第1話② 推しの王妃に即プロポーズ!??
召喚の間に、重たい沈黙が垂れ込めた。
金色の髪が微かに揺れ、王妃セリーヌはまばたきを一度、そして二度。
その美しい唇が、ほんのわずかに動く。
「………………はい?」
黒猫コクヨウが顔を覆い、床に頭を擦りつける勢いで絶望のポーズを取った。
「もうダメだニャ……毛が全部抜けそうニャ……」
「ちょっ、コクヨウさん!? そんなに引かないでよ!! 俺の毛根もう生きてないから! ほんとに覚悟決めて言ったんだってば!」
「初対面の王妃に、ゲーム感覚で“パーティー組もうニャ”とか言い出す男の、どこに覚悟があるって言うニャ……」
「いや……ゲーム感覚じゃないし、真面目だし、タイミングがアレなだけで……!」
「アレじゃなければ何ニャ!? むしろアレ以外ないニャ!!」
彼の口から飛び出したのは、プロポーズのようでプロポーズじゃない、愛の告白のようで妙に生々しいお願いだった。
しかしその一言が、王国に激震をもたらす――かもしれないとは、このとき誰も知る由もなかった。
セリーヌは、その場に立ち尽くしたまま、まばたきさえ忘れていた。
(あの言葉……わたくしに?)
セリーヌは息を呑んだ。視線の先で、まっすぐに自分を見つめる少年――勇者ユーリ・レイヴェルト。
その顔は、本気でそう言った者の表情をしていた。
(……私は王妃。前王に嫁ぎ、国を預かる身。
それがどうして……今、こんなにも胸がざわつくの?)
この感覚は、かつて感じたことのないものだった。
まるで、水面に落ちた熱い滴が、胸の奥で静かに波紋を広げているような――
(彼は、本来なら娘の夫となる人。私は、その母であり、この国を預かる王妃。
……それなのに――どうして、こんなにも胸が、熱いの)
そうわかっているのに、心の奥がきゅっと痛む。
(それでも……この手を伸ばしてしまえたなら、どんなに楽だったろう)
ふと、視線が彼の手元に落ちる。
剣ではなく、政ではなく、ただ一人の男として――自分を守りたいと願った手。
どれほど愚かでも、どれほど未熟でも、その真っ直ぐさが眩しかった。
(もし……私がこの国の正統な女王だったなら。
もし……この国に、彼を奪い合う者がいなかったなら)
そんな“あり得ないもしも”を願ってしまう自分が、恥ずかしくて、哀しい。
でも、それ以上に――胸が、苦しい。
(彼は、王女リーゼロッテと結ばれるべき人。
この国を託すにふさわしい、新しい血筋の礎……)
わかっている。
誰よりも、わかっているはずなのに。
(……それでも、どうして……こんなにも彼の声が、心に触れるの)
耳に残る、あの強くて拙い――けれど、温かい声。
『俺と人生のパーティーを組んで、史上最高のハッピーハーレム王国を作りませんかッ!!』
(……バカみたい。中身は無茶苦茶なのに、どうして……胸が、こんなにも騒ぐの)
その瞬間、ぽつりと声が漏れた。
「ゆ、ユーリ様……」
口にしたあと、自分の声に、自分で驚いた。
掠れるように震えていて――まるで、誰かにすがるような声だった。
【あとがき】
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