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16 幸運の永和を抱きしめてでも、後ろから前髪を掴め

 力。




 その意味するものは広義に渡り、基本的にどういったものに対しても使える言葉ではある、が。


 大抵は——特に今の場合なら——その意味など一種類だろう。




 攻撃力。


 破壊力。


 殺傷力。




 そういったものを指している。








 俺は、シビラの目を見つめ返す。




「……」




 今度ばかりは、ふざけてやっているわけでもなさそうだな。




「シビラ」




「……」




「お前は一体、何者だ?」




 まず俺が質問したのは、そのこと。




 轟々と燃え盛る炎の壁を見るに、まだ多少は喋る余裕があるだろう。


 俺の質問に対して、シビラは気まずそうに視線をそらせた。




 ……シビラは、随分と俺のサポートをしてくれた。


 このダンジョン攻略において必要なことを、的確な知識で教えてくれたし、柔軟な考えで俺の殻を破ってくれた。




 詳しいな、と思っていた。


 特に、神官の魔法についてなどは。




 しかし、聖女の……聖者の魔法に関しては、あまり詳しくないようであった。


 その辺りは俺のキュア・リンクのことを考えると秘匿されていたのだろうなということは分かる。








 だから、おかしいのだ。




 秘匿されている、もしくは解明されていない情報の中には、いくつかの項目がある。


 その中でも人類にとって重要なもの。




 ——魔王。




 勇者パーティーは、魔王の存在を冒険譚に残さないのだ。


 確か大昔には、勇者パーティーではない者も魔王討伐に成功していたという伝説も残っている。


 だから、俺は思った。勇者は『意図的に魔王のことを秘匿している』のではないかと。




 攻略情報を教えることで『手柄を横取りされる』から困ると、勇者か聖女が考えたのだろう。


 かつての俺ならそんなことは思わなかったが……名誉欲からキュア・リンクのことを黙っていた伝説の聖女のこと、そして何よりその人の性格に向いている職業を授ける女神が、ヴィンスに【勇者】の職を渡したことを考えると、むしろそちらの方が自然に思う。




 人類の危機より、仲間の友情より……自分の欲なのだ。


 ああ、むしろ人間らしくて逆に信用できるぐらいだな。




 まあ、今はその話は置いておこう。


 つまり、今の人類は知らない。


 『魔王』のこと。そして……『魔界』のこと。




 そう。


 シビラはダンジョンに詳しい。


 詳・し・す・ぎ・る・のだ。








 俺が黙ってシビラを見ていると、やがてシビラは諦めたのか溜息をつき、ぽつぽつと喋り始めた。




「……本当は、ハモンドであなたのことを、見ていた。もっと言うと、各地にいる神官全てを」




「……」




「アタシは、回復術士を探していた。慈愛に満ちた回復術士が、何かしらの恨みを持つことを。そして、その中でも一番気になっていたのが、あまりにも不当に虐げられているように見えたあなただった。【聖者】だったことまでは、知らなかったけどね」




 シビラは、俺のことを元々知っていたのか。


 神官を探していたらしいが、それで神官の覚える魔法を暗記しているわけだ。


 しかし、そうなると一つ疑問がある。




「聖者の魔法には詳しくなかったな」




「アタシが入り込む余地ないもの。だって、かつての【聖女】は勇者に愛されてたんだから、黒い感情なんて湧かないのよ。だから神官には詳しいけど、聖女のことは全く分からなかった。ブラックボックス……全く中の見えない秘密の箱よ」




「俺と孤児院で出会ったのは、俺を狙っていたのか?」




「まさか。あれは本当に、たまたまダンジョンスカーレットバットが子供を脅かしていたって情報を聞いたから助けに入っただけよ。だから、神官だと思っていたあんたがアタシを助けてくれたとき、運命かなって思ったの」




「運命?」




「そう」




 シビラは、そこまで言うと……うっすらと見える程度の、黒い翼を背中に生やした。




「……な……」




「アタシは……」








「アタシは、女神。でも、現在の女神教で祀られている『太陽の女神』とは違うわ。その名も——『宵闇の女神』よ」








「宵闇の、女神……」




 あまりの事態に、呆然と呟いた。


 美しい女だとは思っていたが、まさか本物の女神だったとは。




「もしかしたら、『邪神』なんて呼び方の方が、あなたたち太陽の女神教には自然かしら」




「……やっぱり宗教勧誘じゃねーか」




「ふふっ、そうかもね」




 楽しそうに笑うと、再び最初に見せたような真剣な表情になる。




「力が、欲しい?」




「……」




「仲間に裏切られたあなたが、勇者を見返せるほどの、圧倒的な復讐の力が欲しい?」




 ……きっと、その言葉は冗談ではないのだろう。




「何が、得られる?」




「『闇魔法』。あなたの力を、攻撃に換える闇魔法。アタシは記憶を繋いで、幾度となくこの世界に顕現して、【神官】を【宵闇の魔卿】に変えてきた。もしもあなたがアタシとの『宵闇の誓約』を望むのなら、究極の攻撃魔法属性である闇魔法を、授けるわ」




 本当に、俺にも攻撃魔法が……。




 ……いや、待て。


 今、シビラは何と言った?




「攻撃に、『換える』とは? 新たに覚えるんじゃないのか?」




「いいえ、それでは足りないわね。神官の覚えてきた魔法、その蓄積された魔力の叡智を全て犠牲にして、闇魔法を覚えてもらうの」




 代償は、大したことではなかった。


 覚えてきた魔法を、全て犠牲にすればいいだけ。








 俺は、かつての勇者パーティーでのことを思い出す。




 回復魔法を覚える仲間達。


 賢者として攻撃魔法専門になるかと思えば、真っ先に俺と同じ回復魔法を覚えたジャネット。


 身体能力が高く、回復術士に比べて圧倒的に何もかもが強いのに、俺と同じ回復魔法を覚えたエミー。


 そして……剣も魔法も強いのに、何もかもが攻撃特化なのに……俺と同じように育ってきたはずなのに、勇者になった上に回復魔法を覚えたヴィンス。




 何度、回復魔法を要らないと思っただろう。


 そして、攻撃魔法を望んだだろう。




 究極の攻撃魔法属性。


 俺にとって、最も必要だったもの。


 それを、俺が不要だと思っていたものを犠牲にすれば、手に入れられるのだ。


 こんなチャンス、もう二度とないぞ。




 俺は、シビラへ向かって返答の口を開き——。








 ——道の片隅で泣いている、ブレンダの姿を思い出していた。








「すまない、その提案には乗れない」




「……え?」




 俺の答えは、拒否。




 ……なるほど、ようやく自分で自分のことが、本当に理解できた。


 俺は、どうやらいくらスレていたとしても、結局泣いている子供を見捨てて好き放題できるような性格ではないらしい。


 ここまで見越して、俺に【聖者】なんてクソ厄介なものをなすりつけてきたというのなら、やはり女神……『太陽の女神』は嫌いだ。




「俺が回復魔法や治療魔法を失えば、泣いてしまう子供がいるんだ。だからシビラの提案には乗れない」




 シビラは愕然と目を見開くと、涙をこらえるように辛そうな表情をして視線を落とす。




「……そう……あんたって、そういうヤツなのね……アタシ、聖者ってやつの素養、侮ってたわ……。ほんと、嫌いよ……嫌い……。……どうやってもあんたのこと、嫌いになれないあたりも、嫌いよ……」




 シビラが、俺に伸ばしかけていた手を力なく落としかける。


 俺はその手を掴み、強く握った。




「ところで」




「何よ、もうあんたに用はないわ……」




「俺には用がある」




 シビラは憔悴しながらも怪訝そうな顔で、俺の方を向いた。


 その顔に向かって、ハッキリと宣言する。




「それはそれとして、俺に闇魔法を教えてくれないか?」

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