第13話 優しさが痛い
翌日、カナタ・シグレは訓練場に呼ばれた。
剣を振るためではない。
ただ、そこに来るようにと言われただけだ。
訓練場の端で、レン・クガが待っていた。
剣は持っていない。
「……来たか」
「うん」
それだけで、言葉が止まる。
しばらく、剣が打ち合わされる音だけが続いた。
沈黙が、気まずいわけじゃない。
ただ、どう切り出せばいいか分からない。
「昨日の件」
先に口を開いたのは、レンだった。
「お前のせいじゃない」
予想していた言葉だった。
「判断は正しかった。
俺たちがやっても、結果は変わらなかった」
剣士としての結論。
合理的で、間違っていない。
「……そうか」
それ以上、言えなかった。
納得したわけじゃない。
否定する理由もない。
「正直に言うと」
レンは少し視線を落とした。
「俺は、ああいう場面で迷わない。
剣に任せる。それだけだ」
それが、剣に選ばれた者の強さだ。
「だから、お前みたいなやり方は……
怖い」
その言葉は、正直だった。
「剣が止まるかどうか、分からない。
結果が読めない」
責めてはいない。
ただ、距離を測っている。
「でも」
レンは顔を上げた。
「助けようとしてたのは、本当だ」
それで、話は終わった。
少しして、ミオ・アヤセがやって来た。
「……大丈夫?」
その一言で、胸が詰まる。
「大丈夫、じゃないけど」
正直に答える。
ミオは、少し困ったように笑った。
「だよね」
無理に励まさない。
それが、彼女なりの気遣いだった。
「私、怖かった」
ぽつりと言う。
「剣が止まった時、安心した。
でも、そのあと……」
続きを言わず、唇を噛む。
「助けられなかったって、思った?」
カナタが聞く。
ミオは、首を振った。
「違う。
助けようとした人が、そこにいたって思った」
優しい言葉だった。
でも――
「それ、救いになってる?」
思わず、口から出た。
ミオは、何も言えなくなった。
レンも、黙っている。
感謝はしている。
分かっている。
でも、軽くならない。
「……ごめん」
ミオが言った。
「何を言っても、違うよね」
「うん」
否定できなかった。
誰も悪くない。
誰も間違っていない。
それでも、胸の奥に残るものは消えない。
訓練場を離れる時、
剣の音が、また遠くなる。
優しさは、確かにあった。
それが分かるからこそ、余計につらい。
カナタは、自分の剣に触れなかった。
今日は、まだ触れたくなかった。




