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11 【勇者パーティー】エミー:自分が最上位職の当人だからといって、一番詳しいとは限らない

 金色に光り輝く謎の美女。


 ヴィンスは二つ返事で了承すると、その女性は私から見ても目が潰れそうなほど眩しい笑顔で、ヴィンスの隣に行った。


 さっきまでジャネットに対してやっていた視線運動と全く同じものを、ヴィンスは金髪美女さんに向かってやっている。


 ……でっかいもんなあ。何食べたらあんなになるんだろ。




 ちょうどその人に交代するように、ジャネットが私の隣に並ぶように後ろへやってきた。


 ジャネットはこちらを見ながら、無表情でちょいと呆れたように肩をすくめる。


 やれやれ、ってところかな。でもいつもに増して表情がないというか、何を考えているか分からない。


 もしかすると……これは、『何も考えたくない』顔なのかもしれない。




 と考えていると、前を歩いていた女性がくるりとこちらを振り返る。




「あ、ごめんなさいね。えーっと、【勇者】さんと、見たところこちらが【魔道士】さんっぽいので、【聖騎士】さんがあなたかしら!」




「え、あっ。その、はい」




「ふふっ、盾を構える守護職が女の子なんて、とっても素敵ですね。格好いいですわ! 一度あなたとお話してみたかったんです」




「えっ? あ、あれ、私ですか? その、えっと……ありがとうございます……」




「あらあらまあまあ。【聖騎士】はその権威の高さから高圧的な人も少なくないのですが、赤面しちゃうなんて初々しくて可愛らしいですね。わたくし、気に入ってしまいましたわ」




「あう……」




 私をべた褒めしながら、楽しそうにころころと笑う女性。


 ……なんだか変な逆ナンかなって思ったけど、そういう先入観で見ちゃうのって性格悪かったなあ。




 女性は、はっと何かに気付いたような表情をして、ぱんっと手を叩いた。




「ごめんなさい、いきなり押しかけて自己紹介がまだでしたね。私はケイティ。よろしくね」




 謎の美女改めケイティさんは名前を名乗ると、にっこり笑って首を傾けた。


 ……うーん、やっぱ美人さんだなあ。


 お転婆な私や本の虫だったジャネットには備わってないタイプのキラキラ具合だ。




「オレはヴィンス。こっちはエミーとジャネットだ。へへっ……よろしくな、ケイティ」




「よろしくお願いします、ケイティさん」




「……どうも。あと僕、【賢者】です。回復魔法も使えますから」




「あらっ!? あなたも最高位職だったのですね、失礼いたしました〜!」




「ん、気にしてないです」




 ヴィンスは腰を抱きそうな勢いで近づきながら、いきなり呼び捨てた。


 ……まあ、それで許されちゃうのが勇者だよね。一緒にいる身としては、同伴が威張るって女の子としては一番恥ずかしいパターンだからやってほしくないんだけど……。




 一方ジャネットは、軽く訂正する感じで挨拶。ちょっと気にしてたんだね。




「とりあえずどっかメシでも食おうぜ。一人分ぐらいは、ちょうど余裕あるからよ。ケイティには奢るぜ」




「まあ、嬉しいですわ!」




 ……それは一体、どういう意味?




 ——なんてこと、ケイティさんの手前言うわけにはいかないよね。




 まさか私たちが、ずっと仲良くしていたもう一人の最上位職の人を追い出した、問題ありのパーティーだなんて。


 ヴィンスは、本当に気にしてなさそうだね……。








 ヴィンスは、街の中でも高価なレストランを選んだ。


 周りからの男の視線が刺さる……とにかくケイティさんが眩しいのだ。まるで太陽みたいに、いるだけで周りに明るさを振りまくよう。




 男の人たちは、見れば恨みがましい視線も多い。


 まあ傍目には今のヴィンスってハーレムだもんね、っていうか完全にハーレムだよね。




 ……まさか、ヴィンスはそのために?


 い、いやいやまさか……だって、あんなに長い間一緒に過ごしてきたんだもん。そんな理由で外すなんてことは……。




「あの、ご注文をお伺いしたいのですが……」




「え、あっ……ごめんなさい。それではAコースで」




「かしこまりました」




 いけない、変なこと考えてたら周りが見えてなかった。


 ケイティさんは、私をのぞき込んでニコニコしている。……うう、恥ずかしいなあ……。




 レストランの奥にある他の席から離れたテーブルで、コースの料理が運ばれるのを見ながら、私は謎の女性ケイティさんに探りを入れる。




「ところで、ケイティさんはどんなお話を聞いてみたいのですか?」




「はい! 勇者パーティーというのは、今どんな活躍をしていて、どこまで進んだのかなあって。あ、変な情報収集とかじゃないですよ。私なんてレベル10の魔道士に過ぎませんから」




 自分の説明をしながらタグを表示する。


 『ハモンド』——この街住まいの、ケイティ。【魔道士】レベル10。




「ごめんなさい、疑うような聞き方をして」




「いえいえ、いいのですよ〜。むしろ簡単に他人を信用しないしっかり者さんだと分かって嬉しいです」




 ううっ、ケイティさんってば、その美貌に嫉妬する隙もないぐらい、とってもいい人っぽいんですけど。


 昨日幼なじみを追い出した性格最悪の私には、その笑顔が眩しすぎる。




 ヴィンスは会話に参加したいのか、運ばれてきたポタージュスープを早々に飲み干して、ケイティさんへと身を乗り出した。




「オレたちは潜って半年ぐらいだったと思うが、今ハモンドダンジョン中層の第八層まで進んだんだぜ」




「まあまあ、もう八層まで! では魔物はタウロスなどですか?」




「おっ、詳しいな! エミーはまさにそのタウロスの攻撃を防いだりしたんだぜ」




 ヴィンスが私に話を振って、ケイティさんが私の方をきらきらとした目で見る。


 そう、あのブラッドタウロスだ。




「凄いですわ! タウロスの攻撃を一度でも防げるだなんて」




「【聖騎士】レベルが今23あるので、何度かは大丈夫ですよ、盾を両手持ちにすると、ちょっと痛む程度ですから」




「本当にかっこいいです、エミーさん。前衛として男の人にも負けない女性って、やっぱりこれからの時代もっと出てきてほしいなって思うんです。みんなの憧れですね」




「あはは、そんなんじゃないですよ……」




 ……ほんと、そんなんじゃない。


 私はブラッドタウロスに対して、むしろ無傷で勝てなかったことに自分で自分を殴りたくなるぐらいだ。


 あんなところで、守護職の私が心配されるような怪我さえしなければ。




 私はダンジョンの深層に一番近い、最上位職なのだ。


 いくら職業を授与されてから短いとはいえ、中層の魔物に手間取っている場合じゃないのに。




 私は、弱い。




「ところで」




 ふと、ケイティさんは手元の魚料理ポワソンへ食器を置いて、ぐるりと私たち一人一人に視線を合わせた後、首を傾げた。




「——何故、このパーティーには【神官】がいないのですか?」




 ……突然の言葉に、私は一瞬で心臓を掴まれたような感覚に襲われた。




 神官。回復術士。


 いきが、くるしい。




 その職業に対してジャネットが何か答える前に、ヴィンスが大声で遮った。




「ハッハッハ、聞いてくれよケイティ! 俺達はみんな回復魔法が使えるんだぜ! 勇者も、聖騎士も、賢者もだ! だから回復術士なんていらねーよ!」




 随分と楽しそうな叫び声に、思わず私は顔を背けて、彼の見えないところで眉をひそめてしまう。


 ジャネットは、無表情だ。




 ……ケイティさんは、どんな反応をするんだろう。


 やっぱり『まあまあ! それなら回復術士なんて要りませんね〜!』なんて言うんだろうか。


 第三者からそこまではっきり言われたら……私は、耐えられるだろうか……。




「まあまあ」




 ケイティさんは、手元の魚にフォークを入れた。




 ラセルへの死刑宣告に、緊張が高まる————








「それは、まあちょっぴり便利な感じですね〜」








 ————あ、れ?




 なん、だろ。この反応。


 思った以上に、薄い反応だ。




 さして興味もなさそうに、魚料理を口に含んでいる。「ん〜、おいしいお店ですね〜」と、最早私たち三人の回復魔法は、魚料理より関心がない。


 先ほどまでの勇者パーティーの活躍に喜ぶ姿に比べて、誰がどう見ても驚いていない表情。


 そんなケイティさんの肩透かしな反応に対して、むしろヴィンスは声を大きくしながら畳みかけた。




「おいおい! 俺達は全員が、回復術士同然なんだぜ!? 聖……神官なんていなくても十分、いやむしろ攻撃手段を持たない回復術士なんて邪魔なだけの無駄飯喰らいだ!」




「ヴィンス、他のお客さんに見られてる」




「っ……と、すまん」




 大声を出し始めたヴィンスに私が硬めの声で注意をし、ヴィンスは立ち上がりかけていた腰を落とす。


 私は今の言葉を聞いて、ヴィンスの方を見ることができず、顔を背けた。




 ……今のは、何?




 その『神官』って単語は。


 その『回復術士』って単語は。




 全部、『聖者』の『永和』のつもりで、言ったの?




 ジャネットは、無表情で魚をテーブル側から皿の端に持って行っていた。……落とした? 手が滑ったのかな。


 もしかすると、ジャネットも内心穏やかじゃないのかもしれない。




「えっと、その。失礼ですが……賢者さん、えっと、ジャネットさん」




「……ん、ああ、僕?」




「はい。あなたはキュアを覚えていますか?」




「うん。その魔法は賢者レベル15で覚えました。今の僕は、レベル26ですね」




 その数字を聞くと、ケイティさんはうんうん頷いた。




「ちなみに、ファイアボールは?」




「そちらは1から」




「ですよね、『魔卿まきょう寄りの賢者』なら」




 ……え?


 話の中で、突然知らない言葉が出てきた。




「ケイティさん。魔卿寄りの賢者って何ですか?」




「ご存じありませんか? 【賢者】は【神官】と【魔道士】の両方が使えるのです。ですがどちらかというと、【聖女】と【魔卿】の、中間なのです」




「……ちゅう、かん?」




「はい。【聖女】が神官の究極系、【魔卿】が魔道士の究極系。賢者はその両方の魔法が使えます。魔道士がレベル2で覚えるファイアボールをレベル1で使えるので、間違いなく魔卿寄りですね。回復に関して神官よりは下ですが、ジャネットさんの【賢者】は魔卿とほぼ同じ能力を持ち回復魔法を使う、本当に優秀な職業ですよ」




 優秀、という単語を聞いても、私の頭の中にはぐるぐると捉えようのない思考に襲われていた。


 ……賢者は、神官の代わりではない? 下?




 同じ疑問を持ったであろうジャネットが、私の代わりに質問をする。




「……ちなみに、【神官】はキュアをいつ覚えるの?」




「レベル10です。職を授かる絶対数が少な目で、回復専門の【神官】が10になるのは大変ですが、そこまで成し得ると神官は一段落できます。キュアは魔力をたくさん使うのですが、そのキュアを提供してお布施をもらい生活する神官さんが、いろんな街にいらっしゃいますよね」




 もちろん冒険者を続ける人もいますけどね、と最後に付け加えてケイティさんの話が終わった。


 その話を無理矢理軌道修正するように、ヴィンスはそれでも自分たちが回復魔法が使えることをしきりに強調していた。


 それに対してケイティさん側は、むしろそれを否定せずにすんなり「使えるのは凄いことですよ〜」と褒めている。


 褒めてはいるが……認識が変わったとは到底思えないほど、どこか、軽い。




 私は、ケイティさんのニコニコとした顔を見ながら、パーティーの中に何か暗雲が漂っているような錯覚を覚える。


 言葉にできない、正体不明の不安。




 【魔卿】に対を成す【聖女】。


 【魔卿寄りの賢者】より回復魔法は優秀な【神官】。








 ——じゃあ、【聖女】と同じ【聖者】は?








 私はその質問の答えを知るのが怖くて、ついに聞くことができなかった。

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