第2話 剣才ゼロの再判定
剣才ゼロ――その評価は、訂正されなかった。
むしろ、問題はそこから始まった。
「再判定を行う」
教官の一言に、訓練場がざわめく。
俺は呼ばれ、昨日と同じ場所へ立たされた。
理由は単純だ。
“剣が壊れなかった”。
剣に選ばれない者が剣を握れば、剣性は拒絶し、暴走する。
最悪の場合、剣は砕ける。
それが、この世界の常識。
だが昨日、俺が握った剣は――
何も起こさなかった。
「偶然だろ」
「剣性が完全に死んでただけじゃないか?」
そんな声が背後から聞こえる。
否定されることには慣れていた。
だから、心は動かない。
……いや、違う。
動かないようにしているだけだ。
「同じ剣を使う。やれ」
俺の前に置かれたのは、あの剣だった。
錆びた鞘。傷だらけの柄。
誰にも選ばれなかった剣。
剣を握る。
――拒絶。
だが、それは俺に向けられたものじゃない。
昨日よりも、はっきり分かる。
この剣は、
“選ぶことそのもの”を嫌っている。
「……反応、なし?」
判定官が困惑した声を上げる。
魔導具は沈黙したまま。
数値も、光も、祝福も出ない。
「馬鹿な……普通は、剣性が暴れるはずだ」
教官が眉をひそめる。
「別の剣で試す」
次に差し出されたのは、一般訓練用の剣。
量産品だが、剣性は安定している。
俺は、ゆっくりと手を伸ばした。
――瞬間。
剣が震え、甲高い音を立てた。
「っ……!」
反射的に手を離す。
剣は床に落ち、激しく脈打つ。
「拒絶反応だ……!」
「剣性が暴れてる!」
周囲がざわつく。
俺は息を整えながら、剣を見下ろした。
分かった。
剣は俺を拒絶しているんじゃない。
俺の“中にある何か”を嫌っている。
「もう一度」
教官の指示で、再び剣を握る。
今度は、力を抜いた。
握ろうとしない。
使おうともしない。
ただ、そこに在るものとして触れる。
――震えが、止まった。
「……安定、している?」
判定官が目を見開く。
「おかしい……剣性が沈静化している……」
剣は光らない。
俺を選ばない。
それでも――
暴れない。
背後で、誰かが舌打ちした。
「意味わかんねぇ」
「剣才ゼロのくせに……」
聞こえている。
全部、聞こえている。
胸の奥が、じわじわと熱を持つ。
俺は、剣士になりたかっただけだ。
選ばれなくても、
剣を振れなくても、
ここに立ちたかっただけだ。
「結論を出す」
教官が、重い声で言った。
「こいつは剣士として不適合だ」
……やっぱり、そうなる。
「だが」
次の言葉に、空気が張りつめる。
「剣を壊さない。
剣性を暴走させない。
この特性は――前例がない」
視線が、突き刺さる。
興味。
警戒。
嫌悪。
その中で、ただ一つ。
「……面白い」
小さく、誰かが呟いた。
俺は剣を置き、深く息を吐く。
選ばれない。
認められない。
それでも――
剣に支配されない。
それが、俺の在り方なのかもしれない。
そう思った瞬間、
剣が、ほんのわずかに静かになった。




