくすくすと笑う他の女性客の声も聞こえてきた。


 ……今のは完全に俺の落ち度だったな……。




 ちなみにエミーは、まだ顔を真っ赤にして凍っていた。








 とにかく、並んでいる食べ物はどれもおいしそうだ。


 一体どれから行けばいいか悩むな……。




「シビラ、何かおすすめはあるか?」




「何かおすすめっつーか、おすすめの食べ方はあるわよ」




 そう言いながらトングを手に取り、目の前の料理を……ほんの少し皿の上に載せる。




「それでいいのか?」




「永和。外食に限らず、食事での一番の贅沢って何か分かる? それは……一度に複数の種類の料理を食べることよ」




 なるほど……それは分かるな。


 シビラは一番おいしい料理や高級な料理を沢山食べるよりも、全ての料理を少しずつ食べることを一番の贅沢と言っているわけだ。




「一つの料理には、時間がかかる。こういった外食店でも、予め大人数で分けるの前提じゃないと、一つ一つ調理するのは手間なのよ」




 二品の料理を作れば、二回分の時間がかかる。


 それをこれだけの種類、少しずつ……そのかかった調理時間を考えると、なるほどこれほど贅沢なことはないと思えるな。


 さすがシビラ、こういった物事の考え方にも説得力がある。まあ自分の好きな物事に関して手を抜く女じゃないよなこいつは。




「よし、それじゃあ俺もいろいろ食べて……」




 料理を取ろうとしたところで、信じられないものを見て今度は俺の方が凍り付く。


 これに関しては、珍しくシビラも凍り付いていた。




「あ、永和。私は先に席探しに行ってるねー」




 そこには、既に海産物料理でできた小高い山を作ったエミーの姿。……あれ、何人分ぐらいだ……?




 途中で店員に「残すのは厳禁、追加料金」と言われて、「わかりましたー」とまるで気負いなく返すエミー。




「……見なかったことにしよう」




「そうね」




 俺とシビラは意見を一致させ、シビラの言ったとおり少しずつ料理を載せて大多数の料理を制覇し終えてエミーの席を探す。


 比較的近くの席にいたエミーは、既に料理を食べ始めていた。




「永和、これおいしい!」




 おいしいものには目がないエミーが言うのだから、期待は持てそうだ。


 俺はまず手前にある、何やら赤くてぶつぶつとしたものが生えた不思議な形の料理を食べる。




「……!」




 その料理は、弾力のある食感と、オリーブオイルの風味と何かの酸味が混ざった、さっぱりとした味付け。


 うまく形容できないが、おいしいと言うしかない。




「あ、永和もそれ食べた? くにゅくにゅしてて、噛んだら海っぽい味が出てきて、すっごくおいしいよねー」




「ああ、本当においしい。こんな独特の見た目なのに、なんて食べやすいんだ……! シビラ、これは何だ?」




 シビラは俺の手元を見ると……眉根を寄せながら口角を上げ歯を見せるという、それはもう滅茶苦茶にいい笑顔で俺達を見てきた。


 ……ああ、間違いない。これはとんでもないものを食べた時の反応だ。




「魔物じゃないわよ」




「……は?」




「魔物じゃなくて、海の生き物。タコよ。ほら、二人とも市場で見たじゃない。あの丸っこい生き物のうねうね伸びた脚のぶつ切り」




 俺とエミーは顔を見合わせて、手元の料理を見る。


 ……こ、この鮮やかな赤と白い中身の美味しい料理が、あの触ると色の変わった謎の生き物の切れ端……!?




「後は、その赤いの。それが調理後のエビよ。茹でたら黒い身体が真っ赤になって、殻とか脚とか剥いたらそーなるの」




「これがか……?」




 シビラが次に指したのは、赤くて肉厚の丸いもの。調理後の料理は、まるで先程の市場の姿を連想できない。


 恐る恐る口に入れてみると……!




「これも、おいしいな……!」




 噛むほどに味が出て、飲み込んだ感じも悪くない。


 程良い弾力もあり、先程のタコより飲み込みやすい。


 何より……味がとてもいい。タコといいエビといい、あの見た目からこんな味が出るとは。




 海産物、魚以外の不思議な生物の数々の料理が、ここまで食べ応えのあるものだとは驚きだ。


 むしろ魚の方が淡泊というか、あっさりしていて物足りなく感じるぐらいだった。


 そのことを言った直後に、シビラからスモークサーモンのマリネというものを紹介されて、俺とエミーは更に驚くことになるのだが。




 それから俺とエミーは、逐一料理の質問をしながら、全ての料理をおいしく食べ終えた。


 なるほど……これは確かに、最も贅沢な食事の時間だった。普通のお店では体験できないメニューを食べた。


 この一食で、セイリスを山ほど食べ尽くした感じがあって、ひたすら満足度が高いな。




 ちなみにエミーは、あの山盛りの料理を俺より先に食べ終えた。


 ……そうだった、エミーはかなりの食いしん坊だったな……。


 食べ終えた後に恥ずかしそうにしていたが、そういう後のことまで考えられないで突っ走るあたり、いかにもエミーらしくて微笑ましいものがある。


 きっと次も、沢山食べるだろう。








 腹が膨れた俺達は、少しいい時間になったので宿の方へと戻ることになった。


 さすがにシビラが観光に来ただけではないことぐらいは分かる。


 まだまだ日は傾いていない。それでも、ある程度の情報をお互いに整理しておきたいところだ。




 俺がぼんやりと歩いていると、急に体当たりを後ろからされた。




「うおっ……」




 たたらを踏む俺がなんとか倒れないように踏ん張ると、目の前には少年が……地に伏せられていた。


 その背中に乗るのは、エミー。




「は、離せよ!」




「その手の中のものを出したらね」




「……くっ」




 その少年の手の中にあったのは、見慣れた俺の銀貨袋。


 シビラにばかり支払わせるのもなと思って持ち歩いていたものだ。今の一瞬で盗まれていたのか……注意されていたのに迂闊だった。


 かなり手の早いスリだったが、この反応速度はさすがエミーだな。




 さて……この少年、どうしたものか。

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