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第16章:秘密の「お勉強会」

 自室の勉強机の上で、俺のスマホが、まるで心臓のように、定刻を告げる鼓動を始めた。

 時刻は、21時00分。

 画面には、昨日、半ば強制的に登録させられた、あの女王様からの着信が表示されている。


『白鳥 美月』


 俺は、ゴクリと生唾を飲み込み、覚悟を決めて通話ボタンをタップした。

 数秒の呼び出し音の後、画面が切り替わり、そこに、彼女の姿が映し出される。


「……!」


 思わず、息を呑んだ。

 画面の向こうの彼女は、学校で見せる完璧な優等生の姿とは、似ても似つかない、あまりにも無防備な格好をしていたからだ。


 ふわりとした、シルクだろうか、淡いピンク色のキャミソール一枚。

 華奢な鎖骨と、滑らかな肩のラインが惜しげもなく晒されている。


 豊かな胸の膨らみが、薄い生地を内側から押し上げ、その存在を雄弁に主張していた。

 

 画面の下半分は、彼女が座っているベッドのシーツに隠れて見えないが、おそらく下も揃いのショートパンツか何かだろう。

 普段は制服のスカートの下に隠されている、あの完璧な造形の太ももが、今はどうなっているのか……想像しただけで、腹の底がズクリと熱くなる。


「時間通りね。執事としては及第点かしら」


 彼女は、ベッドの上でクッションを背もたれに、優雅に足を組んで微笑んでいる。

 その声は、昼間の悪戯っぽい響きとは違い、どこか落ち着いていて、しっとりと濡れたような色気を帯びていた。

 

 背景に映る彼女の部屋は、白を基調とした、まるでお城の一室のような洗練された空間だ。

 それに比べて俺の部屋は、ラノベと漫画とゲームソフトが散乱する、典型的なオタクの巣窟。

 この画面越しの格差社会に、俺はめまいを覚えそうになる。


「さあ、『お勉強』を始めましょうか。例の医学書は、ちゃんと用意してあるわよね?」

「あ、は、はい! もちろんです!」


 俺は、慌てて机の上の分厚い本をカメラに見せる。

 『改訂版・人体の構造と機能』

 この本が、これから始まる倒錯的な講義の教科書だ。


「よろしい。じゃあ、248ページを開いてちょうだい」


 言われるがままにページをめくる。

 そこには、女性の泌尿器系に関する、生々しい図解と、びっしりと書き込まれた専門的な文章が並んでいた。


「まずは、基本からよ。この図を見て。膀胱の平均的な容量は、成人女性で約500ミリリットル。でもね」


 彼女は、画面越しに、俺の目を見つめてくる。

 そして、おもむろに、自分のキャミソールの上から、その滑らかな下腹部に、そっと手のひらを置いた。


「私の……ここの許容量は、気分によって、大きく変わるの」


 その言葉と仕草に、俺の思考は、完全にフリーズした。

 彼女の白い指が、下腹部を、まるで愛おしむかのように、ゆっくりと、円を描くように撫でている。


「例えば……そうね、強い緊張や、興奮を感じると、神経が過敏になって、実際の容量よりも、ずっと少ない量で、強い尿意を感じるようになるの……わかる?」


 分かるか! と叫びたいのを、必死にこらえる。

 分かるどころか、俺の下半身が、彼女のその言葉と仕草に、正直すぎるくらいに反応してしまっている。


 机の下で、俺の「息子」が、じわりと熱を持って、その存在を主張し始めていた。


「医学書にも……精神的要因が、って書いてありますね……はは……」


 俺は、必死に平静を装い、医学書に視線を落とす。

 

 しかし、もうダメだ。文字なんて、何一つ頭に入ってこない。

 俺の意識は、画面の向こうの、彼女の一挙手一投足に、完全に釘付けにされていた。


「そうよ。そして、その『精神的要因』というのが、私の『実験』の、一番大事なところなの」


 彼女は、うふふ、と妖艶に微笑むと、今度は組んでいた足を、ゆっくりと組み替えた。

 その瞬間、画面の端に、ショートパンツから伸びる、眩しいくらいに白い、彼女の太ももが一瞬だけ映り込む。

 俺は、息を呑み、慌てて視線を逸らした。

 

 まずい、まずいまずい!

 これ以上見たら、俺の理性が、本当に持たない!


「私の場合はね、特に『見られるかもしれない』っていうスリルが、一番のスパイスになるの。この間、あなたが私を見つけた……あの時、私の膀胱は、もうはち切れそうなくらい、熱く、硬く、なっていたわ」


 彼女の声は、次第に、吐息まじりの、甘い囁きに変わっていく。

 まるで、あの瞬間の快感を、今、この場で追体験しているかのように。


「誰かに、見つかってしまうかもしれない。私の、こんな、はしたない姿を……。そう思えば思うほど、我慢するのが、快感に変わっていくの。わかるかしら、この、背徳感と高揚感が入り混じった、最高の感覚が……」


 彼女の瞳は、潤んでトロンとし、頬はほんのりと上気している。

 その表情は、旧校舎の裏で見た、あの恍惚の表情そのものだった。


 ゴクリ、と俺の喉が鳴る。

 机の下で、俺の分身は、もはや限界寸前まで硬く膨れ上がっていた。


「……これが、明日の『実技試験』で、とても重要になるから、しっかり覚えておくことね」


 彼女は、まるで夢から覚めたかのように、ふっと表情を普段の知的なものに戻した。

 そのギャップが、また俺の心をかき乱す。


「明日の5限、体育の授業よ。せいぜい私の期待に応えなさい、執事くん」


 彼女は、最後に、とろけるように甘い笑みを浮かべると、俺に反論の隙も与えず、一方的に通話を切った。


 プツン、と、画面が暗くなる。

 部屋に、静寂が戻る。


 俺は、しばらくの間、放心状態で、黒い画面を見つめていた。

 そして、ゆっくりと、机の下に視線を落とす。

 スラックスを内側から突き上げ、その存在を力強く主張している、俺の熱い塊。


 俺は、乾いた笑いを漏らしながら、力なく椅子にもたれかかった。


 明日の体育の授業。

 一体、俺は、彼女の、どんな姿を、見せられることになるのだろうか。


 不安と、恐怖と、そして、抗いがたい興奮が、俺の体の中で、渦を巻いていた。

 

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