第20話 選ばれる者の判断
認定試験・第二課題。
教官ギンセイは、闘場の端に集められた受験者たちを見渡し、淡々と告げた。
「第二課題は突破型試験だ。制限時間内に指定区域を抜けろ」
一瞬の間を置く。
「救助義務はない。脱落者が出ても、試験は継続される」
ざわり、と空気が揺れた。
それは許可だった。
切り捨てることを、公式に認める言葉。
「敵性存在は無限湧きではないが、足止めされれば時間切れだ。――以上」
説明はそれだけだった。
カナタ・シグレたちは、偶然合流した数名と即席の集団を組んで進んでいた。
前衛に立つのはレン・クガ。
無駄のない視線で、地形と配置を把握している。
隊列の後方には、短槍を持つ受験者――ユウガがいた。
動きは悪くないが、反応がわずかに遅い。
(……足手まといになる)
レンは冷静にそう判断していた。
その瞬間、地面が割れた。
黒い霧をまとった試験用の怪異が、複数体、同時に出現する。
「左、来るぞ!」
前列の受験者、カエデが声を張る。
彼女は符を使う支援型だ。判断は速い。
だが、ユウガの動きが一拍遅れた。
怪異の爪が肩を裂く。
浅い。致命傷ではない。
――だが、立て直すには時間がかかる。
「ユウガ!」
カエデが駆け寄ろうとした瞬間。
「待て」
レンの声が、鋭く空気を切った。
全体を見る。
制限時間。残り、わずか。
ここで陣形を崩せば、突破は不可能になる。
レンの腰に差した正宗が、かすかに鳴った。
剣は何も語らない。
ただ、進むべき最短の線だけが、はっきりと示されている。
「……見捨てるのか?」
カエデが低く問う。
「今動けば、全員落ちる」
感情を挟まない答えだった。
レンとユウガの視線が交わる。
ユウガは、苦しげに息を整えながら――わずかに首を振った。
――行け。
そう言われた気がした。
レンは、視線を切る。
「進むぞ」
その一言で、隊列は動いた。
背後で何が起きたのか。
レンは振り返らない。
怪異を斬り伏せ、障害を越え、制限時間ぎりぎりで指定区域を突破する。
合格圏内。
試験官は淡々と告げた。
「合理的判断だ。評価は高い」
誰も責めなかった。
誰も、間違いだとは言わなかった。
だからこそ、レンは確信する。
――俺は、正しい。
力を持つ者が選び、切り捨てる。
それは残酷ではない。責任だ。
一方、少し離れた場所で。
カナタは立ち止まっていた。
別の負傷者の肩を支えながら、歯を食いしばる。
「……間に合う。まだだ」
評価が下がることは分かっている。
それでも、手を離せなかった。
その姿を、レンは遠くから見ていた。
理解できないわけではない。
だが、もう戻れないとも思った。
正宗を握る手に、迷いはない。
――これが、選ばれる側のやり方だ。
レン・クガは、そう結論づけた。




