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29 【勇者パーティー】エミー:ありふれた日常ほど、小さな違和感を大きく感じてしまう。それでも私は一人じゃない

 窓からの眩しい太陽の光を受けて、私は目を覚ます。


 宿を上のランクに変えて、ベッドの毛布も厚く柔らかい。……ああ、もう少し……あと五秒……ううん、あと五分だけ……ああやっぱりあといちじか——




「起きて」




「わあっ!」




 急に毛布の重さがなくなったと同時に、外気の寒さが迫ってくる。


 ああ〜ん……私のふかふか毛布〜……。




「いつまで寝てるのさ……」




「あ、あれ……今何時?」




「九時半。朝食そろそろ終わるよ」




 え、ええっ!? もーそんな時間なの!?


 ていうか、だんだん目が覚めてきたから気付いたけど、つまりみんな先に起きちゃってるってことだよね?


 それで先に食べちゃったんだよね!?




「お、起こしてくれても……」




「あと五分って言って、戻ってきたら一時間ずっと寝てた」




「うっ……」




 ああ……記憶がないのに、なんだかありありとその様子が浮かぶ……。




「ご、ごめんごめん……」




「本当は二度三度起こしたんだけど、全然起きて来なかったから驚いたよ。……普段は目覚め早いほうだよね」




 ジャネットの質問で、私はだんだんと、本当の意味で頭が覚醒してくる。




 ……そうだ、昨日は夜、みんなでベッドに入って、私一人だけ目覚めて……。




 そして、ケイティさんが……。




「……やっぱり昨日の怪我、かなり重かったから精神的に疲れてるのかもね」




「あっ……! えっと、あ、あー……うん、そうみたい。もう大丈夫だから」




「ならいいけど」




 ジャネットはそう言うと、私のベッドから離れていった。


 そして扉に手を掛けたところで、ふと思い出したようにこちらを向く。




「忘れてた」




「ん?」




 ジャネットは、いつもどおりの感情の乏しい表情で首を傾けながら言った。




「おはよう、エミー」




「あっ! おはよう、ジャネット!」




「ん」




 その返事を聞くと満足そうに(といっても表情からは分からないけど)部屋を出て行った。




「……はぁ〜。なんだか最近はジャネットの方が、しっかり可愛い女の子してるなぁ」




 私も一人で悩んだり落ち込んだりしてられない。


 よーし、気を引き締めて、がんばろう!








「おはよーっ!」




「おう!」




「あら、おはようございます!」




 食堂にはヴィンスとケイティさんが既に食べていた。




「私のもお願い!」




「はいよ!」




 食堂で恰幅のいいおばちゃんからトレイをもらい、パンと肉とチーズの大皿を確認して満面の笑み。


 ん〜っ、やっぱり食べるのっていいよね。




 私はケイティさんの隣……ではなくヴィンスの隣……でもなく、ジャネットの隣に座った。


 ジャネットは少し不思議そうに小さく首を傾けていたけど、特に問わないでくれた。




 ……なんとなく、まだケイティさんを正面から見るのが怖い。




 あの人が分からない。


 一体何者なのか、何故私達に近づいてきたのか。


 ……それでも昨日一日一緒にいただけで、はっきり分かることがある。




 ——今の私達が、ケイティさんなしでパーティーを問題なく回転させるのは、現状ではとても無理。




 その一点だけは絶対だ。




「……あ、食べ終わっちゃった」




 私が黙々と考え事をしながら食べていると、皿の上の食べ物はいつの間にかなくなってしまっていた。




「まあまあ。よろしければ、私の分も食べますか?」




 私の呟きを聞いて、ケイティさんが料理が半分ほど残っているトレイを持ってきた。


 ちょっと緊張しつつ、声をかける。




「いいんですか?」




「はい〜! しっかり身体を作っていただかなくてはいけませんから!」




「で、では遠慮なく」




 私はケイティさんからお皿を受け取り、お肉を食べる。


 そんな私も、ニコニコと顎を両手に乗せて見る金色の瞳。




 ……うん、あんまり考え過ぎちゃ駄目だよね。


 独り言がちょっと危ないお姉さんなだけで、一緒に会話している時のケイティさんはやっぱり素敵な女性だ。


 私が拒否するというのは、本当に失礼。




「おいしいです、ありがとうございました」




「はい、どういたしまして! ジャネットさんも、少し食べてヴィンスさんに渡していましたから、私もどなたかに分けたかったと思っていたところなのです」




 そう言ってころころ笑うケイティさん。




 ……まあ、それはいいんですけどね……。


 なんでジャネットもケイティさんも少食なのに、そんなに、ばいーん! で、ぼいーん! なんでしょう……?




 ううっ……世界が理不尽で出来ているよ……。








 ギルドに出てみると、なにやらざわざわとした騒ぎ。


 ヴィンスがそのうちの一人に声をかける。




「なあ、何やら賑やかだが何かあったのか?」




「それがよ、今朝一番でドワーフの鍛冶屋にすげえもんが入ってきたって話題になっててな」




「凄いもの、か?」




 ドワーフの鍛冶屋ってことは、間違いなく素材のことだよね。




「ああ。なんとファイアドラゴンの鱗だ!」




「ドラゴンだと……!」




 ドラゴン!


 魔物の中でも最上位に位置する、下層あたりにいるって言われている魔物!


 見た人は、伝説上の人ばかり。他の高ランクの人たちでも、下層まで潜った際の情報はあまり外に漏らさない。




 みんな仲間で、みんなライバル。情報はタダじゃないのだ。




 もちろんこれはジャネットの請け売り!


 私がそんな賢いこと考えられるわけがないのだっ!


 ……自分で朝の陰鬱な気持ちを掘り返してどうするんだろうね。




 と、話を聞いていたケイティさんがずずいと前に出てきた。




「その話、本当ですか? 確証がありますか?」




「ん? お、おお……すげえ……」




「本当の、話! で・す・か?」




「うおっ、あ、ああもちろんですよ! あの寡黙でモノ作る以外興味なさそうなドワーフ自らが、皆叫びまくってて」




「ふむ……なら本当ですね。彼らの目は誤魔化せません、偽物は素材の魔力ですぐにばれますから」




 ケイティさんは、ヴィンスの方を振り返り頷く。




「素材に限りがあるでしょうから、必ず手にいれましょう。ファイアドラゴンの素材を使った鎧なら、火炎耐性があります。どんなに最上位の装備を手に入れようとも、その鎧が装備の選択肢から外れる日は来ないでしょうね」




「そりゃすげえ、絶対手に入れないとな。しかし予算が……」




 ……うーん、確かにその装備、話を聞くだけでとても買えそうにないよね。




「でしたら選択肢は一つ」




 そしてケイティさんは、ヴィンスに身体を密着させるように正面からひっついた。




「手に入るまで稼ぎましょう!」




 ヴィンスはケイティさんにじっと見られつつも、その視線はケイティさんと合っていなかった。




 ……さすがにあれは断れるとは思えないね。


 ナチュラルパーティークラッシャーのケイティさん、自分の武器をよく理解していらっしゃる。


 やっぱりナチュラルではなく意図的なのでは?




 まあそれはそれとして、私もお金だけじゃなくて、レベルを稼いでおかないとと思っていたところだ。


 昨日の分を取り返しに、頑張りますかね!








 ダンジョンに連日入ることはあまりない。


 一応疲れとかはないと思うし、今までそんなことを感じることはなかったから、大丈夫だろう。




 すぐに中層の方に到着して、魔物の討伐と探索を開始する。


 ブラッドタウロスの攻撃を防ぎながら、後ろのみんなに攻撃を任せるという形だ。


 そしてチャンスがあれば、私も反撃をする。もちろんレベルはなかなか上がらないけど、それでも大切な私の役目だ。


 しっかり頑張らなくちゃ。




 途中、交差路で二体のブラッドタウロスが現れた。


 片方は私の方、片方はヴィンスへ。




 そこで、ケイティさんの叫び声が聞こえてきた。




「エミーさん! ヴィンスさんを庇ってみてください!」




「え? えっ、はい!」




 ケイティさんが私の正面にいた魔物を、土と水の魔法を駆使して怯ませた。


 そのうちに私は、ヴィンスの正面に回って盾を構える。




「そう! もっと密着して!」




「へっ!? え、ええと……!」




 それって、かえってヴィンスが危なくない?


 指示は意味不明だったけど、とりあえず謎の頭脳であるケイティさんの指示だ。やるだけやってみよう。




 私は盾でタウロスの攻撃を受ける。


 大きな音が鳴って、棍棒の衝撃が腕に伝わる。




 ……うん、普通。


 まあそりゃそうだけど、普通の防御でしたね。




「……まだ?」




 なんだか変な声を聞きながらも、ジャネットが私に回復魔法をかけて、続けざまにヴィンスが攻撃魔法を叩き込む。




 そして一番近かった方の魔物は倒れたので、すぐにヴィンスと離れる。


 私とヴィンスは目を合わせながらお互いに首を傾げた。




「別に普通だったよね?」




「……そりゃまあな」




 なんだかまたじろじろ見られている気がするので、私はヴィンスに手短なやり取りを済ませると、ケイティさんの前へと走った。


 上手く中層の足場を隆起させながら、前に来るのを防いでいる。近づいたら顔目がけて火を放つ。


 本当にレベル以上に戦い方が上手い。




「入ります!」




「あっ、はい。助かります」




 そしてすぐに、残りの魔物も討伐完了したのだった。




 ケイティさんは私をちらりと見た後にヴィンスをじっと見て、口が動いていると分からないぐらいの小声で呟く。








「——足りない? まだ? でも必ず……ないなんてことはない。いつか、そのうち……絶対…………」








 ……まただ。


 まだケイティさんが、よくわからないことを喋っている。




 ジャネットの方を向くけど、運悪く遠くに居る。


 ううっ、こういうときに頼りにしたいのになあ。




 とにもかくにも、この日の探索も無事に終わった。








 夕食もたくさん肉を食べて、宿に戻り就寝時間となった。




 今日はケイティさん、特におかしな動きはなくぐっすり眠っている。


 私はその姿をじーっと見ると、自分もベッドに……入ろうとしたところで、後ろから声がかかる。




「……エミー」




 振り向くと、朝と同じようにジャネットがこちらを見ていた。


 ぼんやりとした目……のようで、どこか意志を感じる目。




「こっちに来て」




 私はジャネットに誘われるまま、宿の誰もいない場所まで来た。


 そこでジャネットは振り返り、私の方をじーっと見て口を開く。




「何か、あった?」




「……!」




 ——ああ。


 ほんと、この子にはかなわないや。




 ジャネットは私がおかしいこと、とっくに気付いていたんだね。


 さすが頭脳面では幼なじみ四人組で一番だった子。




 ……今、一番信頼できる相手。


 そして、そのことを話す絶好の機会。




 部屋はまだドアが開いていない。どこかで起きて聞いている気配はなさそうだ。








 私は、意を決してジャネットに報告した。




「あのね、ケイティさんのことなんだけど——」

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