第1話 剣に選ばれない
剣に選ばれなければ、剣士ではない。
それが、この世界の常識だった。
「――不適合。剣才、ゼロ」
冷たい声が訓練場に響いた瞬間、周囲の空気が一斉に変わった。
数十人の訓練生の視線が、俺一人に突き刺さる。
剣士育成機関〈アークス〉。
ここでは年に一度、剣との適合判定が行われる。剣に宿る力――剣性に選ばれた者だけが、正式な剣士として認められる儀式だ。
そして今、俺はその場で「価値がない」と宣告された。
「やっぱりな……」
「一年間、何やってたんだよ」
「剣に嫌われる才能はあるみたいだな」
小さな嘲笑が、確実に俺の耳に届く。
反論したい言葉はいくらでもあった。でも、喉が張りついて動かない。
視線の先に、彼女がいた。
剣を腰に下げ、真っ直ぐ立つ少女。
俺より少し背が高く、努力家で、そこそこ強い。
そして――彼女が見つめているのは、俺じゃない。
「適合、上位。剣才ランクA」
次に呼ばれた名前に、場の空気が一気に明るくなる。
名門剣士の家に生まれ、剣に愛された天才。
俺のライバルであり、誰もが認める剣士。
彼の隣で、彼女は嬉しそうに微笑んでいた。
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。
――分かっている。俺が並ぶ場所じゃない。
だから俺は、笑うしかなかった。
嫌われるくらいなら、何も言わない方がいい。
「次。不適合者は下がれ」
促され、俺は訓練場の端へと追いやられる。
その足元に、一本の剣が無造作に置かれていた。
錆びた鞘。傷だらけの柄。
誰も手に取ろうとしない、廃棄予定の剣。
……なのに。
近づいた瞬間、胸の奥がざわついた。
剣が俺を呼んだわけじゃない。
むしろ、逆だ。
「……近寄るな」
そう言われた気がした。
剣を握る。
その瞬間、頭の中に流れ込んでくる感覚――拒絶。拒絶。拒絶。
だが、それは俺に向けられたものじゃない。
「――剣性、反応なし?」
判定官の声が揺れた。
「おかしい……この剣、誰にも反応しないはず……」
周囲がざわめく。
俺はゆっくりと剣を抜いた。
何も起きない。
光も、力も、祝福もない。
それなのに、なぜか分かってしまった。
この剣は――
誰にも従いたくないだけだ。
「……選ばれないのは、俺だけじゃない」
その瞬間、剣の震えが止まった。
判定具が、沈黙する。
世界の常識が、ほんの少しだけ、歪んだ気がした。
誰も気づいていない。
剣に選ばれなかった俺だけが、その違和感に立っていた。
――剣に選ばれない。
それが、すべての始まりだった。




