第10話 剣士である条件
通達は、掲示板に張り出された。
文字は簡潔で、感情がない。
――剣士資格再審査について。
対象者の欄に、
カナタ・シグレ
その名が、はっきりと記されていた。
「再審査……?」
周囲がざわつく。
「評価不能の件か」
「ついに来たな」
「剣を使わない剣士なんて、そもそもおかしい」
声は、遠慮なく耳に届く。
隠す必要がないからだ。
制度が、そう言っている。
指定された部屋には、三人がいた。
ギンセイ。
上級剣士の代表。
そして、審査官。
「座れ」
短い指示。
椅子に腰掛けると、
机越しに視線が突き刺さる。
「再審査の目的は理解しているな」
「……剣士として、適格かどうか」
「違う」
審査官が訂正する。
「剣士である条件を満たしているかだ」
言い換えではない。
線引きだ。
「条件は三つ」
淡々と読み上げられる。
「剣に選ばれていること」
「剣を行使できること」
「剣の判断に従うこと」
一つ目で、すでに該当しない。
二つ目も、怪しい。
三つ目に至っては――
「質問はあるか」
カナタは、手を握り締めた。
「剣性暴走区域での沈静化は、評価されませんか」
沈黙。
上級剣士が口を開く。
「評価はした」
期待が、わずかに芽生える。
「だが、それは“剣士として”ではない」
その芽は、即座に摘まれた。
「剣を壊しかねない行為だ。再現性もない」
ギンセイが続ける。
「制度は、個人の感覚で運用できない」
正論だった。
「君がしているのは、剣を止めることだ」
「それが、悪いことですか」
思わず口に出た。
審査官は、少しだけ間を置いて答えた。
「この世界では、剣が止まる時は――誰かが死ぬ時だ」
空気が凍る。
「剣を止める存在は、秩序の外にある」
秩序の外。
それは、守られないという意味だ。
「結論を言う」
ギンセイが告げる。
「現時点で、君は剣士とは認められない」
不合格。
だが、完全な追放でもない。
「ただし」
一言が、続く。
「剣性暴走事案に限り、特例補助要員としての参加を認める」
便利な言葉だ。
特例。
だが、それは例外でしかない。
「剣士ではないが、必要な時だけ使う」
そう言われているのと同じだった。
「……分かりました」
それしか、言えなかった。
部屋を出ると、廊下の向こうでレンが待っていた。
「どうだった」
結果は、察している顔。
「剣士じゃないって」
短く答える。
レンは、視線を逸らした。
「……それでも、危険な現場には行くんだろ」
「必要なら」
ミオは、その少し後ろにいた。
何か言いたそうにして、結局黙ったままだ。
剣士である条件。
それは、剣に選ばれること。
選ばれない者は、
どれだけ結果を出しても、そこには立てない。
訓練場の剣の音が、今日も響いている。
その中心に、自分はいない。
カナタは、自分の剣を見下ろした。
剣は、相変わらず沈黙している。
だが――
この沈黙がなければ、
あの区域で誰かは死んでいた。
それでも、世界は言う。
剣士である条件を、満たしていないと。
その線の向こうで、
次に壊れる何かが、静かに待っていることを、
カナタはまだ知らなかった。




