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34 魔王の策、女神の叡智、そして永和の力

 魔王の初手は、ファイアボールという簡単な魔法。


 本当に言葉通り、遊ぶ感覚で来るらしい。




「《ファイアボール》。これも防ぐカ。……フフフ、それでも剣で防いでるだけでは、勝てないヨ?」




 遠く離れた場所から、魔法を淡々と撃ってくる。


 慌てることもなく、片手をこちらに向けてゆっくり歩くように。




 それはもちろん、強者としての余裕。


 このアドリアダンジョンを統べる、ダンジョンメーカーとしての自信の表れなのだろう。




 俺はその攻撃を、ひたすら防いでいく。


 防御はあまり得意ではないのだが、相当舐めているのか、まだまだ防ぐだけなら余裕だ。




「フム、粘るネ。ならばこれならどうかな、《ファイアスプレッド》」




 シビラが使っていなかった系統の火魔法を使ったので、警戒しながら腰を低くする。


 次の瞬間、魔王の手から現れたのは、小さいファイアボール。


 しかしそれが、散らばって広がるように、一斉に俺に襲いかかってくる。




「——チッ」




「フフフ……」




 俺は聞こえるように舌打ちをし、自分の顔を防ぐ。


 細かい火の玉がローブに当たり、僅かに何かが触れた感触が伝わる。


 結果は……無傷だ。




 シビラがこのファイアドラゴンの血で染まった黒鳶色のローブを『これで完成形』と言った理由もよく分かる。


 いくら弱い魔法を小さくして散らばらせた魔法とはいえ、魔王の魔法攻撃を受けて焦げ付きもしないとは。


 火蜥蜴の最上位種の血、まだまだ侮っていたらしい。




 これなら、まだまだいけそうだ。




「……ホオ……なるほド。オマエはあのサラマンダーを自身の装備に利用したカ。それでは火の魔法に強いのも納得ダ」




「そうか。近づいて接近戦する気になったか?」




「ハハ、まさかまさカ。安全に削らせてもらうヨ。でもそのローブがどれぐらい頑丈かは見てみたいネ」




 両肩をおどけるように竦め、俺のローブに目を細めながら薄い唇の口角を上げる紫の男。


 その右手がこちらを再び向く。




「《フレイムストライク》!」




 ……明らかに上位の魔法を撃ってきた!


 俺は視線で攻撃を確認すると、再び手元の剣で自分の顔を守る。




 俺の魔力を付与したミスリルコートの竜牙剣は、魔王の魔法を打ち破る。


 むしろ剣で防いだすぐ後ろにある、俺の顔がまずいな。


 目を閉じて多少息を止めていたが、吸った瞬間身体の中が焼けかねない。




 いや、実際少し吸ってしまったなこれは。


 喉が焼けると魔法は使えない、声が出ないからだ。


 そして当然、この狡猾な魔王がそんなことを分からないわけがなかった。








「……う……」




 うめき声を上げて、俺の膝が赤い岩肌につく。


 ……ふん、近くで見ると結構雑な塗装じゃないか。冷静だったら色を塗っているとすぐに分かる色だな。




「ククク……」




 アドリアの魔王が、抑えきれないように笑い出した。




「今のは衝撃も入る、高威力の魔法だったガ……ククク、ククククク……! あの魔法で全く燃えていないローブは見事なものだが、オマエ自身の身体はファイアドラゴンほど強くはなかったみたいだなア! ハハハハハ!」




 立ち上がり、ふらつきながら魔王から避けるように横に歩く。


 両手に剣を持って構えながら、後ろにじりじりと動く。




「いやいや、そんなので受けられるノ? 同じ衝撃、今のふらふらなオマエにはどれぐらい耐えられるかナ?」




「……チッ……」




「ククク……実にいい反応ダ……その反応が見たかったヨ」




 魔王が片手を上げて、こちらに手のひらを向けた——。




「《ストーンジャベリン》!」




 ——その瞬間、魔王の側頭部目がけて石の槍が高速で飛んでいく!




 シビラは先程まで戦いには静観を決め込んでいたためか——それとも女神は人間を助けるとは思っていないのか——全く想定していなかった方向からの攻撃に回避が間に合わず、首が大きく横に曲がる。




 頭から紫の血を噴出させた魔王は、表情を消してシビラの方へと首をぐるりと向ける。


 そのまま流れた血を気にしていないかのように、首を交互に傾ける。




「やれやれ、今回の女神は水を差してくるんだネ……」




 シビラからの攻撃魔法に、魔王は眉毛のない眉間に皺を寄せて、剥き出しの白目を細くする。


 遠距離攻撃で一方的に俺を遊ぶつもりが、遠距離攻撃が出来る敵の出現に、一気に機嫌を斜めにする魔王。




「《フレイムストライク》」




 先程とは違い、何の感慨もなさそうに俺の顔を見ずに手だけ向けて、高威力の攻撃魔法を放つ。


 その衝撃に剣を取り落とし、カランカランと剣が落ちる音がする。


 残るは俺のうめき声のみ。




「フン、それでもう立ち上がれまイ。後ろから斬られることはなさそうダ。……しかし、女神。オマエは厄介だナ」




「……」




「誓約者を使う女神など他人任せな八方美人ばかりだと思っていたが、なかなかオマエは嬲り甲斐がありそうダ」




 魔王が、シビラを敵と認識して脚を進める。


 シビラは腕に取り付けた小さな盾で自分を守るような格好をし、魔王を睨み付ける。


 魔王がシビラの方へと、片手を上げた——












 ——ここだ。












「ッグアアアアアアァァ——!」




 俺は油断しっぱなしの魔王の背中の真ん中にある、赤い宝石のようなものにダークスフィアを無詠唱で叩き込んだ。


 そして当たった瞬間に、もう隠す必要はないと立ち上がって両手を使い魔法を放つ。




「《ダークジャベリン》」


(《ダークジャベリン》)




 周囲の光を吸い尽くす強力な闇の槍が、振り返る魔王へと高速で刺さる。


 更に追撃をしようと思ったところで、さすがに魔王も俺を警戒しながらバックステップで離れる。




「お、お、おお、お……オオオおオオオレの、ボクの、ワタシのワタシの、『ダンジョンコア』がああああアアアア!?」




 愕然とした顔で、左手を背中に向けて掻きむしるように忙しなく動く血まみれの魔王。


 その頭から流れ出る血を毛ほども気に留めていないという様子で、しきりに背中のことばかり気にしている。




「なるほど、やはりそれがこのダンジョンを維持する宝石ってことだったんだな」




「な……ナゼ……なぜ……ナゼ……」




「何故ってお前な、俺は【聖者】だぞ。回復魔法が使えないわけないだろ馬鹿か?」




「ば、バカ!? この知略に長けた、ワシを、ワラワを、ワガハイを、馬鹿だと、バ……いヤ、待テ。オマエ。おイ。今、なんト」




「聖者、だ。俺は元々回復術士だっつーの」




「せ、聖者が、勇者パーティーにいなイ。回復術士が、単独ソロで、回復魔法と闇魔法ヲ……あ、ありえなイ……想定外ダ……こんなノ……」




「有り得ない、か」




 俺は、床に転がっている剣を拾う。


 ……やれやれ、負けたフリも大変だな。




 俺が無事なのは、なんてことはない。




(《エクストラヒール》)




 喉がどんなに焼けようと、シビラに教えてもらった無詠唱による回復魔法にかかれば問題はない。


 魔王は俺が回復魔法をいつ使ったかすら分からなかっただろうな。




「想定外。そういえば、このボス専用フロアを最下層にしたのも、俺達にとって想定外の事態……というつもりでやったんだろう?」




「……あ、たりまえ、ダ……」




「想定していた、と言ったら?」




「——ハ?」




 想定されていたことを全く想定していなかったらしい。


 随分と間抜けな顔を晒したものだな。


 まあ俺も、戦っている最中は分からなかったが……このボスフロアに入る前に想定していたヤツがいる。




 言うまでもなく、危険予測に長けた冒険者先輩だ。




「シビラから、事前に魔王と連戦する可能性を示唆されていた。そして俺は、シビラの指示通りのプランを遂行したに過ぎない」




「プラン、だト……」




「そう。フロアボスの入口にある魔力壁が維持されたまま出られない場合、息切れして座り込めという指示だ」




 あの瞬間、確かに『忘却牢のリビングアーマー』目がけて魔法を放つのは大変だった。


 大変だったが……それだけといえばそれだけなのだ。




 俺の魔力は無尽蔵。どんなに闇魔法を使っても、まだまだ底が見えない。


 普通はバテてしまい、魔法をもう使えないと思ったことだろう。


 聖者の俺が闇魔法の適性一番ってどうなんだよって話だけどな。太陽の女神に会ったら気が済むまで問い詰めたいところだ。




 とまあそんな『常識』に囚われてしまった結果。


 そして、勝ったという『油断』に囚われてしまった結果。




 今の、シビラから事前に聞いていた魔王——ダンジョンメーカーの持つダンジョン維持のための魔石『ダンジョンコア』を破壊する作戦を防げなかった。




「身体のどこかに付いているだろうと聞いていたが、あんなに狙いやすい位置にあったとはな。正面から戦うなら厄介だが、背中を見せる馬鹿がいるかよ」




「……グ……」




「要するに」




 俺は右手で剣を掲げ、再び闇魔法を付与する。


 剣は命を刈り取る光を放ち、俺はその先端を魔王に向けた。




「お前は終始、『想定外を全部想定』したシビラの手の平の上だったってことだ。俺の勝利の女神を出し抜こうなんてお前の頭脳じゃ百年早いってことだよ三下!」




「お……ノ……レ……!」




「いいか、あの孤児院は【聖騎士】エミーの大切な場所であると同時に、【聖者】である俺の育った場所でもある。そんなこともわからず俺の前でペラペラと喋った時点で……そう、俺の居場所に手を出した時点で、お前は何としてでも滅ぼすつもりだった」




 その剣を握りながら、片手を相手に向ける。




 あの時は、回復魔法しか使えなかった。


 逃げ延びるだけで必死だった。




 だが、今の俺にはシビラという世界一ずる賢い勝利の女神がついている。


 その女神からもらった力がある。




 今の俺なら、勝てる。




「さあ——ここからは『黒鳶の聖者』の番だ」

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