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24 永和の女神は、幸運を掴む力のある者に現れる

 闇魔法の連射は、相性問題を考えなくていい。ただ、高威力の魔法を撃ちまくれば、必ず最後に相手は倒れる。


 そして順調に六体目のリビングアーマーを倒した頃、俺はふとした疑問が生まれたためシビラの方を向く。




「下層ということで期待してみたが、黒ゴブリンに比べてレベルアップが遅い気がするな」




「ん、だとすると原因は二つね」




 これぐらいなら、考える時間もなしか。




「まず一つ、【神官】でもキュア以上の次元まで到達した13レベルの人が覚えた魔法を全て捧げても、【宵闇の魔卿】はレベル2が限界。むしろあんたが魔法を一切捧げずレベルを4つ捧げる程度でダークジャベリンまで使いこなせたのは、それだけ【聖者】のレベル4つ分が大きかったから」




「なるほどな……職業ジョブによって必要になる討伐数が全く変わってくるというわけか。そういえば、前にレベルアップした時に倒した相手、ファイアドラゴンだもんな」




「最下層でも中堅どころよ。あんなのと再々やり合いたくないでしょ」




「まったくだ……」




 あの時は、【宵闇の魔卿】となって闇魔法を使えるようになった高揚感で対応していたが、正直攻撃が当たった瞬間の激痛はかなりきつかった。


 それでも死を回避する為の必死さで何とかなっていたようなものだ。


 死ぬことに比べれば、激痛など安い。




 ……そう考えるだけなら、確かにそのとおりだが。


 実際にあんな戦いが三度四度と何の感慨もなく日常的に叩き売りされるような事態は、いくらレベルアップの近道でもさすがに遠慮したい。


 レベルの果てを見る前に、精神の方が果ててしまいそうだ。




 できることならば、次に挑戦するにしても少しは余裕を持って勝ちを拾いに行けるようになっておきたい。


 術士から術士に職業ジョブ変更チェンジした自分に、耐久力を期待するのは無理があるとは分かっているが……。




 シビラが話を続ける。




「で、もう一つの理由は……まあレベリングの経験値における悩みどころの一つ。つまり効率が絶対正義でないこと、よね」




「効率が、絶対正義ではない?」




「そ」




 俺は先ほど倒したリビングアーマーの大きなメイスを拾って、自分には用途がなさそうなことを確認して置き、シビラの説明に耳を傾ける。




「例えば、経験値1の紫ゴブリン、経験値……300ぐらい? の、黒ゴブリンがいたとするわ」




「おう」




「弱い人は紫を狩り、強い人は黒ゴブリンを狩るわよね」




「そりゃそうだな」




 遠くから攻撃できるのなら、身体が小さいくせに力が強いとか、武器に毒があるとか、そういうの関係ないしな。




「それでは、永和が明日までに強くなりたいとするわ。あんたは黒ゴブリンを狩る?」




「当然だろ?」




「もう一度質問。紫ゴブリンが四桁いるダンジョンと、黒ゴブリン三体以外の魔物がいないダンジョン。『どうしても明日までに強くなりたい場合』は、永和ならどちらへ向かう?」




「……ああ、なるほどな」




 何故こんな順序で説明をしたのか、今の質問でようやく得心が行った。早くレベルを上げたいのなら当然経験値が高い方を狩るのが早い。それが一番効率がいいからだ。


 しかし……いいのは効率だ・け・なのだ。




「基本的に効率重視。だけど、効率と絶対数は違う。だから毎日効率よくやることを心がけている人が、安全に長時間やっている人に追い抜かれるということもある。もちろん、逆もね」




 的確な説明だ。


 確かに高い経験値の魔物を狙うのは、効率の上において当然。


 しかし、最終的な総経験値こそが、その人の得たものに他ならないということか。




 そしてここのリビングアーマーは、黒ゴブリンに比べて出現頻度が低いのに、一体ずつしか出てこない。


 戦っている回数が多いようで、絶対数はかなり少ないのだ。




「ご教示感謝する」




「ふふん、感謝なさい。シビラちゃん凄いでしょ、これで心の奥底からアタシに惚れきったわね」




「その願望自分で言ってて空しくならないのか?」




「確定事項のつもりで言ってるんだけど……」




 どうやったらそんなに自信満々になれるのか、そちらの方が心の奥底から興味あるぞ……。




「ま、実際分かりやすかったと思う。教員なんて向いてるんじゃないのか?」




「生徒は常に『宵闇』の系列だけだから、冒険者用にばかり偏ってるのよねー」




 そうか、そもそも俺以外にも何度も【宵闇の魔卿】という職業を持った名も知らぬ先輩魔卿に対して、シビラは教えているわけか。


 なるほど、かみ砕いて分かりやすく教えるのも得意なわけである。


 元々頭がいいヤツだとは思っているが、それでも何度か説明しているうちに順序などを効率化したのだろう。




 ……ん? 待てよ。


 今何か、気になることを言わなかったか?




「なあ、シビラ。宵闇の……系・列・って何だ?」




「んんっ? 永和も『宵闇の誓約』の数々、知りたい? 知りたいかなぁ〜?」




「あ、やっぱ今はいいわ」




「それはね〜……って、へ? あの……あ、あれっ? えっ!?」




 気にならないことはないが、そんなことすら気にならなくなるぐらいさっきのドヤ顔がウザかった。チョップが出かかるぐらいウザかった。


 というのはまあ半分冗談で「半分ってどういうことよ!?」はいはい黙ってろ。




「さすがにじっとしてたら魔物に遭遇しない、なんて有り得ないよな」




「あっ……!」




 まずは新たに現れた魔物の相手をしないとな。気になる話もあったが、俺の話じゃないだろうから、覚えていたらでいいだろう。


 シビラも歩く鎧の姿を確認して、俺のすぐ後ろに移動する。


 討伐再開だ。








 経験値効率のことも聞いたところで、ふと俺は試していない魔法のことを思い出した。


 どういったものであるか、確認しないと用途が分からない。




「そういえば、この魔法も使ってみないとな。《ダークスフィア》」




 まずは、基本的な威力を確認するために二重詠唱にはせずに魔法を撃つ。


 赤黒く光る頭蓋サイズの闇の球体が、大剣を持った鎧に向かって飛んでいく。速度はジャベリンほどではないが、それなりにあるな。




 鎧の敵に当たった瞬間、黒い波が広がるように、球体が余波を持って大きく破裂する。


 威力はありそうだ。




「悪くない。次々行くぞ」




 俺は次にダークスフィアを二重詠唱し、先程より僅かに大きくなった球体が、僅かに上がった速度で相手に炸裂するのを見た。


 ダークスフィアがレベル7で覚えた魔法。ギリギリだからか、無詠唱を重ねるのは今ひとつかもしれない。使えただけで御の字か。


 ……あまり二重詠唱し甲斐がないな——。




 ——と思っていたのは、敵に当たるまで。


 その魔法が、リビングアーマーが防御するように構えた大剣にぶつかった瞬間、最初の比ではないほどの黒い波が大きく広がる。


 リビングアーマーは防御しきれずに、大剣を取り落とした。その鎧に向かってダークジャベリンを連続して撃つと、目の光が消える。討伐完了だ。




「二回目は二重詠唱だったんだが……何故着弾まであまり変化がなかったんだろうな」




「……球体は、体積という考え方をするわ」




 ん、何だ?


 今度は別の授業か?




「縦と横が二倍の長さになった布は、四倍の大きさの布よね」




「ああ」




「これが箱になると、容量は八倍になるの。同じ形の四角い箱が八個固まると、縦横高さは箱二個ずつ。分かるわね」




「……ああ、確かにそうだな」




「つまり、今あんたが撃った弾は、横幅が……まあ二か三割程度増えてたわね? 球体は分かりにくいんだけど、あの球の中身はあれで二倍になっている。だから当たった瞬間、威力が二倍である闇魔法の余波攻撃になった。仮に球の横幅が倍になったら、威力は八倍の球よ」




「なるほど……」




 順序立てて説明されたので、俺でも頭の中で理論を構築できて分かりやすい。


 ……どこが冒険者用に偏るんだよ、普通に王都で教鞭執れるぞこいつ。




 そうシビラの指導に感心していると、唐突に当のシビラが叫んだ。




「じゃなくて! あんた、宵魔レベ8!? もうスフィアいってんの?」




「7だ。無詠唱はうまく出来たようだな。……ファイアドラゴン相手にダークジャベリンを二重詠唱していた時点で、それなりにレベルはあると思っていてほしいところだったんだが」




「いや今5ぐらいで、今回はすごいわね〜とか思ってたわよ! 7って! ジャベ覚えんの3でしょ!?」




「あのときはそうだったな」




 宵魔とかジャベとか、便利そうな略称を言ってるということは、今の焦り気味シビラは素だな。




「魔法とレベルといえば、レベル2でダークエンチャントが使えたのはよかったな。こんなに強い魔法が低いレベルで覚えられるとは」




 いくら二重詠唱とはいえ、ファイアドラゴンを切り裂ける魔法がレベル2というのは異常ではないだろうか。


 俺がそのことを言うと、シビラはなんでこんなことも分からないんだとでも言わんばかりに大きく溜息を吐いた。




「はぁ〜っ……。異常、ね。……いちおーあんたの中での再確認ってことで言っとくけど、【魔卿】という普通の術士は基本リーチ長い剣とか扱えないわよ。だから弱い魔法扱いなの、それ。ナイフとかで背後取った時の、術士捨て身の暗殺用と思っていいわ」




 ああ、なるほどな……俺がたまたま剣を使えることが、かなり相性が良いのか。




「異常なのは、闇魔法の威力や順序じゃなくて、清廉潔白の権化みたいな聖女と同じ職業もらっておいて騎士より剣振り回すのが上手いあんたよ! 分かった!?」




「そりゃ返す言葉もないな……」




 説明されると納得するしかない。


 後から覚えるのならまだしも、俺は剣士になれるような幼少期を過ごしたのに、もらったのはこれだからな。


 今はそこまで嫌い嫌い言うことはないが、やはり太陽の女神の考えはわからん。




 幸運の女神の後ろ髪がないのは、チャンスを一度逃したら掴めないという意味がある。


 しかしそれ以上に、何かを積み重ねていないと幸運の女神そのものが見つけられない。


 目の前を通るそれが幸運の女神であると、認識できないのだ。




 俺にとって、シビラのもたらした【宵闇の魔卿】は、本当に幸運だった。




 自分自身、この職業の相性の良さを肌で感じている。


 序盤に覚える属性付与と、大きな消費魔力。


 どちらも俺向きだ。




「それにしても、ダークスフィアがいけるのなら、もうちょい歩くの速めて集団とかいたら狙ってもいいかもね」




「集団狙い? この魔法が使えることが、そんなに影響するのか?」




「ダークスフィアの爆発って、範囲攻撃なのよ。あの広がったやつ、ダークアローぐらいの威力は平気で超えるわよ」




 それはすごいな……。小さい傷だが、ファイアドラゴンにもダメージを与えられたあの攻撃が範囲で広がるとなると、半端な威力ではない。


 複数体の敵が出てきても、ダークスフィアを連続して撃てば、まとめて倒せるというわけか。




 その説明をした後、シビラは呆れたように笑った。




「まったく、そのデメリットが範囲攻撃故のダークジャベリン数倍という消費魔力なのに、あんたってそういうの関係ないものね。……効率と、絶対数。両方有利な条件狙って攻略していくわよ!」




「ああ、了解だ!」




 経験値の効率と絶対数、新しい魔法の威力、そして利用方法。


 さすがの知識と知恵、一通りの知りたいことは教えてもらえただろう。


 あとは、幸運の女神様のお導き通りってところだな、悪くない。




 俺は次のレベルアップを目指して、シビラとともに再び赤い地面に足を進めた。

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