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15 永和は侮った先入観ほど怖いものはない

 魔王。


 どんな存在なのか、詳しく話すことができなくとも……その単語に対して、普通の人ならば一定以上のイメージがある。




 圧倒的に強い、人類の敵。


 英雄の伝説に出てくる、最大の壁。




 それが、この目の前の存在だというのか?




「……ンン〜、お客さん、なんだかテンション低いナ。ワタシに出会えたんだから、もっと楽しむべきだと思うんだがなア」




 気楽そうに言ってくれる、目の前の黒い人間の影。


 魔王だなんてものが、第二層から現れるなんて……あまりにも、想定外の事態だ。


 何でもかんでも女神のせいにするのはさすがに悪い気がするが、それでも勇者パーティーから追放させられるような【聖者】なんて職業を寄越しておいて、別れた途端に俺が魔王と遭遇するとかどんな冗談だよ。




 俺に、勝てるのか?




 ……いや、こちらから仕掛けるのは悪手ではないだろうか。


 少なくとも向こうはいきなり襲ってこず、何かしらの会話を望んでいる様子。


 だとするなら、下手に戦わざるを得ない状況にするよりは、会話をする方が良い……かは分からないが、マシだ。




「……お前の目的は、何だ?」




 俺の一言に、急に声のトーンを上げて嬉しそうに話し出す魔王らしきもの。




「いいね、いいネ! そうそう、君たち人間はワレらダンジョンメーカーを倒して、ダンジョンを氾濫しない場所にすることを目的にしていル。だからオレは、その中でも厄介なところから攻めようと思ったわけだヨ」




「我ら、ってことはダンジョンメーカー同士で情報交換しているのか。……厄介なところ?」




「ワレワレ、もともと一緒のところにいたからネ! フフフ、こんなに話すのは初めてだから楽しイ。厄介なところというより、厄介な要素の排除、だヨ」




 ……厄介な、要素。




 何か……猛烈に嫌な予感がする。


 平和なアドリア村で、魔王にとって厄介な要素なんて、限られている。




「お前の言う、厄介な要素の排除というのに、アドリア村そのものが関わっているのか?」




「ご明察ゥ! そう、この村だヨ! 特にあの孤児院は、おいしいねエ!」




「……孤児院、だと?」




「アア、そうとモ! ボクがトモダチに教えてもらったところによると、孤児院には勇者を守る聖騎士の、心の拠り所があるんだよねエ」




 くそっ、嫌な予感が当たった!


 こいつらの狙いは、勇者パーティーのメンバーだ。


 その中でも、エミーか……エミーの心の拠り所となる何かを……恐らく、ジェマ婆さんか子供達を狙っている。




 同時に、もう一つの緊張が高まる。


 孤児院の婆さんと坊主どもの心配をのんきにしてる場合じゃないぞ。




 こいつの狙い……聖者おれも、だ。




「聖騎士を狙うのか? 勇者の方が厄介じゃないのか?」




「勇者は割と身体フィジカルも精神メンタルもモロいよぉ、知らないノ? こういう攻略では一番大切な部分があるんだヨ。ま、折角だから教えようかナ」




 攻略……魔王が、攻略?


 こいつは、一体何を喋り出すんだ?




「魔物は考える頭がない、だけどワタシみたいなのからすれば、勇者パーティーに対して何をすればいいかなんて分かりやすイ。狙うは回復術士ヒーラー、だから盾持ち優先。先に聖女狙えたらいいんだけどネ? すぐ庇われちゃウ」




「……なに?」




「アア、神官だ、違っタ。つまり、神官を最初に落とすために、聖騎士を崩して、神官、それから賢者ダ。今回は聖女がいないと聞いているから、勇者の神官はきっと弱イ。聖騎士の心の支えを崩せば、神官を守れず一瞬で瓦解するヨ。これ、戦術の基本ネ。長期戦や耐久力において不利な人類種は、パーティーに回復術士がいなくなった時点で雑魚だヨ」




 その説明を聞いて、あまりの内容に背筋が凍った。




 ……俺は、心のどこかで魔王というものに勝手なイメージを作っていた。


 醜悪で、乱暴で……力任せで頭を使わない存在。




 だというのに、なんだ。


 こいつの話す内容は、そんな舐め腐った俺の魔王に対するイメージを、一瞬で覆してしまった。




 勇者パーティーの情報を事前に収集し。


 構成や種族における弱点を的確に把握し。


 更に直接戦闘の前に精神的に追い込むつもりだ。




 ——強い。


 自らが魔王としての能力を備えていながらも、決して油断せずに確実な勝利を狙っている。


 こういうヤツが、一番厄介だ。




 ただ、一つ。


 俺が勇者パーティーの聖者であると、気付いていない。


 今代の職業は【聖女】ではなく、【聖者】が授与された。


 だから【聖女】の授与を待ったところで観測されることは有り得ないと、まだ気付いていない。




「じゃあお前は、これから俺達をどうする。俺達は魔王討伐できるようなパーティーではないぞ……?」




 こいつが直接、襲ってくるのは避けたい。


 俺はそう念じながら、なんとかして別の手段を検討しないか探りを入れる。


 あまり格好良い方法ではないが、いくら魔法を網羅した最上位職だろうと、回復術士が魔王に勝てると思えるほど自惚れていない。




「ンン。そうだね、折角ワタシ自らが喋ったんだ、なんだかジブンの手で倒すのも惜しい気がするし、やりたいこともあるからネ」




 ……よし、直接戦闘は避けられそうな流れだ。


 シビラの方をちらりと見ると、あちらも「ふー……」と少し緊張を解いている。


 やはり魔王との直接対決は避けたいのだろうな。




「それでは、君たちをテスト運用の相手にしよウ」




 ……テスト運用?


 俺がその言葉の意味を理解する前に、紫色の地面から光が溢れる。


 その光が形を大きくしていき、やがて徐々に光が収まった後には、身体に火を纏った巨大な生物が現れた。




 その姿の迫力に愕然としていると、シビラが俺の隣で尻餅をつき、震える声でその名を呟いた。




「ファイアドラゴン……」




「……な、んだと? シビラ、おい」




「あいつは、あいつはダメ。ファイアドラゴン。ドラゴンというよりサラマンダーの上位種で、魔界でも最上位級の火属性の魔物……」




 ドラゴン。


 まさか、こんなところでそんな存在が現れるなんて。




「ウム、顕現成功。それでは仕事も終わったので、しばらくは休むヨ。人間とお話できて楽しかった、さようなラ」




 それだけ言うと、魔王はさっさと向こうへ消えてしまった。


 残されたのは、俺と、シビラと、ファイアドラゴン。




「シビラ! 逃げるぞ!」




「くっ、無理よ! あいつは『フロアボス』に設定された! 階段が使えないッ!」




 悲鳴を上げるシビラの方を向くと、その後ろにある階段への道に、光る壁が張り付いている。


 ウィンドバリアのような魔法の壁で、触ってもびくともしない。




『グルル……』




 ファイアドラゴンが、うなり声を上げながらこちらを見る。




 ……最悪の状況だ。


 魔王でなければまだ勝算があると思っていたが、とんでもない。




 シビラが使える魔法は、ファイアボール、ファイアアロー、ファイアジャベリン。他にも魔法が使えたとしても、恐らく得意なものは火属性だろう。


 サラマンダーの上位種にそんなものを叩き込むヤツがいるとしたら、間違いなくパーティーを瓦解させる『働き者の愚か者』だ。




 正面から戦う気はとてもおきない。




「走れ!」




「え、あっ……!」




 俺はシビラの手を掴むと、猛スピードで洞窟の横道へと進んだ。


 ファイアドラゴンが口を大きく開けた姿が、シビラの不安そうな顔の後ろに映る。




 焦りもあっただろう。


 思わず俺は、自分でも予想していなかった方法を取った。




「《ウィンドバリア》!」




(《ウィンドバリア》!)




 大声で防御魔法を叫びながら、頭の中でも発動を間に合わせるように必死に念じたのだ。




 その結果。




「……あつっ……! え、うそ……」




 俺のウィンドバリアは、かなりの厚さになってファイアドラゴンが吹く炎を防いだ。


 何か、燃えるための油か、それとも別の空気に混ざる何かを使ってるのかはわからないが、それらを風で地面に吹き飛ばしたのだろうか。




 とにかく、二重になった魔法が、想定外の高性能となったのだ。




「風属性で、火属性をこんなに軽減させるなんて……あっ」




 そしてすかさず、《ヒール・リンク》を使う。シビラもすぐにそれに気付いたようだ。


 ちょっとの怪我でも連発だ、スタミナ切れとか、火傷で足が遅れるとか、そういう不確定な不安要素は徹底排除する。




 最初の炎のブレスで視界が遮られたのか、炎の壁の向こうにいるファイアドラゴンは、こちらを追撃してこなかった。




 ドラゴンの巨体が入り込めない細い横道で、俺とシビラは音を立てないように深く息を吐く。


 ……生きた心地がしなかった。本当に、奇跡的な死の回避だったな今のは。




 しかし、このままではどうしようもない。


 上への階段が塞がれているのだ。


 第一層を徹底的に探索したからわかる。別の道があるとは思えない。


 それに、あの頭の回る魔王が、別の階段を塞いでいないというのは考えづらい。




 ファイアドラゴンを倒すしかないことぐらい分かっているが……あまりにも無謀で、厳しい戦いだ。


 どうすればいい——。








 ——ふと、シビラが俺の至近距離まで顔を寄せていた。


 美しい顔が、俺の目をまっすぐ見つめている。




「な、なんだよ急に」




「……」




 シビラは俺の言葉には反応せず、真剣な顔で再び俺へとあの問いをする。




「あなたは、女神を信じてる?」




「……前も言っただろ。第一こんな危機にも戦えない職業を寄越しやがって、信じられるわけねーだろ」




「そう。じゃあ……」
















「……力が、欲しい?」

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