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第3話① 政治は夜に動くらしい、ですが、後宮の鼓動は“愛”でした

「チェンジで!! 今すぐ!!」


 リーゼロッテのその叫びは、間違いなく部屋の空気をぶち壊した。

 ユーリは半秒固まったあと、思わず跳ね上がる。


「えええええっ!? ちょ、なに!? なんでチェンジ!?」


 寝起き早々に叩きつけられた拒絶の一言に、ユーリは半分パニックだった。


「“なに”どころじゃありませんわ!!

 この国の未来を託す相手が、よりによって“性なる者”のエロ商人だなんて――

 冗談じゃありませんのっ!!」


 彼女は顔を真っ赤にしながら詰め寄ってきた。

 怒りと羞恥がない交ぜになった視線は、刺すように鋭くて、なのにどこか――

 怯えすら混じっているように見えた。


「えっ……俺、そんなにヤバい!?

 いやまあ、あのステータスは確かに……

 自分でもちょっとアレだなとは思ってたけどさ……!」


 自覚があるぶん、ユーリは返す言葉も見つからず、気まずそうに後頭部を掻いた。


「そんな人、すぐにでも交代して――もう一度、まともな勇者を召喚すべきですわ!」


 コクヨウは少しだけ、沈黙した。

 尻尾を一度、ぱたんと床に打ちつけてから言った。


「それは無理ニャ」


 床にぺたんと座ったまま、しっぽをぱたぱた揺らしながら、黒猫は淡々と続ける。


「勇者召喚は、星霊の加護と天体の配置が完全に揃った、一瞬だけ可能な儀式ニャ。

 次にそれが可能になるのは――百年後ニャ」


「ひゃ、百年後……!?」


 壁際に手をついたまま、リーゼロッテは口を開こうとして……何も言えなかった。

 唇が震え、視線だけが宙を泳ぐ。

 まるで、そこにあった未来という文字が、砂のように崩れていくのを見ているかのように。


(そりゃなぁ、召喚してみたら変態エロ商人とか、俺でもびっくりするよ)


 本人としても、まさかそんなアブない称号が付くなど夢にも思っておらず、弁解のしようがない。

 けれどそれを他人に突きつけられると、なんというかこう……


(穴があったら転生し直したい)


「お母様……まさか、本当に……この男が、最後のチャンス……だったんですの?」


「……ええ。もう一度、儀式を行う魔力は残っていませんわ。

 それに、勇者でなくても、良いのではないかしら」


「そ、そんな……だめです、お母様!

 “勇者”という存在だからこそ、各派閥が納得しているのですもの。

 それを否定してしまえば、あらゆる均衡が――崩れてしまいますわ!」


「大丈夫よ。星霊様が“導いた”……それだけで、十分すぎるくらいの理由になるわ」


「で、でも……あの、あの熟練度を見てしまったら…… 誰が見ても、どう見ても……その……っ! 変態で……っ! しかも、“誇り高きエロの塊”ですのよ!?」


 顔を真っ赤に染め、俯きながら、途切れ途切れに絞り出す言葉。

 怒っているはずなのに、口元はぷるぷると震えていて、どこか泣きそうでもあり――

 なのに、恥じらいが爆発していて、すごく……可愛い。


(……うん、怒ってる。ガチで。まあ当然だよな。でも、めっちゃ俺のこと気にしてくれてるんじゃない? ツン80のデレ20?)


 思考が暴走しかけたところで、ユーリは自分の頬が緩んでいることに気づいた。


(いやいや違う違う、調子乗るな俺。あれは純度100%の困惑だ。むしろ0デレだ。いやマイナスかも)


 ひとつ、息を吐く。

 視線の先では、リーゼロッテが俯いたまま耳まで真っ赤にしている。


(……でも、あれだけ感情振り回されてるってことは……“意識”はしてるってことだろ?

 うん、悪役がちょっと優しくしたら落ちるってよくあるし。変態でも、誠意さえあれば……ワンチャンあるって思いたい)


 そこまで考えて、ユーリは小さく息を吐いた。


 笑えるような、笑えないような。

 でも、どこか胸の奥が――ほんの少しだけ、あたたかい。


 そんなときだった。


「立てますか?」


 ふいに届いた、優しい声。


 見上げると、セリーヌがそっと手を差し出していた。

 ゆったりとした動作。美しい指先。


 ふわりとした温もりに触れた瞬間、胸の奥がほんの少し軽くなる。


(……セリアは、ちゃんと“俺”として見てくれてるんだ)


 彼女の手を取り立ち上がると、さっきまでぐらついていた足元が、少しだけしっかりとした気がする。

 不思議と、世界の景色がほんのわずかに違って見えた。


 セリーヌは軽く頷くと、視線をリーゼロッテへと移す。

 その瞳は、どこか母のように静かで、優しかった。


「……リーゼ。あなたが、女王としてこの国を背負うのなら……

 後宮ハーレムの調和を保つことは……避けて通れませんわ」


 その言葉に、リーゼロッテはきゅっと唇を噛んだ。

 拒絶したいのに、否定しきれない――そんな複雑な色が、瞳に触れる。

 セリーヌは一度、視線を落とし、そっと息をついた。


「でも……女王自らが手を出すわけにもいきません。だから、その役目を託すとしたら――」


 ほんの一拍の沈黙。


「……王配には、“ほかの誰にもできないこと”が、どうしても必要になりますの」


「その『鍵』が……あの、夜の熟練度オールエス……ってことですの!?」


 リーゼロッテが顔を真っ赤にして叫んだ瞬間、部屋の空気が凍った。



【あとがき】

読んでいただきありがとうございます!


ユーリの嫁国家計画、応援したいと思ってくださったら、

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