第11話 救えなかったもの
出動命令は、唐突だった。
剣性暴走。
発生地点――旧居住区外縁。
そこは、避難が完了していない区域だった。
「先行班が入る」
ギンセイの指示が飛ぶ。
「制圧を最優先。住民の安全確保は――」
一瞬、言葉が詰まる。
「……可能な限りだ」
その言い方が、すべてを物語っていた。
カナタ・シグレは、補助要員として最後尾に配置された。
剣士ではない。
だが、剣が暴走する場所には呼ばれる。
皮肉な役割だ。
現場は、すでに混乱していた。
建物の一角が崩れ、
剣の振動が空気を歪めている。
「中に人がいる!」
誰かの叫び。
剣士たちは躊躇した。
暴走した剣が近い。
近づけば、剣が反応する。
「下がれ!」
レンの声。
「制圧が先だ!」
正しい判断だ。
剣を止めなければ、被害は広がる。
だが――
「……俺が行く」
カナタは、迷わなかった。
「待て、まだ指示は――」
聞かなかった。
瓦礫の隙間に、子どもがいた。
泣き声は、剣の震えに掻き消されそうになっている。
剣に触れる。
沈静化の感覚。
剣は、確かに止まった。
「今だ!」
叫ぶ。
剣士たちが動く。
制圧は成功した。
瓦礫をどかし、子どもを引き寄せる。
「大丈夫だ」
そう言った瞬間だった。
鈍い音。
建物の奥から、別の剣が暴走した。
「第二反応!?」
想定外。
剣は一つじゃなかった。
剣士たちが対応に走る。
だが、距離がある。
カナタは、子どもを庇うように抱き寄せた。
剣に、もう一度触れる。
――間に合わなかった。
剣は止まった。
だが、その前に、刃の衝撃が走っていた。
静寂。
崩れた瓦礫の下で、
子どもは動かなかった。
「……嘘だろ」
誰かの声。
剣性は、完全に沈静化している。
剣は、もう危険ではない。
遅すぎた。
医療班が駆けつける。
首を横に振る。
助からない。
カナタは、その場に立ち尽くしていた。
剣は止めた。
判断も間違っていない。
それでも、救えなかった。
「……なぜ、もっと早く」
ミオの声が震える。
レンは、拳を握り締めていた。
誰も、カナタを責めなかった。
責められない。
だが――
誰も、救ったとは言わなかった。
報告書には、こう記される。
――剣性暴走、制圧完了。
――民間人一名、死亡。
カナタ・シグレの名は、
そこに補助要員として残るだけだ。
夜。
一人で剣を見つめる。
剣は、沈黙している。
止められた。
だが、救えなかった。
剣を信じなかった。
だから、剣に選ばれなかった。
それでも――
信じていたら、結果は違ったのか。
答えは出ない。
ただ一つ、はっきりしたことがある。
剣の支配を断ち切れても、
すべては救えない。
その現実だけが、
胸の奥に、重く沈んでいた。




