第18話 選別
認定試験の会場は、思っていたよりも静かだった。
円形に切り出された石造りの闘場。
天井はなく、空は異様なほど澄んでいる。
だが――その静けさは、安心とは程遠い。
(……空気が、張りつめてる)
カナタ・シグレは、闘場に足を踏み入れた瞬間に理解した。
ここは“戦う場所”ではなく、“選ばれる場所”だ。
視線を巡らせる。
三十名以上の受験者が、円周に沿って配置されていた。
そのほとんどが剣を帯びている。
ただし、どれも普通の剣ではない。
刃の輪郭が揺らいで見えるもの。
鞘に収まっているのに、圧だけが前に出ているもの。
近づくだけで、皮膚の奥がざわつく感覚を覚える剣。
――名剣。
剣に選ばれた者たち。
カナタは無意識に、自分の腰元へ手を伸ばした。
そこにあるのは、無銘の剣。
これまで一度も、応えたことのない剣。
沈黙。
いつもと、何も変わらない。
「……来たんだな」
背後から、低い声がかかる。
振り返ると、レン・クガが立っていた。
その腰には、正宗。
抜かれてもいないのに、闘場の中心にいるかのような存在感を放っている。
「来ると思ってたよ」
カナタが言うと、レンは一瞬だけ視線を向け、すぐに逸らした。
「場違いだとは思わないのか」
「……思ってる」
それでも、来た。
来なければ、何も始まらない。
そのとき。
闘場の中央に、一人の男が歩み出た。
教官――ギンセイ。
年齢の読めない風貌。
装飾のない剣を帯び、視線だけで場を制圧する。
「静かに」
その一言で、空気が締まった。
「これより、剣士認定試験を開始する」
ざわめきが広がる。
「第一試験は、“選別”だ」
ギンセイは淡々と告げる。
「制限時間内に、この場で剣士としての評価を示せ。方法は問わない。勝敗も問わない」
一拍。
「ただし――剣を扱えぬ者に、剣士の資格はない」
冷酷なほど、明確な基準だった。
ミオ・アヤセが、小さく息を呑む。
カナタは、足裏に力を込めていた。
(評価……)
剣の力を引き出せる者が有利。
名剣を持つ者が有利。
そういう試験だ。
「開始の合図は出さない」
ギンセイは続ける。
「この場に立った時点で、すでに試験は始まっている」
次の瞬間。
闘場の空気が、わずかに歪んだ。
剣が、剣を意識する。
名剣同士が、互いの存在を探るように共鳴し始める。
低い唸り。
圧の波。
戦闘はまだ起きていない。
だが、試験は確かに動き出していた。
その中で。
カナタの剣だけが、沈黙している。
(……それでも)
逃げ場はない。
剣に選ばれないまま、
剣の世界の中心に立つ。
カナタは、深く息を吸い――一歩、前へ踏み出した。




