第15話 納得しない選択
剣性暴走の現場は、想像より静かだった。
建物は半壊し、地面には剣痕が走っている。
だが、悲鳴も怒号もない。
――もう、終わったあとだ。
「制圧完了。被害は最小限」
先行していた剣士が報告する。
“最小限”。
その言葉を、カナタは噛みしめるように聞いた。
壊れた家屋。
血の跡。
そして、布をかけられた人影。
最小限、という言葉でまとめられる光景ではなかった。
「近づくな」
ギンセイに制される。
「……誰が、やったんですか」
「剣性だ。
正確には、剣に耐えきれなかった剣士が引き金になった」
正しい説明だった。
制度上も、理屈の上でも。
だからこそ、カナタは何も言えなくなる。
剣士は悪くない。
剣も、悪くない。
だが、人は死んだ。
「お前の役目は終わりだ」
ギンセイはそう言って、視線を逸らした。
その仕草が、少しだけ疲れて見えた。
撤収準備が進む中、レンが近づいてくる。
「無理に見るな」
「……無理かどうか、分からない」
昨日と、同じ言葉。
自分でも驚くほど、声がかすれていた。
「俺たちは剣士だ。
剣に従って、守る」
「それで、守れなかったら?」
問いは、自然と口から出た。
レンは、少し考えてから答える。
「……それでも、次に進む」
迷いのない答え。
カナタは、羨ましいと思ってしまった。
ミオは、少し離れた場所で、布をかけられた人影を見つめている。
祈るように、目を閉じて。
彼女は、剣士として正しい。
レンも、正しい。
自分だけが、どこにも立てていない。
「カナタ」
ギンセイが呼ぶ。
「次の任務の話だ」
「……はい」
返事をしながら、胸の奥が重く沈む。
「特例補助要員として、引き続き同行してもらう」
拒否する理由は、なかった。
逃げたい気持ちはある。
でも、ここで降りたら――
一人になる。
「分かりました」
その言葉は、納得から出たものじゃない。
ただ、選んでしまっただけだ。
仲間を残して、離れる勇気がなかった。
誰かが死ぬ現場から、目を逸らす勇気もなかった。
だから、ここに立っている。
剣に選ばれないまま。
答えを持たないまま。
それでも――
仲間の背中を、見失わないために。
カナタ・シグレは、
納得しない選択を、今日も選んだ。




