第2話③ その男、勇者にあらず――商人である
「にゃ、にゃんだこのステータス……!? ……にゃ、にゃっ~~~っ、ご主人様、周回して何してたニャ!?」
前足で頭を抱え、尻尾が垂れ下がる。
その姿は、絶望という名の毛玉だった。
コクヨウが目を見開いて絶句するなか、光のパネルに浮かび上がったステータスに、視線が集中する。
【ユーリ・レイヴェルト】
《種族》人族
《クラス》商人
《クラスランク》SSS
《称号》性なる者
≪基礎能力≫
統率:F/武勇:F/知略:F/政治:F
筋力:F/魔力:F/俊敏:F/耐久:SSS
体力:SSS/精力:SSS/回復力:SSS/行動力:SSS
属性耐性:SSS/状態耐性:SSS/抵抗:SSS
器用さ:SSS/魅力:SSS/運:SSS
≪熟練度≫
剣術:F/短剣術:F/槍術:F/棒術:F
弓術:F/格闘:F/斧術:F/盾術:F
魔学:F/信仰:F/指揮:F/馬術:F
回避:F/採取:F/錬成:F/探索:F
接吻:SSS/愛撫:SSS/体位:SSS/挿入:SSS
火:F/水:F/風:F/土:F/雷:F
光:F/闇:F/時:F/空:F/幻:F
回復:SSS/支援:SSS/阻害:SSS/召喚:SSS
≪ギフト≫
・異世界ショップ
・慈愛の恩寵
≪ユニークスキル≫
・無限収蔵/賜能創契
・神掌天覇/獣神覚醒
・本能開花/一発勇者
≪契約星霊≫
・ケットシー:コクヨウ(星霊ランクS)
「ワンナイトヒーロー? ……なっ……なにこれ……」
パネルを見た瞬間、リーゼロッテの顔から血の気が引いた。
目に飛び込んできたのは――聞いたこともない熟練度のオンパレード。
(……あ……あれ……? わたくし……今、何を見せられてますの……?)
あまりにも破廉恥で、あまりにも完璧。
頭がショートする感覚に襲われ、頬がみるみるうちに紅潮していく。
「し、しかも……夜の……夜のステータスばっかりじゃないですの……!?!?」
真っ赤な顔で、ほとんど叫ぶように言い放った。
一方、セリーヌはというと――
「……まぁ」
それだけを呟き、静かに目を伏せる。
口元にはいつもの優雅な微笑みが浮かんでいたが、目元だけが、ほんのわずかに震えていた。
「ふにゃぁ……見れば見るほど、ヒドいニャ……」
(性なる者って……何よそれ!? しかも、挿入SSSって……な、なに考えてるの……!?)
羞恥、困惑、怒り、それに――ほんの少しの「動揺」。
(……ちがいます、落ち着きなさい、わたくし。これは冷静に判断すればただの転生事故ですわ! 事故!)
ちらりと横を見ると、セリーヌは相変わらず真顔でパネルを眺めていた。
(って、なんでお母様は真剣に見ているのですか!? 笑って、そこは笑ってほしいところですわ!)
しばらくの沈黙。
コクヨウは、どこか遠い目をしたまま、小さくため息をついた。
「……もう、ツッコむ気力もないニャ……。説明するニャ……」
諦めきった声で、ぽつりぽつりと語り始める。
「ご主人様が“ハーレムキングダム”で何周もしてた時に、こういうステータスに育ててたんだニャ……。
転生特典で、その育成データがまるっと使われて、こっちの肉体が作られたんだニャ……」
つまり――ユーリの“エロ特化”ステータスは、
本人の明確な意思によって育てられたもの。
そして、そういう行動ばかりを繰り返していたという、動かぬ証拠でもあった。
「そんな破廉恥な能力ばかりに全振りして……いったい何を考えているんですの!?」
真っ赤になって叫ぶリーゼロッテの隣で、コクヨウは目をそらす。
そんなリーゼの動揺をよそに、ユーリはふらりと立ち上がり、ドヤ顔で親指を立てる。
「だって、俺が強くなるより嫁を強くする方が面白いでしょ!!
だから“嫁を強化できる”方向に全振りしてたんだよ!
夜のお渡りの回数が増えると、成長限界も伸びて、戦闘力も上がる仕様だったし! まさにハーレム王」
「こ、この男……ッ!」
(……なんなのその理屈!? しかも笑顔で堂々と……!)
冷や汗、震え、息苦しさ、そして――胸の奥で正体不明の何かがじわじわと広がって、感情がめちゃくちゃに暴れ出す。
(こんな男、どうして……少しでも気になんて……!)
その混乱を吹き飛ばすかのように――
「“接吻SSS”も“体位SSS”も、全部嫁のために頑張った結果だからね!」
気がつけば、拳が上がっていた。
「この破廉恥変態勇者ぁぁぁぁぁあああっ!!!!」
「ぶほへっ」
リーゼロッテの拳が走り、ユーリの身体が宙を舞い壁に突き刺さる。
「……この先が思いやられるニャ」
コクヨウは、壁に突き刺さったご主人様を見上げて、深いため息をついた。
(……まさか、あんな破廉恥なステータスなのに……あの笑顔、少しだけ、可愛いなんて……思ってないんだからっ!)
【あとがき】
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